未来の夜に、私たちとAIは「思いやり」を贈り合う(小説家 さかき漣さん)

2017年 アドベントカレンダー企画「AIの未来予測」の記事です。寄稿してくださったのは小説家のさかき漣さんです。

さかき漣(さかき・れん)

作家。立命館大学文学部哲学科哲学専攻卒業。社会小説の既刊に『コレキヨの恋文』(小学館/PHP文庫)、『希臘から来たソフィア』(自由社)、『顔のない独裁者』(PHP研究所)他。2015年、株式会社ドワンゴとスタジオカラーの共同企画にて『顔のない独裁者』が短編アニメ化。 2016年11月、AIとシンギュラリティをテーマにしたSF『エクサスケールの少女』(徳間書店)を上梓。

公式サイト http://rensakaki.jp/ 

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『エクサスケールの少女』出版記念インタビューはこちら

【著者対談】人工知能(AI)開発のヒントが学べる!『エクサスケールの少女』がとても興味深い!

 今日はクリスマス・イヴですね、皆様はいかがお過ごしでしょうか。私はクリスチャンではありませんが、クリスマスツリーを見たり聖歌(または讃美歌)を聴いたりするのが好きですから、今年もどちらかの教会へ伺おうと考えています。

 まず簡単に自己紹介を致します。
 私は「さかき漣」というペンネームにて、主に小説やコラム等の執筆をしている、作家です。小説に関しては、これまで五冊の単行本と一冊の文庫を出しています。学生時は京都の大学で哲学を専攻しておりました。
 昨年の秋、AIやシンギュラリティをテーマとしたSF小説『エクサスケールの少女』(徳間書店)を上梓したことから、国内のAI開発に携わる方々とのご縁が広がることになりました。今回AINOW様のアドヴェント・カレンダーにお誘い頂きましたのも、このおかげと存じます。

 さてAI開発とAI脅威論、両者は切っても切り離せない関係かと思います。
 有名どころで挙げてみますと、たとえば理論物理学者であるホーキング博士は「AIの発明は人類の歴史において最大の出来事だった。だが同時にそれは、最後の出来事になってしまう可能性もはらんでいる」と語っています。
 また実業家であるビル・ゲイツ氏は「うまくコントロールできれば、AIは人類に幸福をもたらす可能性もある。しかし数十年後の未来において、ロボットの知能が大きく発展した場合、人類にとっての懸念事項となりうるだろう」と言及しています。
 さらには、企業家でありエンジニアでもあるイーロン・マスク氏は「AIの使用は悪魔を呼び招くようなもの。五芒星と聖水の儀式によって悪魔を呼び出す男は、自分はその悪魔を御せると考えているだろうが、そんなことは現実には不可能だ」と言ったことがあるようです。
 そして私自身、実は、AI脅威論に共感する部分も多いのです。なにしろ小学生の頃から映画『2001年宇宙の旅』が大好きだったのですから、推して知るべし、でしょう。

 話題性にあふれる、いわゆる「シンギュラリティ」、つまりは主にカーツワイル氏が主張するような「AIの進化に伴いあらゆる科学が幾何級数的に発展し、人類の文明にもたらされる、有史以来の大変革」が本当に起こるのか。この点につき、私は正直なところ懐疑的です。(研究者らのAI開発の手が止まることはないでしょうが、当然ながらそれは「夢のシンギュラリティ」にイコールではあり得ませんね。)
 しかし、AIに関わる技術が今後も発展し、いつかAIが人間の知性を凌駕していくだろうことについては、疑いを持っておりません。
 拙著『エクサスケールの少女』の主人公、青磁(せいじ)のモノローグを、以下に引用します。

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 青磁は身に染みて痛感していた。時計の針を戻すことができないのと同様に、時代を後戻りすることなど、人間にはできないのだろう。
 一度生活の質を上げてしまうと下げることが難しいという人間の性(さが)に加え、人間には、さらに良いものを新しいものをと求める強い欲求がある。それを否定することは誰にもできない。 
 だからこそ、化学技術の発展は「止められない」のではなく、「誰も『止めたい』とは本気で願っていないからこそ、止まることはない」のである。
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 さて過去の人類の歴史において、共同体は常に、その規模を拡大してきました。今後も、人類が滅亡するまではおそらく、この拡大は続いていくことと思われます。
 拙著『エクサスケールの少女』で出雲の国譲り神話をシンギュラリティに重ねて描いたのも、多くの方にこの点について再考を促したかったが故です。
 日本国は、古(いにしえ)の時代、共同体の大きな変革を見ました。一説によれば、近畿地方を拠点とした勢力が、出雲の民と国土を吸収したことでその力が盤石となり、大和朝廷へと発展し、それが現在の日本国のおおもとになったと。あえて過激な言葉を使うなら、「大和の出雲への侵略、出雲の犠牲があったからこそ、日本国は長きの繁栄を得た」とも言えるのです。

 現状の地球では、有効に機能している共同体の最大のものが「国」になります。ですから、現代において、自分の国籍が存する共同体を肯定することは、自然、と評価できるでしょう。むろん行き過ぎた国粋主義には多少の問題が付随すると思いますが、単に「祖国に愛着を持つ行為」は、推奨されてよいものかもしれません。
 しかし、これは現代の人間社会における常識に過ぎません。たとえば「情動を持ったAI」や「地球外生命体」など、“人間以外の命”との共存が視野に入る未来社会においては、今の常識は非常識となるのだ、と、私たち人類は認識しなければならないでしょう。

 これまで幾度か、講演や懇親の場などで述べたことがありますが……AI技術は、いわゆる「AI脅威論」の意味でなく、かつての「核拡大への恐れ」と同じような意味合いで、世界の脅威となる可能性をはらんでいると思います。
 すでに遠くなりし「米ソの冷戦」と似た物語を、再燃させてはならない。だからこそ人工知能の開発は、一国や一企業が独占することなく、世界各国の民が協調して進めていくべきだろうと考えます。

 拙著『エクサスケールの少女』の主人公、青磁(せいじ)のセリフを以下に引用します。
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「アインシュタインだって、自分の解明した理論がのちに原爆に利用されたことを哀しんだ。科学の発展や文明の進化とは、危険と常に隣あわせだ。しかし解決策はある……(以下略)」
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 せっかく人類はここまで文明を発展させ、とうとう人工知能の開発にも手をかけつつあるのです。どうか、AIを脅威と捉えず、世界平和へ続く道の、礎(いしずえ)のひとつと出来たなら!
 「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ。」ドイツ史における伝説の宰相、オットー・フォン・ビスマルクの言葉を今一度、噛み締めるべき時期かも知れません。

 200年後、300年後の聖夜に、人類はいかにAIと共存しているのでしょう。AIとの共生、それはまるでSFやファンタジーの中の空想のようですが、非常に高い確率で実際に起こり得る、一事象と思われます。
 そういえばクリスマスは本来、キリスト教の信徒のための催事です。その宗教的行事を「楽しいイヴェント」として生活に取り入れてしまう日本人の国民性が、正しいのか正しくないのか、私には分かりません。しかし、その鷹揚さ、あえて砕けて換言すれば「ゆるさ」が、日本人の特性の一つであると、前向きに捉えることも出来ます。であれば、その特性を良い方向へ活用することが賢明かと存じます。
 つまりは、「自分とはバックグラウンドの異なる存在を『受け容れる』重要性」を、あらためて見つめ直すことです。地球上の文明が発展すればするほど、この重要性は増していくでしょう。
 現代において誰かを差別をした人は、いつか、他の誰かによって、差別されるのかも知れませんね。動物を虐待した者は、いつか動物の群れに襲撃されるかも知れません。他民族を迫害した者は、今度は自分が強制収容所に入れられるのかも知れません。
 個々の人間は、とても小さく無力な存在なのですから。けっして思い上がることなく、自分たちの長所と短所を見つめ、ともに歩を進めていけたなら素敵です。

 大きなスパンで考えれば、遠くない未来において、人類が国境線に拘る時代は終わりを迎えます。
 国、地球、太陽系、銀河系、宇宙……そして、私たちの宇宙とはまた別の宇宙……というように、思考の幅とベクトルを広げていけば……。AIのみならず、多くの“異なる命”と人類が、互いに「思いやり」を贈り合う未来の夜が、我々の前に、自然と姿を現すことでしょう。

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