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今回のレポートは、DeNAさんとGoodpatchさんが立ち上げたUIデザインを追求するコミュニティ“UICrunch”主催のイベントです。
UICrunch第10回目のテーマは、『AIと人を繋ぐ、UIの可能性』。
DeNAさんの本社24階に構える“SakuraCafe”にて、東京タワーを横目にFUIスタートです。
目次
りんなの人間らしい会話が繋ぐ、人と機械の関係
マイクロソフトディベロップメント株式会社 AI&リサーチ りんな開発担当 プログラムマネージャ 坪井一菜さん
最初の発表はMicrosoftの女子高生AIりんなちゃんについて。
登壇者の坪井さんはりんなちゃんのプログラムマネージャーで、りんなちゃんのキャラクター設定や会話・インタラクションデザイン、コラボ企画などを担当されている方です。
マイクロソフトの“Conversation as a Platform”という考え方について、りんなちゃんのグロースの例を交えてのお話です。
“Conversation as a Platform”・・・詳しくはこちらのレポートがわかりやすいかもです http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/event/750951.html
マイクロソフトでは、人間にとって自分と“自分以外のもの”とのコミュニケーションの最も自然な方法は『会話』であると考えているのだそうです。対話そのものがインターフェースとなり、次世代UIの中心になる。その思想にもとづいて生まれたのがりんなちゃん。
人は機能面だけでなく「愛着」や「かっこいい!」と感じた気持ちを重視して選択するという考えから、りんなちゃんは人の感情面にアプローチするAIとして開発されています。なのでりんなちゃんの開発では特に「人間らしさ」「自然な会話」を大事にされているのだとか。
りんなちゃんの会話の仕組みは単なるパターンの量産ではなく、大量のデータを用いて大量のパターンを機械学習できることから成っています。これによって未知の会話にぶつかったときも過去の学習に基づいて多様な返答ができるのだとか。過去にはりんなちゃんと4時間以上話し続けていたユーザも居たのだそうです。
4時間も人と対話し続けられるりんなちゃんには、「恋愛診断」等の“人間らしい会話”をベースとした能力も搭載されているのだそう。この機能は週1回ずつぐらいの頻度でリリースされているのだそうです。これらのアプリケーションは会話中シームレスに起動されます。例えば恋愛診断の場合、診断の選択肢をユーザから会話で引き出すように工夫されています。ユーザは知らず知らずのうちにりんなちゃんの能力に触れ、よりりんなちゃんの「人間らしさ」に親しみを覚える仕組みになっています。
マイクロソフトの「Conversation as a Platform」に基づくと、次世代のUIは対話そのものになります。それならば、UIの“デザイン”=キャラクターを生み出す力なのではないか、と坪井さんは提議します。人により刺さるデザインは、「人により刺さるキャラクターAI」ということですね。人の感情やキャラクターメイクを追求することが、これから先選ばれるサービスの要なのかもしれません。
yentaが考えるUXとAIの関係
株式会社アトラエ yenta開発チーム デザイナー 平根 由理さん
続いて、“ビジネスパーソン向けの真面目なTinder”の「yenta」のお話です。
yentaがなぜ機械学習を取り入れたのか、yentaのUXとAIの関係についてお話されていました。
これまで、yentaはサービス体験のブラッシュアップや開発に比重を置いてきたとのことですが、口コミなどでユーザ数は日々増えているのだそうです。おおよそ94%以上のユーザがマッチングしている状態で、マッチング事例も増えてきているのだとか。
yentaははじめから“機械学習を取り入れたサービス”として考えられたわけではなく、“様々な技術・アイデアを持つ人が気軽にマッチングできて、協業できる”、それが実現できれば、東京もシリコンバレーのように輝けるはず…こういった考えから生まれたサービスです。yentaのUXを追求する過程で、いかにマッチングの候補者(レコメンド)を選出するかがサービス体験の要と判断され、ここで機械学習の必要性が生じてAIに取り組むこととなったのだそうです。
現在はデータを収集・解析し、このマッチングの精度UPに取り組んでいるとのこと。機械学習やAIのことを難しく考えず、yentaのユーザ体験を実現するために必要な課題にフォーカスすることがコツ、と平根さん。
yentaチームでは、人工知能や機械学習もデザインと同様に「プロトタイピング」を大事にしており、“イケている”・“イケていない”をチームでこまめに検証するよう心がけているのだそうです。
AIと人間が協働する接客体験づくり
株式会社ietty デザイナー 池田 茉莉花 さん
“徒歩0秒の不動産屋さん”「ietty」のお話です。
iettyはオンライン接客型不動産です。ユーザが会員登録をして希望のお部屋の条件を伝えると、不動産のプロであるiettyの営業マンやスタッフたちがチャット上で物件を提案してくれる、というもの。さらに、その先の内見や契約まわりもお手伝いしてくれるという大変ありがたいサービスです。
iettyが掲げる大切にしたいユーザ体験に「いつでも」相談できるという項目があり、AIによる接客サポートでこの実現を目指されていました。とはいえ、不動産屋さんの対応すべてを自動化するわけにはいきません。まずは「AIはなにが得意なのか」を知る段階からスタートされたのだそうです。AIと人間それぞれのメリット・デメリットを洗い出し、どの接客体験シーンであればAIを導入するべきかを考え、サービスに反映されていました。
実際のチャット上では、まだまだ自然言語処理のブレイクスルーはむずかしい段階とのことで、その部分もUIの工夫でカバーされています。例えばAIによるチャットUIを用いた会員登録シーンでは、チャットUIの弱点であるデータの取りにくさを補うため、質問内容に応じたインターフェースを細かく作成し、自然な会話の流れのままでもフォーマットに沿ったデータの貰い方ができるように工夫されていました。人間とAIの“協働”により、iettyが大切にしたいユーザ体験を最大化させているのですね。
PaintsChainer開発者が語る 人工知能とクリエイティブの未来
株式会社 Preferred Networks エンジニア 米辻 泰山 さん
PaintsChainer、ご存じの方たくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
線画像に自動着色するwebサービスとして大変バズりましたね!米辻さんはそのPaintsChainerの開発者の方です。
PaintsChainerリリース当初のtwitterでの反応や、その後の国内外での使われ方について、お話を伺うことができました。
テクノロジーのニュース扱いだったPaintsChainerが次第にアニメ・マンガカテゴリに移行していったというエピソードは、このサービスがいかにユーザの関心を惹き楽しまれているかが分かります。PaintsChainerの着色をベースに人が手を加えるカラーイラストの手法もユーザ間で模索されており、「人とAIが一緒にクリエイティブする時代」が来ている、と米辻さん。池田さんが”協働”とおっしゃっていたこととおなじですね…!仕事がうばわれる、という恐怖を煽られがちなAIですが、一緒にできると思うとわくわくしますね。
FiNCアプリのAIキャラクター Aiちゃん
株式会社FiNC CCO 小出 誠也さん
最後の登壇者はFiNCの小出さんです。
FiNCは“予防×ヘルスケア×テクノロジーに特化したヘルステックベンチャー”として、ヘルスケアサービスを提供している注目の企業です。
「FiNC」アプリはプロのトレーナーや栄養士などの専門家によるアドバイスをユーザの悩みに応じパーソナライズされたサービスを提供。「FiNC」に搭載している様々なAIやFiNCチャットに関係のする特許の取得も進められています。
アプリ上で笑っているにこちゃんマークが人工知能のキャラクター、通称Aiちゃん。このAiちゃんが誕生するまでには、くらげだったり、色々なパターン変遷があったそうです。プロトタイプ作成のなかでチャットUI同様キャラクターの調整もたくさん行われ、最終的に馴染みがあって愛着を持たれやすいニコちゃんマークのデザインが採用されたのだそうです。りんなちゃん然り、キャラクターメイキングに力を注がれているのですね。
AiちゃんとチャットUIを採用した結果、体調や食事・運動などのアプリ内での問診のユーザ返答率が大幅に改善されたのだとか。
FiNCが目指すのは、「ここにくればヘルスケアについてなんでも分かる」状態。
例えば、ショッピングモールで迷子になったらインフォメーションのお姉さんに声をかけるような、そんな利用シーンをAiちゃんで叶えたい、と小出さんは語られていました。
アプリ全体のデザインは、法人向けのサービスで提供していたUIから改善していたため、苦労が多かったものの、現在は改善を繰り返してきたことで制約もなくなってきていて、さらに改善スピードを早められるそうです。今後ますます要チェックですね!
AI関連の技術が発展するとともに、デザイナーに求められる領域もどんどん変遷していきますね。さまざまなサービスが試行錯誤を繰り返すなか、また新しいUIデザインが生み出されていくことを思うととても楽しみです。
以上、UICrunch#10「AIと人を繋ぐ、UIの可能性」のイベントレポートでした。