「日本独自の優位性を保つ」日本メディカルAI学会が描く日本医療の戦略

おざけんです。今回は「医療×AI」に焦点を当ててみようと思います。

アメリカでは高度な治療を受けるためには相応の金額を払う必要があります。

日本の医療を取り巻く環境は特殊です。国民皆保険制度により、ほぼすべての国民が健康保険に加入しており、安価で平等な治療を受けることができます。

少子高齢化に伴う医療費の増大のため、社会保障費の削減はこれからの日本にとって重要なテーマになります。

日本では世界でもトップレベルの研究が長期的に行われており、膨大なデータが蓄積されています。従来の技術ではその膨大なデータを統合的に解析する手段がありませんでした。

近年の人工知能の進歩により、画像認識技術などを中心に医療へ応用する動きは世界的に進んでいるそうです。

2018年4月にメディカルAI学会が発足されました。

最先端のIT技術を取り込んで、世界の開発競争に勝ちうる体制を日本で構築していく

その想いで創設されたのが日本メディカルAI学会です。

今回、インタビューさせていただいたのは一般社団法人 日本メディカルAI学会代表理事の浜本隆二さんです。

2000年より東京大学医科学研究所でがんのゲノム研究をはじめる。東京大学医科学研究所助手、ケンブリッジ大学腫瘍学部Hononary Visiting Fellowを経て、2007年4月より東京大学医科学研究所助教に就任。メチル化を中心としたヒストン修飾の解析に関する仕事に従事し、またゲノム・エピゲノム・プロテオミクスなどオミックス解析の重要性を認識する。2012年11月よりシカゴ大学医学部に准教授として赴任し、3年2ヵ月の間シカゴ大学に奉職する。2016年1月より国立がん研究センター研究所がん分子修飾制御学分野の分野長に就任。同年4月より東京医科歯科大学連携大学院の教授を併任し、2017年4月より理化学研究所革新知能統合研究センターがん探索医療研究チームのチームリーダーを併任。また、平成28年度戦略創造研究推進事業(CREST)に採択され、研究代表として“人工知能を活用した統合的ながん医療システムの開発”プロジェクトを推進している。放射線画像を含め、さまざまなモダリティのデータを統合し機械学習・深層学習技術を用いて解析し、医療へ応用することを目標としている。

日本の医療における国民皆保険制度の重要性

おざけん
日本は国民皆保険制度という特殊な制度があり、税金の多くが医療費として支払われています。やはり国としては医療費の削減のモチベーションが高いのでしょうか?
浜本さん
国民皆保険制度はキーワードだと思います。

国民皆保険を維持するためには、医療費の削減は必要なのですが、メディカルAIはその部分で活躍できると考えております。

例えば、最先端の創薬も私たちは行ってきたのですが、良い薬であっても高価な薬は間違いなく医療費を圧迫すると思います。また、どのような患者さんにも全て投与するのはではなく、やはり効果が見込まれる患者さんのみに投与するべきであると考えております。

高額医療制度という制度もありますが、オブシーボなどの薬になると1回の投与で数十万円がかかります。このように高価な薬は効く患者さんに限定して効率的に投与することが大切です。
メディカルAIはその選別で今後非常に重要な働きをすると考えております。

おざけん
国民皆保険制度では貧困層も治療を受けやすいと思います。つまり他国に比べてデータ数が多くなるのではと思っているのですが。
浜本さん
おっしゃる通りだと思いますね。

アメリカは収入格差がそのまま医療格差に繋がっており、病気になっても十分な医療サービスを受けられない方も多いです。現実4000万人以上の方々が医療保険に加入されていないというデータが報告されております。

多分アメリカの場合、高額な医療費がかかり一部の裕福層だけが恩恵を被ることができる現状であっても、それで救われる人がいれば良いという考え方だと思います。そこが日本と文化が違うところだと思います、

国民皆保険制度で蓄積された医療ビッグデータも日本が有する強みの一つである為、効率的に利活用できるシステムの構築も重要かと思います。

おざけん
やはり社会保障費の増大によって国民皆保険制度が維持できなくなる可能性があるんですね。
浜本さん
はい。そして国民皆保険制度が崩れると医療格差が生まれる可能性があります。

私自身3年2ヵ月シカゴ大学医学部に准教授として奉職しておりましたが、米国は医療費の高騰や非効率な医療システムの問題などにより、医療格差が拡大していることを実感しました。私自身永住権も取得して、米国の特性を肌で感じた結果、良い意味でも悪い意味でも格差社会で、まさに実力主義・資本主義を体現した国家だと思いました。

それは米国的な解釈として”フェア”なのだと思いますが、一部の裕福層だけ充分な医療を受ける社会は、日本の文化には馴染まないと考えております。実際日本も格差社会は進んでおり、今後その傾向が顕著になる可能性は充分考えられますが、やはり医療に関しては生命の維持に直結することもあり、より多くの方が恩恵を受けるシステムを維持すべきではないかと考えております。ただ、医療費がこのまま高騰し続けると、国民皆保険制度の維持が難しくなるのは時間の問題であると考えられるため、医療の効率化という観点で、メディカルAIを導入することにより、国民皆保険の維持に貢献する可能性は充分あると思いいますし、貢献していかないといけないと考えております。

AIが実現する未来の医療「プレシジョン・メディシン」

おざけん
プレシジョン・メディシンについて詳しく教えてください。
浜本さん
ゲノム情報など医療データに基づく個々に最適化された医療のことです。

世界の潮流となっていて、世界中で最適医療、プレシジョン・メディシン提供体制の整備が進んでおります。プレシジョン・メディシンは米国のオバマ大統領が最初に提案した概念です。

がんと希少疾患を対象にゲノム情報を環境因子、ライフスタイルが病気の発症にどのように影響するかということを大規模に調べることで、疾病の罹患性について患者、潜在的患者、サブグループに分け、そのグループごとに適切な治療法や発症予防法を開発するというものであります。

おざけん
つまり、ゲノム情報をもとに、一人ひとりに合った薬を提供することができるようになるということでしょうか?
浜本さん
そうです。これまでの医療は、ひとつの薬を色んな人に与えてきました。それをある程度カテゴライズしていくと、究極的には個々の患者さんに最適な医療を提供するという考えがプレシジョン・メディシンです。
おざけん
日本でもプレシジョン・メディシンの取り組みは進んでいるのでしょうか?
浜本さん
国立がん研究センターでは、TOP-GEARプロジェクト及びSCRUM-Japanというプロジェクトが進められており、NGSを用いたクリニカルシーケンスのデータを基に、一人一人の患者さんの遺伝子異常に合わせた最適な治療薬を選択するシステムをこれまで構築してきました。

TOP-GEARプロジェクトに関しては、今年4月に厚生労働大臣より先進医療Bに承認され、早期保険適用を目指しております。

おざけん
アメリカのほうがプレシジョン・メディシンは進んでいるのでしょうか?
浜本さん
米国・オバマ大統領が提唱したこともあり、世界的には米国を中心に進んでいると考えられます。

クリニカルシークエンスに関しても、CLIA(Clinical Laboratory Improvement Amendments of 1988)という米国の臨床検査ラボの品質保証基準に準拠し、行って遺伝子解析を行っております。

おざけん
プレシジョン・メディシンの課題もあるのでしょうか?
浜本さん
やはり検査の品質管理が非常に重要で、検査結果に基づく報告様式の統一などが課題になっています。

また遺伝子の統合データベースは非常にビックデータになるので、それを次世代分子生物学技術、情報技術と融合させていく必要があると考えています。そこでプレシジョンメディシンの推進には人工知能の活用が重要になってくると考えております。

AIによって実現するクラウド治療で医療格差が是正される

 

おざけん
クラウド化にも取り組んでいらっしゃるのでしょうか?
浜本さん
将来的にクラウド化も考えております。一方、日本は個人情報に関して法律的な規制が非常に多いので、解決しないといけない問題がたくさんあると思います。本件に関しては、例えば中国は比較的個人情報に関する規制が緩いため、挑戦的な研究もスムーズに進む傾向があり、中国が先行する可能性があると考えております。

クラウド化を進め、例えば全国の医療施設の検査データなどを一元管理し、AIを組み込んだ診療を行うことで、医療の地域格差を減少させることに貢献する可能性はあると考えております。取り急ぎ実験的に現在国立がん研究センター内で、中央病院と研究所を直接光ファイバーで繋ぎ、AIによるリアルタイム診断の可能性などについて検討を行っております。

おざけん
医療格差の是正のためにクラウド化を推し進めていくんですね。しかし、日本では医療データがバラバラに保管されている印象があるのですが、クラウド化は可能なのでしょうか?
その問題点はあります。日本では医療に関するデータがバラバラに保管されています

データを統合していこうという取り組みは日本でもいくつかプロジェクトがありますが、なかなか一筋縄ではいかない難しさがあります。

私たちの取り組みとしては、国立がん研究センター内の中央病院にあるさまざまなデータを統合データベースシステム化で、VNA(ベンダーニュートラルアーカイブ)の構築をしています、

これはさまざまなメーカーの、あらゆるタイプのデータが保存可能なストレージです。さまざまなデータを匿名化ゲートウェイを介して、研究所が解析して、また病院に返すシステムの構築を行っています。

AIだけに頼るのではない。AIと臨床医の助け合いが重要に。

おざけん
人工知能との融合ではどんな取り組みをされているんですか?
浜本さん
まずは画像診断への応用です。内視鏡や放射線画像、あと超音波、病理画像など医療ではさまざまな画像があります。

一部の画像認識のタスクでは人工知能技術が人間を上回る性能を数値上発揮しています。

今まで臨床医の知的タスクであった腫瘍の存在診断や腫瘍の判定などサポートするシステムを構築することを目指しております。

おざけん
臨床医のタスクを代替するのではなくサポートするシステムなんですね。
浜本さん
ひとつキーワードとなるのが、臨床医とメディカルAIが共に考えて主体となる次世代のがん治療ですね。

どっちかが優位という訳ではなく、長所短所があると思いますので、双方が補完し合うような関係が理想だと考えています。

メディカルAIが臨床医にとって変わるというわけではなく、メディカルAIと臨床医が共に考えることが重要じゃないかと考えております。

おざけん
それが日本メディカルAI学会発足のきっかけになっているのでしょうか?
浜本さん
学会を始めたきっかけはCRESTというプロジェクトです。

2016年に人工知能を活用した統合的がん医療システムというプロジェクトが採択されました。

さまざまなオミックスデータを人工知能技術を活用して解析を行うというプロジェクトで、Preferred Networksさん及び産総研さんと一緒にプロジェクトを始めました。その後全国の方々からお声がけいただく機会が非常に増え、CRESTを超えたもう少し大きい枠組みが必要であると感じました。そこで、コンソーシアムを作るという方向に話が進み、その結果日本メディカルAI学会が発足しました。

おざけん
医療へのAIの活用の面ではやはり画像認識が最も活用されていくのでしょうか?
浜本さん
はい。今病変の見逃しが多い問題がありますので、画像認識技術の活用は必要になってくると思います、

各分野の専門家が十分足りているわけではないので、自分の専門以外の診断を行わなければいけない時代になってきています。そのときに見落としが起こりやすいんです。

先日千葉大学でCTによる見逃しがあったっていうことが問題になっていますよね。

だから、今のメディカルAIの分野でまず目指しているのは、教師あり学習で各分野のエキスパートのと同じパフォーマンスをする医療機器を作ることではないかと考えております。

おざけん
今の時点ではどれくらいの精度があるのでしょうか!?
浜本さん
内視鏡のプロジェクトでは、大腸がん及び前がん病変発見の為のリアルタイム内視鏡診断サポートシステムの開発を現在行っており、大変高い精度が既に得られております。

内視鏡の技術は日本は世界の中でもトップクラスです。そもそも優位性がある分野なので、そこでまずメディカルAIの社会実装を目指しております。

臨床試験を秋から行い、早期社会実装を目指したいと思います。

国際競争に打ち勝つ日本医療の戦略

おざけん
日本独自の方向性を定めて戦略的に開発していくんですね。
浜本さん
アメリカと同じような方向性だと、マンパワーやマネーパワーに負けてしまうと考えております。アメリカにはGoogleやFacebookなどの非常に大きな組織がありますので、やはり日本独自の戦略的な方向性を見出す必要があると思っています。

基本日本は質の高いデータが揃っている為、精度の高さで勝負する方向性、また精密ロボットや内視鏡など日本が強い分野がありますので、そこで攻めて行くのが重要なのかなと思っています。

おざけん
実際データはどれくらい溜まっているのでしょうか?
浜本さん
特に癌治療においては膨大な医療画像っていうのが蓄積されています。

国立がん研究センターだけでも4億枚ほどのデータがあり、世界でもトップクラスの数と質の量の放射線画像が蓄積されています。

しかし、課題はあります。膨大なデータがありながら全く使われていないんです。

それは不均質で構造化されていないからです。これによって価値の機会が大きく損なわれてきていると感じています。今後potentialの高い生データを、効率的にAI解析に使用可能な構造化データに変換していくことも重要な課題であると考えております。

「言うは易し」AIを医療に導入する課題

おざけん
データはあるけど活用できないというのは各業界でAIを進めるにあたってネックになっている部分ですよね。やはりアノテーション(機械学習できる形にデータを整形する)が重要だと思うのですが…膨大なデータのアノテーションは大変そうですよね。
浜本さん
今後メディカルAI分野を発展させていく上で、一つ大きなネックになっているのは、アノテーション付けではないかと考えております。現在は専門家のmotivationによって支えられている部分があると思います。また、数億枚単位になると全て人が行うのは不可能である為、アノテーションツールの開発は一つ重要な部分であると思います。ただ、AIを用いた医療機器は診断に直結する可能性がある為、アノテーションの質を担保する必要があり、例えば作成した自動アノテーションツールの結果を、専門家がきちんとvalidationを行うなど、慎重に進めて行く必要があると思います。以上のことから、AIを用いることにより解析のスピードは上がる可能性はありますが、まだまだ人間(専門家)が大きな努力をかけなくはいけないステップは多いと思います。
おざけん
今まで蓄積してきたデータの法則性をうまく抽出して活用することが医療の進歩として大切なんですね。
浜本さん
AIの1番の強みは非線形に主成分分析ができるところだと思います。

最近の機会学習・深層学習技術に関する進展の早さを鑑みますと、医学を含む多くの分野にこれらの技術は影響を与える可能性があり、深層学習技術の発見が”50年来の科学分野のブレークスルー”と評価されることに私自身は納得しております。

がんを含め人類の脅威となる疾患に対しては、精度の高い診断・治療というのは必須だと思いますので、機会学習・深層学習技術が医療の進歩に貢献するpotentialは大きいと私は考えております。

おざけん
AIを導入していくにあたって課題だと思っていることを教えてください。
浜本さん
どのような最先端技術も課題があり、AIの導入も一つずつその課題を解決していくことが必要だと思います。その中で、特に重要であると考えているのは、AIが人間に置き換わるという発想が蔓延することだと思います。先ほどから述べておりますように、AIは人間よりも精度が高く解析ができるpotentialを持っておりますが、万能ではないので、あくまでも人間のサポートであるという位置づけを最初の導入時に確立することが重要だと思います。理想は人間とAIが共に考える主体である関係であり、お互いの長所を活かすことで、より良い医療を発展させていくことが人類の幸福に大きく貢献すると考えております。
おざけん
また、AIがブラックボックスになっていることも課題です。最終的な責任はAIに取ることができません。

臨床医が判断するためにも、根拠を示す必要があると考えています。だからこそ人間やAIどちらかに偏ってしまうと危険性があると思っていて、相互にサポートし合うべきだと思います。

まとめ

AIの開発の裏側で重要なポイントは、それぞれの国が今まで築いてきた社会システムや地理的な特長です。

データが重要なAI・人工知能において、中国が大きく人工知能領域で力を伸ばせるのは、その人口が生み出す圧倒的なデータ量があるからです。

日本の独特な国民皆保険制度は、貧困層まで幅広く医療を受けられる点でデータ量が多く、AIの活用の可能性が広がる部分でしょう。

日本独自のAI戦略として、メディカルAIが今後も発展していくことが期待されます。

 

おざけん

人工知能・AI専門メディア AINOWディレクター ┃ 趣味はカメラ撮影。
┃ Twitterでも発信しています。@ozaken_AI ┃ AINOWのTwitterもぜひ@Ainow_ai┃
出演: 日経CNBC「日経カレッジ・ラボ」日本テレビ 「ZIP!」など┃

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