20年以上前から数百万人のデータを分析・活用してきた男が語る「HRテックの次世代」~脳内から労働市場まで~

ビッグデータ、AIなどのIT技術を使って、採用・育成・評価・組織などの人事関連業務を行うHRテック。経営の根幹を成す人事業務とあって米国では企業価値10億ドル(1000億円)を超えるユニコーンも出てきています。

とは言え、経営から採用業務、研修トレーニングなど、カバーする範囲が大きいだけにサービスを使ったり難易度が高いのも事実。今日はHRビッグデータの観点から研究やコンサルティングを行っていらっしゃる伊藤健二明治学院大学 学長特別補佐にお話をお聞きしました。

ゲスト : 明治学院大学 学長特別補佐(戦略担当)、客員教授 伊藤 健二氏

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元みずほ情報総研 知識戦略ソリューション室 シニアマネージャ、元慶應義塾 大学大学院特任准教授、元早稲田大学客員主任研究員で、内閣府、厚生労働省、 人事院等の人材に関する8省庁の委員を歴任。20年以上前から数百万人のデータを分析・活用し、半年で数十億円の新規利益も創出してきたビッグデータ分析のコンサルタント。HRのアワードも15年に亘って審査。三菱総研、リクシル等の企業と研究会等を通して、数万人の調査、そして1社5万人以上の企業のタレントマネージメントの導入・分析も行ってきている。

HRテックの可能性はたくさんあり、サービスはまだまだ伸びる

おしん記者
伊藤先生、ズバリ、HRテックがテーマなのですが、HRテックって盛り上がってきてるんでしょうか?
伊藤さん
そうですね。私は日本HRチャレンジ大賞eラーニングアワードの審査員を務めていますが、回を追うごとに応募数も増え今年の5月に行われた第5回HRチャレンジ大賞では85案件の応募がありました。

サービスはもちろん企業の人事部などでの活用事例も増え盛り上がってきてますよ。

おしん記者
どんな案件が多いのですか?
伊藤さん
第5回で大賞を受賞したのは味の素さんの「キャリア自律」促進のための人事施策取り組みでしたが、Webサービスも増えてきたなというのが実感です。

例えば、株式会社ギブリーさんの「codecheck」。オンラインで利用できるスキルチェックプラットフォームを用いた、開発者の採用および育成・社内評価の最適化のサービスです。

今企業が求めているITスキルを試験化し、エンジニアの開発実践力を問うことで受験者の実務スキルを総合的に判断できることから、求職者と企業のアンマッチングを防止し、開発者が活躍するための文化の醸成に貢献することが評価されました。

おしん記者
傾向としてどんな特徴のサービスが増えてきていますか?
伊藤さん
今までは数値データだけ、みたいな感じでしたが数値データの解析だけではなく、アンケートや診断結果などの自然言語を組み合わせて分析するものも出てきています。

数値データだけではわからなかった、人の気持ちや価値観などクロスした分析ができるようになったのはHRテックらしくなってきたといえるのではないでしょうか。

更に進んで、私の企業との研究でも自然言語データ、生理データまで組み合わせ、継続的学習を含んだ分析を試行し始めています。

■ 伊藤氏がHRデータとの連携を試行している学習中の生理データ

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※ 機微なデータのためここではマスクするが、セミナー等で見られることもあるとのこと

「学歴と年収には相関性がある?ない?」5万人以上のデータからわかる個人の行動モデルとモチベーションモデル

おしん記者
伊藤先生の研究もおもしろそうですね。伊藤先生はどんな取り組みをされているんでしょうか?
伊藤さん
「HPR=H-SPR+SPR+WPR+D-MPR」という4つのHRビッグデータプロファイルを利用して学生時代から社会人になり会社で活躍する姿を5万人のユーザーで分析しています。

構造化ビッグデータ分析だけでなく学習ログやテスト、アンケートといった非構造化データも活用したポジティブフィードバックを行うことがポイントです。

■ 伊藤氏の提唱するHRビッグデータモデル:HPR=H-SPR+SPR+WPR+D-MPR

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おしん記者
5万人、それはすごいですね!スナップショットだけでなく経過観察していくやりかたということですか。
伊藤さん
これによって「◯◯大学の◯学部で◯◯系の研究を頑張っていた学生群は卒業した後、◯◯企業で◯◯という職種で◯◯円の年収をもらっている」ということがわかります。
おしん記者
なるほど「学歴と年収は相関があるか?」そんな分析もすぐにできそうですね。
伊藤さん
それもわかりますし、HRビッグデータとして意義深いのは「大学でどういった活動を推奨すれば企業で活躍する人材になりうるか」や「企業の中で活躍する組織の人材配置は」ということまで示唆としてのモデルデータが得られるということなんですね。

それだけでなく、大学毎に集計する事によって大学の出口戦略分析とも言える大学IRに活用でき、実際の大学の現場で活用されています。

■ 伊藤氏の大学IRに関する記事は「週刊東洋経済 臨時増刊 本当に強い大学2015」でも

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おしん記者
「活躍する組織の人材配置かどうかもわかる」とはすごいですね?
伊藤さん
WPRは「Working Profile for Reflection」という数十問からなる診断の略称ですが、会社組織全員で受けていただくことを推奨しています。そのデータをハーマンモデル※を利用し性別、年齢などでも分析「社員がどういうことにモチベートされているか」を個々にプロファイル取得できます。

※ 最新の大脳生理学の研究成果をもとにGEの能力開発センター所長であったネッド・ハーマンが提唱するモデルのこと

ビッグデータを活用した人材間の相性なんかも含めた次世代組織マネジメントモデルを提唱しています。

■ 伊藤氏の提唱する次世代組織マネジメントモデル

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おしん記者
WPRが社会人ということはSPRというのは学生さんのデータなんですか?
伊藤さん
勘がいいですね(笑)。SPRは「Student Profile for Reflection」の略称で「学生さんが大学や大学外でどんな活動をしてどんな考えを持ったか」をプロファイリングしています。

すでに20以上の大学が参加し、3万人規模の大学でもデータ活用が始まっています。

おしん記者
複数のプロファイルを使ってどんなことをやられているんですか?
伊藤さん
3つのプロファイルを使ったモデルデータによる企業人事コンサルティングや、学術としての研究、大学IR(Institutional Research)を行っています。

その知見を生かして、省庁や国の「働き方改革」「人材流動化」など労働市場政策への提言など労働市場へのアプローチにも力を入れているところです。

経営戦略までつなげて思考、実現できるかがHRテック成長のキー

おしん記者
伊藤先生自体がHRテックサービスの当事者ってことなんですね。
それと合わせて省庁、企業、大学と3つの世界を行き来する先生はHRテックサービスの成長のコツなんか見えたりするのでしょうか?
伊藤さん
なかなか珍しい存在だと自負していますが(笑)

HRテック成長のキーは「経営戦略までつなげてテクノロジーの応用を考えられるか」「それを叶えるデータを用意できるか」になると思っています。

おしん記者
そう思われる理由は何かあるのでしょうか?
伊藤さん
日本HRチャレンジ大賞の審査員をやってると、テクノロジーはすばらしいが「経営戦略との繋がりがなく人事戦略上活用できない」「データが少なくモデルが機能しない」といったAI以前の問題と出会うことも多いですね。
おしん記者
なるほど。エンジニアリングだけでなく、「複数の専門分野を横断した知見」「それを活かせるデータの整備・獲得」がキーとなるわけですか。
伊藤さん
そうです。それに加えて人事は人が関わる領域ですから「ビッグデータ✕テクノロジーの出した結果を説明できる」「顧客の視点や業務プロセスと言った現場を知り施策に応用できる」といった人を動かす能力も必要ですね。

私たちはBSC(Balanced Scorecard)という4つの視点の業績評価モデルなどの経営戦略でのモデルに、専門知識、そしてそしてデータやテクノロジーに乗せてソリューションにすることがポイントとしています。

※(Balanced Scorecard, BSC、バランス・スコアカード)は、ロバート・S・キャプラン(ハーバード・ビジネス・スクール教授)とデビッド・ノートン(コンサルタント会社社長)が1992年に「Harvard Business Review」誌上に発表した業績評価システム。

おしん記者
HRテックの飛躍の鍵はテクノロジー以外のところにもたくさんありそうですね。どうも、ありがとうございました!

編集後記

バズワードともなりつつある「HRテック」。キーになりそうな考え方が参考になりました。おしん的には伊藤先生が取得されているビッグデータは5万レコードと、サービスを検討する際のモデルデータとしてもおもしろいかもしれないなと思いました。

■ 最後にライターおしんとパシャリ。気さくなお人柄も魅力です。

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個人的には年収と学歴相関だけでも見てみたい気がしますが(笑)それは先生のセミナー等で見れることもあるそうで、ご興味がある方はぜひイベントなどに参加してみてくださいね。

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