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日本国内でも多くのAI系スタートアップが誕生しています。それだけでなく、日本を代表するICT企業の多くが機械学習などAI領域の研究開発を進めています。
サイバーエージェントはAIの研究所(AI Lab)を設立し、AI技術の可能性を見極め、既存事業を加速させるために研究開発にあたっています。
今回はサイバーエージェントのAI Labの取り組みをご紹介します。
目次
サイバーエージェントの事業領域や売上
メディア事業を中心とした3つの事業領域
サイバーエージェントのAIの取り組みを紹介する前に、既存の事業や売上について確認しておきましょう。
サイバーエージェントは主に3つの事業を行っています。
サイバーエージェントはAbemaTVをはじめとしたメディア事業からtappleといったマッチングサービス、SHADOWVERSEなどのゲーム事業まで幅広く展開していて、主要関連会社だけでも50以上を抱える一大グループ企業です。
AI(人工知能)関連では、2018年4月2日にABEJAとの合弁企業CA ABEJAを設立し、広告クリエイティブの自動生成や小売業向けのAIプラットフォームの開発などを行っていることが特徴です。
インターネット広告を中心とした売上構成
サイバーエージェントグループの売上は、インターネット広告事業が半分以上を占めていて、事業の軸になっています。その上で、ゲーム事業が約35%を占め、インターネット広告事業とゲーム事業で全体の9割の売上を占めています。
半分以上の売上をインターネット広告で占めるサイバーエージェントでは、インターネット広告やデジタルマーケティング領域での研究開発を強めており、adtech studio(アドテクスタジオ)を設立しています。
そしてそのadtech studio内に2016年1月にAI Labを設置しました。
サイバーエージェント AI Labの取り組みまとめ
サイバーエージェントがadtech studio内に広告配信技術の研究・開発を目的に設立した設置したAI labでは機械学習やコンピュータビジョン、自然言語処理やHCI(Human Computer Interaction)の領域で研究開発が行われています。
人間とコンピュータが接するインターフェースに関する研究領域。人間と機械の相互関係などを研究する。
主な研究領域は以下の3つで、AIを既存のサイバーエージェントの事業領域で活かすための研究が行われています。
- 対話エージェント 自動対話技術
- 広告クリエイティブの制作支援と自動生成
- 広告の因果効果の分析
対話エージェント 自動対話技術
お問い合わせの自動化などWeb上のUXを向上する一つの手法としてチャットボットやロボットの接客対話技術が使われるケースが増えてきました。
AI Labでは、チャットボットやロボットの接客対話技術に関する応用研究が行われています。目指す姿は「ヒトが信頼したくなる対話エージェントの開発」で、自動応答や、情報のレコメンドなどの技術を開発しています。
また、この分野では大阪大学の石黒研究室と共同研究講座を運営することで、チャットボットなどの対話エージェントによる接客の自動化を研究しています。
また、チャットボットを活用した「怒り」の抑制に関する技術開発も行っており、チャットにおけるクレーム対応への活用を模索しています。
広告クリエイティブの制作支援と自動生成
コンテンツの生成に関する技術開発も行われています。AI Labでも動画や文章といったコンテンツ作成を効率化するための研究開発を行なっていて、人が担っているクリエイティブ制作をAIで支援しようとしています。
具体的には大量の広告クリエイティブデータを学習させることで、広告効果の高い要素を分析し、デザイナーへの制作支援や、機械学習を用いたクリエイティブの自動生成技術の実現を目指して研究開発を行っています。
また、画像だけでなくテキストの生成にも取り組んでいます。GoogleやYahoo!などの検索連動型広告(リスティング広告)におけるディスクリプションを、過去の実績を分析して生成する取り組みです。
<関連リリース>
広告の因果効果を高める研究
より良い広告クリエイティブを探しつつ配信する事で、広告の効果を高めてくれるバンディットアルゴリズム。
実はこのバンディットアルゴリズムは機械学習の側面だけでなく、実験設計としての側面や、バンディットの実行者や選択を与えられるユーザーのインセンティブが関わるメカニズムとしての側面をもっており、経済学とコンピュータサイエンスのの交差点として非常に面白い特徴を兼ね揃えた手法です。
このことからAILabでは経済学の考え方を使ってバンディットのログデータを解析する様な研究や、バンディットアルゴリズムそのものを拡張する様な研究を行い、広告配信AIのを強化する事に取り組んでいます。
また、他にも経済学の考え方を応用し、モバイルアプリで計測される欠測を含む位置情報データと、イベントにおける来場者データを用いて、実際の来場者数を欠測位置情報データから推定する研究も行っています。これにより、広告を配信したユーザのうち実際に来場したユーザの割合がわかり、広告効果の計測が可能になります。
<関連リリース>
- AI Lab、Yale大学・成田氏との共著論文「Efficient Counterfactual Learning from Bandit Feedback」が人工知能分野の国際会議「AAAI」にて採択
~広告配信AIのオフライン評価における、不確実性を減少させる手法を提案~ - AI Lab、慶応義塾大学 星野崇宏教授と共同研究を開始 新たな広告クリエイティブ選択アルゴリズムの研究開発へ
~バンディットアルゴリズムを拡張し、広告配信AIの最適化を目指す~
サイバーエージェントが進める産学連携
サイバーエージェントはAI Lab内だけでの研究開発だけでなく、外部との連携も強化しています。特に産学連携を推し進めており、大阪大学や理化学研究所などと共に研究にあたっています。
大阪大学 石黒教授(対話エージェントの実現)
2017年4月より大阪大学と「先端知能システム共同研究講座」を開設し、人と社会において調和的に関わることができる、ロボットを含めた対話エージェントの実現に向けて、研究開発にあたっています。
<関連リリース>
- 人工知能技術の研究開発組織「AI Lab」、大阪大学 石黒教授との共同研究講座にて、「チャットボットによる話者感情制御」に関する特許を共同出願
- 人工知能技術の研究開発組織「AI Lab」、大阪大学 石黒教授との共同研究 講座にて、東急不動産ホールディングスとの実証実験を実施
理化学研究所 前原先生(広告最適化の応用研究)
理化学研究所の前原先生とは、入札戦略を「制約を満たしながら目的の指標を最大化する最適化問題」として定式化し、リアルタイム入札(Real-Time Bidding)の配信技術において、ユーザーのブランド認知率を最大化するアルゴリズムなど、オークション理論・オンライン最適化などを用いた広告配信最適化などについて研究を行っています。
<関連リリース>
理化学研究所 山田先生(広告クリエイティブ画像の自動生成)
2018年から理化学研究所革新知能統合研究センター(AIP)の山田先生と共に、機械学習を使った広告クリエイティブ制作の支援や自動化技術を研究開発しています。
<関連リリース>
東京工業大学情報理工学院教授 岡崎直観先生 (広告キャッチコピーの特徴分析と自動生成)
サイバーエージェントで作成したキャッチコピーを中心とする大量のクリエイティブデータから、「広告効果と相関性のある表現の発見や、新しい訴求ポイントの提案」「コピーライターの特性分析を行う、広告キャッチコピー自動生成モデルの構築」に取組んでいます。
この研究で得られた知見は、サイバーエージェント内のコピーライターが創るオリジナルコピーの制作支援や、広告キャッチコピー自動生成システムの開発に応用していくことで、コピーライターやクリエイターにおける制作時間の大幅な削減に貢献し、ユーザーごとに最適化された広告クリエイティブを提供することを目指しています。
AI Labの中はどうなっている!?大学の研究室に近い環境
AI Labの中は大学の研究室に近い環境を整えています。研究グループごとに薄い壁で区切られており、大学の研究室のような雰囲気です。また、国内外の学会に参加したり、論文の執筆や、インターンの採用なども強化しています。
博士課程向けのインターシップ
博士課程の学生を対象としてテーマ選択型の特別研究サマーインターンシップを実施しています。報酬は月額50万円。現役のAI Labメンバーと共に技術課題に挑戦し、国際会議に論文を投稿するなど、活発に研究できることが特徴です。
企業研究所に特化したイベントを開催!
サイバーエージェントは、なかなか注目されない「企業研究」に特化したカンファレンス「CCSE」を共同開催しています。メルカリや楽天、サイバーエージェントなど、国内を代表するICT企業の企業研究所メンバーが登壇し、それぞれの研究所や研究内容の紹介を行うイベントです。
2019年も開催予定です。追ってお知らせいたします。
さいごに
今回はサイバーエージェントの「AI Lab」に注目して、活動内容をご紹介しました。既存の事業が整っている大手ICT企業にとって、AI(人工知能)領域への参入は、さらに事業スケールを大きくさせる起爆剤になる可能性があります。
サイバーエージェント AI Labは、インターンを高待遇で迎え入れ、産学連携を進めるなど、社外を取り巻きながら研究開発にあたっています。
最近では、AIだけでなく、関連技術での研究開発にも取り組んでいます。2019年1月には量子アニーリングなどによる最適化問題への共同研究を早稲田大学の田中 宗准教授と開始すると発表しています。
さらには、広告において重要なクリエイティブ領域の研究も強化しており、AI×クリエイティブの可能性にも取り組んでいます。
今後、アドテクがAIによってどのように進化するのか。サイバーエージェントのAI Labに注目です。
AINOWには多くのサイバーエージェント関連の記事が公開されています。気になった方はぜひご覧ください。
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