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2018.01.23 取材・編集:おざけん@ozaken_AI
おざけんです。
2018年1月23日、東京・調布にある電気通信大学にて「人工知能×産学連携セミナー ~人工知能分野において企業が産学連携に取り組むには?~」が開催されました。
技術の発展には、まずは技術の基礎的な「研究」の部分と、技術を社会に実装する「ビジネス」のコンビネーションが欠かせません。
AI・人工知能業界において、産学連携は進んでいて、ベンチャーから大手までさまざまな企業が大学の研究室と組んで研究にあたっています。
今回のイベントは人工知能分野において企業が産学連携に取り組むためのノウハウを、産学連携に取り組むトップランナーたちが伝えてくれました。
目次
人工知能分野における産学連携の最新動向と注目すべき事例
登壇 : 亀田 重幸(ディップ株式会社 次世代事業準備室 )
AIONW編集長の亀田も登壇です。
亀田からは、AINOWが所属するdip AI. Labのインターン制度について説明しました。
私たちdip AI. Labはかつて正社員の採用を試みましたが、なかなか身の丈に合った人材を見つけるには至りませんでした。
そこで、インターンと社会人のスキルの差が小さいことに着目し、マネジメントに力を入れれば十分に機能するのではないかという仮説を立てました。
私たちは今では90%以上がインターン生です。今この記事を書いている私もdip AI.Labのインターンでディレクターをしています。
他社のインターンでは、長時間の拘束が当たり前になっていたりします。週3以上などの制限があることがありなかなか学業が忙しい学生がコミットしづらい現状があります。
dip AI. Labでは、特に時間の縛りもなく自由な時間に出社できることが魅力です。
これは全て学生目線に立つというポリシーによるもので、学生と社会人が対等に接することができる環境づくりが大事です。
しかし、いいことばかりではなく、プロジェクト管理や雇用契約の手続きなどに工数が割かれてしまうデメリットもあります。
dip AI. Labの取り組みは、産学連携の意味では大学が大きく絡んでくるわけではありません。しかし、このように学生が自由に参加できる環境を作り相互にメリットを与え合うことが、今後のイノベーションに求められることかもしれません。
人工知能先端研究センターにおける産学連携の実践的な取組
登壇 : 栗原 聡(国立大学法人電気通信大学 人工知能先端研究センター センター長 )
電気通信大学は2016年の7月に人工知能先端研究センター(AIX)を設立しました。
エコシステムとして業務効率化を担うAIを中核として
- 第一次産業や建設業における労力の補填(汎用型AI・暗黙知抽出)
- サイバーセキュリティ、バーチャルリアリティ・VR(分野横断型R&D)
- 外交・政治・産業(AI競合・BigdataAI)
- 災害大国における大規模複雑情報システム(自立分散AI)
などが、少子高齢化などの社会問題の解決や、社会基盤の構築のための次世代のインフラになるといいます。
そんな中、日常空間で私たちに寄り添って、気を利かせてくれる相棒のようなAIを作ることを目指しているのがAIXです。
ここ数年の人工知能研究に関する世界的な変革の中での日本としての強い危機意識がAIXにはあるそうです。国内における産学官の連携が加速しつつはあるが、まだ足りません。ディープラーニングを筆頭に加速していく今後のAI研究における重要課題の一つである「汎用AIの開発」の中核的拠点の必要性を唱え、設立したそうです。
AIXは大学にスポンサー企業がいるのが珍しいポイントです。サイジニアさんやクロスコンパスさんなどAI業界を牽引する会社やパナソニックさんやレコチョクさんなどの大手まで幅広く産学連携を行っています。
産学連携にはわかりやすいコンセプトも大事だと栗原さんはおっしゃっています。
産学連携はブランディングになり、メディア側から取材依頼が来るそうです。その前までは、取材を依頼しても門前払いを食らうこともしばしばあったとか。
昨年度は、メディアには50回以上登場し、一般向けの講演も30回以上とメディア露出が著しく増加しているようです。
また栗原さんからは、今後の新たな戦略についても述べてくださいました。
今までの産学連携は、トップダウン型で横串での連携がしづらいデメリットがあり。今後は「産」の部分の企業が横断的に連携し、さらに研究者も横断的に連携することで研究の効率を高めていきたいとおっしゃっています。
2020年までにさまざまなAIプロジェクトが具現化します。しかし、世の中のAIに対する期待は高く、期待値調整も必要でしょう。
今後、以下に戦略的に産官学で研究開発を進めていけるか。それがキーポイントになりそうです。
「研究だけでは終わらせない!産学連携研究を実ビジネスに利活用する秘訣とは」
~澪標アナリティクス株式会社における人工知能ビジネスと産学連携への取組事例のご紹介~
登壇 : 井原 渉(澪標アナリティクス株式会社 代表取締役 社長)
会社を経営されている井原さんからは、産業側から産学連携について話してくださいました。
人工知能のビジネスをしていると「人工知能でいい感じの成果を出してくれ」のようにAIのことをよく理解しないまま、問い合わせをされることがあるそうです。
「AIください!」や「シンギュラリティをください!」などAI関係の方は首をかしげてしまうようなお問合わせも。
大学との共同研究に関しても、「大学と共同研究するなら、安くて高いクオリティが出せるよね」という考え方の人も多いようです。
データを社外に持ち出すことに対してノイローゼ気味な方もいるそう。
澪標アナリティクスの秋山さんもAI受注のあるあるについてお話いただいています。
研究だけで終わらせず、実ビジネスに有効活用していくには「人工知能ください!」ではなく、課題ドリブンで考えることが必要なようです。
人工知能がほしいといっても
「困っていることは何なのか」
「困っている原因は?」
「どんな機能があればそれを解決できるのか?」
「事例はあるのか?」
「難易度はどれくらいなのか。」
というような具体的に考えることが必要です。人工知能はツールであり、必要なときに必要に応じて使い分けることが賢い選択ですね。
井原さんからは澪標アナリティクスが共同研究を行う場合と自社内だけで対応する場合の区別について、わかりやすく表で紹介していました。
この表からわかるように、会社と大学では思想が違います。一概にこれとは言えませんが、ぜひ参考にしてみてください。
大学とベンチャー企業の違いとSENSY社の産学連携
登壇:岡本 卓 (SENSY株式会社 取締役CRO (Chief Research Officer), SENSY人工知能研究所代表, 千葉大学 グローバルプロミネント研究基幹 特任准教授)
大学とベンチャー企業の違いはKPIです。
研究ではビジネスではなく特許や論文がメインです。優れた論文や特許をリリースすることで研究費を獲得し、新規性や想像性に富んだ研究成果を社会に還元することができます。
ベンチャー企業は、企業価値を高めることがメインのKPIです。これを上げるには、いかにして売上・利益を上げるかが重要です。そのためには、ビジョンを実現して利益につなげることが大切です。
大学教員とベンチャーの業務内容の違いを見てみると
大学の教員はさまざまな委員会に出席したり、学生の始動や学会活動、研究室の運営などが業務内容です。ベンチャー企業(SENSY)ではプロジェクトの提案や管理、実施したり、人事やPR活動などに力を入れています。
ベンチャー企業は極めて純粋で、純粋に企業価値の最大化を目指します。
産学連携をすすめるにあたって何を求めるか。ベンチャー企業は企業価値の最大化を目指す単純な目的のもと、内容がはっきりとしたプロジェクトを高速で推進することができます。
また、目指すビジョンや企業価値を最大限に拡大させてくれる基礎的な研究テーマを研究したいと考えています。
今後、AIの基礎的なアルゴリズムのコモディティ化が一層加速します。AIの技術の習得の難易度はそんなに高くなく、数ヶ月程度の期間で教育プログラムを組めます。その中で、いかにデータにリーチできるかが鍵になり、同社はデータに対する先進的なセンシングや解析技術を持つ研究室との共同研究を進めたいとしています。
パネルディスカッション:
人工知能分野で企業は大学に何を期待できるか?
大学は何を提供できるか? どのような取り組み方が考えられるか?
その留意点は何か? 事例と経験から検証する
(写真左から順番に)
コーディネータ
- 株式会社キャンパスクリエイト
技術移転部 オープンイノベーション推進室 須藤 慎
パネリスト
- ディップ株式会社 次世代事業準備室 亀田 重幸
- 国立大学法人電気通信大学 人工知能先端研究センター センター長 栗原 聡
- 澪標アナリティクス株式会社 代表取締役 社長 井原 渉
- SENSY株式会社 取締役CRO (Chief Research Officer) 岡本 卓
人材に関してどういう取り組みがいいのか
井原さん
「未経験の人材を採り始めました。どうやっているのかというと、ゲームの分析チームでゲームのデータハンドリングを行えるビッグデータエンジニアに社内で育てます。
そして、統計学を使えるようにして、その上で機械学習を使えるようにする9ヶ月程度で人材育成をしています。
グループ会社から4人もらってきて、実験的に試みをしています。」
亀田さん
「インターン生にお願いしています。実際はAIよりも統計をやってもらっています。ここ3ヶ月でとった学生はほとんど統計でデータ分析をしています。まずは統計学。大学の授業で1、2年で基礎を学んで独学しているレベルの人材です。高度なところはパートナーの会社と相談したり仲間と協力して問題を解いていく環境を作っています。」
岡本さん
「社内で8回分くらいで演習付きの講座を作って学んでいただいています。ITエンジニアに受けてもらってもう2人はAIのチームにジョインしました。今後採用する人材(インターンを含む)も同じような講座を受けていただこうと思っています。」
ビジネスプランの煮詰め方で社内や顧客に対して何に注意を払っているのか。
亀田さん
「オーナーが強いので、まず期待値調整をしています。「予測は出来ません。まずはデータ整備や効率化をしていきますよ」と。あとは、言われた内容が人工知能が目的とならないように気をつけています。
井原さん
「2つのケースがあります。「こういうものを作ってください。」というケースと「問題だけあるけどAI作ってというケース」です。前者に関してはお断りしています。作れないけどなんかしてくださいというケースはお受けしています。
そしてそれぞれブレストから入っています。ディスカッションからはじめて、課題に対して、他の論文やソリューションで対応可能な場合も仕事をお受けしません。なるべく自分の仕事にしなくて良いようにブレストしています。」
岡本さん
「基本的に解決したい問題をブレストしながら、システム的な絵で書き直して整理して、どこに問題があるのかを分解して考える事をしています。そのときに解決したい課題に対して、本当に人工知能が必要なのかを考え、必要な場合はきちんとしたアルゴリズムをお渡しすることが大切です。やはり対話が大事でどちらかに任せてはいけないと思います。」
社内向けの研修は講師は社内の人なのか?未経験者の採用の目的は?
井原さん
「講師は内製化しています。座学ではなく、OJTで進んでいます。人件費が高くなかなか採用できないので、未経験者を採用して育てています。」
岡本さん
「講師は私です。未経験者を採用する理由は、採用しづらい、また自社にあったアルゴリズムを刷り込みやすい、また単価の問題があります。コモディティ化したあとのことを考えています。」
研修を外部向けに研修を実施する予定は?
井原さん
「出向者の受け入れをしています。その人達を一人前にして送り返す取り組みもしています。」
岡本さん
「弊社内だけの予定でしたが、もう少し初心者向けに変えたイベントを採用目的で実施しています。ハンズオンセミナーです。今年の4月にはお金をとって日経BPと一緒にスクールもやります。」
パートナーとの円滑なお使いの仕方。
亀田さん
「一番気をつけるのは、学生の今を知るということです。なので学生に会いに行きます。学生がいるコニュニティに出向いたりします。現状を知ることが大事です。」
栗原さん
「学生は社会人ではないです。問題は、企業が納期、期限があります。学生はそういうことがわかっていないときがあります。自分が割り当てられている研究の仕事が、業務になっている自覚がなかったりします。そうすると、MTGでもちゃんとやってこなかったりします。学生にとっては貴重な経験だと思っていて、企業に迷惑はかけています(笑)」
井原さん
「産学連携で気をつけているのは、相手を楽しませることです。特に共同研究は相手が学生だったり、好きで研究をしているので、「これやっといてね」とスケジュール管理をしないようにしています。「これ楽しいですよね。これをいつまでにやると◯◯ができるんですよね。」という風に楽しませることが大切だと思っています。モチベートすることを気をつけています。」
岡本さん
「楽しませることは大事だと思っています。生のデータは大学でリーチできないので価値があります。データも研究室内で別のテーマでも使えるようにするなどハードルを下げると研究室は喜びます。学生は、リアルなデータを使って研究をしたいのでそれがモチベーションが高まります。モチベーションの高い学生が成功体験を味わえるように導くためにはコミュニケーションの上で何をしたら良いのかを明確にしていくことが大事だと思います。期待している結果が出なくても、寛大にやりなおす姿勢も大事です。」
産学連携の取り組みのメリット
亀田さん
「新規事業なのに成果を求められる。非常に出しづらくてなかなか研究に手が回っていません。産学連携で僕達が出来ない部分を学生に自由に任せている。彼らの成果を経営に報告しています。学生もアウトプットできる。相互で利益があると思います。ウィンウィンの関係を築いています。」
栗原さん
「現場を知れる。それが全てです。基礎研究は役立つかわからないという人もいますが、現場を知ることが大事です。それが一番です。産学連携の可能性はやればやるほどわかります。」
井原さん
「産学連携で言うと、三者間産学連携で私たちは仲介する約目ですが、ほとんど料金を取っていません。しかし、新しいアルゴリズムを第一に触れることができ、大学の先生などに対価としてアルゴリズムについて教えてくださいなどとお願いすることができ、詳しいところまで知ることができます。それによって従業員の育成にもなりますし、会社としてのPRにもなります。」
岡本さん
「産学連携をお願いする側としては、触りきれない基礎的な部分を大学でやってくれることがありがたいです。アルゴリズムの内容を大学は教えてくれます。既存のアルゴリズムでできそうな内容でも、その視点でいくのかというのが見えてくるパターンもあるので、それが知れるのがでかいと思います。受け手側(大学側)からするとリアルデータを触ることができ、また教育になります。ある程度講義で教えることはできますが、リアルなデータで研究するのが一番の教育になるので、それがいいところかなと思います。」
まとめ
今回は産学連携をテーマとしたイベントの取材でした。
産学連携を通して大学側と企業側は双方にメリットを感じています。
企業側は、なかなか手の出しづらい基礎的な研究の部分を大学と共同で研究することができるため、高度な研究がしやすいです。
大学の研究室は、なかなかリアルなデータを使う機会がありません。しかし、企業と連携することで、リアルの生データを使うことができ、学生にとっては絶好の成長機会となります。
今後も、産学連携は国内で活発になっていくかもしれません。
ビジネスを行うみなさんが、共同研究を大学に打診する場合は、
- 大学側に対して何をしたいのかを明確にすること
- 課題とそれに対するソリューションの一つとしてのツールの人工知能であることを意識して取り組むこと
の点を意識するだけで、双方のメリットが明確になってくるかと思います。
今後も国内の人工知能研究を産学連携でどんどん押し上げていきましょう。
2018.01.23 取材・編集:おざけん@ozaken_AI
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