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地方議会でもAIの議論が当たり前に
新宿区議会議員の伊藤陽平です。日本で初めてのAI議員を名乗り活動しています。
本日は「AIと共存する政治の未来」というテーマでお話をさせていただきます。
多くの方は議会や行政に対して、アナログで全自体的なイメージを抱かれているのではないでしょうか。
しかし、現場では日々AIに関する議論が当たり前に行われています。
新宿区長の答弁をご紹介させていただきますが、具体的な内容に踏み込んで答弁されていることを確認していただけるのではないかと思います。
現在、人工知能の技術革新は、与えられたデータからコンピュータが自立的に学習し、認識や状況判断のルールを自動的に考えるディープラーニングという技術の研究が主流となっています。この技術は、医療、防犯、自動運転、農業、家事、介護、教育などさまざまな分野での研究が進められており、将来、人工知能が行政で活用される時期もさほど遠くないことであると認識しています。
(平成28年第3回定例会区長答弁より)
新宿区は、IT・先端技術の街として全国5位、東京都内では1位(地域ブランド調査 2016)にランクインしました。区内にはAI関連の事業を営む民間企業もたくさんありますし、ITリテラシーの高い区民も多く、議員も様々な情報を得ることができます。そもそも新宿区にこのようなバックグラウンドがなければ、後ろ盾のない私のようなITに特化した議員が当選することはなかったかもしれません。
政治家もPythonで機械学習を試せる時代へ
ここで、AI議員としての私の取り組みをご紹介させていただきます。
まず、新宿区議会でのAIについての質問の多くは、私の発言です。議会内で質問し、行政や議会での議論のきっかけづくりや情報共有に努めています。
それに加えて、「AIで議員の仕事を代替する」という実験的な取り組みもいくつか行っています。
例えば、民間企業にご協力をいただき、ディープラーニングで膨大な区民意見を分析する取り組みを行いました。
また、私自身がプログラムを書き、議案を人工知能で審議する実験を行いました。この実験では、学習データを工夫することで一定の成果を出せることが確認できました。
政治家こそ手を動かしてプログラムを書いてみるべきです。AIと聞くだけで、莫大な投資が必要で、そもそも個人では手に負えないものと思うかもしれません。最近はオンライン上で膨大な情報にアクセスできるため、様々な分野で学習コストが下がってきていますが、実はAIも同様だと思っています。例えば、オンライン上はPythonや機械学習に関するコンテンツは豊富にあります。また、図書館を利用すれば機械学習に関する書籍を無料で借りることもできます。情報収集や学習のためにかかるコストは、目的や学習方法に合わせて圧縮することが可能です。やるかやらないかだけですが、ITを強みにしたい政治家は挑戦するべきです。
プログラミングの知識不要でAIが使える便利なサービスが、今後も多数出てくるとは思います。さらに私たちの生活とAIとの距離が近くなりつつある今、「いつか」ではなく「今すぐ」に建設的な議論をするには、政治家自身にも知識と経験が必要です。
民間でAIを育てることが大切
さて、私以外の議員や行政でも、AIについての議論が当たり前に行われるようになってきました。しかし、的外れな取り組みが行われることも珍しくありません。「とりあえずAI」と手段ありきで、安易にAIを導入するのは望ましくありません。
ここ最近、話題づくりのためにAIを導入する自治体が増えてきました。現時点ではAIで成果を出せている事例は限定的です。例えそのシステムが技術的に良かったとしても、活用法まで考えなければなりません。単なる税金の無駄遣いにならないよう、注意が必要です。
今後は今以上に、行政や議会のリテラシーが不可欠になるでしょう。リテラシーを身につけるには、実際にサービスを使って本質を理解することが有効です。例えば、誰もが利用している検索エンジンにも機械学習が用いられています。身近なところにも参考になる事例はあります。AIだと意識する必要もないほど生活に溶け込み実用的に活用されていますが、この感覚が大切です。
ただ、本来は行政が税金を投入してAI事業に介入する必要はありません。民間企業の努力によってAIは急速に成長しています。少し待てば、公共に応用できるものがたくさん生まれてきます。行政が民間のトレンドをキャッチして見守りながら、AIを上手に育てることができるかがポイントです。
AI時代は、政治VS多国籍企業へ
今後は政府がAIの導入を考えるようになり、一体化をする可能性があります。政府はAIを活用した計画を打ち出し、ベーシックインカムが導入される現代版社会主義的な未来を想像されている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、政府以上に影響力を持つ可能性があるのが、IT企業、特に多国籍企業です。AIにとって学習データが重要である以上、多国籍企業は政府以上に優位な立場にあります。そして、中にはそう行った企業が提供するサービスが、公共サービスを代替しつつあります。
例えば、公立図書館について考えてみます。本を共有するのは非常に効率的なサービスで、行政だからこそできたサービスの一つです。しかし、民間ではさらなるイノベーションが起こっています。電子書籍が広まり、定額制の読み放題サービスまで登場しました。蔵書数は小さな公立図書館以上で、本の貸し借りの手間もありません。新宿区の図書館の場合、1回の貸し出し作業におよそ1,200円ものコストが発生しています。一方、Kindle Unlimitedは月額980円です。コストパフォーマンスが高く、電子書籍を好む方からすると、図書館以上に価値を感じるかもしれません。
また、クラウドファンディングによって福祉的なサービスが行われる事例も増えてきました。民間の意思と資金で、再分配の機能も代替される可能性があります。インターネットによるサービスをさらに効率化する要素として、AIが用いられることになるでしょう。
これからどのような社会になるのかについては、様々なシナリオが想定されます。しかし、最終的には臨機応変に対応できるよう、未来と向き合うことが最も重要になるでしょう。