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本稿は、東京・サンフランシスコを拠点のAIスタートアップ特化型シードファンド、Hike Venturesパートナー安田幹広の寄稿です。Hike Venturesはアメリカ・カナダを中心に投資をしています。「人とアルゴリズムの協業によって豊かさを生み出すエコシステムの創出」をモットーにアメリカ、カナダ、日本のシード段階のスタートアップの支援を行っています。バックナンバーはこちら。
AIでサービスを開発するときによく問題になるのは、AIを教育するためのデータが無いこと。データ自体は、毎秒膨大なボリュームが作り出されているのですが、それらはデータセンターやクラウド上の手の届かないところに保管されています。
AIの開発者が、もっと簡単に必要なデータへアクセスできる環境があれば、AIの進歩はもっと進むはずですし、AIがユーザのために自律的に活動するような世界では、それらのAIエージェントも、第三者が提供するデータやサービスを簡単に使えるような環境が不可欠です。そして、AIの暴走を防ぐためにも、AIエージェントの身元の確認、活動を監査できる仕組みも必要になってきます。(たとえば、自動運転車がオーナーを待っている間に有料の駐車場を利用したという履歴)そして、サービスやデータに貢献したユーザに対して対価を払えるような仕組みがあれば、AI経済圏への参加者も増えるでしょう。
実は、ブロックチェーンの思想とシステムは、そんなAI時代のインフラを構築する上で必要な機能を提供できます。むしろ、AI時代にこそ、ブロックチェーンって役に立つのでは無いかと思ってしまいます。実際、Synapse AI, Ocean Protocol, botchainといったスタートアップは、既にブロックチェーン上にAI経済圏を作る壮大なプロジェクトをスタートさせています。
それぞれ、若干の違いはあるものの、彼らが作っているプラットホームの目的は、主に以下の2つに集約できると思われる。
- データの非集中化(民主化)
- 自律的AIエージェントの活動を加速させる
(自律的AIエージェントは、ユーザから与えられた仕事を行うために、自動的に行動するプログラムといったイメージです)
1つずつ具体的に見てみましょう:
①データ非集中化(民主化)
現在は、データを集めているサービスがデータを独占している。例えば、ユーザはFacebookに沢山の情報を入力している。ユーザは、Facebookにデータを与えるほど、より関連性のある情報をタイムライン上で見れたりといった形で恩恵を受けることができるが、他の第三者に対してデータはオープンにされていない。(最近、実はオープンであった時期があったことを示すニュースがありましたが。。)
Synapse AIのようなプラットホームでは、データの非集中化を目指しており、データの持ち主が誰がデータへアクセスすることができて、対価をいくら求めるかを決めることができます。
具体的には、個人データの場合は、以下のようなイメージ。(写真は、Synapse AIホームページより)
これは、コンセプトを分かりやすくするためのモックアップが、Synapse AIは、フランスの通信会社Orangeと実証実験をやっていると伝えられており、もしかしたらこのモックアップのようなユーザがデータのアクセスコントロールと対価の設定を可能にするような仕組みを実験しているのかもしれない。
さらに、ブロックチェーンを使うことによって、誰がデータにアクセしたかという改ざんができない履歴を残すことが可能となり、さら後から誰でもチェックができるようになります。そして、暗号通貨を発行すれば、プラットホーム上で対価の受け渡しもできるでしょう。それを見越して、Synapse AIでは、SYNというトークンを発行しており、Ocean Protocol、Botchainもそれぞれトークンを発行している。
さらに、これらのデータ流通プラットホームは、個人ユーザだけではなく、企業ユーザも利用することが可能だ。貴重なデータを持っている企業の収入源となる可能性があります。
②自律的AIエージェントの活動を加速させる
各社はデータのマーケットプレイスに加えて、自律的なAIが行う活動を活性化させるための仕組み構築しようとしています。
まずは、データの非集中化によってデータ取得のハードルが下がるため、AIモデルの改善が進みます。さらに、AIモデルの開発者は、自分が作ったAIをサービスとして提供することで対価を得ることができるので、良いものを作って沢山使ってもらおうという開発者が増えマーケットプレイスが活性化します。利用できるAIサービスが増えれば、できることが増えるので利用者も増えるでしょう。
また、ブロックチェーンにAIエージェントが自律的に行った活動(アクセスしたユーザデータや利用したサービス)を書き込んでおけば、何かがあった場合でもAIの詳細な足跡を確認することができるので安心な環境を提供できます。
こちらの記事にありますように、Googleは、学習したことをお互いに共有し合うロボットの実験をし、一台でトライ・アンド・エラーを繰り返しながら学習するよりもはるかに時間を短縮できることを実証しました。たとえば、Synapse AIのマーケットプレイスから同じAIモデルを沢山の人がダウンロードし、別々のAIが学習したモデルを共有し合えば、そのAIはすごいスピードで精度を上げていくことが期待できます。
どのプラットホームもまだ初期の段階ですが、Syanapse AIのプラットホームには既に35万人のユーザが登録しているということですので注目度は上がってきてます。
この分野は、大変興味深いので今後もウォッチしていきたいと思います。