経営陣が語るDXのポイント:営業組織のDXはトップダウンとボトムアップで効果的に進められる
この記事は、ディップをけん引するトップたちがDXをどう考え、ディップの未来をどう描こうとしているのかを伝えていく「経営陣が語るDXのポイント」シリーズです。
ディップは、ITツールと従業員のスキルを掛け合わせて、従業員の生産性を上げることを目的とした「カケザンプロジェクト」に取り組んでいます。
「DXをリードする会社にしたい」- ディップ代表取締役COO 兼 CIO志立の語る社内業務DX事例「カケザンプロジェクト」の舞台裏 | DX magazine powered by dip
そのプロジェクトの一つに、ディップの2,600人の従業員が活用する「Slackへの移行」があります。DXに臨むための第一歩として始まったSlackの活用は、組織にどのような影響を与えたのでしょうか。また、組織にDXを浸透させるコツはどこにあるのでしょうか。
今回は、カケザンプロジェクトでツール利用浸透のトップを務めたディップの執行役員・エリア事業本部長である井上剛恒に、DXの取り組み開始までのストーリーを取材しました。
井上剛恒 プロフィール
執行役員 人材サービス事業 エリア事業本部 本部長
2006年に新卒で入社し、2010年に管理職へ昇格。その後、最速で部長、事業部長、執行役員へ。
不安があった中でSlackを試験的に導入
部署で小さな成功体験を積み重ねる
――社内でDXの取り組みを始める、井上さんに全社利用浸透のトップを務めてほしいと打診がきた時は、どのように思いましたか。
社内でDXを始めることに関しては、私も取り組むべきだと思っていたので、すぐに賛同しました。はじめはSlackというチャットツールの導入から始まりましたが、うまく組織に浸透するか心配でした。
Slackの使用方法は難しくないと思っていたのですが、新しいツールに移行する時は、抵抗を示す人が一定数いるので、経営陣を含め全従業員が使用するまでには時間がかかるだろうと思いました。
また、組織にはGmailからSlackに変更することしか伝わっていませんでした。チャットツールを使うことで、どのような効果があるのか、何を実現したいのか。営業の成果を高めるための使用方法は何かなど、重要なことが伝わっていなかったのではないかと不安でした。
――Slackを導入することに不安な気持ちがあった中で、部下に浸透させるためにどのようなことを意識されたんでしょうか。
私は部下より、上位役職者ほど浸透させるのが難しいのではないかと思っていました。会社を動かす人たちが「やるべきだ」と同じ意識を持つことでDXは加速するので、まずそこをクリアすることにしました。
私もSlackを使ったことがなかったので、まず無料版を自分の事業本部で利用を始めることにしました。現場の人たちからアイデアを出してもらい、生産性が上がる活用方法を模索して“小さい成功体験”を積み上げて、自分の事業本部の事例を他の事業本部に共有していました。
情報をオープンにすることで、無駄な業務を減少させる
――“小さい成功体験”とは、どのようなことがあったのでしょうか。
まず、情報をオープンにすることで、仕事のダブりを減らしました。今までGmailを使用している時は、メンバーをccに入れたり、課のメーリングリストに送っていたため、同じ部署の隣の課の事ですら何をやっているのかを知らない状態でした。そこで私はSlackでは1つ上のレイヤーである部のチャンネルで課内のやり取りをするようにと言っていました。
Slackの導入前までは、1課と2課の課長が毎日営業のアタックリストを部下に連絡していたのですが、「課」への連絡を「部」のチャンネルに連絡することで、共有が遅くなってしまった課長には「すぐ取り組まなければいけない」という意識が生まれます。
また、部長による連絡事項も1回の連絡で済むため、1課も2課も同時に動き出せるのです。ある時は、複数の課長が同じ作業をしていたことがありました。これは誰か1人が担当すれば済むことです。このように、情報をオープンにし共有し合うことによって、管理職に無駄な業務が発生していたことに気がつきました。
――ご自身の部署で成功体験を積み重ねることで、組織に浸透させたことがポイントなんですね。
そうですね。また、私はすでに事業本部内で無料版Slackを自発的に活用していた他の事業本部長に相談し、私の部署やその人の部署での活用方針のすり合わせをしていました。
ディップに4事業本部がある中で2つの事業本部が話を進めていると、残り2つの事業本部も遅れまいとそれに追随する形になり、最終的に本部長同士もチャンネルでやり取りをするようになり、Slackの無料版の活用を会社全体で進めていくことになりました。
会社で正式に始動する前に各部署で試験的に導入し、活用していたことがうまく浸透した要因だと思います。
DXを進める上での営業組織のマネジメント方法
現場の意見を吸い上げてルール作りに専念
――DXの取り組みを進める上で、外部チームの協力者はいたのですか。
組織に浸透させるまでの導入のフェーズは私が担当しましたが、具体的な活用方法に関しては、現場での利用浸透をミッションとして課せられた各部署のSlackアンバサダーの方々が利用浸透に大きく貢献をしてくれました。
当初は、色々な課題が見つかりました。チャンネルの乱立や、メンションのつけ忘れなどがあり、またスレッドも意識しないと使えずに、情報を見逃してしまうという意見がありました。Gmailよりメッセージ数が増えてしまうのではないかという懸念があったので、現場から出た意見をもとにチャンネル作成のルールなどを設定することにしました。
私は部署で出た意見を積極的にアンバサダーに共有し、基準やルール作りに早急に取り組みました。その後、活用を進めていく上で、メンバー自身の意識が変わり、ピン留めなどの細かい使い方を進んで覚えるようになりました。
――メンバーの意識が変わった要因はどこにあったのでしょうか。
アンバサダーの活躍が大きかったと思います。私とアンバサダーのチャンネルがあり、導入期はメンバーがどこで困っているのかということを吸い上げ、解決策やルールを考えていました。各部署でトップダウンとボトムアップを同時平行させて、効果的な解決策が見つかった場合に、他部署もそれを取り入れることで、メンバーがワークフローを覚えていきました。
アンバサダーの方々がとても頼りになったので、管理職である私たちも安心して任せることができました。
現場に対してあえて口を出さない
――DXを進めていく中で、井上さんは部署をマネジメントする時にどのようなことを意識していましたか。
あえて現場に口を出さないようにしていました。導入期以降はトップダウンになりすぎないように気をつけていました。現場の社員自身が「いかにSlackが必要か」ということを自覚する必要があると思ってからです。
私から指示を出しているばかりでは、やらされた感が出てしまうので、基本的には現場に任せるという方針を取り、問題が発生した時には、積極的に介入するようにしていました。
Slackの導入がもたらした恩恵
――DXの取り組みを開始して、どのような成果が出たでしょうか。
数値的な成果として、月に800万件のメールが減少しました。また、導入後のアンケートでは、90%以上の社員が「効率化された」と回答しています。Slackの導入によりコミュニケーションコストは大幅にカットされました。
それにより、さまざまなことが短時間で決まるようになったことが大きなポイントだと思います。
例えば、今までバイトルで新しいキャンペーンを始める時は、毎週の事業本部長会議に議題として上げられ、その場で企画をブラッシュアップし、翌週の会議で修正案が上がるという流れでした。その他の動きもあり、アイデアが出てから動き出しまでに3〜4週間ほどの時間がかかっていました。
しかし、現在ではSlackのチャンネル内で意見を出し合っているので、いいスピード感で新しい企画に着手できています。
また、新企画が短時間で決まるようになったため、会議時間全体の短縮にもつながりました。営業の進捗や新しい戦略について話し合う会議はアジェンダも多く、毎回3〜4時間ほどの会議時間でした。Slackを導入してからは、チャットで解決できることはチャットで完結させるようにしたため、アジェンダが減少しました。
アジェンダがカットされたことで、今期の戦略に関して発見した課題や、それに対する解決策を話し合うなど、より具体的なアウトプットができるようになりました。
Slackの導入による営業の変化
――ディップの営業は、過去と比べてどのような変化がありましたか。
以前は、戦略的に攻めたいターゲットを定めても、そもそもそのターゲット顧客がリスト化されなかったり、そこに対してしっかりと営業が進捗しているのか?も可視化されていない状態でした。
例えば、コロナ禍になりエッセンシャルワーカーに営業しようとしても、そもそもエッセンシャルワーカーとは何かわからない人がいたり、誰が営業しているのかを確認する術がありませんでした。
しかし、Slackが導入された現在では、エッセンシャルワーカーについてまとめた資料をチャンネルで共有するだけで、概要だけではなく、担当や進捗まで把握できるようになりました。いいスピード感でPDCAを回せるようになったと思います。
また、以前に比べると、営業先のリストアップなどの業務はカットされ、電話する顧客を瞬時に割り振れたり、各顧客の進捗をチェックできるようになりました。CRMも活用できているので、定性的な課題しかわからないという状況を改善できました。
しかし、ディップ独自のCRMである「レコリン」は、まだまだ改善の余地があると思っているので、今後さらに状況は良くなると思います。
オープンな場所で発信することで、さらなる業務カットへ
――DXの取り組みにより、成果が現れた現状を井上さんはどのように受け止めていますか。
コミュニケーションコストはカットできましたが、情報はもっとオープンにできると思っています。私の部署ではSlackがうまく浸透しましたが、まだまだGmailに置き換わっただけの部署もあると聞いています。
営業メンバーがオープンなチャンネルで相談して上司から承認を得ることで、他の人が同じケースに陥った場合に上司に相談する工数を割くことに繋がったり、現場のメンバーがわざわざ毎回上司に確認しなくても、判断基準が明確になり、結果的に顧客からの受注決定率向上にも繋がります。
チームの中で共有事項や相談を展開し、次の行動につなげられる点がチャットツールの良い点です。プライベートな相談はダイレクトメッセージでいいと思いますが、顧客に関する相談は、チームの中で共有して困る内容ではありません。「自分がチームに送ることで煩わしく思う人がいるかもしれない」と危惧する人もいると思いますが、実際は違います。オープンな場所で相談することで、課長や部長への二重相談を減少させることにつながるからです。
今後は、オープンな場所で発信することを躊躇している人の気持ちをうまく取り除く必要があると思っています。
営業メンバーが自信を持って営業できる組織へ
――井上さんの今後の展望を教えてください。
上記で述べたとおり、Slackが導入されて営業コミュニケーションは改善され、無駄を減らせるようになってきました。
ディップ独自のCRM「レコリン」も活用できているので、営業先のリストアップなどの業務はカットされ、電話する顧客を瞬時に割り振れたり、各顧客の進捗をチェックできるようになりました。定性的な課題しかわからないという状況を改善できました。
「レコリン」は、まだまだ改善の余地があると思っているので、今後さらに状況は良くなると思います。
従来までは、各事業部でバラバラな管理ツールを使用していたため、全社という枠組みでKPIを把握できませんでした。顧客のデータベースも統括できていなかったため、社内バッティングが起きていました。顧客データベースの活用のために「レコリン」が生まれ、もっとそのデータを営業が活用するべく「営業DX課」を設立しました。
社内での営業効率を激的に引き上げた先に、同じような課題感を抱えている企業様にむけて、ディップの知見を提供していけないかと考えています。そのためには、営業チームが効果を実感し、自信をもって「売りたい」と言えるような施策を社内で実践する必要がありますし、営業目線でサービスのUI/UXを向上させていく必要があると思っています。やはり、営業が売りたいと思った商材でなければ売ることができません。
今までは開発者目線で見た時に良いとされる商材を営業が売っていましたが、現在の営業チームにDXのリテラシーは不足しています。
今後は営業が顧客をマーケティングして、ニーズを読み取り、その後アイデアを出して商品企画までつなげれば、最高のUI/UXを兼ね備えた商材ができるのではないかと思っています。
――ありがとうございました!
「経営陣が語るDXのポイント」シリーズ
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