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本稿は、サンフランシスコ・東京を拠点のAIスタートアップ特化型シードファンド、Hike Venturesの配信するメールレターのバックナンバーです。Hike Venturesはアメリカ・カナダを中心に投資をしています。「人とアルゴリズムの協業によって豊かさを生み出すエコシステムの創出」をモットーにアメリカ、カナダ、日本のシード段階のスタートアップの支援を行っています。バックナンバーはこちら。メール配信を希望の方は、Hike Venturesウェブサイト内フォームより登録お願いします。
6月4日から8日にサンノゼで開催されたAppleのディベロッパー向けのイベントWWDCにて、Health Record APIのオープン化(今年の秋から)が発表されました。Appleは、Healthアプリを通して500以上の病院やクリニックと既に接続されており、ユーザは自分の医療データをダウンロードして、スマホ上で管理したり、別のお医者さんに見せることできるようになっていました。今後は、ディベロッパーも、それらの医療データを利用して、ヘルスケアアプリを開発できるようになります!これは、医療データへのアクセスに苦労していたディベロッパーに対して夢のようなプラットホームです。
もちろん、Health Record APIが実現するためには、これまでの米国医療業界による医療データの蓄積、そして標準化に関わる作業が必要でした。2016年にブログに書きましたが、米国では、2009年から医療機関の電子カルテへの以降が義務付けられ、5年後の2014年にはシステム導入が完了している必要がありました。さらに、HL7、HL7 FHIR, Smart Health IT Projectなどの医療データの標準化と相互運用性などを推し進める団体が、医療データを”使える医療データ”へと変えてきました。まさに、2009年から約10年間を経て、今回のHealth Record APIが実現したと言えるでしょう。
Health Record APIでは、ユーザからの許可を得ることができれば、歩数や脈拍、睡眠などの情報に加えて、コンディション(アレルギー、妊娠、糖尿病等)やラボの検査結果、服用している薬、血圧、体重などのデータを取得することができます。
プライバシーに関しても十分な配慮が払われており、新しいデータを取得する度に、ユーザからの許可を得る必要があることや、必要なデータのみにアクセスすること、ユーザが提供するデータの量・種類によってサービスのクオリティを変えるべきではないことが強調されていました。(発表のビデオ)
特にヘルスケア関連のAIスタートアップにとってはこれまで取得することが困難であった個人の医療データへアクセスすることができるため、AIモデルのトレーニングが進み、ユーザにとってもメリットのあるサービスが今年末から来年以降続々登場しそうです!
目次
トピックス
スポーツ
- ドイツのリサーチャーチームがワールドカップの勝者を予測
ドイツのリサーチャーチームがランダムフォレストアプローチを使って予測。(あくまでもドイツのリサーチャーが出した結果です)
マテリアル
- MITのリサーチチームがニューラルネットワークを使ったナノ粒子の特性の予測を発表
予測することができたのは、複数のナノ粒子を組み合わせた時の光の散乱。また、達成したい光の散乱からナノ粒子の組み合わせを予測することにも成功。現状は、科学的研究段階で、実用化には大量のデータでニューラルネットワークを教育する必要があるとのこと。
ロボティクス
- ロボットが実世界でタスクをこなすステップを学ぶバーチャルハウス
MIT, トロント大学、マギル大学のリサーチチームが、ロボットが1つのタスクをこなすために行わなければならいステップを学ぶバーチャルハウスを開発。例えば、’カーペットの掃除をしなさい’と言われたら人間であれば、クローゼットを開けて掃除機を出して、それを持ち出してコンセントに差し、電源を入れて掃除を開始する事前のステップを理解しているが、ロボットはそれらを事前のステップを学ばなければならない。
モビリティサービス
- Alibabaが自動運転デリバリーカーG Plusを発表
G Plusは複数の荷物を時速15Kmで運ぶことが可能。目的地に到着するとユーザへお知らせするか、荷物を置いていくかする。2018年の末にはサービス開始予定。
- Waymoがクライスラーのミニバンを現在の600台から62,000台に拡大
今年の1月のWaymoとクライスラー間のパートナーシップの発表では、具体的な発注台数は明記されていなかったが、この度、現在の約100倍に増やすことが明らかに。また2社は、Waymoの自動運転タクシーだけではなく、リテールでも自動運転車を発売していく意思があることも発表。 - Uberが酔っ払いユーザを検知するAIの特許を申請
申請された特許によると、ユーザの通常の利用状況に対して、車を呼ぶのにかかった時間や、どれくらい正確にタイピングやタップができたか、歩くスピード、現在位置、時間等からユーザが酔っているかどうかを予測。その情報を元に配車するドライバー(例:訓練を受けたドライバー)の割り当てを変えたりする可能性がある。 - Toyotaが東南アジアのトップ配車サービスGrabに$1Bを投資
投資時のGrabのバリュエーションは$10B。Toyotaは、取締役の席とエグゼクティブを送り込む権利を得る。
【調達ニュース】
フィンテック
- Ocrolus (New York, NY) Series A $4M
様々な銀行から発行される口座明を99%以上の精度で読み取り、キャッシュフロー分析や監査の自動化を行う。
Bullpen Capital, QED Investors, Laconia Capital, Riverpark Funds, ValueStream Venturesから調達。 - BlueVine (Redwood City, CA) Series E $60M
企業向けレンディングサービス。アルゴリズムを使い最短20分で、クレジットラインやインボイスファクタリングサービスを提供。
Menlo Ventures, SVB Capital等から調達
ブロックチェーン
- Fetch.AI (Cambridge, UK) Seed $15M
機械学習を活用して高速化した自律的エージェント時代のブロックチェーン・プラットホーム。車と車の間のデータやサービスのやり取りやトランザクションにフォーカスしており、Mobi(モビリティ・オープン・ボロックチェーン・イニシアティブ)にも参加。投資家不明。
不動産
- Opendoor (San Francisco) Series E $325M
家の買取と販売。アルゴリズムを使って家の価値を算定しスピーディに買取を行う。今年は、$2.5B相当の家を買取予定。販売件数・額は明らかにしていない。
General Atlantic, Access Technology Ventures, Andreessen Horowitz, Coatue Management, 10100 Fund, Norwest Venture Partners, Lakestar, GGV Capital, NEA, Khosla Ventures等から調達。
カメラファースト
- Pixoneye (London, UK & Tel Aviv, Israel) Series A $8M
ユーザのスマホに保存されている写真からユーザの好みや位置情報に基づく行動を解析し、eコマースでのリコメンデーションなどに役立てる。同社の技術はSDKとして提供されている。
Octopus Venturesから調達。 - Yitu Technology (Shanghai, China) Series C $200
コンピュータビジョン技術に特化。セキュリティ、スマートシティ、ヘルスケアなどに応用。
ICBC International, SPDB International, Gaocheng Capitalから調達。
ドローン
- Kittyhawk (San Francisco, CA) Seed $5M
自動飛行ドローン向けのソリューションを提供。
Bonfire Ventures, Boeing, Freestyle Capital, Kluz Venturesから調達。
サプライチェーン
- Boxbot (Oakland, CA) Seed $7.5M
ラストワンマイルの配達を行う自動走行ロボットを開発。
Artiman Ventures, Toyota AI Ventures, Pear Ventures, Afore Capital, Ironfire Ventures, The House Fundから調達。 - Starship Technologies (San Francisco, CA) Seed $25M
ラストマイルデリバリーロボット。Doordash, Postmateとパイロットプログラムを行っている。
Matrix Partners, Morpheus Venturesから調達。
- Locus (Bangalore, Indian) Series A $4M
ロジスティクス管理サポート。配達・集荷ルートの最適化や倉庫内スペースの最適化を行う。
Rocketship.vc, Recruit Strategic Partners, pi Ventures, Blume Ventures, Exfinity Venture Partners, BeeNext, growXから調達。
ヘルスケア
- Curai (Palo Alto) Seed $10.7M
ユーザが写真や検査結果などの情報を入力するとAIが診断を行い、医師に事前情報を提供し診断をサポートする。
General Catalyst, Khosla Ventures等から調達。 - CAMP4 Therapeutics (Cambridge, MA) Series A $30M
遺伝子を制御する遺伝子回路コード化し、疾患遺伝子の出力を制御する。Andreessen Horowitz, The Kraft Group, Polaris Partnersから調達。 - Zebra Medical Vision (Tel Aviv, Israel) Series C $30M
医療イメージの解析を行いレントゲン医師をサポート。
aMoon Ventures, Aurum, Johnson & Johnson Innovation, Intermountain Health, Khosla Ventures, Nvidia等から調達。 - Recursion Pharmaceuticals (Salt Lake City, UT) 与信枠 $20.5M
関連する生物学的画像データに機械学習アルゴリズムを適用し、新しい化学物質の発見、作用メカニズムの予測、ヒト細胞にモデル化できる化合物のモデリングを行う。
Square 1 Bankから与信を得る。 - nference (Cambridge, MA) Series A $11M
パブリックな情報や電子カルテなどの情報(構造化データと非構造化データ)を自然言語処理で解析可能にし、創薬や研究を支援するソフトウェアを開発。
Matrix Partners, Matrix Capitalから調達。 - Parachute Health (New York, NY) Series B $9.5M
病院向け医療機器の調達プラットホーム。
Insight Ventures Partners, GNYHA Ventures等から調達。
コンシューマー
IOT
- Ecobee (Toronto, Canada) Series C $47M
スマートサーモスタット。Amazon Alexaもビルトインされている。
Amazon Alexa Fund, CDPQ, Business Development Bank of Canadaから調達。 - Voltaiq (Berkeley, CA) Series A $6.6M
バッテリーの設計・製造・モニタリング プラットホーム。デザイン上のボトルネックを発見したり、パフォーマンスの予測や使用開始後の故障の予測などを行う。
Anzu Partners, Bee Partners, SJF Ventures, UL Venturesから調達。 - Kneron (San Diego, CA) Series A $18M
エッジで稼働するAI向けチップNeural Processing Unit (NPU)を開発。同社のNPUは、オフラインで稼働が可能。マシンビジョンソフトウェアも提供している。
Horizons Venturesから調達。 - Hailo (Tel Aviv, Israel) Series A $12.5M
エッジデバイスに搭載するAIチップを開発。
OurCrowd, Maniv Mobility, Next Gearから調達。
モビリティ
- Gett (Tel Aviv, Israel) Venture Round $80M
配車アプリ。買収したJunoによるニューヨークのオペレーションが最も大きく、登録タクシー全体の半分(4万台)と8万人のタクシードライバーが登録している。
Volkswagen Group, Access Industriesから調達。
製造
- CloudNC (London, UK) Series A $12M
これまでは熟練したプログラマーが行っていたCNCマシンの制御を自動化する。
Atomico, Episode 1, Entrepreneur Firstから調達。
エンタープライズ
- Dataminr (New York, NY) PE Round $221M 投資家不明
ネット上から企業や政府機関に関係がある事象をリアルタイムにキャッチし、ニュースになる前に検知するのをサポートする。 - DocAuthority (Ra’anana, Israel) Series A $10M
企業のドキュメントストレージを監視し、プロテクトされていない秘密文書を特定し安全な場所へ避難させる。
Raine Ventures, Greycroft, ff VC, Differential VC, 2B Angels, Plus Venturesから調達。 - Eigen (London, UK) Series A $17.4M
契約書などの社内ドキュメントの分類や重要な情報の抽出、検索の向上などを行う。
Goldman Sachs Principal Strategic Investment, Temasekから調達。 - Jane.ai (St.Louis, MO) Seed $8.4M
企業が利用しているCRMやストレージのデータをインデックスし、自然言語インタフェースで質問をして回答が得られるテクノロジーを開発。
エンジェルから調達。
セキュリティ
- Signifyd (San Jose, CA) Series D $100M
オンラインストアの詐欺注文を防ぐソフトウェアを提供している。仮にチャージバックがあった場合は、Signifydが保証する。Build.com, Helly Hansen, iRobot, Jet, Lacoste, Luxottica, Stance, Tous, Wayfairなど5000のオンランストアが導入している。
Premji Invest, Bain Capital Ventures, Menlo Ventures, American Express Ventures, IA Ventures, Allegis Cyber, Resolute Venturesから調達。 - CyberSaint (Boston, MA) Venture Round $3M
企業内のリスクマネージメントとコンプライアンスシステムを提供。
Audeo Capital, BlueIOから調達。
エネルギー
- ETS (Livingston, NJ) Series C1 $3M
スマートビルディング管理システム。IoTデバイスからのデータを利用して、電気代や管理コストを下げるサポートをする。
投資家不明。
ディベロッパー
- Weights & Biases (San Francisco, CA) Series A $5M
機械学習開発用ツール。モデルのパフォーマンスやパフォーマンスの評価、教育の自動化などの機能を持つ。
Trinity Ventures, Bloomberg Betaから調達。 - Opsani (Los Altos, CA) Seed $2.7M
ネットワーク、クラウド、アプリのパフォーマンスの自動最適化ソフトウェアを開発。これまでの顧客では、Opsaniを利用することによって、パフォーマンスが2倍、コストが30%下がった。Zetta Venture Partnersから調達。
農業
【買収ニュース】
- Internet of Things Inc.が、気象情報予想テクノロジーのWeather Telematicsを買収。
- Workdayが、従業員とプロジェクトをマッチさせる技術を持つRallyteamを買収。
- Tableauがデータの自動モデルリング技術を提供するEmpirical SystemsEmpirical Systemsを買収。