仕事のない未来はどのように見えるのか?【後編】

著者はチャットボットGrowthBotの開発リーダー。この記事はAIの普及が社会に及ぼす影響と、その影響への対処法を論じている。AIの導入はソフトウェア産業から進むのだが、そうした産業は業界上位の企業が富を独占する「勝者総取り」の体制を築く。そのため、AIが普及するにつれて経済格差が激しくなることが懸念される。予想される経済格差を是正する政策として提案されるのが、ベーシックインカムである。この記事は、AIと労働およびAIと経済の問題を真正面から論じたまさに今読むべきものと言える。(AINOW 小澤)

シナリオ2:豊穣の時代

テクノロジーの進歩による経済格差の進行は減速する兆候をまったく見せない。加えて、経済格差によるギャップは単に純資産の違い以上のものをも含意している。ダリオ氏の研究が示したほかのデータは所有する富の格差が広がると、下位60%に属するヒトの早期死亡が増えることを示唆している。こうした傾向は薬物やアルコールの摂取に関連した死亡の増加(2,000年以降100%増加している)、さらには自殺の増加(2,000年以降50%増加している)からも見てとれる。

もしテクノロジーの進歩が原因となっている経済格差を縮小する何らかのアクションを起こさなかったら、事態は悪化の一途をたどるのは当然のように思われる。この問題を解決に導く道筋は決して平坦ではない―見込みのある解決策を実行するには、政治的プロセスを通してのみ起こすことができる社会通念の大きな変革と富の再分配方法に関する劇的な移行が求められる。

もし経済格差を縮小することを目指した政策が成功すれば、技術的進歩によって豊穣の時代を築き得るチャンスが生まれる。この豊穣の時代においては、富の配分が固定されたことによって広がる収入の格差に由来する結果を緩和する実行可能な解決策を見出されるのだ。

ヒトビトに基本的な保障を与える可能な解決策のひとつはユニバーサル・ベーシック・インカム(Universal Basic Income:以下、UBIと略記)だ。この解決策を採用する国家は、国民に対して経済活動に参加する条件となる基本的な報酬を支払う。経済活動に参加できるようにするセーフティネットが与えられることによって、ヒトビトは生産活動にうながされ、市場に参加する手段を与えられるのだ。

UBIの支持者のなかには、この制度を創設してしまえば社会福祉に関する問題を一掃できると議論するヒトもいる。というのも、社会福祉に関する問題は、UBIの支給の仕方に関する問題に置き換わるからだ。たったひとつの収入に関するシステムが諸々の社会福祉に関する問題に対処する必要性を一掃し、コストと問題の複雑性を減らすというわけである。

もうひとつの考えられる解決策は負の所得税である。現在の税制においては、所得がある基準額に達した場合に、その基準額に応じて課税額が増えるという正の所得税が実施されている。負の所得税においては、ある基準額より所得が少ないヒトは、基準額と所得額の差額である負の所得税額に応じて給付金を得られる。給付金を決める基準額は、負の所得税額によって分類されるグループを反映している。所得が基準額に達しないうちは、稼ぎが多いほど負の所得税額が少なくなり、それゆえ政府から受け取る給付金が少なくなる。

以上のような負の所得税は、ヒトビトを働くことにうながす最低収入を支給する。ブリンジョルフソンとマカフィーによる研究は、もし負の所得税を導入したとしても、ヒトは生産的であり続けることを示している。例えば負の所得税における基準額が年収3,000ドルとすると、収入のないヒトは1,500ドルの給付金を受け取り、基準額と給付金の差額にあたる1.500ドルを稼ぐことになる。しかし、年収2,000ドルのヒトは500ドルの給付金を受け取ることになり、給付金の支給は年収3,000ドルを超えるまで継続する。このシステムにおいては、たとえ労働による収入が少なくても、ヒトは仕事を探すようにうながされる。なぜならば、働いて得られたカネによって自分の生活を底上げできるからだ。

ユニバーサル・ベーシック・インカムあるいは負の所得税を導入すると、以下のようなことが可能となる。

  • ヒトビトは、資本主義社会では伝統的にあまり報われないと見なされていた仕事に従事できるようになる。そうした仕事には社会の公共性を築いたり、社会貢献に関わるものがある。
  • 価値ある仕事の追求のためにヒトビトがより大きなリスクをとることができるようになるので、起業を促進する環境を作ることができる。
  • 社会が雇用に期待するものを再設定する一助となる。現在、雇用とは個人が行う選択に過ぎないと思われている。しかし、UBIとNIT(Nagative Income Tax:負の所得税を略記名)においては、失業とは市場の失敗ととらえられ、個人の失敗ではないとされる。仕事が自動化されることでヒトビトが失業する局面に直面するにつれて、労働とは社会の安定性を維持するのに不可欠なものと考えるように社会全体の枠組みを変えなければならないだろう。
  • UBIに加えて、経済格差を緩和するもうひとつの選択肢がノーベル賞に輝いた保守主義的な経済学者ミルトン・フリードマンが負の所得税と名づけたものである。現在の税制では正の所得税が実行されているのだが、世帯の所得額が基準額を超えるたびに課税が増える。対して負の所得税においては、収入が基準額を下回るヒトは、基準額と所得の差額の何割かが政府から支給される。

仕事のない未来は、労働のない未来と同じではない

1950年以降のアメリカとイギリスにおける1時間当たりの労働生産性の推移。赤線がアメリカ、青線がイギリス(出典:Our World in Data)

UBIあるいはNITのどちらかを採用するにしても、経済成長を生み出す労働生産性に目を向けなければならない。それらを通じて再配分された基礎的収入が生産の改善よりも消費に使われると、カネの価値が減り経済が停滞する。

カネの使用に制限がないと、需要が超過となりインフレを引き起こす。というのも、経済活動が財やサービスの消費に集中してしまうと、需要が経済の生産量より急速に増えてしまうからだ。

サンフランシスコ連邦準備銀行の公式サイトに掲載されている「インフレの上昇に寄与するいつくかの要因とは何か」という記事に次のような記述がある。「経済学者はふたつのタイプのインフレを区別している。デマンドプル(demand-pull:需要引き上げ)・インフレとコストプッシュ(cost-push:コスト押し上げ)・インフレである」

それゆえ、効果的な課税の鍵となるのは、以下のようなことである。

  1. NITにおける基準額あるいはUBIの支給額が、ヒトビトがより働こうとすると思うくらいには低い額であること。
  2. 給付金は、適切な資格を有した消費者に支給されること。

ブロックチェーン技術を支援するサイトBlockgeeksに掲載されたブロックチェーンを解説した記事「ブロックチェーン・テクノロジーとは何か。初心者のための一歩一歩のガイド」より引用したブロックチェーンの概念図

 

ブロックチェーンのようなテクノロジーを使えば、資源の再配分に関する非中央集権的な意思決定を試す史上初めての機会が得られる。ブロックチェーンにおける台帳システムを活用すれば、この台帳システムに変更を一切加えることなく、生産活動に従事しているヒトだけにカネを支給することが保証される。この台帳システムにおいては、カネの支給に先立って人工知能エンジンの監視が稼働している。

汎用的な目的に使える人工知能の開発には程遠いが、われわれが手にしているコンピュータ・ツールはすでに様々なヒトの行動を動機づける要因に関して意思決定することを手助けしている。例えば、イェール大学の政治学教授であるエイタン・ハーシュ氏が著した『選挙をハックする:いかにして選挙キャンペーンで選挙民を把握するか』では、選挙キャンペーンにおいてビックデータや機械学習を活用して選挙民を結集させるやり方が研究されている。この選挙民の振舞いを分析するために開発されたアルゴリズムは、ヒトを経済活動に参加させる最良な方法を予見するより洗練されたモデルを開発するにあたっての先例となるだろう。

突き詰めて言えば、経済格差の拡大を解決する助けとなりうる税制には何を採用すべきかという問いかけは、経済問題というよりは政治の問題なのだ。この問題を解決する難しさは、自由市場と保守的な財政政策というアイデアのうえに建てられた国に対して、「自由なカネ」という概念を提案するところにある。また、どんな解決策も新しい政策と既存のそれが混ざ合わされるべきであろう。そうした解決策では、政府のカネを労働者の消費に充てられ消えてしまう給付金に使うよりは、労働者が仕事が代替された経済下でも働ける助けとなるような職業訓練プログラムに費やすように再配分すべきなのだ。

経済格差を解消する問題に対する答えはまだ誰も知らないというのは事実である。また、何らかの解決策に到達するように政治的展望を導くことも、困難な戦いとなるであろう。

以上の問題に関してどのような政策が採用されたとしても実行するのは簡単ではなく、また例え何らかの政策が首尾よく採用されたとしても、インフレの発生と労働報酬の低下は一時的には抑えられないだろう。

今後の方策

テクノロジーが進化し続けるので、伝統的な仕事はより自動化の脅威にさらされるだろう。この仕事の自動化が引き起こす問題の解決策はどんなものであれ、経済格差を生み出す自由市場の条件を規制する政府の介入を含むものであろう。

仕事の自動化に対する考えられうる結末として、仕事が脅威にさらされないようにテクノロジーに規制もしくは制限するように要求する、というものがある。この結末は起こり得るが大きな間違いである。なぜならば、テクノロジーの進歩こそが、われわれが数十年前、さらには現在と比べてより良くなる原因だからだ。人類の進歩を研究する学術団体ヒューマン・プログレスに所属するある研究チームの調査は、50万の要因によって照明のコストが下がったことを示している。かつて54分間明かりを灯すのに費やした労働量で、現在は52年分の照明をまかなえるのだ。

しかしながら、労働者階級をサポートするために毎月給付金を支給することを主張する税制改革論者にアメリカ政府が同意すると信じるには、政府を多大に信頼しなければ無理な話だ。

私の望みは、われわれの生活を良くする助けとなるようにテクノロジーを積極的に操作しなければならず、もしテクノロジーが生活を良くするのでなければ、テクノロジーに少しの修正を加えてそれを使う方法を変えるべき、ということだ。反対にテクノロジーが生活を良くしないからといって、それの進歩を阻む規制を課したり、あるいは自由資本市場には馴染まない想像もできない概念だからといってUBIとNITを否定してはならない。

以上で検討してきたUBIとNITに関する政策は、以下のことを含意する。

  • 専門的職業訓練、徒弟制度、そして学びながら稼げる職業訓練プログラムのサポート
  • 収入が上昇するまでは実行される未就園児に対する助成金の支給の実行
  • インフレ率に対応した最低賃金の調整と最低賃金の引き上げ。同時に時間外労働の閾値の引き上げ

すべてを解決するような唯一の解決策などはありそうもない。しかし、より良い未来を築くような政策を数多く議論し探求しなければならない。テクノロジーの進歩に起因する経済格差を是正するためにはやるべきことが多いのだが、わたしは未来は明るいと思っているので、希望と楽観に満ちている。

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本論考は、もともとはgrowthbot.orgブログで発表された。

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著者:Justin Lee
原文URL:https://medium.com/swlh/what-does-a-future-with-no-jobs-look-like-71bda1004a71
訳者:吉本幸記 編集: おざけん


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おざけん

人工知能・AI専門メディア AINOWディレクター ┃ 趣味はカメラ撮影。
┃ Twitterでも発信しています。@ozaken_AI ┃ AINOWのTwitterもぜひ@Ainow_ai┃
出演: 日経CNBC「日経カレッジ・ラボ」日本テレビ 「ZIP!」など┃

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