感性が生み出してきたファッション領域で、人工知能に何ができるのか(株式会社ニューロープ 酒井聡氏)

この記事は2017年 アドベントカレンダー企画「AIの未来予測」の記事です。寄稿してくださったのは株式会社ニューロープの酒井聡さんです。

筆者がファッションテックの領域で起業したのが2014年1月のこと。
実は当時、顔や年齢、体型に合わせて「あなたにはこういったアイテムがおすすめです」というスタイリングのアドバイスをするようなサービスの構想を描いていました。
会社を立ち上げる3か月前に知り合いの女性にその構想を話したところ、「これが答えです、とスタイリングを提示されても嬉しくない。そんなことを言われても、自分が着たい服を着たい」というフィードバックをもらいました。
その言葉がすごく的を射ていて、印象的で、ことあるごとに思い起こします。
ユーザーは必ずしもThe answerを求めているわけではない。ファッションのように感性が生み出した世界においては、ことさらに。

ユーザーの支持を集めている既存サービスに見る、ファッションAIに求められる役回り

AIに限らず、テクノロジーのサービスはしばしば「シーズ志向だね」と揶揄されることがあります。
技術ありきでユーザーのことを考えずに作られた(少なくとも表面上はそのように見えてしまう)サービスは少なくありません。
かく言う筆者も何度も仮説をはずした過去があり、大上段に構えていられる立場ではありません。

果たしてファッション領域において、AIはどのように振る舞えば、ユーザーに求められる存在となるのでしょうか。
そのことを探るためにも、まずは「イケてるファッションテック」の傾向を振り返っておきたいと思います。

玉石混交のプチプラファッションから「玉」だけを拾い集める『BEST STYLE ME DIRECT』

メンズファッションに取り組む『株式会社エモーシブ』が展開している『BEST STYLE ME DIRECT』は、専属のスタイリストが服を選んで送ってくれるというサービス。
中でも『定期便』は奮っていて、9,800円でセレクトされた4品が送られてくるという、耳を疑うような価格設定になっています。やはりと言うべきか、このプランが非常に伸びているという話を代表の坂本氏からもうかがっています。
筆者も実際に注文したところ、送られてきた商品にはスタイリングのポイントも添えられていて、サービスとしての完成度が非常に高いと感じました。

ネット通販含めて、世の中には非常に低価格の商品が溢れています。職業柄、筆者もそういった商品をしばしば注文してみます。これが意外と侮れないもので低価格ながらも十分なクオリティの商品が届けられることがある一方、一度も袖を通す気にもならないようなアイテムに落胆させられたことも一度や二度ではありません。
もちろんレビューにも目を通すのですが、サクラや業者同士のディスり合いと思われる専門用語の並ぶレビューが多くてなかなか参考になりません。

そういった背景で真価を発揮するのがBEST STYLE ME DIRECTで、このサービス最大のバリューは「目利き」にあると思っています。
玉石混交のプチプラファッションの中から、スタイリストが使えるアイテムだけをピッキングしてくれる。
そのことによって「はずれアイテム」を引いて丸損するリスクをケアできるのであれば、多少の手数料は本当に高くないと感じます。

BEST STYLE ME DIRECT: https://beststyle.me/direct/

ネット通販の「試着できない問題」を解決してくれる『VIRTUSIZE』

ネット通販の最大とも言える難点は「試着できないこと」ではないでしょうか。どんなに物が良くても、サイズが大きすぎたり、シルエットがフィットしなかったりすると、着られないままタンスの奥深くに潜り込んでいってしまいます。まるで暗くて暖かい場所に好んで巣をはる小動物のように。
そんな問題を解決してくれるのがバーチャルフィッティングの『VIRTUSIZE(バーチャサイズ)』です。
「バーチャルフィッティング」というとVRやARが連想されるかもしれませんが、VIRTUSIZEのアプローチは他社サービスと比較したときにそのユニークさが際立ちます。

VIRTUSIZEは様々なアパレルネット通販サイトに導入されています。ユーザーは気に入った商品を見つけたときにVIRTUSIZEを立ち上げると、気に入った商品と過去に購入した商品とでシルエットを重ねて比較することができます。
過去に購入した商品は試着どころか普段から着慣れています。それと比べて肩幅、袖丈、裾の広がりがどうなっているかを見れば、自分にフィットするかどうか判断できるという寸法です。
ユーザーはカメラを立ち上げたり、自分の肩幅や胸囲を図ったりする必要がありません。

VIRTUSIZEのもう一つ優れているところは、Aサイトで購入したアイテムを、Bサイトで引き合いに出して比較対象とできるところです。
VIRTUSIZEは既に大手ネット通販を中心に、55サイトに導入されています。(2017年11月19日現在)
導入サイトが増えるほど、ユーザーの購入履歴が蓄積されるほど、VIRTUSIZEの利便性には磨きがかかっていくことでしょう。

VIRTUSIZE: https://www.virtusize.jp/

消費者からの高い期待が寄せられている『シンデレラシューズ』

筆者は仕事柄、女性にファッションに関するインタビューをさせていただく機会が少なくありません。
そこでしばしば耳にするのが、「自分にぴったり合う靴を探し出して欲しい」という確かなニーズです。

この課題に取り組んでいるのが『シンデレラシューズ』。代表の松本氏はデザインから販売まで、13年間どっぷり靴業界で活躍なさっていたというご経歴です。
単純な足の長さに留まらず、足の幅や甲の高さといった立体情報に基づいて、シンデレラにとってのガラスの靴のようにジャストフィットするシューズだけを絞り込んで閲覧できるネット通販を構想していて、数々のビジネスコンテストでも優勝を重ねています。
コンセプト自体は2014年頃からあったようで、2017年11月時点でまだリリースに至っていないところから、技術面・運用面での高いハードルがうかがえます。

シンデレラシューズ: http://www.cinderella-shoes.jp/

ノイズを取り除く「フィルタリング」が消費者をうまくサポートしている

先に紹介した『BEST STYLE ME DIRECT』『VIRTUSIZE』『シンデレラシューズ』は、クオリティのいまいちなアイテムを除外したり、自分に合わないサイズ感を知らせてくれたり、自分の足にフィットしないシューズをあらかじめ取り除いてくれたりと、いずれもノイズを除去するフィルタリングの役割を果たしています。

フィルタリングの大元を辿れば20年以上前の検索エンジンにまで行き着いてしまいますが、もの・情報・サービスの選択肢が膨れ上がり続ける中で、より多様なフィルターが求められている傾向にあります。
石を取り除きたいのか、砂の粒子を取り除きたいのか、砂鉄を取り除きたいのか、用途に応じた目の細かさが開発されて、ユーザーに重宝されている構図が見て取れるでしょう。

今回例に挙げたサービスの裏側にはAIが使われているわけではありません。
一方で、ユーザーにとって「そのサービスにAIが使われているかどうか」は関係のないことです。
「こんなAIがあるから」という視点を出発点にしたら、冒頭で触れた「シーズ志向だね」という言葉の標的になりかねません。
AIベンチャーも、支持されている既存サービスにコンセプトを学ぶべきでしょう。

ファッションAIが切り開く、新しいユーザー体験の可能性

特にファッションのように多様性に富むカテゴリーにおいては、まだまだこれから新しい切り口が生まれていくに違いありません。
大手アパレルモールは10万、20万といった膨大な種類の商品を扱っています。その中から自分に最適なアイテムを見つけることは、まさに砂漠で1本の針を探し出すようなもの。
筆者が代表を務める株式会社ニューロープは、独自のAIを使って新たなフィルターの開発・展開を進めています。

ニューロープが開発するファッション特化の人工知能

我々は現在、2つの人工知能を開発しています。
1つはファッションスナップを自動で解析してくれる『ファッションおじさん』。ファッションスナップを送ると、着用アイテムが何であるのか、自動で解析するというものです。
もう1つはスタイリングを自動で生成してくれる『人工知能ファッション店員Mika』。「そのアイテムに着合わせることがおすすめなのはこれです」という具合に、コーディネートを自動で提案します。
いずれもLINE上で誰でも実際に無料で利用してみることができます。

ファッションおじさん: https://line.me/ti/p/@gpk6359w
人工知能ファッション店員Mika: https://line.me/R/ti/p/%40umq5117y

この2つの人工知能をベースにして、様々なサービスを展開しています。

ファッションAIの適用事例

我々の展開している人工知能はシンプルであるがゆえに柔軟性が高く、メディアやネット通販、リアル店舗などに向けて、様々なかたちでサービスを提供しています。
いくつか具体例を挙げていきます。

1. メディアのマネタイズを支援するアフィリエイトASP事業

世の中には既にたくさんのファッションメディアがあり、規模の大きなものになると数千万、数億といったPVを叩き出しています。
ファッションスナップを解析する技術を利用すると、これらメディアに掲載されているスナップを解析して、メディア上に自動で類似アイテムを表示するということが可能になります。
既に『itSnapマガジン』などにこのサービスを展開していて、読者は『itSnapマガジン』で気になるコーディネートを見つけたら、そのまま購入するようなことができます。

itSnapマガジン: https://magazine.itsnap.jp/

2. ネット通販に「ランキング」や「検索」以外の商品提案軸を提供するメディアコマース事業

ネット通販のトップページを開くと、検索導線・ランキング・新着などの情報が並んでいます。既に欲しいアイテムを明確にイメージできている場合は良いのですが、「何か良いアイテムないかな」とウィンドウショッピングをするような消費行動にはいまいち応えられていないのが現状です。
一方でネット通販内部で特集ページのようなものを制作するのには非常にコストがかかります。費用対効果が合いにくいという理由で、着手できているサイトは限られています。
我々はこのネット通販に対して、記事を提供するという取り組みをしています。上述の通り、世の中にはたくさんのファッションメディアがあって、日々大量のファッション記事を生産しています。この記事をネット通販サイトに提供してもらいます。記事を転載する際、記事中のスナップを解析して類似アイテムを紐付けるということをします。
ネット通販側は、記事制作の運用コストをかけることなく記事コンテンツを調達できます。ここから売上が発生した際に限ってネット通販はメディア側に手数料を支払います。メディア側は従来通りに記事を制作しているだけで、その収益源を増やすことができます。
既にネットオークション大手の『モバオク』で、このメディアコマースの取り組みを展開しています。


モバオク『M/Mag』: https://www.mbok.jp/_mmag_top

3. 世の中の流行情報を定量化するマーケティング事業

ファッション業界に長らく横たわるのが、在庫という大きな問題です。何が売れるか予測しきれないために、たくさんの商品を作り、正規価格では売れ残ったものをセールで売り切るという体制をほとんどのメーカーや小売店が取っています。そしてこの在庫問題から生まれる余分なコストが、商品価格に転嫁されるという構図が続いています。
「ファストファッションばかりが一人勝ちしている」ということを言われますが、これは正確ではありません。現にTOKYO BASEのように業績を伸ばし続けているアパレル企業も存在します。TOKYO BASEとユニクロに共通するのは、その商品の原価率が非常に高いという点です。つまり消費者から見たときにコストパフォーマンスが良い商品ばかりを揃えているということになります。

在庫問題を解決するために、アパレル企業は様々な努力を重ねてきました。
代表されるのがSPAという業態です。自社で商品を作って、自社で売る。作ってから店頭に商品を並べるまでのリードタイムを極限まで短くすることで、見込みで商品を製造する量を最小化し、売れ筋の商品を後追いで生産して消費者需要に間に合わせるということを可能にしています。
予約販売も一つのアプローチです。予約販売の形式を取ることで商品を製造する前に大まかな売れ行きを探ることを可能とします。

ニューロープもこの在庫問題の解決に動き出しています。
具体的にはInstagramやTwitterに流れるファッションスナップをすべて解析して、今どういったアイテムが流行しているのか、トレンドを定量化するようなことを目指しています。例えば「インフルエンサー内でのトレンドが2週間後に世間一般のトレンドになる」というような先行指標を見つけることができれば、在庫問題はより小さなものとなり、消費者はより質の高い商品をより安価に購入できるようになり、かつアパレル企業の収益性は高くなり、アパレル業界の発展に貢献できるのではないかと考えています。

「いらないAI」はユーザーインタビューで大体潰せる

上記のソリューションはいずれもメディアやネット通販、アパレルメーカーなど、各所にインタビューをさせていただき、必要とされていることを確認した上で取り組んだものばかりです。
結果的に、いずれも「大量の情報を良い感じにフィルタリングする」という構図に当てはまるものとなっています。
アフィリエイトASPやメディアコマースの事業は、膨大なアイテムの中からコンテンツというユーザーの関心軸に沿って絞り込みをかける構図になっています。
マーケティングの事業は、アパレルメーカーに様々な商品政策の選択肢がある中で、作る必要のない商品をあらかじめ除外するというフィルタリングの機能が期待されています。


一方で、インタビューをさせていただく過程で、サービス化を見送ったアイデアも数えられないくらいあります。
例えば我々の技術を使えば、接客支援をするようなタブレットアプリを開発するようなことも考えられます。けれど今のところこれをサービス化する予定はありません。
元ショップ店員の方にいただいたフィードバックがあまりに納得感のあるものだったためです。
「ちょっと想像してみてください。タブレットを片手に持った店員さんが店の奥から出てきたら、思わず逃げ出したくなりませんか? タブレットを手にしたまま接客ができるようなコミュニケーション能力の高い店員さんだったら、そもそもタブレットなんてなくてもものが売れると思います」

今回例に挙げた他にも、ニューロープは様々なソリューションの開発を進めています。
例えば監視カメラの映像を解析して来店客の好みや属性を推定したり、ネット通販サイトに好きなインスタグラマーのスナップに似たアイテムを見つけられる画像検索の機能を提供したりといったことを仕込んでいっているところです。

ファッションAIに取り組むニューロープからの大事なお知らせ

エンジニアを積極採用しています!

ニューロープはありがたいことにアパレル関連の企業の方々から、「こういうことがしたい!」というリクエストを大量にいただいています。
2018年1月に資金調達も予定していて、ファッション業界を大きく進化させるテクノロジー会社の一つになれるだろうという自負と意気込みがあります。
アパレル業界全体にディスラプトの波が来ている今、一緒に新しい世界を作り上げてくれるギークを募集しています!

ファッション系の企業はディスカッションしましょう!

ニューロープはファッションAIを開発していますが、商品も売り場も持っていません。
かと言って、成功させるのに莫大な投資が必要となるネット通販領域に踏み出そうということも今のところ考えていません。
自社ではAIの開発にフォーカスして、既に様々な領域で成功なさっているアパレル企業の方々とコラボして、各領域の進化に貢献していきたいと考えています。
アパレルメーカー、ネット通販、小売、ファッションメディア……。
まずはぜひお声がけください、一緒にディスカッションを重ねて、どのように次の発明を生み出せるのかを考えましょう!

編集後記

もともと筆者は情報誌の編集やマーケティング、コンサル、ウェブアプリケーションの開発といった、ファッションとはあまり接点のない経歴を歩んできました。
何となく排他的なイメージを持っていたファッション業界の皆さんはそのイメージとは正反対で、門外漢の筆者を暖かく迎えてくれて、たくさんのアドバイスやお知恵を授けてくださいました。
インタビューさせていただいた業界関係者、ファッション好きの女性の方々は300人を下りません。
おかげで設立から4年、テクノロジー会社でありながらも、今やファッション業界の一員となるところまで成長してこれたのではないかと思っています。
これからもニューロープは様々な方々のお知恵を拝借しながら、ファッション業界にとってのパン粉のような、つなぎの役割を果たしていきたいと考えています!

AINOW
人工知能専門メディアAINOW(エーアイナウ)です。人工知能を知り・学び・役立てることができる国内最大級の人工知能専門メディアです。2016年7月に創設されました。取材のご依頼もどうぞ。https://form.run/@ainow-interview

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