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2018.02.20

日本のAI戦略の司令塔 -人工知能技術戦略会議が進めるAI戦略-

最終更新日:

2018.1.16 取材・編集:おざけん@ozaken_AI

人工知能・AIは各国で重要なキーテクノロジーとして位置づけられています。

2017年も各国の政府は競争心をあらわにしていたことが印象的です。

中国政府は2017年7月に『次世代AI発展計画』を発表し、AIを「国際競争の新たな焦点になる将来をリードする戦略技術」と強調して2030年には世界のトップ標準、170兆円規模の市場を作ると発表しました。

また、2030年までに理論や技術、応用の全ての分野で世界トップ水準に引き上げて、中国は世界的なAIイノベーションの中心になると意気込んでいます。

アメリカは2017年12月に「国家安全保障戦略」を発表。トランプ大統領は中国を「競争国」と位置づけ同盟国などと連携して対抗する姿勢を打ち出しています。

ではそんな中、日本の政府の取り組みはどうなのか。今回は日本の人工知能技術を行政で推し進める内閣府総合科学技術イノベーション会議の原山優子議員にインタビューしました。

総合科学技術・イノベーション会議(以下CSTI)
内閣総理大臣、科学技術政策担当大臣のリーダーシップの下、各省より一段高い立場から、総合的・基本的な科学技術・イノベーション政策の企画立案及び総合調整を行うことを目的とした「重要政策に関する会議」の一つ。CSTIが重要な技術政策として掲げるSociety 5.0はAIが重要な要素技術になっている。 引用:内閣府[/caption]

各省庁を束ね、産学連携を推進する人工知能技術戦略会議

平成28年4月12日。
第5回「未来投資に向けた官民対話」が開催されました。

ここでAI研究開発目標と産業化のロードマップを策定するため、産学官の知見を集めて、横断的に人工知能について考える「人工知能技術戦略会議」を創設することを安倍総理が指示しました。これが国としての人工知能技術推進の第一歩です。

人工知能技術戦略会議をトップとしてその傘下に関係省庁や、各研究機関での研究の総合調整や産学連携が図られています。

図をご覧ください。人工知能技術戦略会議がトップに位置しています。その下に産学それぞれ研究連携会議産業連携会議が設けられ、産学連携が図られています。

研究開発会議の下には総務省、文部科学省、経済産業省のそれぞれの研究所が研究に当たっています。産学連携会議の下では、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下NEDO)がロードマップの育成などにあたっています。

2017年11月には人工知能技術戦略会議の司令塔機能の強化が行われ、現行の省庁に加えて内閣府、厚生労働省、農林水産省、国土交通省が追加されました

総務省、文科省、経産省が開発を推進するのに対して、厚労省、農水省、国交省は社会実装を推進する役割があります。そして、全体を俯瞰して取りまとめを行うのが内閣府の役割になります。今後も、この広がりが進んでいくそうです。

人工知能戦略会議の検討事項は技術的な事項や、人材、制度、支援に関連するものが主です。技術的な事項としては、2017年の3月には人工知能技術戦略として「産業化ロードマップ」がNEDOにより策定されました。

引用:人工知能の研究開発目標と 産業化のロードマップ – NEDO

日本が有する強みを踏まえた上で、AI技術とその他関連技術による産業化を目指したロードマップで、研究開発から社会実装までの一貫した取組を進めていくとしています。重点的に述べられている分野は「生産性」「健康・介護」「空間の移動」の3点。それぞれにおいて、出口産業を所管する関係府庁が連係し、研究開発から社会実装までの一貫した取組を推進していくとしています。

また、人工知能技術戦略会議の顧問をCSTIの久間氏が務めており積極的に議論を進めています。

ーー人工知能技術戦略会議、設立の背景を教えてください

原山さん「文科省がAIについて大型のプログラムを作ると計画していたことが背景です。産業は経産省、研究開発は文科省なので、それがバラバラやるのか、包括的にやるのかというときに、連係して包括的に取り組むアプローチを選びました。

しかし、AIの適用範囲はこの3省だけでなく、健康医療の厚生労働省や、農業の農水省、モビリティの国交省なども参加して広がってきています。内閣府はその中でまとめ役として入ってきていて、どんどん人工知能の取り組みが広がりつつある状況です。」

ーー生産性革命は安倍総理も主張して人工知能についても言及していましたよね!?

原山さん「旧来型の生産性革命の次のフェーズにいかなければなりません。人工知能の技術は大きな可能性があります。

日本は産業用ロボットが入っているから違和感はありませんが、そうじゃない部分でも業務効率化が可能になっていて、そのドライバーになりうるのが機械学習の機能をもったロボットなどであると考えています。

ケアシステムなどの分野で今までの当たり前のやり方が変容するかもしれないので、実験的に取り入れていきます。」

-模索される国際協力- G7に参加した原山さんに聞いた。

国際的な議論に数多く参加されている原山さんから、昨年行われたG7などについても話を伺いました。

国内の議論は国際的な議論の場に持っていって紹介したり、他の国の意見を聞いたりしているそうです。いろいろな国が同じような問題意識を持っていて、日本の議論に対しても納得してくれることも多いそうです。

2017年9月25日、26日にイタリア(トリノ)においてG7情報通信・産業大臣会合が開催され、総務省から奥野総務副大臣が出席しました。そのときにイタリアはイノベーション・ウィークとして3つの大臣会合(情報通信・産業大臣会合、科学技術大臣会合、雇用労働大臣会合)を行いそれぞれで次世代産業革命の視点から人工知能が取り上げられたそうです。

原山さんも現地を訪れさまざまな議論に参加しました。

IoTや人工知能(AI)などの新たなデジタル技術の普及に伴う社会・経済の変革について、特に産業のデジタル化を通じた「次世代生産革命」の進展に焦点を当てました。

G7で本格的に議論されたのは (1)包摂性、(2)オープン性、(3)安全性の3つですが、その中でも「オープン性」がAIに関して重要です。奥野総務副大臣からは、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた重要インフラ保護を図るため、国際的な官民連携(ISAC連携)の取組を推進していくことの重要性を、日本の取組を例にIoT機器に関するセキュリティ対策の取組を推進していくことの重要性について発信しました。

また、大臣会合と並行して「INNOVATORS’ STRATEGIC ADVISORY BOARD ON PEOPLE CENTERED INNOVATION TO G7 LEADERS」という会が開催されたそうです。この会にはG7の各国から一名フォーカル・ポイントが任命され、イノベーター数名と共に出席して議論されたそうです。

具体的には労働や教育、倫理や社会の話を中心として職業や給料などまで幅広く議論されたといいます。ここでの会議が大臣会合にも活かされたそうです。

また、この会合のあとにパリのOECDでもConference on Artificial Intelligence – “AI: Intelligent Machines, Smart Policies”というAIの国際会議が開かれたそうです。日本からは総務省が作成したAI開発ガイドラインなどを持っていって議論が深まったそうです。

ーー国際的には競争も存在しますが、やはり国際協力は必須なのでしょうか?

原山さん「国同士の競争とは次元が違うと思います。Googleなどの企業は国家のレベルを超えたデータ収集能力や分析能力を持っています。彼らは国境は関係なしに活動しているし、世界で人を集めています。そのため、民間と行政の人が一緒に話し合う機会が大事です。

また、Googleなどの企業は企業として存在するために社会的なパートナーであることを示さないといけません。そういう意味で一緒にAIについて考える必然性があります。

各国は人工知能技術に投資をしていますが、それぞれの国が単独で技術が発展するかというと必ずしもそうではありません。国家間でベースとなるものを一緒に作ることも大事です。

また、ガイドラインを作っても他の国が無視して突拍子もないビジネスやってしまうと困るので、一緒に協調して最低限共有できるベースを作っていこうとしています。だから国同士の調整が大事です。ビジネスサイドでは競争をしますが、戦略的に協力してお互いに高め合えばいいのではないかと思います。」

科学技術への投資を拡大していくプログラム「PRISM」

2018年度にはPRISMというプログラムがはじまります。

PRISMは官民研究開発投資拡大プログラムのことで、内閣府が推進するSociety 5.0の実現に資する科学技術予算の量的・質的拡大を目指すものです。

ターゲット領域に関連する各省庁の施策を評価した上で対象となる施策を特定し、財務省と連携して各省庁での予算化を支援するプログラムです。推進費を活用して事業費の一部を内閣府から拠出するプログラムです。

どのようなターゲット領域に力を入れていくか議論された結果、以下の3つをターゲットすることが決まりました。

  1. 革新的サイバー空間基盤技術
  2. 革新的フィジカル空間基盤技術
  3. 革新的建設・インフラ維持管理 / 革新的防災・減災技術

原山さんによると、1と2つが連動しており、AIもキーテクノロジーになる部分だといいます。この部分で、これからどういうプログラムに落としていくか、各省庁の政策に予算を上乗せするすり合わせをおこなっていくそうです。

原山さんの未来予想は?

最後に、原山さんの未来予想を伺いました。

ーー原山さんの未来予想を教えてください

社会のことを考える若い世代が多くなっているように感じます。安堵感は持っています。
しかし、ちゃんと彼らが未来を作れるように準備するのが私たちの仕事なので、危ないときには危ないと言えて、必要なときに手助けできるような体制を作らないといけないと思っています。

今後、生活は便利になりますが、これは進化なのでしょうか。

便利になることだけを求めることが人間としての存在意義なのかは考えないといけません。人間としてやるべきことは何か、何が肝心なのかにフォーカスして、実際にカードを切っていかないといけないと思っています。
未来の社会は自分しか見ない社会ではなくて、他の人に対しても一緒にものごとに取り組む流れができる社会であってほしいなと思っています。

そのために、ロボットなどを有効活用することで雑用しなくて済む社会にして、その時間で人間とは何かを考えたいと思います。

実感しているのは、人間が記憶することに対して労力を使わなくなってきているということです。すでに人間は記憶を外部化しています。

しかし、それがなくなったらどうなるんだろうと。人間は使わない機能が退化していくので、そういう意味で退化しないために、人間が自ら主体となって考え、行動することを心がけないといけないなと思っています。

編集後記

産学官連携は今後さらに重要になってきます。

今、研究開発は個々の会社内だけで完結しなくなっています。
オープンイノベーションと言われるように、さまざまなコードが世界中に公開され、目まぐるしいスピードで技術発展が進んでいます。
ムーアの法則に則れば、今後指数関数的にこのスピードが上がっていくでしょう。

AIに事業の可能性を見出した会社は、各大学の研究室と共同研究に取り組むケースも多くなってきました。
産学官連携は進んでいる印象です。

しかし、まだ行政・官がどのように人工知能技術の進展を計画しているのか、知らない人も多いのが現状ではないでしょうか。
今後もAINOWは記事を通して、産業・大学・行政をつないでいけるように発信していきます。

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