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2018.02.09

為末大が語るAI時代の『人間理解』

最終更新日:

2018.01.31 取材・編集:おざけん@ozaken_AI

「未来ではなく、今のAIを話そう。」

そんなテーマのイベント「THE AI 2018」が東京都・六本木にある六本木アカデミーヒルズにて行われました。

最近、「シンギュラリティ」や「仕事が奪われる」といった未来に関する話題を見かけることが増えてきましたよね。

AIの発展によって、どのように未来が変容するのか気になる人も多いでしょう。

しかし、未来ではなくイマ使われているAIが一般的にはあまり理解されていないといった声も聞こえます。

AIに何ができるのか。AIをどのように活用できるのか。

そんな今のAIに焦点を当てたイベントがこの「THE AI 2018」です。

今回は、為末大さんによって行われた基調講演の内容をお届けします。

為末 大

DEPORTARE PARTNERS 代表

スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。 男子400メートルハードルの日本記録保持者にして、 Sports × technologyに関するプロジェクトを行うDEPORTARE PARTNERSの代表を務める。 著書に『走る哲学』。

AI時代における人間の価値

AIにおける単純作業の代行や、複雑なデータの解析など活用が進むAI。スポーツを通じて自分や他者を理解しようとしてきた為末さんが、AI時代に必要な「人間理解」を語りました。

1984年のロサンゼルス五輪でカールルイスが100m走9.99秒の記録を出して史上初10秒の壁を破ったことを覚えている人はいますでしょうか?

東洋大学の桐生祥秀選手が日本人初となる9秒台を公式に達成したのが2017年です。

人間のポテンシャルは1984年から何も変わってなく、むしろ日本では少子化の中で優秀な人材が誕生しづらくなっているのに、なぜ記録は伸びるのでしょうか?

「もちろん栄養の改善や、技能の獲得の改善が挙げられますが当たり前の変化が重要である」と為末さんは語ります。
1984年にはメジャーリーグにチャレンジする日本人選手はいませんでした。しかし、今はメジャーで活躍する選手がいますよね!

人間は当たり前が代わっても、それに違和感なく適応していくことができるそうです。ポケベルを使っていた時代がどうだったのか為末さんは思い出せないそうです。確かに私もスマホが登場する前の生活がうまく思い出せません。

為末さんは人間を理解するために必要な5つのキーワードを提案してくださいました。

  1. 自動化
  2. 集中
  3. イメージ
  4. 内省
  5. 欲求

人間理解のキーワード

1. 自動化


人間理解のキーワードとして為末さんはまず「自動化」を挙げていました。AIが使われることでRPA・業務自動化は進んでいますよね。

スーパーアスリートが「熟達」して結果を残せるのは、「忘れられるから」だといいます。アスリートは、反復練習することで、そのことについて考えなくても自動的にできるようにすることで、他の判断の余裕ができるそうです。

確かに、歩き方や呼吸を毎回毎回意識していては、他の思考にまで頭を使えませんよね。

為末さんは、人にハードルを教えるときには「ハードルの上にふすまがあると思え。」と教えるそうです。バラバラに動作を支持するのではなく、統一したイメージで物事を支持するほうが無理に意識せずに物事に取り組むことができるからといいます。

しかし、これにはデメリットもあります。それはアンラーニングが難しいということです。

アンラーニング、つまり一回自動化してしまった動作や癖をなくすことは大変です。
人間は最適化したあとに変化しにくくなるというデメリットがあるということです。

変化する余白がない人は取り残されますが、適応しすぎてもそれをなくすことが難しくなる。このバランスが大切そうです。

2. 集中


トップアスリートといえば、集中力の鬼であるイメージがある人もいるのではないでしょうか?

為末さんによると熟達者は試合の時には取締役会のようになるそうです。

集中とは、人間の頭の中の発想の連鎖が止まっている状態で、目の前のことから自分のアイデアが動かない状態です。仕事上で目の前のことに没頭している状態と近いです。

例えば、球技では周りにパスを出したり敵の動きを読んだり、たくさんのことを同時に意思決定しないといけません。アスリートは試合時には取締役会のように上位部分で戦略を考え、それをもとに手足が動作をしていきます。

試合のときにアスリートがパニックになってしまうとすれば、考えなくていい意思決定が現場から上がってくることです。
サッカーでいうと蹴り方や走り方のように普段考えなくて良いところまで意思決定が関わると、脳がタスクオーバーになってしまいます。

私達も、卒業式の時など自分の歩き方が気になることがありますよね。これは末端のところまで意識しなければいけない時です。
歩くという日常考えなくてできていたことでも、考えるとできなくなることがあるということですね。

スポーツだけでなく、ツールとの間でも同じことが起きます。今、人間は記憶すらアウトソースしています。
今人間は外部のツールを使って自分の能力を高めているといえます。今後はもっと人体の機能の外部化が進むでしょう。

運動神経がいい人は、ツールを上手く使いこなせるそうです。これからの時代においてはテクノロジーを上手に扱える人は、運動神経がいい人かもしれません。

3. イメージ


なぜかアスリートは「いい感じがする」など抽象的な言葉をよく使うそうです。そして、なぜかそれが当たっているそうです。
なぜでしょうか。

為末さんによると、よいアスリートがもつ能力は抽象化する力だといいます。

物事が起きたときに抽象的に捉えられる人と、細部を捉える人がいますが、抽象的に捉えて要約して説明できないと、周りの人は納得しません。

まとめる力は人間の特殊能力だと思うと為末さんはいいます。

例えば、陸上のトップアスリートは1度でも誰かの走りを見た瞬間に何かを学んだりするそうです。
科学的に不思議ですよね。AIのように何万回と学習しているわけではなく、1回見ただけで学んだりできます。

どこの特徴点を抜き出しているのでしょうか?何に分類しているのでしょうか?

為末さんは、これこそが抽象化の能力だと捉えています。抽象的に捉えることがトップアスリートは得意だそうです。

4. 内省

トップアスリートは都合よく記憶を編集するそうです。

興味深い実験を紹介してくださいました。
試合前に「あなたは試合に勝てると思っていますか?」という質問をする場合と
試合に負けた後に「試合前に勝てると思っていましたか?」という質問をする場合を比べます。

試合前は「勝てます!」という回答が多く、
試合に負けた後には「勝てると思っていなかった。」という回答が多いそうです。

トップアスリートほど、過去を都合よく書き換えてしまうと為末さんはおっしゃっていました。

過去の記憶を都合よく書き換えることで未来を前向きに考えられます。

また、「内省しろ」とアスリートに言っても、ビジョンが無いアスリートは、目標とのギャップが存在しないため正しく内省できないそうです。
目標が明確でないと反省ができず、具体的なビジョンがあればあるほど内省しやすいといいます。

また、AI関連では強化学習とも言いますが、熟達者は頭の中でシミュレーションして、失敗することができます。
経験があるからこそ、頭の中でレースができるそうです。

単なる内省でも「目標」をはっきりさせ、そことのギャップを埋めていく努力が大切そうです。

5. 欲求

最後のキーワードは「欲求」です。

欲が最大の才能で、欲がない人間は目標に到達できません
しかし、欲の設計はロジカルではなく、したくない人間にしたいと思わせることは難しいですよね。

他にも難しいことは、短期の欲求と長期の欲求のバランスのとり方です。
長期的には達成したいけど、今日は(短期的には)休みたいというときってありませんか?

トップアスリートは長期と短期をよくくっつけて考えているそうです。

人間の欲求は、自発的ではなく、何かの影響をうけて喚起されることがあります。
例えば食欲だと、ラーメン屋の前を通るからお腹がすくことがあります。

欲が喚起されない環境におくことが大事です。

欲を(自分自身を)抑制することは大事ですが、一方でもちろん欲求はとても重要です。押さえ込みすぎずにマネジメントしましょう

アスリート(人間)は与えられた環境に適応している一方で、他の動物は自分のおかれた環境に最適化しすぎて柔軟に対応することができません。

さまざまな概念を用いて適応することができることが人間の特長だとわかりました。

最後に

「人間にはどの能力が重要か?」

そもそも人間の持っている最大の能力は外部の環境が変わったときに周りの物をうまく使って適応していくことです。

「最大の特徴は可塑性と忘却」

可塑性とは外部に対応し、適応して変形することをいいますが、その可塑性と、能力を意識せずに使えるようになる忘却が武器のようです。

編集後記

AIに関係のない話題なのでは!?と最初に感じた方もいるかもしれません。

しかし、AIを考えるにあたって「人間」を科学することが大切です。

トップアスリートは、ただ単に生まれつきの才能があるだけではなく、自分の体をうまく科学することで、能力を高めていることがこの講演を通して学べました。

今後AIの発展を前に、自分には何の価値があるのか。AIに代替されない力は何なのかを考えるきっかけにしてくださるとうれしいです。

 2018.01.31 取材・編集:おざけん@ozaken_AI

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