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2018.11.28

AIの民主化は現場からのボトムアップで起きる / 課題発見力の重要性 -AI Experience 2018 Tokyoレポート-

最終更新日:

2018年11月27日にAI Experience 2018 Tokyoが東京都内で開催されました。機械学習の自動化プラットフォームの開発・提供を行うDataRobotが開催したイベントで、「ここまで来たAIの民主化」がメインテーマでデータサイエンスに関する多くの登壇者が集いました。

今回は、その中の目玉セッション「データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー対談】AI/機械学習の今後」の内容をどこよりも早くお届けします。このセッションでは日本を代表するデータサイエンティスト3人がAIや機械学習が今後、どのように発展していくのかについて、それぞれの立場から語ってくださいました。

登壇者
日本航空 渋谷 直正氏
滋賀大学 兼 データサイエンス教育研究センター 河本 薫氏
DataRobot Japan シバタ アキラ氏

データサイエンティスト不足が叫ばれている現状について

シバタ氏:「データサイエンティストが足りてない」「採用できていない」と人材に関する問題は多いと思います。お2人の認識を教えてください。

シバタ アキラ氏

DataRobot Japan チーフデータサイエンティスト シバタ アキラ氏

河本氏:元々ガス会社にいたつながりで製造業の人とコミュニケーションを取っていると、各社は理系出身のの社員の教育などをどんどん行っています。

一方で、教育すると途中で会社をやめて他の会社に転職してしまい、「勉強したけど活躍できない」という声も上がってきます。

データサイエンティストが不足しているというのも1つの切り口なんですが、このケースでは仕事のミスマッチングがおきていると思います。分析を勉強した人と、ミドル層の管理職との社内のコミュニケーションが成り立っていない問題があると思いますね。

河本 薫氏

滋賀大学 データサイエンス学部長 教授 兼 データサイエンス教育研究センター 副センター長
元 大阪ガス(株)ビジネスアナリシス センター所長
河本 薫氏

渋谷さん:日本航空が来年から数理IT系の新卒採用枠を作った背景もあり、データサイエンティストは欲しい状況です。

では、データサイエンティストが不足しているのかを考えたときに、確かに不足はしています。

一般の事業会社に不足しているデータサイエンティストって数学やモデリングが得意な人という印象が強い人も多いかもしれません。モデリングだけできるデータサイエンティストは実は使えないと思います。

モデリングの前後を含めて、課題を持ってきて使わせるところまでいける人が広い意味でデータサイエンティストなんだと思います。そういう人は極めて少なくて、不足していると思います。そういうデータサイエンティストを生み出していかなくてはいけないと思います。

渋谷 直正氏

日本航空 Web販売部1to1マーケティンググループ アシスタントマネージャー 渋谷 直正氏

河本氏:データサイエンティストは職業なんですよ。

例えるなら医者だと思っているんです。医者って人間の病気を治しますよね。データサイエンティストはビジネスの病である課題を治す仕事だと思います。

かつてレントゲンという技術が初めて生まれたときは医者の中でも使える人が少なくて、技術がわかるだけでもてはやされたかもしれません。それと今の状態は似ていると思います。

ビジネスの課題を解決するのに、AIという技術が台頭してきて、それを使える専門者は期待されているけど、データサイエンティストはビジネスの病=課題を治すのが仕事なので、そこの認識が揺れていると思います。

シバタ氏:データサイエンティストが足りないと言ってもどんなデータサイエンティストなのかどんな人がいれば解決するのかを考えていかなければならないということですね。

渋谷氏:データサイエンティストを採用しなきゃという意見もありますが、事業会社としてAIを作り出して、外販する場合はエンジニアリングができる人が必要ですが、ビジネスで成功したいならエンジニアリングに特化しなくていいと思っています

シバタ氏:データサイエンティスト不足はDataRobotとしても大きなテーマです。DataRobotについてどう感じますか?

河本氏:DataRobotを初めて知ったのは2016年です。初めてDataRobotを見たときに、すごくインスピレーションを感じました。

機械学習を自動化にする機能もすごいのですが、なによりもインターフェースがすごいと思います。それはインプットだけでなくアウトプットのインターフェースも含めてです。DataRobotは実用性のハードルを初めて超えたと思います。データ分析の専門知識がない人でも使えるツールが初めてできたと思いますね。

これをまた医者に例えると、レントゲン技術について詳しくなければ医者が務まらないという時代からレントゲン技術に詳しくなくてもボタン1つで操作できれば、そもそもの医者の本分である患者の病を治す職業に戻ってくるということに似ていますよね。

DataRobotによってデータサイエンティストの主務であるビジネス課題をデータで解決するという時代にシフトしていくと思います。

渋谷氏:UIが楽しくて、分析がわからないユーザの敷居を下げると感じました。

これからはモデリングしかできないデータサイエンティストの価値は低下していくと思います。モデリングが詳しい人がもてはやされていましたが、それがなくなると思います。

モデリングについて詳しくなくてもツールを使ったほうがわかりやすいし、一生懸命集計しなくてもアウトプットが出るので、モデリングスキルの価値がなくなってしまうと思うからです。

シバタ氏:技術だけが詳しいのは役に立たなくなっていくということですね。今後はビジネスインパクトをどうやって出して、問題や課題の解決ができる人なのかが重要なんですね。

データの活用方法、人材育成はどう変わっていくか

シバタ氏:未来はどうなりますか?という展望をお2人の目線からいただきたいと思います。これからどのようにデータが使われ、どのように人材を育成していくか、そのアプローチが重要かと思いますがお2人はどのようにお考えですか?

渋谷氏:事業会社の立場から言うと、企業にいる一人ひとりが分析する「分析の内製化」が進むと思います。これはもう進めなくてはだめだと思います。

今までは企業がデータを分析したいニーズがあってコンサルにお願いしたりしていました。

しかし、絶対企業が自分でやったほうがいいんです。技術的に自社でできなかったハードルが下がってきていて、これからは自社で分析する方向に変わると思います。それがみなさんがいうAIの民主化だと思っています。

なぜかというと、どんなにやっても、企業の人間がやる分析にかなわないからです。そのデータについても詳しいし、業界の知識もあるからです。だからこそ企業にいる人が分析しなくちゃいけない。

これからはビッグデータほど大きなデータじゃなくてもいいので、Excelを使うようにデータを分析できるだけでも価値は違ってきます。それをみんながやれば日本企業全体がデータドリブンになると思います。分析の内製化が進むと思います。

河本氏:大学生を育てている立場として答えます。

DataRobotみたいなツールができても全てを解決できません。機械学習自体がパーフェクトなソリューションではないし、機械学習のアルゴリズムが全て網羅されているわけではありません。

やはり一定は数学やプログラミングの力が必要だと思います。私は大学時代に数理工学科だったのですが、大学の4年間の学びは潜在的に論理的な素地ができました。素地をもっている人間は、新しい分析手法を組み合わせたり、分析手法を応用して考えるときに役に立つと思います。間接的に数学などを教えることは大切です。

また、大学生は方法論ばかり勉強してはいけません。何が必要かというと課題発見力だと思っています。自らが課題を発見してこれを解けばいいと発見する力です。それを講義として教えようと思っています。普段から感じるのは学生が方法論が好きということです。

小中高の教育がそもそも正解のある問題を正しく解くことに偏り過ぎています。それを是正して自分で問題を作れるように教育をシフトしていかなくては行けないと思います。

シバタ氏:分析ってビジネスに直結するので、アウトソースするのが難しいですよね。外に出せないデータもたくさんあります。なかなかデータを近くに置いていかないといけない理由もありますよね。

渋谷氏:データが機密という問題もありますが、しかし、一番むずかしいのはビジネスを理解してもらって、データの中身を理解してもらうフェーズに時間がかかるということです。目的変数を何にするか決めるときに時間がかかります。

AIの民主化を実現するためには何が必要!?

シバタ氏:内製化が簡単かというと、やり方がわかるだけでできるものではないと思います。過度な期待値があって、それを埋めるのが難しいこともあると思います。AIの民主化のために何が必要とされていると感じますか?

渋谷氏:DataRobotみたいなツールを使えば分析自体はできます。そこで次の課題がでてきます。

結局データサイエンスができても、課題設定や前処理の工程が次のネックになってくるんです。これはツールでは解決できないと思います。

また、きれいなデータマートを作っても、企業には「本当にこの分析で正しいんだっけ?」という曖昧な不安があります。答えは出てくるけど「これって本当に合っているんだろうか?」という不安が必ずあるんです。

分析が民主化するにしたがって、誤った分析をしてしまう可能性が出てきます。それを監査したり支援する必要があると思います。「分析コーディネーター」という言い方をする場合もありますが、そんな存在がAIの民主化に必要だと思います。

シバタ氏:確かに解釈をする部分は根本的に自動化できないので、人間は何をやるのかというところで最後まで残っていく部分になるのは感じています。河本さんはいかがでしょうか?

河本氏:すごいAI技術を使える人材が山ほどいても何も物事が進まない企業が多いと思います。

AIというのは、事業会社ではあくまでも業務課題を解決するための道具なんですよ。人間って今までは勘と経験と度胸で業務課題を解決していたんですよね。

AIという道具を使って問題解決するときには、問題設定できる人材が必要だと思います。そういう人材が増えてきたときに「AI」が当たり前の言葉になると思います。それで初めて「民主化」と言えると思います。

シバタ氏:組織の作り方や育成の仕方などの目線もありますが、そのあたりでも課題はありますか?

河本氏方法論に対する教育にフォーカスが集まりすぎています

前職でも方法論が難しくなくても、最後に現場のおじさんに使ってもらうところがハードルでした。

患者の病気は目に見えますが、ビジネスの課題はそこまで見えません。データサイエンティストが育とうと思うと、現場でここまで行きついたという達成感と、成果を出して褒められるというサイクルによって成長していくと思います。

学生にもAIという道具を使って社会に貢献するためのスキルを付けてほしいと思います。

シバタ氏:知り合いのデータサイエンティストが事業会社に分析をしたくて入っても、続く方もいれば、割とすぐやめてしまう人もいますね。

裏にあるのはデータがあるって言われて入社したけど実はなかったみたいなケースもあります。社内でもなかなかデータが集められなかったりする一方で、やるって言ったからにはデータを出さないと当然機械学習はできません。なんでうまくいかないのかなと思っているのですが、河本さんは企業でどのようににAIの民主化を進めていけばいいと思いますか?

河本氏:100社あったら100社内情が違います。縦割りの組織だったり、データが集まらなかったりします。

うまくいっている会社とうまくいってない会社を区分すると、うまくいっている会社ではたった一人すごい人がいるんです。「あの人が言ったら仕方ない」という人がいれば、その人が「AIやデータの活用に向けて会社を変えていこうぜ」て言ったときに会社全体が動き出します。

データサイエンティストを育成しても目先の解決だけでビジネスモデルチェンジまで行きません。経営クラスに近いところで影響力のある人が、AIを使えなくてもAIで何ができるかは理解していて、主導して動かしていける企業は強いなと思っています。

渋谷氏:まさにそうだと思います。実際、最初は現場で動かくてはいけません。やはり大切なのは課題を見つける力と問題を解く力とる使わせる力です。しかし、「データサイエンティストには解く力よりも見つける力が大切」だと河本さんはよく言っています。

逆に現場を見ると、見つける力と使わえる力はある程度付きます。解く力が足りてないケースが多いです。っそこにDataRobotみたいなツールはもってこいだと思います。そして現場が動くようになると、いつか経営クラスも動かざるを得なくなります。

経営課題をデータ分析をして解決しましょうと経営クラスで語られるのは難しいので、現場が民主化して上げていかないと動かないと感じています。

日本を強くしていくために、データサイエンティストとしてしたいこと

シバタ氏:今後、日本の技術力を強くするためにお2人はデータサイエンティストとして、どんなことをしていきたいですか?

渋谷氏シチズンデータサイエンティストをいっぱい作りたいです。私が1人でやっていくのは無理で、現場で使ってボトムアップで上げていかないと会社が変わらないと思います。

それがAIや分析民主化のために必要だと思うので、Excelと同じように分析できるシチズンデータサイエンティストを増やしていきたいと思います。

河本氏:日本の強みは現場力だと思います。見つける・解く・使わせるの3ステップがデータサイエンティストにとって大事です。

とある講演会でアメリカ人の方に「河本さんのおっしゃることはわかりますが、データサイエンティストがそこまで責任取らなくていいんじゃないですか?解くだけで良くないですか?」と言われました。

この質問に日本の強みの原点があると思います。日本人って自分の仕事をここだけと区切らずに、会社に役立とうとしますよね。実はデータサイエンティストの仕事は一気通貫でやるからこそ突破口がある場合が多いです。

現場についてはあまり心配していません。日本の企業の現場力2.0をドライブするツールとしてDataRobotが大切だと思います。これからは大きな判断を経営者ができないといけないので、経営者自身がAIでどんなことができるかを勉強して率先してやっていかないといけないと思います。

おわりに

課題解決力にフォーカスされたセッションでした。AIの民主化は簡単に言うと「解く力」の民主化です。誰もが簡単に問題を解くことができるようになった時、大切になってくるのは課題を解決する力なんですね。

その意味では、現場で課題を直に関している人たちが簡単に機械学習のモデルを構築できるようになることは、とても重要なことです。Datarobotを始めとして、機械学習を簡単に扱えるツールが普及して、現場からボトムアップに「AIの民主化」が進めば、より社会も発展していくと感じました。

DataRobotを導入して再度進化を遂げようとしている企業にPanasonicがあります。パナソニックにて全社AI強化戦略担当を務める井上 昭彦氏とシバタ アキラ氏の対談を取材した記事もありますので、合わせてご覧ください。

【対談 Panasonic×DataRobot】新たな組織の必要性-大量生産で成功した企業は100%の精度を追求してしまう-

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