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おざけんです。
ゲームAI技術は、2000年前後の黎明期から発展を続け、近年では学習や進化のプロセスを取り入れてさらにパワーアップしています。
同時に、ゲームAIの開発環境としての「ゲームの外のAI」の発展も見せており、ゲームAI開発はさらに裾野を広げています。
しかし、「今までのゲームAI開発は、それぞれのゲームへの依存が強く、オープンな議論や開発が行われてこなかった」と、スクウェアエニックスのリードAIリサーチャーの三宅陽一郎さんとDeNAでAI研究開発エンジニアをしている奥村純さんは言います。
そんな二人が、SlackやメーリングリストをベースにしたゲームAIコミュニティ「Game AI Community」を立ち上げたと聞き、お二人にインタビューを行いました。
奥村純:国内外の研究機関で観測的宇宙論の研究に従事し、京都大学理学研究科宇宙物理学専攻にて博士号取得。2014年4月にDeNAでデータアナリストとしてのキャリアをスタート。ユーザー体験や事業推進をデータからサポートすることを目指し、主にゲーム領域のデータ分析・パラメータ設計の経験を積む。2017年1月より機械学習エンジニアに転身し、強化学習技術を中心としたゲームAIの研究開発を推進。機械学習の実ビジネス適用や、UXデザインに興味を持っている。
三宅陽一郎:京都大学で数学を専攻、大阪大学大学院理学研究科物理学修士課程、東京大学大学院工学系研究科博士課程を経て、人工知能研究の道へ。ゲームAI開発者としてデジタルゲームにおける人工知能技術の発展に従事。国際ゲーム開発者協会日本ゲームAI専門部会チェア、日本デジタルゲーム学会理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員。
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ゲームAI議論を点で終わらせない
二人はなぜ、ゲームAI開発者がつながるSlackやメーリングリストを立ち上げ、コミュニティを形成しようとしているのでしょうか。その背景には、「議論を点で終わらせたくない」という想いがあります。
奥村さん:このコミュニティはゲームAI開発者が情報や知見を共有する場として機能したらいいと思っています。
実は三宅さんが以前、ゲームAIコミュニティの運営をされていました。ゲームAIの取り組みが増えてきた今、スモールスタートで再度スタートしました、
三宅さん:実はYahooのメーリングリストで2006年くらいからゲームAIのコミュニティを立ち上げました。当時100名ちょっとでしたね。しかし発言するのは私だけでメルマガみたいになってしまい、議論があまり起きませんでした。そのためメーリングリストのサービス終了のタイミングで閉じてしまいました。
海外ではAI Game Programmers Guild というコミュニティがあります。600〜700名のゲームAI開発者が登録しているコミュニティです。議論が盛り上がったときには、毎日10通くらいのメールがきます。メールの配信だけでなく、本も出版していて開発者の中心になっているんです。本当はそこに参加するのも一つの手はあるのですが、日本の中でなにか発信できればと思っています。
このコミュニティはCEDEC 2018に登壇したときに奥村さんと相談して立ち上げました。イベントは「点」で終わってしまいがちなので、年次を通して定期的にコミュニケーションを図っていける場にしたいと思っています。
CEDEC 2018で開催されたセッション「次世代QAとAI 〜ゲーム開発におけるAI活用に正しく向き合うために〜」で、三宅さんと奥村さんが一緒に登壇されました。ゲームAIと最新研究の動向やAIをゲーム開発や運用に活用する事例ベースに進められたセッションで、この登壇が、「Game AI Community」の発足のきっかけになったといいます。
奥村さん:先日は、GDC2018というゲームAI開発者が集まるイベントとしては世界で一番大規模な会議に参加しました。海外は事例がどんどん出てきていて、同じレイヤーの人同士がコミュニケーションを活発にしていると聞いたので、純粋にコミュニケーションと言う観点で開発者が集まる場を作っていく必要があるのではと感じました。
ゲームの情報は各社独自のノウハウが多いため、外に出しにくい点はあります。しかし、ゲームAIの開発は各社が独自に取り組んではいるものの、まだ事例が少ないためプロジェクト的にも技術的にもつまづくポイントが多く、知見の発信・共有が大切だなと思っています。
技術的な流れはオープンに
今までは、ゲームタイトルに依存したゲームAI技術がホットでした。しかし、技術トレンドとしても相互に連携し合うムードが広がっているといいます。
三宅さん:技術的な流れでは、ゲームAIは「ゲームの中のAI」の開発が今まで進んできました。リアルタイムに処理する必要があり、かつメモリの制限がある中で、製品としてのAIの開発が進んできたんです。
「ゲームの外のAI」は開発支援やQAなどを対象とするため、間接的にゲーム開発には関わりますが、直接ゲーム内ロジックに介入するわけではありません。
「ゲームの外のAI」こそゲーム産業内だけでなくアカデミアとも連携してノウハウを共有するべき場所だと私は思っています。世界的に見て、ゲーム産業のトレンドは「ゲームの外のAI」にフォーカスがあたっています。QA(品質保証)やバランス調整などアカデミックとの連携も取りやすい部分です。そういう意味でこれまでと対照的な動きをしたいと思っています。
たくさんの研究テーマがあり、1社では無理なので、ノウハウを共有しつつ論文なども引用して進められればいいなと思っています。
奥村さん:この間のCEDEC2018で三宅さんと登壇をしたときのメインテーマが「QA × AI」だったんです。ゲームのQAはとても難しく、個人の能力に依存してしまう側面があります。QAというとデバッグや動作テストのようなものをイメージしがちですが、ゲームで品質といった場合には肌触りやUXなどが最後まで問題になるからです。
そうすると、どうしても作業が属人化しやすく、会社の独自ノウハウになってなかなか積み上がりません。業界の共通認識として、このような課題感があるのではないでしょうか。いろいろな会社が同じような開発をしても、車輪の再発明になって、コストだけがかさんでしまうこともあると思います。
0からスタートしたものが1になるまでに必要な知見を、このコミュニティで共有していけたらいいなと思っています。
偶発的な「飲み」が起きればいい
コミュニティの目指す姿を二人に伺いました。どんな議論が起きることを目指しているのでしょうか?
奥村さん:議論を方向づけるようなことは考えていません。前提として、最終的な理想としては、いろいろな会社がAIを当たり前のようにゲームに取り入れる世界ができればいいなと思います。そのような状態を実現するためには1社では難しいため、他社や他業種の方を含め様々な方が参加できるようになるといいですね。Slackやメーリングリストをあくまでも道具として、そんな世界づくりに寄与できれば嬉しいです。
三宅さん:ゲームAIの中心がわかりづらい現状なので、コミュニティをゲームAIの議論の中心に近い位置に置きたいと思います。
そしてあわよくば、偶発飲み会などが開催されるなど、ゲームAIの動脈となるような活動につながればいいなと思います。
奥村さん:もちろん将来的にはイベントやミートアップも開催したいとは思っています。しかし、大きいイベントでは表立ってノウハウや失敗談を発信できないこともあるかもしれません。
「今、こういうプロジェクトで困っているんだけど」という人に対して、会社が垣根を超えて集まって議論するみたいな偶発的な小さな飲み会などがあるといいなと思っています。実際、私はもともとデータアナリストをしていたんですが、社外のアナリストとの密な交流や議論に助けられたことはとても多いんです。最初は投稿者が少なくてもいいと思っていますが、少しずつそのようなつながりが生まれていくといいなと思います。
Slackのチャンネルはどんなチャンネル!?
このコミュニティでは特にSlackに力を入れているといいます。どんなチャンネルがあるのかを紹介していただきました。
Generalでは全体的な大枠の議論を進め、newsチャンネルなど他のチャンネルで個々の議論が行われるそうです。
奥村さん:GeneralでゲームAIについて、ざっくばらんな議論をしていることが多いです。最近はニュースのチャンネルを不定期につかっていますね。国内外の動きやニュースを議論しています。気づいたタイミングで記事を貼っておけば、あとで事例を集める際にも役に立つと思い、個人的には備忘メモ的に使っている側面が強いです。
技術的なところでは、キャッチアップが難しいTensorFlowなどについて技術情報を持ち寄るチャンネルが生まれたしています。途上ではありますが数人の方が積極的に発言してくれれば自然と機能していくと思います。
さいごに
「点の議論で終わらせない」という言葉が印象的なインタビューでした。ゲームAIにかかわらずAI関連のイベントは多数開催されますが、それぞれの議論はその場止まりの点で終わってしまうことも多々。
議論の中心となるコミュニティがあるだけで、それぞれのイベントが水面下で線となってつながっているような状態ができれば、国内でのゲームAIの議論がさらに活性化するのではないかと思いました。
偶発的な飲み会などが起きるのも素敵ですよね。オーガナイザーが主催するミートアップや飲み会以外の場所でも、悩みがある人の周りに助けられる人が集まる、これこそ理想的なコミュニティの姿なのかもしれません。
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