SDGsの注目が高まる中、日本政府もG20サミットにて2050年までに温室効果ガスの排出量を実質0にする公約を結んでおり、世界のエネルギー政策は再生可能エネルギーへとシフトしています。
特に、燃焼時の二酸化炭素排出量が多く、資源が限られている化石燃料は、エネルギー供給の削減を強いられています。その中で、石油を扱う企業はどのような変革を行うのでしょうか。
今回は、石油元売り業界にて日本のエネルギー転換を牽引する、コスモエネルギーグループを取材しました。
インタビュイー
コスモエネルギーホールディングス
執行役員 CDO コーポレートDX戦略部長 ルゾンカ 典子氏
コスモ石油マーケティング
リテール部 カーライフスクエア事業グループ長 吉岡 秀晃氏
コスモ石油マーケティング
次世代事業推進部 地域エネルギーグループ長 吉村 卓一氏
コスモエネルギーホールディングス
コーポレートコミュニケーション部 広報グループ長 舛本 匡秀氏
※2022年3月の取材当時の役職にて記載
目次
「Oil & New」|コスモエネルギーグループが掲げるエネルギー戦略とは
ーー「Oil&New」とはなんでしょうか。
舛本氏:Oil&Newは、コスモエネルギーグループが2018年度から2022年度を対象に策定した第6次連結中期経営計画におけるスローガンです。
Oilは本業である石油事業の競争力を強化すること、Newは次世代を見据えた事業の成長をさしています。
石油事業の強化については、石油事業は無くならないとは思いますが、脱化石燃料の動きが進んでいることもありますので、化石燃料を原料・素材として扱うことを推進し、石油化学製品分野での成長を目指しています。
そして、次世代を見据えた事業については、風力発電を軸とした再生可能エネルギー事業、DXに必要であるデータを扱う技術、次世代の事業に対応した人材育成に力を入れています。
また、既存事業のDXについても積極的に推進しています。
コスモエネルギーグループで行っているDXとは
ーーコスモエネルギーグループでは、どのようにDXを推進しているのでしょうか。
ルゾンカ氏:5年ほど前にはDXという言葉は流行していなかったものの、物事を効率化しようという取り組みは進められていました。しかしながら、その効率化はそれぞれのプロジェクトの中でのみ行われており、プロジェクトを横断的に考えることがありませんでした。
現場の声を聞いてみると、みなさんが色々な夢を持っていて、それらを実現するためには、プロジェクトを横断的に見る必要がありますので、社員全員が参加するプロジェクトを始めています。
これを始めると、グループ全体で本当にさまざまな役割があることが見えてきて、会社ごとではなくグループ全体でオーケストレーションを進めなければいけないと意識するようになりました。
ーー具体的にどのようなことを行っているのでしょうか。
ルゾンカ氏:コスモエネルギーホールディングスは2021年11月に「コーポレートDX戦略部」を新設しました。
コーポレートDX戦略部では、各部署を横断的にサポートする今までにない形を取っており、社内全体と連携しながらDXを推進しています。
各部署では、それぞれ違う視点のビジネスに対する知見があり、ニーズがどこにあるか分かっているケースが多いので、どのようなデータが必要で、どのように扱うのか、というデータの使い方を積極的に共有しながらDX活動をサポートするようにしています。
ーーDXの流れを受け、コスモエネルギーグループ自体に変革はあったのでしょうか。
吉岡氏:コスモ石油マーケティングでもデジタル化は以前より進めていたのですが、DXという言葉を意識するようになったのは最近です。
昔と比べるとサプライチェーンやガソリンスタンドなど、細部までDXを推進するのが必然的になったと感じています。
しかし、コスモ石油マーケティングの知見だけではどうしても手が届かない部分、出ない発想がありますので、今回コーポレートDX戦略部にルゾンカさんが着任したように、以前と比べ外部との連携を強化したのが変革した点だと思います。
ガソリンスタンドの新しいカタチ|「デジタルステーションシステム(DSS)」
ーー「デジタルステーションシステム(DSS)」について説明をお願いします
吉岡氏:DSSは、サービスステーションを対象としたシステムです。
具体的には、お客様が来店された際に、顧客管理DBや、お客様のカードの利用データ、店舗のデータ、さらに国土交通省のデータなどから、そのお客様がどんな商品を購入する確率が高いのかをAIが判断し、スタッフのデバイスへ接客のアドバイスの通知がいくようになっています。
購買履歴やメーター、オイル、バッテリーの交換データなどさまざまなラベルで、2.7億件ほどのデータを使用して開発しました。
ーー開発する際に、苦労した点、課題となった点はありますか?
吉岡氏:コスモ石油マーケティングの提供しているサービスで、ガソリンの販売の他に車検やカーリース事業があるのですが、多くが一度の相談では購入まで行かず、長い場合3ヶ月から半年の相談を経て平均4回の相談のうえで、購入されるのですが、そういったプロセスを追い続けるのが大変でした。
また、課題点としては、Microsoft PowerBIを導入してスタッフの仕事量などを視覚化しているのですが、スタッフが成果を実感するのはお客様が商品を購入したタイミングなので、普段の仕事量を視覚化されても中々実感が湧かない、という点がありました。
ーーどのように課題を解決したのでしょうか。
吉岡氏:課題の解決に向けて、お客様が成約まで至った際にそのお客様とこれまで関わった全てのスタッフのデバイスに「Congratulation」と通知がいく機能を実装しました。
これまでは、成約に至った際のスタッフのみが評価されていましたが、成約までには複数回の相談を経ているので、そこまでに関わった全てのスタッフを評価するように改めました。
さらに、成約の際にそれまでに関わった全てのスタッフの名前を上長に報告する工夫も行っています。
これらの機能で、現場のスタッフに成果の実感を持ってもらえるようにしています。
他社ではできないDXパッケージ|「コスモ・ゼロカボソリューション」
ーー「コスモ・ゼロカボソリューション」について説明をお願いします。
吉村氏:コスモ・ゼロカボソリューションは、再エネと電気自動車を組み合わせた脱炭素パッケージです。
具体的には、自治体や企業向けに、コスモエネルギーグループの強みである、風力発電由来の電力と電気自動車のリースを軸に、CO₂排出の主要要因である電気と車の脱炭素化をワンストップで提供します。さらに、太陽光パネルの設置オプションやAIを活用した使用電力のピークシフトなどのサービスも提供しています。
ーー使用電力のピークシフトはどのように行うのですか。
吉村氏:高圧の電気は、ピーク時の電力使用量が多いほど料金が上がります。
そこで、例えば利用した電気自動車が帰着してもすぐに充電を開始するのではなく、システムに次の予約が入っていない場合は、施設の電力使用量のピーク時間帯を避けて夜間に充電するようにコントロールします。
ーー開発に至った経緯を教えてください。
吉村氏:世界的にカーボンニュートラルを目指しているなか、日本も2050年に温室効果ガス実質ゼロ、2030年までに46%削減という中間目標を掲げています。
これは目標としては相当高く、達成する為には今すぐオールジャパンで取り組まなければなりませんが、一般家庭にグリーン電力や電気自動車が普及するには長い時間が掛かるでしょう。
そこで、2050年までの最初の10年のメインターゲットに自治体を定め、CO2排出の主要要因である電気と車を、ワンストップで脱炭素化するソリューションを開発しました。
ーーDXについて今後の展望を教えてください
ルゾンカ氏:私達は、新規事業や既存事業の改善について色々なことを考えているのですが、DXについては新しい知識や技術を身につけていかなければなりません。それを進めるサポート役を、コーポレートDX戦略部が担っていきます。
新しい挑戦の後押しをしながらも、安全な操業も意識しないといけないので、そこをどうバランスを図っていくかがこれからの課題だと考えます。
また、グループ内にはそれぞれ性質が異なる様々な事業がありますので、一歩下がって俯瞰しながら、その視点を社員一人ひとりに持ってもらうために、データの使い方の共有や基盤の整備などを地道にすすめ、全社でDXを推進していきます。
さいごに
化石燃料がエネルギー供給の削減を求められている中で、エネルギー転換をいち早く行っているコスモエネルギーグループですが、DXの面で新技術を取り入れつつ、既存事業の強化、新規事業の立ち上げを行っており、DX推進が押し進められる現代でモデルケースとなるような企業だと感じました。
また、DXは業務の効率化のみが注目されがちですが、スタッフの働きがいの部分にもフォーカスしており、DXのさらなる可能性を感じる内容でした。
ぜひ、コスモエネルギーグループの今後に注目して下さい!