第2回 全脳アーキテクチャシンポジウム ~「BeneficialなAGI」の実現に向けて社会に浸透させるプロセスとは?~

今回は、NPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ(以下、WBAI)が主催する、「第2回全脳アーキテクチャシンポジウム」に参加したのでレポートをお届けしたい。

WBAIは、長期的に「脳全体のアーキテクチャに学び人間のような汎用人工知能を創る(工学)」を掲げる全脳アーキテクチャ・アプローチによるAI研究開発を促進している団体。2015年8月に創設されて以来、この目的のために主に人材育成と研究開発促進を中心とした活動を行なっている。
創設2周年を迎える8月下旬において「 Beneficial AGIへ」をテーマに、第二回目のシンポジウムを開催した、参加された先生方は著名な先生ばかりでWeb記事や書籍には記載されていないAGIの仕組みやアプローチなどを伺う事ができた。
第一部ではAGIの実現を目指したWBAIの活動状況やAGI開発を脳に学ぶ意義などについて講演及びパネル討論、次の第二部では、WBAI奨励賞、WBAI活動功労賞の授与式を挟み、第三部では汎用的な知能技術が段階的に社会に浸透するプロセスを想定し、WBAアプローチの利点なども踏まえながら講演及びパネル討論が行われた。

第1部 脳の汎用性からAGIへ

「汎用性を実現するために脳から学ぶべきこと」山川宏氏

WBAI代表の山川氏より、AGIの開発に必要な汎用性の開発に向けた最新のアプローチ方法を紹介。
データが大量に得られる現在、機械学習や深層学習を用いて、様々な問題解決が実現可能となった。その結果、データが不十分な領域においても最適な判断や解決策を見出す汎用的な知能や、自律して知識を拡大する自律性的能力への興味が高まっているとのこと。

汎用性と自律性はお互いに相乗効果するという。汎用性は、知識を組合せて未知状況の価値とリスクを見積もる仮説を生成し、自律性は有用な情報を広げる事で適応範囲を広げる役割を担うそう。

そこでWBAIでは、汎用性を備えた知能を開発するために、脳全体のアーキテクチャに学び人間のような汎用人工知能の開発に向けて以下の方法で取り組んでいるという。
その中でも特に、知能の汎用性に重要となる標準化された大脳新皮質の局所回路モデルであり、そこに対する技術開発に多くの人工知能や機械学習の専門家を引き込もとしている。そこで大脳新皮質において標準化された新皮質の機能を工学的に意味づけする研究を進めている。

こうした新皮質の局所的な標準神経回路モデルを展開した形の脳型アーキテクチャの外観は以下のようになるそう、脳の仕組みがここまで具体的に構造化されていることに驚いた。

そして、このような汎用人工知能の開発には、オープンな環境で様々な知見が必要になるという。今年は全脳コネクトームアーキテクチャに着目し、神経科学データの知見を導入しながら研究と開発を行っているそうだ。

「記号創発ロボティクスが目指すAGI ~表現学習を超えて~」 谷口忠大氏

続いては、立命館大学情報理工学部 教授の谷口氏より、記号創発ロボティクスの研究成果を基にAGI研究との関連性、今後の展望について講演された。まずは、人工知能に関する技術開発の歴史を基に、記号創発ロボティクスとは何か、具体例を出して、素人でもわかりやすいレベルで説明をして頂いた。
人間が現象を分析し、知能を直接作るルールベースのAIから、機械学習、深層学習へと人工知能の技術は進歩してきた。たとえば,Deep Q networkは、深層学習の特徴抽出学習能力を活用し、画像データなどから直接強化学習を行う手法がつくられた.また、リカレントニューラルネットワークを用いた「Show and Tell」という研究では,事前の文法知識など無くとも画像から文章を生成するような事が可能になったそう。

次に、記号創発ロボティクスとは何か?研究が進むとどのような事が可能になるのか?などに関して解説をされた。人間の赤ちゃんが成長すると同じように、身体的経験や感覚運動から手を動かしたり、歩くと行った機能を獲得し、さらには言語を獲得しコミュニケーションを行う事をロボトを用いて実現していく。
ロボットが視覚情報や聴覚情報,触覚情報といったマルチモーダル情報から物体のカテゴリを学習する実験では似たようなマルチモーダル特徴があるおもちゃを人間の持つカテゴリ分類と同様に分類することが可能だったという.この際,人間からの教示は一切必要なかった.
人工知能研究の中では,脳内のRepresentation Learning(表現,表象の学習)がよく語られる。谷口氏は、実世界体験に基づく言語獲得ロボットの開発を行っていきたいそうだ。

次に具体的などのような方法で現実世界をの記号表現をロボットが獲得していくのかに関して,お掃除ロボットを例に解説された。
例えばキッチンであれば、こういったモノがあるから,こういう領域がキッチンという理解が必要であるが、ある一点がキッチンであると教え,ロボットに理解させるだけでは十分ではない。空間情報の抽象的な認識が必要になってくる。

この秋の国際会議IEEE IROS2017で、このSpCoSLAMモデルを発表する。お掃除ロボットが自ら知識獲得してマップを理解するモデルのことである。こうした研究成果は、社会の中で体系化されて,蓄積されていかなければならない。
これが記号創発ロボティクスであり、まさにAGIそのものである。

最後に、実社会でAGIが実現するために、記号創発ロボティクス観点からのチャレンジについて説明された。山川氏の言葉で言えば「全脳アーキテクチャ」となるのかもしれないが,教師なし学習に基づく認知アーキテクチャを作っていくことが重要だと締めくくられた。

「人工知能の意識と汎用性」 アラヤ CEO金井良太氏

元々、脳からなぜ意識が生まれるのか研究をしていた金井氏、現在は人工的に意識を持った人工知能を開発することを目標にアラヤを展開しているそうだ。アラヤのミッションは下記の通り。

まずは、意識がなぜ人工知能開発に必要なのか語って頂いた。現在の人工知能において欠けているものは、以下の3つだそう。「意識」・「意図」・「意味」 そもそも意識の問題として、物理世界の認識だけで事が足りてしまっている。主観的なりんごであるという意識は機械に感じることは難しい。

このような人工知能開発の分野において意識が必要か否かを議論すると大抵の方は、意識は必要ない言う。しかし、汎用性の高い人工知能を作るとした場合には、自然と意識が生まれるのではないかということを明示したい。
以下の2点から人工知能に意識が必要なのではないかと考えている。

・ヒトではすべての認知機能に意識が関わっている
記憶と学習、知覚、思考、行動、意思決定、感情などの全てに「意識モード」と「無意識モード」があるが、その違いがわからない。

・意識的経験には意味理解が付随している
しかし、現在の人工知能技術では「意味理解」を実現できていない。このように人工意識には2つの課題が存在する。意識の想像と意識の存在証明に関することである。

さらに、意識はどのような機能なのか、学術的視点で語られた。
意識の機能説明にはV1仮説というものが存在するそう、V1(第一次視覚野)の脳活動は、前頭葉に直接投射していないため、意識には上らないということ。例えるなら、人間の反射行動のように近いということだそうだ。

この仮説は、意識の生物学的機能が次の2つという考察から来ている
・現在の視覚入力のベストな解釈を生み出すこと
・その情報を自発的な行動や未来の行動計画に利用可能とすること

これまでの事をまとめると、意識機能については以下のような仮説が考えられるそう。

反実仮想的情報生成理論とは何か具体的に解説頂いた。
自分がどのように行動したらよいか、未来の行動を考えることができたならば、知能は意識を持ったと考えては良いのではないかということである。これは、強化学習におけるエージェントの動きにも近いかもしれない。これを持ったらどういう筋肉を動かせばいいのか、というような未来を考えた行動がまさにその例である。

後半はこの意識のニューラルネットワーク上に実装方法について説明をされた。
右と左のネットワークは全く機能が同じであるが、右側の図は意識が存在していない。コンパクトにうまく作りたいと考えた場合、情報の統合は必要になってきて、まとめようとするほど、汎用的な人工知能は意識を持ってくるのではと考えているそうだ。

パネルディスカッション1:汎用性・自律性・意識を脳に学ぶ」

(モデレータ:大森隆司氏、パネリスト: 山川宏氏、谷口忠大氏、金井良太氏)

第1部の最後は登壇者3名によるパネルディスカッションを開催。
お題は「汎用性・自律性・意識を脳に学ぶ」について、各々の立場から脳について意見が語られた。冒頭では、大森先生から3者の立場と専門分野について整理が行われ、汎用性における各学術領域の解説も交えられたので体系的に理解することができた。

汎用性とは?

まずは、各立場から汎用性についての定義を語られた。山川氏は「多様性を持った様々なタスクを実行できる能」、谷口氏は「生存の為の自律した知能」、金井氏からは「山川氏の見解に近い多様性を持った知能だが、汎用の弱点は学習の方法や時間に問題があるので、ある程度限定的な領域に絞るった知能」であるとのことだ。

さらに、議論は海外の汎用という定義についても広げられた。マルチにタスクができるという事が汎用性と言われたが、やはり、オープンな世界で自ら学習して、自律性を持たせる事が本当の意味での汎用ではないかと思うと谷口氏。

そして、自発性とマルチタスクができるということは関係性があると思うという金井氏、自発的に行動して報酬がなくても自ら出来ることを選択する事は汎用そのものであり、マルチタスクを選んでこなせる事も大事であるとのこと、これには谷口氏も同意していた。
最後に、山川氏より、今後のAIはメタレベルでの認識・制御・学習が行えるように、様々な場面でそうした機能を使えるようになる。そして知能が自律してくると汎用性を持ったと言えそうとのことだ。

脳に学んでAIを作る魅力とは?

山川氏は、脳に学んでいくとトレードオフが生じる。例えば、精度の高い機能を構築すればするほど時間もかかる。その為、人間の脳を学ぶ為に、他生物に学んでいくとヒントになることも見つかってきていて最近は興味深く思っているとのこと。
谷口氏は、脳は知能の大基になるわけだが、大きく複雑で解明が難しい。
同じものを1つの方法だけ見るのではなく、幅広い視野で見て当てはめることで新たな気付きがあると考えているそう。やはり、すぐに解答が見つかることはないが、イテレーションを回すことが大事だそうだ。

金井氏からは、脳は長い間研究しているが、やはり難しいと思うそうだ。むしろ、脳を知るためにAIが必要なのではと思ったりするそう。ミクロとマクロの視点で脳を見ていくと大変興味深いく、ニューロンレベルからMRIレベルの間で面白いことが起こっていそうだが、人間にはそもそも理解できないのかもしれない。

さらに、心理学の視点も大事かもしれない。心理学と脳科学、人工知能開発は、お互いにじゃんけんの関係にあるように弱点と強みがあり、それぞれお互いに補完しあう関係が必要だと考えているそうだ。

第3部 次第に汎用化するAIが社会にもたらすもの

「AGIを人類と調和させるためにWBAIができること」 山川 宏氏

AGIの開発において、WBAIのポジション、活動によって社会にどのような還元ができるのか、代表の山川氏より講演頂いた。
WBAIはAGI開発組織として2つの特徴がある。

1つは脳型のAGIを開発しているということ、このようなコネクトームを基にしたAGIは汎用性が高く社会価値が高い。2つ目はNPO法人であるということ、これによって利益があがっても構成員に分配しないことにより、公益目的を担保した組織であることが特徴である。さらにこのような特徴があるからこそ、「BeneficialなAGI」を目指すことに重みがあるという。

「BeneficialなAGI」とは、脳に学ぶ事で、人類の価値観と調和する、つまり人間のような行動や振る舞いができるということ、そして、脳アーキテクチャをオープン場で開発することで公益性が担保されて、特定組織のものではなく、人類全体の共有物としてゆけるとのこと。

また、今後の開発戦略についても解説頂いた。
現在は、神経科学と機械学習の知見を組合せるためのオープンなプラットフォームを作ることを目指しているそう、神経科学と機械学習の分野についてはハッカソンや勉強会を通じて知見を深めると共に最終的には統合して脳アーキテクチャの実現を目指すそうだ。

最後にWBAIはNPO法人であり、かなりの部分がボランティアに支えられるべきであるが、まだまだ関係各所などとの人材が不足しているそう。
社会に大きな影響を与えるためには1つのNPO法人という立ち位置を利用して、政府・大学、企業やボランティアスタッフとの連携が必要だと強調された。

「深層学習の以前・今・これから」 東京大学大学院准教授 松尾 豊

NPO法人WBAI副代表の松尾豊氏は、「深層学習の以前・今・これから」として、深層学習の昨今の流れと、これからの深層学習におけるトレンドを紹介した。ディープラーニングは、深層強化学習から、深層生成モデルを経てプランニングへ流れていくと考えているそうだ。

・CNNの進化スピード
近年、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)の様々な手法が発明されて画像認識精度が上がってきている。Residual Network(ResNet)という手法では、ニューラルネットワークをショートカットすることで勾配を最適化するなどの方法も出てきた。

・RNN+CNNに注目している
さらに、RNNも精度がもの凄く上がっていると述べた松尾氏。

「RNNはチューリング完全で、モデル化能力が非常に高い。CNNにRNNを加えるのは最強のコンビでは?」CNNで高次特徴量を取り出して、RNNで動的モデルを作るというかたちを取れば、様々な用途で処理が可能になるだろうとの事だ。

そこで、LSTMを用いた事例を紹介された。例えば、物理モデルを使わずにビリヤードの玉のような動きを予測できたり、ロボットを用いて、自分が何をしたら、この先どうなるかといった、未来予測がデータセットによって可能になると述べられた。しかし、LSTMはコードが少し汚いので、整備していく必要があるそうだ。最適化された論文も登場してきたが、そこまで綺麗になっていない。

このようにRNNは時間軸を基に情報を蓄積できることに強みがあるので、ここを活かす事がポイントになるとのことだ。

RNNの見通しについて、松尾氏は以下のように考えているそうだ。RNNは発展途上だと思っている。CNNでやっている勾配のとり方がもう少し工夫できると思う。CNNとRNNの連携がさらに進むと、さらに複雑なモデルを学習できるはずとの事、これを「進化型RNN (RNN+)」と紹介された。

例えば、ロボットへの応用においてを考えてみる、ロボットが何かを操作したとき、何が動いて何が動かないのか、サブゴールを設けたほうが、うまく学習するといったことがわかってきたそうだ。このように補助関数を設ける考え方が重要との事。

また、面白い事例として、シミュレータではうまくいっても、ロボット実機で動かすとうまくいかないことがあるという。その解決法として、環境とエージェントを戦わせるアプローチを取るそう、具体的に例を挙げると、環境側を転ばせたり、横から押すような衝撃を与えると、お互いにそうさせまいとする。その過程を通して進化させていくそうだ。

深層強化学習についても現在は、原始的な状態であると述べられた。

理由として、今は、世界のモデルが無いことが原因ではないかと考えているそう。空間の中の一部のパラメータを調整しているにすぎない、SLAMのようにモデルを仮定してやろうとしているが、本来は学習できなければいけない。このような部分が少し弱いそう。

どのように実現するか、松尾氏は以下のように考えているそう。RNNがもう少し格段に進化したら、センサー系の情報だけでなく、アクチュエータ系の自らの行動情報も利用して、両者の情報を蓄積していく新しい手法が可能になるのではとのこと。このように進化版のRNN登場して、世界のモデル化を進めることが重要になると考えているそうだ。

AGI とマーケティングの未来 坂井尚行

WBAIで広報委員長を務めている坂井氏からは、AGIとマーケティングの未来と題して、具体的なイメージの付き難いAGIについて、AGIでマーケティングをシミュレーションしてみるとどんな未来が待っているのか説明がなされた。

マーケティングではいくつかの考え方がある。いずれの考え方にせよ、AGI が適用される場合「仮説の生成と検証がキーテクノロジーになるだろう」という。とくに市場調査では、顕在化しているニーズはデータ化されていることが多いが、潜在的なニーズはデータになっていることが少ない。潜在的なニーズの発見には「知識を組み合わせた仮説生成が有効」であるという。

AGI が仮説を生成しても、実現性がともなわなければ絵に描いた餅である。AGI は実現性も評価し、人間が判断できる形で提示される。評価軸の例として、ヒト・モノ・カネ・時間という軸で説明された。

具体的な事例として、ファブリーズをAGIに企画させたらという例で説明がなされた。

ニーズの仮説は、ロボットのような身体から情報収集するか、生活場面の画像をクロールした後、潜在的な課題が生成される。その後、ベストな解決方法を市場の予測や既存商品のノウハウなどを考慮して選択する。人間がさまざまな知識をくみあわせて仮説を生成している事と同じような思考がなされていることがわかる。

つづいてマーケティングとAGIについて、整理された。
AGIはニーズを発見して、どのくらいの成果が得られそうか仮説生成をおこない、人間はAGIに実施させたい目的とアウトプットの評価をおこなう。「AGIは筋の良し悪しを判断し、人間は目的や好き嫌いをきめることになるだろう」と述べられた。

最後に「仮説生成はマーケティングに限られた話ではない。自身の周辺でどのような未来がありうるのか、考えて欲しい」と締めくくられた。

AINOW
人工知能専門メディアAINOW(エーアイナウ)です。人工知能を知り・学び・役立てることができる国内最大級の人工知能専門メディアです。2016年7月に創設されました。取材のご依頼もどうぞ。https://form.run/@ainow-interview

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