WEEKLY人工無脳 (2018.5.28~6.3)

 

① 食事療法とか食育って実は馬鹿にできない

個人的に今週一番アツかったネタ。データサイエンスからはちょっと分野が違うかもですが、生物学の分野の話題です(自分がもともと生物学出身なので反応してしまう…)。

てんかん治療に対してはケトン食という脂質をメインに摂取する食事療法が経験的に効くとされ行われていますが、そのメカニズムを科学的に示した研究の話。

以下ざっくりした用語の説明。

  • てんかん・・・慢性の脳疾患。主に18歳までの子供が多く発症し、症状としては全身の痙攣や発作、意識消失などが起こる。てんかんの原因は、大脳神経細胞の電位活動の乱れとされている(「脳の電気的嵐」と例えられるらしい)。発症率は100人に一人ほど。現在の医療では、適切な治療で発作を70~80%の人でコントロール可能であり、多くの人たちが普通に社会生活を送れる。(参考ページ
  • ケトン食療法・・・日本ではマイナーだが、主にイギリス・アメリカなどで行われるてんかん対策の食事療法。摂取エネルギーの60~90%を脂肪で摂り、糖・炭水化物の摂取を極端に減らすことにより、体内でエネルギー源として通常使われている糖を枯渇させ、代わりに脂肪が分解されて生じるケトン体をエネルギー源として利用するというもの。統計的に効果があるとされて実践されている。極端な食事制限を行うため実施には専門医の判断が必要。(参考ページ
  • 腸内細菌叢・・・ヒトや動物の腸内で一定の分布を保ちながら共存している多種多様な腸内細菌の集まり。(人間の体重のうち、2kgほどが腸内にいる細菌の重さと言われている)。人の健康状態にも大きく関与しており、世間的にも研究分野としても最近すごく注目されている。細菌叢は人種によって分布が異なり、また健康な人の腸内には、特定の菌が一定の分布で共生している。病気などになるとそれらの分布が乱れたりすることも知られている。なので、適切な腸内細菌の分布を保つことが健康にもつながるとされている。「糞便移植」という治療法などもあって、健康な人の便から採取した菌を、便秘の人の腸に流し込むと便秘が治るというのもある。(健康な人の健康な菌とその分布を移植する、ということ)
  • 脳腸相関・・・脳と腸は自律神経系や液性因子(ホルモンやサイトカインなど)を介して密に関連していることが知られていて、この双方向的な関連を”脳腸相関”とよぶ。脳と腸の関係性は昔から指摘されていたものの、最近はそれらが科学的にも証明されつつある。(腸内の膨大な数の細菌の遺伝子情報を読めるハードウェア技術や、そこから得られる膨大なデータの分析技術が近年でかなり発達したことが大きく貢献しているっぽい)(参考ページ)

この研究では、ケトン食によって腸内細菌が変化し、その変化が脳内物質の構成に影響し(脳腸相関)、てんかんを抑えるのかもしれないという話らしいです。

オカルトっぽいもの・民間療法・経験的に正しい(理由知らないけど文化的に継承されてきたやり方なども含む)などが、最新の科学技術で証明されるのってめちゃくちゃロマン感じますよね!実は”漢方”とかも科学的なエビデンスがないものの、経験的に効くから今も使われているという感じらしいのですが、こういった話は意外とあるのです…

第7号の「人間は直接見ることのできない頭の後ろ側の情報も無意識に処理している」話のように、人間が知覚していない・言語化できないが”実際には起こっている”ことを、機械が計算力の暴力によって暴いていく話が好き。

② 1企業が遺伝子情報を解き明かす時代。21世紀のサービス設計だ…。

「バストの大きさは遺伝(の可能性がある)だぜ!」ってところに意識を持っていかれがちですが、ちょっと背景について見てみたいところです。

この結果を出したデータは

エムティーアイが運営する生理日管理アプリ「ルナルナ」を利用している女性ユーザー1万1348人から得た、遺伝情報と22の体質に関するWebアンケート結果を分析した

とされています。

実はティーエムアイ社は「株式会社エバージーン」という100%子会社を持っていて、そこが”Dear Gene“という遺伝子解析キットの販売を行っています。

1企業がアプリで体質の定性データを集めて、サービスで遺伝子情報の定量データ集めて、それを大学と共同研究して今回の結果を論文にしたぜっていうことであれば、ものすごいかっこいいしどれだけ大変だったんだという…。苦労が忍ばれるってもんですよ。。。

23andmeのような遺伝子解析ベンチャーが登場したころから、こういった方法でデータ集めるとビジネスになるねというアイデアはずっと言われてましたが、ほんとに儲かるかもわからないしハードウェア扱うリスクもきっと少なくないし、実際にやってのけるのは並大抵のことではないはず。ツイッターのコメントなどをみてると、「気持ち悪い」というような感想もチラチラみえるのですが、自分は称賛したいです。21世紀のビジネスだなー。

東大とエムティーアイ社のプレスリリースはこちら

③ また新しい医療診断AIがFDAに認可されたぞ!今度は骨折検知だ!

Another AI-powered device gets the FDA’s blessing

FDAがまた医療診断AIを認可してた。手首のX線画像から骨折箇所を検知してくれる君。
一番最初に認可された医療診断AIは「糖尿病網膜症を検出してくれる君」でしたが、それが今年の4月11日の出来事だったので着々と医療診断AIの認可が進められているっぽい。良い流れ。

④ SNSの事件事故投稿ツイートは機械学習で探しているらしい

主要SNSを巡回し、深層学習による画像識別を行って本物の事件事故っぽい内容かどうかを判断するツールを作っている会社の話。サービス開始が2016年4月なのに、NHK・テレビ局・新聞社など130社が導入しているそう。儲かってますな〜。

事故現場の画像をツイートした個人にテレビ局がメンションを飛ばして、画像の利用許可を求めているやりとりを何度か目にしたことがありますが、こういったツールでツイートを見つけていたんですねー。

画像以外にも自然言語処理によって事件事故現場の場所を探したり、画像にある看板などの文字を認識して住所を割り出すようなこともしているらしい。

知り合いが昔、某報道機関でツイッターを巡回してニュースになりそうなツイートを探すというバイトをしていたことがあるらしいのですが、順当に機械化が進んでいていいですね。

⑤ 万引き検知AIの前で死ぬほど堂々と万引きするとどうなるか知りたい

防犯カメラで取得する動画にリアルタイムに姿勢推定を行い、万引き犯独特の動きをする人物を検知すると店員にアラートを飛ばすシステムの話。アラートを受け取った店員は当該者に声掛け(ex.なにかお探しですか?)することで万引きを防止するという運用方法。

Amazon Goのようなシステムがある一方で、防犯カメラを賢くするシステムを作るというのもなんだか面白い感じですね。

来店者の頭や骨格の動きを捉え、万引きが疑われる行動かを判断している。不審な行動は、店舗の形態ごとに異なる。例えば、スーパーマーケットでは、店内を回遊しながらきょろきょろと死角を探す、書店では、棚の前に立ち止まって周囲を確認する――といったように、特徴的な動作をチェックする。

万引きGメンがいるくらいだから(人間でもわかるのだから)、確かに機械的にも実現できそうではある。
実際に都内のドラックストアの実証実験では、年間約350万円の万引き被害が導入後は年間約200万円に減ったらしい(というか万引きされすぎでは…)

初期費用は、AIカメラが1台当たり23万8000円(税別/以下同)。設置・設定費用が別途掛かる。クラウド利用料は、カメラ1台ごとに月額4000円。映像を保存するストレージは月額500円(10GB)から。

儲かりますな〜〜〜

あとはPrecision/Recall(誤検知・見逃し)がどれくらいか気になりますね。
”怪しい動き”を検知するのであれば、死ぬほど堂々と万引きすると検知されないんですかね。AI監視カメラに任せきった店は逆に被害額増える、みたいな。
検知の方法がなんとなく予想できる良いデータサイエンティストの皆さんは、決してprecisionを確認するためにわざと良い感じの物陰に移動したりすごいキョロキョロだけして店員に声かけられるかどうかを試す、みたいなことはやめましょうね。約束だよ!

⑥ 画像認識で鶏舎の死んだ鶏検知。このもやもやする気持ちはなんだろう…

カメラを載せた台車を鶏舎内で走らせ、ゲージ内の様子を撮影。あらかじめ36万枚の画像を学習させたAIが、撮影した動画を分析し、死んだ鶏を検知する仕組みだ。

実証実験では、90%以上の精度で死んだ鶏を検知でき、作業時間を従来の5分の1にできたという。

農協組合員の農場で2017年5月から実証実験を進めており、20年度の実用化を目指す。

人間がやるまでもない作業をすべて機械学習で自動化する活動には全面的に賛成派なのですが、これはなんだかちょっと考えさせられますね。と、いうか、なんでこんなダークな印象の写真をわざわざ掲載したんでしょう、それにもすごくひっかかるのですが。。。

かなりの検知精度、そして明確に作業者の時間が短縮されているそうですが、自動運転と同じく、生き物の命に関する領域にAI的なものが少しでも関与するときはきっと異論もたくさんでるので、それがたとえ家畜に対するものであっても(プレスリリースなどの発表も含め)もう少しセンシティブに取り扱うべきかもしれないなと感じました。

⑦ 深層学習で鉄塔のサビ検知

Automagi株式会社は、画像や監視カメラの映像から鉄塔や橋梁のさびの発生の検知や、発生範囲の特定を行うことが可能なAIソリューションを2018年5月29日(火)より提供を開始いたします。

用途が面白いなーと感じたのと、アイキャッチ画像がイカしてますね!
おそらくセマンティックセグメンテーションとかでサビ領域の検知をしていると思われますが、サビにもいろんな種類や色があると思うので、これも検知精度が気になるところです。

橋やビルのような大型の建造物は、ドローンやIoT的なセンサーで画像を取得して機械学習で異常を検知する流れがもっと導入されてほしいですね。

⑧ 高齢者によるAIスピーカー活用事例

おばあちゃんへのプレゼントとして娘さんがgoogle homeをプレゼントし、主に「挨拶」「spotifyによる演歌の再生」「孫と一緒に遊ぶネタ」に活用されているという内容。おばあちゃんとスピーカーは家族のように過ごしているというお話。

我が家では、「ちょっとは使えたけど、まぁだいたい実用的ではないなあ」「一周してPCとスマホのほうが早いしラクだわ」と感じてほぼほぼ封印状態にあるAIスピーカーなのですが、この単純なタスクしか処理できない微妙な人工無脳感が高齢者や小さな子ども相手にはちょうど良い感じなのかもしれません。spotifyの演歌プレイリストは良い感じっぽい。

文書の途中以降は有料なので買って最後まで読んでみましたが、主には「なぜAmazon EchoではなくGoogle Homeを選んだか」というお話が続きます。有料なので詳細は書きませんが、確かに言われてみれば、Googleは検索の会社だったので回答できるバリエーションが多いですし、リテラシーの余り高くない高齢者や子供にはGoogle HomeのUIのほうが扱いやすいのかもしれないなー、という内容でした。

⑨ え、深層学習をビジネス活用?古今東西、趣味の力が一番強いんだよ!!!

第8号でも紹介した、GANで美少女イラストを生成するMakeGirlsMoeでも有名な@_aixileさんの最新作。写真からアニメ画像への変換。CycleGANの改良らしいですが、なんだこのクオリティーは…。”Ongoing work Still improving it”らしい…
御本人の解説動画はこちら

⑩ 複雑系生物の動きを可視化する技術

ハチを捕まえて物理的にQRコードをくっつけて、めちゃくちゃ精査に活動を観察したところ、社畜のように機械的で無個性っぽい彼らが、個体レベルでは個性的だったことがわかったという話。PLOSONEに掲載された論文が元ネタなので、この日本語記事ではそこまで詳細な話が載っていない。また元論文はハチの生態というよりはトラッキング技術の開発話がメインのようです。

ハチのような典型的な複雑系の活動をする生き物は個々にトラッキングを行い、それを網羅的に解析する手法が良さそうです。意外にもそういった”データで殴る”系の研究はあまり進んでいないのかもしれない。(タグを付けられるハチへの負担もありますしね…)

こういった研究でハチの具体的な活動や役割がわかれば、「薬剤の影響を調べる実験」などにも貢献できるという話が面白かったです。確かに、そもそもハチの普段の行動を理解できていないと、たとえ薬剤投与を行って死ななかったとしても、本来の役割をこなせないゾンビみたいな状態になっていても「死ななかったから安全」という判定となり、本来の実験の意味が全くなくなってしまわけです。

さすがに画像認識技術だけでハチを個別に識別するのは難しそうなので、こういったハード側の技術を導入しなければいけないっぽいです。研究の世界は大変だ。

⑪ デザイナー考案の効果的な可視化方法がPythonモジュールになるまで

たぶんこんな感じのtwitter上の流れで進んできた話。

そして最後に、一番上記の記事が公開されたようです。
可視化のデザインブログが公開されてからたった2週間で有志によってpythonモジュール実装された…
きっとお互いに面識のないtwitter上の知り合いだと思うのですが、あっという間にラッパー的なものが出来上がってすごい。This is the Internet!

それにしても、描画ライブラリといえば我々はこれまでもmatplotlib, ggplot, Seaborn, PandasPlot, plotly, Bokehなどに都度都度 筆を持ち替え戦い続けてきたのですけど、いつになったらこの戦いは終わるのだ…

 

⑫ 赤ちゃんの鳴き声を機械学習して泣いている理由を教えてくれる”バウリンガル”的なアプリ

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のコンピューター神経心理学者が作った、「赤ちゃんの泣いている理由」を教えてくれる無料アプリについて。

赤ちゃんの泣き声のうち、「おなかがすいた!」「おむつを替えて!」「痛い!」のどれなのかを識別してくれる。1700人を超える赤ちゃんの泣き声を収集し学習させ作成したらしいです。

新米お母さんはともかく、第2子、第3子を生んだお母さんが「鳴き声を聞くだけでおっぱいかオムツかわかる」という声は割とよく聞くので、それならたしかに機械が学習することも可能かもしれません。
またこのアプリは、泣き声の不規則性から自閉症の診断ができるようになることも目指しているらしいです。

こういった、子育て分野にITを導入するムーブメントは”BabyTech”とも呼ばれていて、個人的にも非常に関心が高い分野です。

最近自分が知ったなかで面白かったものは、Openposeで”うつ伏せ寝”の検知を行ったり、睡眠アプリで睡眠時間を記録して”ネントレ”(赤ちゃんの睡眠時間をある程度コントロールする)を行うなどかなり面白いし便利そうです。データドリブンに育児をしたり、機械学習に一部代用させたりする流れはきっともっと大きくなると思います。

⑬ ものすごいメンツの企業が過去最大のデータ共有の取り組みを始めたけどうまくいく未来が全然見えない…

コンビニ同士の闘いからは完全に抜きん出てしまったセブン&アイグループが、さらに未来的な取り組みを他業界と始めたそうです。

セブン&アイ・ホールディングスは、データ活用のための取り組みとして、6月1日に「セブン&アイ・データラボ」を開始した。
同ラボは、幅広い業界の参加企業がそれぞれ保有する豊富な統計データの相互活用から新たな知見を得ることで、課題解決を目指す。
参加企業はANAホールディングス株式会社、株式会社NTTドコモ、株式会社ディー・エヌ・エー、東京急行電鉄株式会社、東京電力エナジーパートナー株式会社、株式会社三井住友フィナンシャルグループ、三井物産株式会社の10社
企業間におけるビッグデータの連携としては、過去最大級の取り組みとなります。

メンツがすごすぎる。一体なんだこれは…
そして、これからの時代はアルゴリズムでは差がつかないから、各企業がどれだけオリジナルなデータを大量に持てるかどうかが戦い、といっているときに、「企業間でデータ共有しようね」という取り組みがうまくいく未来が微塵も見えないのですがどうなんでしょう…。わりと普通に謎プロジェクトだ…。
詳しい情報は現在まだ出ていないようなので続報を待ちましょう。

吉田 勇太

都内のデータ分析・人工知能関連の会社のデータ分析官
Data Analyst Meetup Tokyo 運営メンバー
デザインスタジオ Kokuhaku Inc. メンバー

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