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FRONTEOは、2003年8月に「Risks and Opportunities(リスクとチャンスを見逃さない)」という理念のもと、設立されたAI開発企業です。
同社は、独自で開発したAI技術を用いて、ライフサイエンスやリーガルテック、ビジネスインテリジェンスなどの事業を手掛けています。
また、日米で上場を果たすなど、国内のAI開発企業でも特に注目を集めている企業です。
今回は、そんなFRONTEOの概要や事業内容を紹介しつつ、同社がいかにして現在の地位を獲得できたのか考察していきます。
目次
FRONTEOとは
企業概要
社名 | 株式会社 FRONTEO |
設立 | 2003年8月8日 |
所在地 | 東京都港区港南2-12-23 明産高浜ビル |
代表取締役 | 守本 正宏 |
役員 | 取締役副社長 池上 成朝 最高技術責任者/行動情報科学研究所 所長 武田 秀樹 管理本部長 CFO 上杉知弘 取締役 山本 麻理 |
社員数 | 181名(2020年3月31日時点) |
売上高 | 104億7069万円(2020年3月31日時点) |
資本金 | 25億6865万円(2020年3月31日時点) |
ビジョン
『Identify Risks and Opportunities』
エキスパートの知識、経験や判断を活用した最先端技術を駆使し、記録に埋もれたリスクとチャンスを見逃さないための最適なソリューションを提供することにより、法律、医療、金融、知財、教育、人事等の分野において、必要かつ適切な情報に出会えるfairな世界の実現によってもたらされる価値です。
出典:FRONTEO公式サイト
FRONTEOのビジョン「Identify Risks and Opportunities」は、直訳すると「リスクと機会を識別する(見分ける)」という意味になります。
後述で紹介する同社の事業内容や特徴を見ると、このビジョンがどのように体現されているか、詳しく知れるでしょう。
また、社名のFRONTEOは「Front(英)最先端+eo(ラ)前へ進む」から取っているほか、Frontier Technology Organization(進歩的かつ先端的な価値創造集団)の略という意味もあります。
社名やビジョンから、FRONTEOが最先端の技術を取り入れてチャンスを掴もうとする会社
であることが分かります。
沿革
2003年 | 8月 | 米国製フォレンジックツールの輸入販売を事業目的とした株式会社Universal Business Incubatorsを、資本金100万円で設立 |
2004年 | 8月 | 商号を株式会社UBICに変更し、コンピュータフォレンジック専門企業となる |
2007年 | 6月 | 東京証券取引所マザーズへ上場 |
12月 | UBIC North America,Inc.を設立 | |
2009年 | 12月 | 世界初のアジア言語対応電子証拠開示ソフトウェア「Lit i View」をリリース |
2011年 | 10月 | UBIC Taiwan, Inc.を設立 |
12月 | UBIC Korea, Inc.を設立 | |
2012年 | 3月 | 自社開発のAIをリリース |
2013年 | 5月 | 米国ナスダック市場へ上場(2020年2月に上場廃止) |
2015年 | 11月 | 独自開発した自然言語処理をベースとするAI「KIBIT」を発表 |
2016 年 | 7月 | 商号を株式会社FRONTEOに変更 |
2018 年 | 7月 | AIプロダクト「KIBIT」をベースとしたFAQシステム「KIBIT Find Answer」を提供開始 |
8月 | FRONTEOヘルスケア、AIのアプリケーション「Concept Encoder Articles」の提供開始 | |
11月 | AIによる特許調査・分析システムの進化版「Patent Explorer 19」の提供開始 | |
11月 | 独自開発のAIエンジンを進化 次世代版「KIBIT G2」の提供を開始 | |
11月 | FRONTEOヘルスケア、AI「Concept Encoder」を活用した新規医薬品候補探査技術を開発 | |
2019 年 | 3月 | AIレビューツール「KIBIT Automator」をリリース |
2020 年 | 2月 | 米国NASDAQ市場上場廃止 |
4月 | AIを利用した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するドラッグリポジショニングの研究を開始 | |
6月 | 児童虐待の予兆を早期に検知するAIを活用したソリューションの提供を開始 | |
7月 | 論文探索AIシステム「Amanogawa」の提供を開始 | |
8月 | OSINT (open source intelligence) の研究開始 |
株価
FRONTEOの株価は以下のようになっています。
2019年5月〜2020年5月までの約1年間、FRONTEOの株価は400円を下回っていました。
しかし、新型コロナウイルス感染拡大に伴って、株価は上昇。一時、株価は920円以上にもなりました。
ここ数ヶ月、FRONTEOの株価は600円〜850円の間を安定して上下しています。
事業内容
FRONTEOは、独自に開発したAIを用いて、さまざまなAIプロダクトやAIソリューションの開発に取り組んでいます。
プロダクト
FRONTEOは、企業のあらゆるシーンで人間の判断を助け業務効率化に寄与する「KIBIT」と、ヘルスケア領域に特化し医療や研究の発展に貢献する「ConceptEncoder」を独自に開発しています。
KIBIT
「KIBIT(キビット)」は、FRONTEOがAI関連技術のLandscapingと行動情報科学を組み合わせて独自開発したAIエンジンであり、FRONTEOの事業の中で最も注目を集めているプロダクトです。
人間の心の「機微」(KIBI)と情報量の単位である「ビット」(BIT)を組み合わせ、「人間の機微を学習できるAI」を意味しています。
KIBITの特徴は以下の3つです。
・人間の暗黙知を学習できる
KIBITは、テキスト解析において、キーワードだけに頼らず、専門家や勘の優れた人が備える「暗黙知」を再現できます。
従来のテキストマイニングや検索技術と一線を画した、独自の機械学習アルゴリズムを用いることで、小さな計算資源と少量の教師データによる短時間での解析が可能です。
また、異なる表現でも類似性や文脈を捉え、文章の特徴量を抽出できるなど、高い自然言語処理技術と実践的な結果を得られる点が高く評価されています。
・さまざまな分野に活用できる
KIBITは、もともと国際訴訟における証拠発見で、大量のテキストデータから証拠となるデータを見つけることを目的に開発されました。
しかし現在は、金融、知財、人事領域などのビジネスインテリジェンス分野、医療、製薬領域などのヘルスケア分野、ロボット領域など、さまざまなデジタルコミュニケーション分野に活用されています。
・少量の教師データで学習できる
KIBITは、単語の重要度を最適化する独自のアルゴリズム「Weight Refinement」を実装しています。
Weight Refinementは、「伝達情報量」による計算だけでは捉えられないデータの特徴を捉えられるほか、少ないデータでも十分なパフォーマンスを発揮する事ができ、大規模なサーバ環境を構築することなく学習できるという特徴を持っています。
これらの特徴を持つKIBITは、テキストから文章の意味を読み取り、人の暗黙知や感覚を学ぶことで、人に代わって判断や情報の選び方を再現することが可能です。
Concept Encoder
「Concept Encoder(コンセプトエンコーダー)」は、メディカルデータの利活用を実現するAIです。
言語をベクトルとして扱うことにより、EBMに欠かせない「統計学的手法」を自然言語解析に導入できます。また、遺伝子発現情報など言語以外のデータとの共解析もできます。
Concept Encoderの特徴は以下の3つです。
・EBM(根拠に基づく医療)を実現
医療・ヘルスケアの分野では、根拠のない間違った情報に基づいて行った対応が、ときに健康に重大な不利益をもたらす可能性があるため、正しい情報を慎重に選択しなければなりません
そのためConcept Encoderは、EBM(根拠に基づく医療)を重視し、結果を出す過程をブラックボックス化しないために、「客観性」「透明性」「再現性」を実現しています。
・文書内の単語の共起を学習して、ベクトル化
Concept Encoder は、複数の文書間での形態素(言語で意味を持つ最小の単位)の出現頻度を評価する解析法のうち、「単語と文書のベクトル化」という手法を用いて、テキストの特徴を数値化しています。
ある単語が文章に出たとき、その文章中に別の限られた単語が頻繁に出現することを「共起」といい、ベクトル化はこの共起関係を行列で表すことで数値的な解析を行います。
つまり、共起関係を数値で表し、明らかにすることにより、言葉の意味を定義しなくても、関連性や重要性の差を見つけられるのです。
・単語の共起・構成、形態素の構成をまとめて解析
Concept Encoder は文書内の単語の共起を学習して、ベクトル化を行うところから始まります。
通常のベクトル解析では、文章と単語を別々に求めたうえで、関連性を求めるという手法が取られることがありますが、Concept Encoder では、単語の共起・構成と、文章の形態素の構成をまとめて解析することが可能です。
またFRONTEOは、この技術で特許を取得しています。
このような特徴があるConcept Encoderは、「診断支援」「ライフサイエンス業務支援」「製薬業界支援」など、ライフサイエンス・インダストリーの幅広い領域で運用を開始しています。
AIソリューション
FRONTEOは、「リーガルテックAI」「ビジネスソリューション」「ライフサイエンスAI」「OSINT」の分野でAIソリューションの開発に取り組んでいます。
リーガルテックAI
「リーガルテック(LegalTech)」とは「法律(リーガル・Legal)」と「技術(テクノロジー・Technology)」を組み合わせた造語です。
FRONTEOは、リーガルテックAIの開発に力を入れており、主に4つのソリューションを提供しています。
・国際訴訟eディスカバリ支援
アジアにおけるeディスカバリ総合支援企業のパイオニアとしてデータの特定、保全からデータの処理、ドキュメントレビュー、提出データ作成にいたるまでワンストップサービスを提供しています。
・不正検知フォレンジック調査
フォレンジック調査のリーディングカンパニーとして、顧客のもとで起きている問題点について把握し、最も効果的でコストパフォーマンスの高い調査を行っています。調査はPC・スマートフォンをはじめとする各種デバイス・システム内のログファイル、ビックデータ解析まで多岐にわたり対応可能です。
・官公庁・法執行機関向けソリューション
日本におけるデジタル・フォレンジック分野のパイオニアとして、創業以来、フォレンジック調査だけでなく、ソフトウェアの製造、販売、サポート、トレーニングを提供しています。
国際訴訟対応と不正調査では、計10,000件以上もの豊富な実績があり、警察機関をはじめとした法執行機関向けにデジタル・フォレンジックツールの導入やトレーニングも行っています。
・平時ソリューション
有事への発展を防ぐために、独自開発のAIプロダクトKIBIT(キビット)を活用して、人的リソースやノウハウがない環境でも不正行為を未然に防ぐための提案を行っています。
また、平時からデータの管理や監視、または保管を支援するソリューションを提供するほか、不正行為の事実発覚から案件を収束させるまでのサポートはもちろん、事後のコンサルティングも行っています。
ビジネスインテリジェンス
FRONTEOは、創業事業であるリーガルテックビジネスで培ったAI技術を活かして、人事、知財、法務、労務など、さまざまなビジネス分野の作業効率化に役立つソリューションを提供しています。
また、メール・チャットの監査、特許調査・分析、ビジネスデータの分析、VoC(顧客の声)からの不満の予兆を捉えて顧客満足度向上につなげるなど、さまざまな分野で役立てられています。
▼ビジネスインテリジェンスの導入事例はこちら
ライフサイエンスAI
ライフサイエンスAI事業では、医療・介護の現場に存在する様々な構造化・非構造化データの横断的解析を行っています。
前述で紹介したAIプロダクトの「Concept Encoder」により、従来の構造化データの分析だけでは見えてこなかった事象を発見することが可能となり、さまざまな可能性が誕生しています。
▼ライフサイエンスAIの導入事例はこちら
OSINT
OSINTとは、「オープン・ソース・インテリジェンス」の略で、一般に公開されている情報を基に機密情報などを収集する手法を指します。
FRONTEOは、「KIBIT」と「Concept Encoder」を活用し、膨大なデータの中からユーザにとって意味のある情報を抽出するソリューションを開発してきました。
そこで培った自然言語処理技術と独自開発のAI技術を応用しOSINT研究に取り組み、経済安全保障および組織・団体の戦略的思考決定に寄与できるソリューションを開発しています。
解析の際は、有価証券報告書や新聞・雑誌、SNSなどの多様な公開データをAIによって絞り込み、関係性を発見します。
それにより、以下のようなサービスを提供しています。
- 企業モニタリング
主要国の企業の動向、持ち株による影響力分析 - 人物モニタリング
組織・団体における人事モニタリング、要人間のネットワークや企業との関係の分析 - SNSデータ分析
民意のウォッチ(世論の変化の予兆を検知) - サプライチェーン分析
サプライチェーン上に問題企業がないか、サプライチェーンのチョークポイント検知
FRONTEOの特徴
これまでFRONTEOの概要や事情内容について紹介してきました。
ここからは、FRONTEOの特徴をご紹介しつつ、具体的に同社の何がすごいのか、どうやって現在のポジションまでたどり着けたのか考察します。
徹底したセキュリティ環境
FRONTEOは、顧客がデータを安心して預けられるよう、セキュリティ環境の構築と維持を徹底しています。
具体的には、4つのポイントからデータの安全性を確保しています。
- 機密性
作業エリア・調査エリアは、アジア圏最大の処理能力を有し、アメリカ(東海岸、西海岸、中西部)、韓国、台湾、フィリピンなどの海外拠点と24時間365日連携して、スピーディに顧客をサポートします。入室は制限されており、入退室は生体認証システムで管理されています。 - 4カ国のデータセンター
日本・アメリカ・韓国・台湾の4カ国にデータセンターを保持し、自国内でデータを保管することが可能なため、米国を含む海外当局による強制的な情報開示や、不用意な情報漏えいのリスクを回避できます。 - 事業継続計画の策定
自然災害や火災などの緊急事態が発生した場合にも、損害を最小限に抑え、事業の継続・早期復旧を可能にするための事業継続計画を策定し、短期間で平常業務へ復帰する体制を構築しています。 - ISO27001(ISMS)取得
FRONTEOは、ISO27001認証を取得しています。ISO27001とは、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際標準規格のことです。
このような、徹底したセキュリティ環境があるからこそ、FRONTEOは「日本マイクロソフト」などの大企業を含む、多くの企業と協業できているのでしょう。
また、その信頼性の高さと実績の豊富さから、官公庁・法執行機関や多くの大企業を顧客に持っています。
グローバルな事業展開
FRONTEOは、米国・韓国・台湾ほか海外に11拠点を持っており、グローバルに事業展開を進めています。
そのため国際対応力が高く、多様な人的ネットワークを活用し、案件調査に必要な連携を取ることが可能です。
言語ではAIエンジン「KIBIT」日中英韓の言語の対応が可能で、また各案件の言語に合わせてネイティブスタッフが対応する環境も整っています。
また、FRONTEOは2007年6月に東証マザーズに上場し、2013年5月には、米国市場NASDAQへの上場を果たしました(2020年2月にNASDAQは上場廃止)。
日本企業の中で、日本と米国の両方で上場する企業の数は非常に少ないことから、いかに同社が大きな規模でグローバルな事業展開を行っているかが分かります。
最新のAI技術を独自で開発
FRONTEOが開発しているAIアプリケーションは、四半期に一度、新バージョンのリリースを行っており、ビジネス向けのサービスとしては凄まじいスピードで進化を続けています。
そのようなスピードで最先端のAI技術を自社開発しているFRONTEOは、社員にとって挑戦・成長できる非常にいい環境です。
また、同社のAI開発に関する技術力は高く、行動情報科学に裏づけされたテクノロジーがそれを支えています。
FRONTEOのテクノロジーを生み出す行動情報科学研究所では、日々、自社開発ソフトウェア「Lit i View」と人工知能「KIBIT」製品の開発が行われています。
FRONTEOの将来性
結論から言うとFRONTEOの将来性は十分あると言えるでしょう。
FRONTEOは、日本にほとんどない事業スキームを作成しているため競合が少なく、リーガルテックなどの事業内容も一定の需要があるからです。
また、FRONTEOが開発に最も力を入れているAIプロダクト「KIBIT」は、幅広い業種へ導入できるほか、少量の教師データで動くことによる機動性の高さも兼ね備えています。
そのため、今後もKIBITは、さまざまな分野に応用されていくことが予想されます。
さらに、同社がヘルスケアに力を入れている点も、将来性を測る上で大きなポイントです。
現在、FRONTEOは、ライフサイエンスAIの分野で武田薬品と創薬支援AIシステムのライセンス契約を締結しているほか、共和薬品と認知症診断支援システムに関する事業提携を結んでいます。
近年、高齢化や新型コロナウイルスの蔓延により、国民の健康意識が高まっていることを考えると、ヘルスケア領域は需要が増す分野だと言えるでしょう、
実際、明治安田生命が2020年9月に発表した「健康に関するアンケート調査」では、約54%の人がステイホーム・コロナ禍を機に「健康の意識が高まった」と回答しました。
今後も国民の健康意識が高い傾向が続けば、FRONTEOのヘルスケア事業に、より一層注目が集まるかもしれません。
FRONTEOの採用情報
募集職種
現在FRONTEOでは、以下の業種・職種で中途・新卒採用を行っています。
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応募概要
【試用期間】
3ヶ月 |
【給与】
会社規定により決定
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【福利厚生】
(管理職層以外には以下の手当てがつきます)
※契約社員は通勤手当・社会保険完備 |
【休日】
◇年間休日127日 |
【採用フロー】
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まとめ
今回は、AI開発企業「FRONTEO」について紹介してきました。
いかがだったでしょうか。
FRONTEOは、独自のAIを開発して売上100億円を達成している素晴らしい企業です。
多数の大企業を顧客に持ち、業務提携を行っている同社は、今後もその実績と信頼を積み上げていくと思われます。
特に、力を入れているヘルスケア分野とリーガルテック分野は、これからどのように進化していくのかが気になるところです。
グローバルな事業展開も含め、期待が高まるFRONTEOに目が離せません。
ThePlayersシリーズでは、AI企業にフォーカスした記事を書いています。さまざまなAI企業を比較することで、成功するAI企業の法則が見えてくるかもしれません。
▼前回のPlayers『PKSHA Technology』はこちら
◇AINOWインターン生
◇Twitterでも発信しています。
◇AINOWでインターンをしながら、自分のブログも書いてライティングの勉強をしています。