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2017.12.22

AI(人工知能)による社会的価値とは?(坂口真里奈さん)

最終更新日:

2017年 アドベントカレンダー企画「AIの未来予測」の記事です。寄稿してくださったのは坂口真里奈さんです。

こんにちは、アドベントカレンダーに参加させていただきます、坂口真里奈(@m__sb04)です。

私は大学で環境化学を専攻しており、AIソリューションによる環境影響評価(LCA手法)に加えて、経済、社会的価値にどう影響を与えるか、3軸での評価方法を開発するという研究をしています。

(ちなみに,その傍らDeep Learningスタートアップでインターンをしています。)

そこで今回の企画テーマが、「AIの未来予測」ということで、自分の興味分野である、現時点のAIの社会的価値には何があるのか、今後どのように変化していくと予想されるかを書こうと思います。

私自身SFが好きで現実とかけ離れた夢物語を話すのも好きですが、今回は未来予測といっても独り歩きするようなものではなく、蓋然性の高い議論を皆さんとしていきたいです。

GDPで測れない人の幸福度

ザ・セカンド・マシン・エイジ』で、

デジタル情報やアプリなどの無償提供 、共有経済、人的関係の変化といったものは、人々の幸福や生活満足度にすでに多大な影響をおよぼしている。(中略)

従来とは全く異なる経済が出現したのであり、計測方法も考え直させばなるまい。出張中にスカイプで子供とおしゃべりしても、GDPは1セントも増えない。だがこれが無価値であるはずがない。

と述べられているように、

私はいま、GDPなどの経済指標だけでは人々の幸福度や生活満足度は測りきれなくなっていると感じており、さらにAIなどの要素技術が各々コモディティ化し、生活に浸透していくとさらにその歪みや古い制度との軋轢が拡大していくのではないかと考えています。

そこで、AIによる人の幸福度の変化、すなわち社会的価値をどうやって定量的に評価していくのかということに興味があります。

また、AIが万能薬かのような認識を脱するには、快適になる、便利になる、といったような抽象的な状態ではなく、どういった価値があるのかをもっとブレイクダウンして考え、具体化して伝えていく必要があると思っています。

ただ、本題に入る前にみなさんのAIの認識がどの程度、現実に落とし込まれているかでかなり想像するものが変化してしまうので、

「まずAIって現時点で何ができるの???」

という一旦前提のAIの認識を軽く揃えてからやっていこうかなと思います。

(そもそもAIって何?という方は、前にDeep Learning,機械学習との違いなど解説記事を書いたのでこちらを読んでから戻ってくるといいかもしれません→http://wp.me/p7Y0po-e2 )

現時点のAI(人工知能)ができることとは?

あなたはAIと聞いて何を1番に思い浮かべますか?
まず、一口にAIと言っても、SF映画好きの人は、アイアンマンのジャービスを思い浮かべるかもしれませんし、アニメが好きな人は、サイコパスのシュビラシステムを思い浮かべるかもしれません。
それらは全て強いAI、汎用型AIと呼ばれていて実際現時点ではまだこの世に存在しません。

最近、よくニュースなどで目にするAIと呼ばれるほとんどのものは、“弱いAI特化型AI)”です。
AIに仕事を奪われる!と報道されたり、AIって何でもできる万能な存在という認識をされたりしていて、現場と一般人のなかでの齟齬というかリテラシーの乖離が大きいというのを肌で感じています。
そこで、現時点の弱いAIの得意領域と苦手領域を挙げていきます。

※ここでのAIは、現時点でサービスとして実用的に使用されている弱いAIに限ります。

基本的には、画像認識などでは人間の目が認識できないものは機械も認識できませんし、それなりのデータ量がないと機械も正しく学習できません。(多さも重要ですがバリエーション、質も重要です。)
従って0から1を生み出したり、かなり予想外なものを対処したりするのは苦手です。
逆に、繰り返し同じ作業をしたり、学習した内容から統計的に推定したり提案したりするのは得意です。
ここで言いたかったのは、まだまだAIは万能ではないということです。

さらっとですが、現時点のAIで何ができるのかわかったところで、現時点のAIって社会的にどんな価値をもたらしているの?という本題に入ります。

現時点のAIの社会的な価値って何があるの?

以下の図は私なりにAIの社会的価値をラダリングしたものです。

※社会的価値というのは、経済的なこととは切り離して考えています。非貨幣価値とも呼ばれます。

これらは全てAI技術だけではなく様々な技術が蓄積・集合した結果でもありますが、1つ1つどういう意味で書いているのか説明していきます。

知的能力の拡張

これは、かなりAIに期待が寄せられている部分ではないでしょうか。
ここでは、顔認識による性別分析や感情分析などによるターゲティング広告の精度の向上やレコメンド機能の精度の向上などが挙げられるでしょう。また、新人への研修が不要になるなど、他人へ能力をそのまま継承できる点も挙げられます。
ただ、まだAIは自らの意志を持ちませんし、相関関係を導くことしかできません。まだまだ実サービスにおいて発揮しきれていないため、もっともっと知的能力は拡張されていくと考えられます。

物理的な労力の軽減

まだまだ適用の幅が狭いように感じていますが、例えばAIによる画像認識で工場の生産ラインが一部置き換えられたとすればそれは労力の軽減につながっているでしょう。他にも些細なことでいうと、AIスピーカーのおかげで家電を音声で遠隔操作でき、料理中に手が離せないときでも音楽をかけたり、動きたくないときに電気消してと言えば電気が消えたりするのも多少の労力の軽減につながっていると言えます。

出典:Google公式Twitter

 

先進性/目新しさ

これは、技術的に新しいものやブランド価値の高い製品を購入するときによくみられる傾向ですが、UXとして、使用しているときに感じる高揚感や優越感のことを指しています。
これは、主にtoC向けのサービスに適用されると考えています。

精神的負担の軽減

よく言われる、「AIに仕事を奪われる」という言い方は、語弊のある釣りタイトルだと感じることが多いですが、半分間違っていて、半分はあっています。どういうことかというと、AIによって増える仕事もあるので、AIに置き換えられても他の仕事が待っているということです。
これはいつの時代もそうで、歴史を見ると新たなテクノロジーにより多くの仕事がなくなり、多くの新しい仕事が誕生しています。
そしてAIによってある特定の仕事に対する精神的負担も軽減されるのは、事実です。
特に、単純作業、テンプレート型の仕事で、例えばコールセンターなどにすでに導入されていますし、実際に導入した三井住友銀行では、“離職率が48%も減少した”という結果も出ており、精神的負担の軽減につながっていると言えるでしょう。
他にもワイズマンのおむつ最適化支援AIでは、介護職員,高齢者どちらの負担も軽減されると期待されています。

そしてそもそも数年前までは、残業など「我慢」の対価として給料をもらうのを仕事だと思っている層が多かったように思いますが、その考えは、次第にシフトしていくと考えられます。
今は、我慢せずに効率化・自動化していく,自分が好きなことを仕事にしていくことの方が重要だというのを多くの人が認識・理解する時代になってきています。
AIなどによる精神的な負担の軽減は、結果的に歪んだ仕事の価値観を本来持つべき正しい方向に導いてくれると信じています。

また仕事だけでなく、日常生活にも単純作業、いつのまにかやっている無駄な行動による精神的負担というのは存在します。そういう無意識的な精神的負担にもAIのおかげで人がやらずに良くなり、いつの間にか精神的負担が解消されるというのは数年のうちに現実になると思います。
すでに、AIスピーカーは、家庭内の情報を取り始めており、それが何を意味しているのか考えて見ると自ずといっている意味がわかってくるでしょう。

この項目だけで1記事かけてしまいそうなので切り上げて次に進みます。

時間の短縮

現在、ここの比率がかなり多くを占めていると考えています。営業支援をするAIやマーケティングを支援するAI,採用のための面接AI,AIチャットボットによるカスタマーサポートなど業務効率化に役立っているAIソリューションが主に含まれますが、現在パッケージサービスとして実現しているのは、この業務効率化のためのAIソリューションが大半を占めているように思います。
これらは従業員視点では労働時間の短縮につながり、自由時間の増加が期待されます。経営者からすれば、人件費の削減になります。また、顧客視点からいくと、窓口対応やカスタマーサポートがAIで自動化されることで実際に待ち時間が短縮されたという結果も出ています。
他にもtoC向けのサービスで考えてみると、パーソナルAIによる提案により、服の購入時間が短縮されるなども考えられます。

楽しさ

プリファードが、コミケに出展する、マンガへの自動着色を行う線画自動着色サービスPaintsChainerなどはここに含まれてくるでしょう。エンタメ的要素のあるAI,コンテンツを生成するAIサービスというのはまだまだ少ないように感じます。AIスピーカーなどの音声アシスタントも、会話はできるものの物足りないと感じる方は多いのではないでしょうか。アップデートされていくうちにこの楽しさという軸の割合が増えていくといいなと思っています。

安心安全

これは、言葉そのままの意味で、人(もしくはペット,企業/団体など)の安全につながるかという意味です。まずは、見守り・監視系のAIに適用されると考えられます。実際に見守り・監視AIにより泥棒が入るのを防ぐ,帰宅困難な認知症高齢者の徘徊を防ぐなどの実証実験が進められています。

他にも、AIを使ってネットワーク上の投稿の監視をしてリスクマネジメントを図るのも安全につながると言えますし、人がやるには危険性の高い仕事を置き換える、工場の機器の異常を検知するのも安全につながると言えるでしょう。

今後AIの社会的価値はどう変化していくか

正直、AIの技術進歩は思ったよりも早く、予測するのは難しいとは思っていますがあえて数年後の話をすることにします。

今は時間の短縮・精神的負担の軽減の比重が大きいですが、知的能力の拡張・楽しさの比率も大きくなると推定されます。技術がコモディティ化し、toB向けのサービスや事業がだんだんとtoCサービスに流れてくるにつれてこの傾向が見られるのではないかと思っています。

そして、新たな社会的価値の軸はたくさん考えられますが、いくつかピックアップしてみます。

孤独感の解消(癒し)

孤独感というのは、本能的なもので誰でも対峙したことがあるのではないでしょうか。今もSiriなどの音声アシスタント,GoogleHomeなどのAIスピーカーがありますが、まだまだ孤独感が解消されるほどのものではないでしょう。ただ、もっと人間に近いAIが登場し、孤独感を払拭する存在になり得る可能性を秘めていると思っています。

健康/長寿

新しい創薬の研究やがん細胞の発見など、すでにAIを使った医療分野での研究は進められていますが、まだまだ研究開発段階で普及しているとは言えません。また、IoT機器もまだ普及しておらず、チップを体内に埋め込んで体内のデータをも取り込むなどはもっと時間がかかりそうです。今よりもさらに長寿化させるには数年かかると見越しています。従って今後の社会的価値に含めることにしました。

公平性/信頼性

これはAIが、認知バイアスや人間の感情に左右されずに意思決定する第3の立場として確立できた場合の話です。実際に性差別に注目した研究では、無意識によるバイアスがあることを先日Googleが発表していましたが、使い方によってはAIによって改善できるようになるだろうと思っています。

実サービスでの社会的価値変化をリスト化してみた

言葉で並べても分かりづらいかなと感じたので、今と数年後の比較を表にまとめてみました。
(※完全なる個人の見解です。)
他にも色々あるとは思いますが、肌感ですでに実用化されている弱いAIです。
数年後の変化とともに書いていますが、そもそもここのサービスの部分に、自動運転(to C)、スマート家電(to C)、ロボットアシスタント(料理や農業をするロボットなど/ to C)などが追加されていくとともに社会的価値の軸ももっと追加すべきでしょう。

編集後記

今後、何か新しいAIを活用したサービスを見たときに、AIを導入したことでどのような社会的価値が生まれているのだろうかと考えるきっかけになってもらえると幸いです。少し俯瞰して考えた時に、果たしてこれは価値があるのだろうかと一歩立ち止まって考えてみてほしいです。

また、技術的なことを詳しく語れるのも重要ですが、その技術が世の中にどのように役立つのか、価値や意義を咀嚼して一般的に分かりやすく架け橋的に語れる人材も重要だと思っています。

早くAIにおける真贋が明らかになって、誇張表現や偽物が淘汰された健全な業界になっていくことを願っています。

お知らせ

私は、この記事で書いたような社会的価値をどうやって定量化していくかということを日々考えています。そこでもし、こういう要素も社会的価値になるのではないか,こんな風に定量化できるのでは?など意見ありましたらぜひディスカッションさせていただきたいです。

AIの社会的価値についてみんなで考えるSlackを作ってみたのでバックグラウンドは気にせずどなたでも気軽に参加していただけると嬉しいです!今後このSlackで個人的にリアルイベントもできたらいいなと思っていますし、お時間ある方は気軽にランチでもいきましょう!

\こちらに申請ください→ URL:https://goo.gl/forms/sEEvmKtnoLQhLOoh1 /

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うまくいかなければ(@m__sb04)までDMください!

では!長文を最後まで読んでいただきありがとうございました!良いクリスマスを!

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