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外出自粛によりECサイトでの購入が増えたり、家で過ごす楽しみが定着したり、消費者の価値観が変わってきました。
しかし、流通・小売業界はその影響で大きなダメージを受けています。
この記事ではニューノーマル時代において、小売業の現状と今抱える課題について解説し、対策および今後の展望も紹介していきます。
目次
流通・小売業の現状
まず「流通・小売産業」の定義を見ていきましょう。「流通産業」は、狭義で小売業と卸売業を総称したものです。小売業は、卸売業などから仕入れた商品を一般の消費者に直接販売します(小売り販売)。
卸売業はメーカーから商品を仕入れて、複数の小売店に販売します(卸売り販売)。簡単に言い換えると、「流通産業」は商品の生産者と商品の消費者の間にある存在だということです。
流通業界の例を挙げると、百貨店、コンビニストア、スーパー、家電大型店、ドラッグストア、ホームセンターなどがあげられます。
例で示されたように、小売業は個人消費の大きな支出先のため、人口動態、世帯構成、所得、ライフスタイルの変化によって直接的な影響が出る業界です。
国立社会保障・人口問題研究所が発表している「人口・年齢構成推計(出生・死亡中位)のデータ」によると、2015年から2030年で最も消費性向の高い15歳~64歳人口は852.8万人減少し、逆に65歳以上の人口は329.2万人増加すると予測されています。
この予測をみると、現状では人口減少の影響はそれほど大きくないものの、今後10年という期間でみると小売業にとって大きな影響が出ることは明らかです。
そのほか、社会環境の変化、デジタル技術の進化に伴い、世界的に小売業に大きな変革が起きています。テクノロジーは、流通業の経営や現場業務に浸透しています。
例えば、AIを用いて、より付加価値の高いパーソナルな顧客体験の提供や生産性の向上を目指し、自動的に在庫調整など実業務にも活用しています。さらには、RaaS(Retail as a Service)のように新たなビジネスモデルを立ち上げる流れも出てきました。
このように流通小売業界は、「社会環境」や「生活スタイル」や「消費マインド」の変化とともにさまざまな業態を開発しながらも、短期間のサイクルで目まぐるしく変遷し、成長・進化・衰退を繰り返しています。
流通・小売業界が直面している課題と対策する方法
現在、少子高齢化による人口縮小や可処分所得減少により、「物を売る」という完全的な小売業だけに固執していると企業のさらなる成長が難しいのは明らかです。すでに数多くのチャレンジがはじまっていますが、完全的な小売業からECへの展開、そしてECとのシナジーを産む新しいビジネスに更に注力していく過程のなかで、さまざまな課題も現れています。
ここからは、流通・小売業界が直面している4つの課題を挙げ、それぞれに対してどのような解決方法があるかを説明していきたいと思います。
消費者ニーズの変わり
小売業者にとっては、時代と共に変わっていくニーズに応えられるかどうかも重要な課題となっています。例えば、「モノを所有する」ことから「モノを利用する」ことが当たり前になってきているのは、現代社会の大きな特徴でしょう。
特にデジタル分野の発展が、小売業業界に大きく影響を与えています。今まで消費といえば、消費者がお店に足を運んで商品を購入するというパターンが主流でした。しかし、今ではオンラインショップで気軽に買い物ができます。
そのため、実店舗にウィンドウショッピングするお客様が増える背景の中で、実店舗での売上が減少しているのです。実店舗への客離れが深刻になっていく中、従来どおりの小売ビジネスでは成長を遂げることが難しくなっています。小売業者も生き残りをかけるために、常に消費者のニーズを把握してサービスを展開しなくてはいけません。
対策:オフラインとオンラインの融合
かつて小売業界では「オンライン」と「オフライン」は激しいライバル関係でした。しかし、顧客エンゲージメントとリテンションの向上、また、顧客の新たなニーズがどんどん変わっていく中で、両者の境界線が薄くなってきました。オンラインからオフライン、もしくはオフラインからオンラインに誘導するマーケティング施策や双方が融合したビジネスモデルの時代がきています。
①オムニチャンネル
スマートフォンが普及し、ECサイト全盛期とも言える現代ビジネスでは、顧客との接点が非常に多様化しています。その背景の中で、今でもすでに多くの小売業が実施している施策の「オムニチャンネル」は、米大手百貨店のMacy’s(メイシーズ)が初めに取り組み、世界中で広まりました。
オムニチャネル戦略では実店舗やWebサイト、ECサイト、アプリケーションなど、販売と流通にかかわるあらゆるチャネルを統合して、総合販売チャネルを作るのが特徴になります。その結果、顧客はどのチャネルからも同じように商品を購入したり、サービスを利用できたりするのです。つまりオムニチャネル戦略とは、それらのタッチポイントを統合的に管理して、一貫性のあるサービスを提供するためのデジタル戦略だと言えます。
日本でオムニチャンネル成功した事例の一つは、無印良品「MUJI」です。
無印良品のオムニチャネル化はアプリ「MUJI passport」が入り口となっています。当アプリでは無印良品商品のニュース配信や在庫検索などの機能を搭載し、実店舗を訪れるだけでポイントが加算されるマイレージプログラムを搭載することにより、実店舗への流入数を増やしています。
また、MUJI passportをインストールしたスマートフォンを所持して店舗の600m圏内に入るとマイルが溜まるチェックイン機能も搭載し、チェックインした場所や時間帯に応じてクーポンや最新情報が受け取れます。
②OMOビジネスモデル
スマートフォンや決済などのデジタルプラットフォームの普及に伴い、快適な買い物体験をオンラインで提供するだけでなく、オフラインとの連携をスムーズにすることでよりオフラインのようなリアル的な顧客体験につなげる需要が高まりました。その背景の中で、元GoogleチャイナのCEO、現在シノベーションベンチャーズを率いる李開復(リ カイフ)がOMOを提唱し始め、「OMO戦略」が生まれました。
OMOとは、「Online merges with Offline(オンラインとオフラインの融合・併合)」を略した言葉で、主に小売業界で近年注目されているマーケティングのあり方の一つであり、ビジネスのスタイルでもあります。
OMOビジネスモデルの中で、今までオンラインとオフラインでバラバラに管理され、別々のマーケティング施策に利用されていた顧客データが、スマートフォンや各種センサーを活用することで、「店舗で購入した」顧客のID・情報と「オンラインストアで購入した」顧客のID・情報を連携できるようになります。
このように「店舗とオンラインショップの顧客データ一元化」のほかに、「オフィシャルサイトとオンラインショップの統合」「基幹システムとの商品・売上連携」「WMSとの在庫・出荷連携」「CMSとの投稿データ連携」「検索エンジン連携」などがあげられます。
また、AIを用いて同じ人物の行動として分析することで、オンラインストアでお気に入りに登録した商品が置いてある店舗の近くを歩いていると、スマートフォンでプッシュ通知が届くなど、より顧客満足度が高いサービスを提供することで顧客体験向上の効果があります。
OMO戦略を実行して成功した事例ととして、サントリーが東京・日本橋で手掛けるコーヒーショップ「TOUCH-AND-GO COFFEE」がその一つです。
「ちゃんと選べてすぐ受け取れる」をキャッチコピーにLINEからの事前予約と事前決済で自分の好みの味のコーヒーを作れるのです。
まず自分の好みに合わせてカスタマイズしたサントリー「BOSS」ブランドのボトルコーヒーをLINEで事前に注文しておき、そして指定した時間に受け取り用のロッカーに出来あがったコーヒーを取りに行きます。受取時間は5分単位で選択でき、支払いはクレジットカードまたはLINE Payで行います。味やラベルのカスタマイズが可能で、並ぶことなく商品を受け取れることから多くのユーザーに支持されています。
人手不足
農林水産省が平成30年発表した「卸売業・小売業における働き方の現状と課題について」のレポートによると、小売業の欠員率は食品製造業をも上回る水準となっており、深刻な人手不足の課題に直面しています。特に「営業・販売」、「流通・運搬作業」、「商品生産(単純作業)」で労働力不足が見受けられます。
労働人口の減少によって、業務効率化による働き方改革が叫ばれる中、デジタル化の波は流通・小売業界にも押し寄せています。
対策:顧客接点は有人化、単純作業は無人化
これからのリアル店舗の生産性向上は、顧客との接点は人間が丁寧に保ちながら、接客を強化する必要があります。一方、顧客接点以外の単純作業は、徹底的に省人化・無人化を進めるべきです。顧客接点は有人化、それ以外は無人化の二面作戦が、これからの小売・流通業の生産性向上のロードマップです。
つまり、リアル店舗の「スマートストア化」が必要です。ITの進化、IoT社会の到来で、リアル店舗の「売り方」や「作業」は大きく変わっていくことでしょう。「キャッシュレス店舗」、「カメラを活用した購買行動の可視化」「カメラを活用した欠品の可視化」、「サイネージ広告」「電子棚札を活用したダイナミックプライシング」など、リアル店舗の売り方と作業は大きく変化していきます。
その他に、無人ロボットの活用も注目されています。例えば、2017年に池袋パルコで自走式案内ロボット「Siriusbot」を導入した成功事例があります。営業時間中は会話またはタッチパネル操作で来店客に施設情報を案内し、自走して目的地まで案内を行いました。さらに閉店後は、テナント店舗内で商品に付けられたRFIDタグを読み取り、無人で在庫を確認することでスタッフの負荷軽減を図りました。
この「Siriusbot」は、2019年末に東京ビッグサイトが実施した実証実験においても、案内ロボットとして採用されており、日本語・英語・中国語・韓国語に対応していることから、外国人客向けの案内対応用途でも期待されています。
非効率的なサプライチェーンマネジメント
サプライチェーンとは、経済市場において原材料の仕入れや加工を経て最終消費者に届くまでの供給の一連の流れを指す言葉です。
サプライチェーンの概念を押さえておく上で、重要になるのが「サプライチェーンマネジメント(Supply Chain Management)」という考え方です。サプライチェーンマネジメントとは、商品が消費者に渡るまでの生産・流通プロセスのことです。商品が消費者の手に渡るまでの「過程」と「情報」を適切に管理し、企業活動の最適化を図ることこそが、サプライチェーンマネジメントの目的であり本質だといえます。
しかし、多くの日本企業が、グローバル化やプライベートブランドの強化等により複雑化するサプライチェーンにおいて、サプライチェーン情報のデジタル化やサプライチェーン計画の高度化などの課題を抱えています。
「プライベートブランド(PB)とは、コンビニやホームセンターといった小売店や小売店に商品を卸す卸売業者など本来自ら商品を企画・生産しない業態の企業が独自のブランドを付け販売している商品のことです。」
また仕入れたものの、販売に結びついていない商品が在庫として積み上がる「過剰在庫の発生」は、大きな課題の1つです。一方、消費者の求めている商品が、必要なときに在庫として存在しない場合、欠品が起きます。それは消費者のニーズが見えていないために、適切な品ぞろえが分からないことも課題となっています。
このように多くの小売企業は非効率的なサプライチェーンマネジメントが続き、無駄なコストと人件費がかかってしまうため、売り上げの伸びが悪化しています。
対策:テレマティクス・ロジスティクス・IoTの導入
流通・小売業のIT化が進む中、サプライチェーン部門における業務の見直しにITが活用されるケースが増えています。例えば、テレマティクスを通じた輸送とロジスティクスの最適化など、IoTの導入による業務効率化などです。。
最適なサプライチェーンの構築、運用管理を実現するには5つのステップが必要です。
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このように仕入れから加工・製造・運送・販売にいたるまでの各工程に関する情報を一元管理することで、サプライチェーンマネジメントの効率性を向上が期待できます。
流通・小売業今後の展望
これから環境変化によるリスクや生活スタイルの変化、購買スタイルの変化が進んでいく中で、流通・小売業今後の展望について説明したいと思います。
海外市場へのグローバル出店への基盤づくり
日本では10年後の2026年頃から人口減少が加速し、2048年頃には、1億人を割り込むことが想定されます。このように、総人口の減少による市場規模縮小の対応策として、人口増加が期待できるアジア諸国へのグローバル出店戦略が挙げられます。
ここで先進事例としてあげられるのは中国や東南アジアで急速に数を伸ばしてきているイオンモールです。デロイトトーマツグループの「世界の小売業ランキング2020」レポートによると、トップ250の中で、イオンは13位にランクインしており、同ランキングの中の日本企業では最上位に君臨しています。7期連続で日本小売業の営業収益No.1を達成しており、イオンは名実ともに日本の小売企業の第1位です。
イオンは2019年に、中国・アセアンを中心に海外出店を強化し、2025年には海外70モール体制を目指すと発表しました。
2020年2月期第2四半期の連結決算によると中国・アセアン事業の営業収益は241億5900万円(11.7%増)、営業利益は43億5200万円(約13倍)となっており、旺盛な消費意欲と人口ボーナスの効果で、日本国内を大きく上回る伸びを見せています。
また、イオンは海外進出の際に、エリアでのブランド価値を高める戦略で功を奏しています。例えば、ベトナムやインドネシア、カンボジアなどのASEANに出店の際は飛び地で出店せずに地域集中型の出店でエリアの認知度を高めています。
さらにショッピングモールとしての出店に留まらず、エンターテインメント施設としての出店を試みるなど、日本とは異なるアプローチで利益を拡大し続けています。
このように、イオンは日本のモデルで出店するだけでなく、その地域や国に合わせた基盤づくりが海外進出成功のカギとなっているのでしょう。
新規業態の研究・開発への挑戦
流通・小売業界で生き残るためには、新規ビジネスモデルへの研究や挑戦が欠かせません。
その中でも、販売アプローチの変革は特に重要です。例えば、中国から誕生した「ライブコマース」、ユーザーとインタラクティブに繋がることが可能な新たなECの形として、中国では既に一般的な販売手法となっていますが、日本ではまだ普及していません。
「ライブコマース」とは、ライブ配信とECを組み合わせた新しい販売形態です。ライブ配信に参加したユーザーがすぐに商品を購入できるようになっており、専用のプラットフォームもしくは自社のECサイトやSNSアカウント上で配信しながら接客も行います。
ライブコマースの長所は、コメント機能を活用してリアルタイムで質問できるということです。消費者はコメントで質問することにより、商品の特徴を詳しく知れます。また、映像で使用感や雰囲気を確認できるため、直感的な購買意欲を逃さない点もライブコマースの特徴です。
ライブコマースはライブ動画という特別感や親近感、一体感が強みであり、単にECサイトで購入するだけでは得られない体験を作り出すことが可能です。ブランドに詳しいプロの方が動画配信する以外、より多くの集客を集めるために、インフルエンサーや有名人を招待して宣伝するケースもあります。
今後、5Gの登場によって日本国内でも更にライブ配信のビジネス利用が加速していくでしょう。ビジネスモデルの研究が欠かせない流通・小売業者にとって、ライブコマースのような新しい販売形態は、今後のキーポイントになっていくかもしれません。
流通・小売成功事例
Zoff
大手メガネブランド「Zoff」を運営する株式会社インターメス ティックは、メガネに新たな価値を生み出そうとしています。これまでメ ガネは、単なる視力矯正器具にすぎませんでした。しかし同社は、メガネを人間のパフォーマンスを向上させるためのアイテムにするべくZoff Eye Performance Studio(以下、ZEPS)」を設立し、メガネの新しい価値創出に取り組んでいます。
Zoffは、まず自社のECサイトを立ち上げてオムニチャンネルを始め、今はOMOモデルも実行しています。自分の視力は覚えていても、今持っているメガネの度数やレンズの種類まで覚えている人は少ないことから、それらの情報をECサイトと紐付けるシステムを取り入れました。
リアル店舗で購入した眼鏡の度数やレンズの種類、以前はどこでどの眼鏡を買ったかといった情報がECサイトと紐づけられています。そのため、ログインすれば新たに情報を入れ直さなくても、自分が使っているメガネの度数が分からなくても、サイトに自動で情報が反映されるシステムになっています。
▼Zoffの事例について詳しくはこちら
セブン・イレブン
セブンイレブンの直営店は全国に400店舗ほどあります。そのなかでも「セブンイレブン麹町駅前店」は、新しい技術や仕組み・商品を試験導入する実証店舗として稼働しています。
同店では省人化の試みとして有人レジの台数を減らしてセルフレジを多く新設しており、そのうちの半数以上はキャッシュレス専用です。ほかにも、顧客分析のためにAIカメラや電子棚札を導入するなど、コンビニのデジタル化を推進しています。
またリアルタイムでデータを把握し、変化対応したいというニーズがあったため、クラウドの本格活用を始めました。同社は約2万1000件の全店舗のPOS(販売時点情報管理)データを収集・分析し、状況をリアルタイムに把握可能にするビッグデータ活用基盤「セブンセントラル」の構築に取り組みました。
現在、セブンセントラルで収集できるのはPOSデータですが、今後は半年ごとをめどに機能を追加して商品発注や販促など社内外のデータを集約できるようにし、次世代の店舗システムや部署間の業務連携に活用することを目指しています。
まとめ
顧客によりよい体験を提供するために、オンラインとオフラインの行動履歴を紐づけて、顧客体験を最適化することが求められます。
また、消費者ニーズが変わっていくアフターデジタル時代に生き残るためには、DX化による新規業態への挑戦が不可欠です。これから小売業界はさらなる成長のために、国内の市場に拘らず、海外進出プランも考える必要があります。