最終更新日:
こんにちは。AINOW編集部/人事科学研究所のイザワです。
今回は、ビジネスパーソンに経営やマネジメントの学びを提供する「グロービス」におけるAI研究開発についてお話を伺いました
記述式の採点をAIに。経営教育の質向上を目指して。
「多くのビジネスリーダー育成に関わる現場の知見と、AI(人工知能)がもたらすインパクトを統合し、次世代の経営教育を創り出したい」
そんな思いからグロービスAI経営教育研究所(GAiMERi)は立ち上がった。「今後のグロービスにとって、解答の中身まで分析していくことは重要だ」とグロービスAI経営教育研究所・所長の鈴木健一氏は熱く語る。GAiMERiでは、レポート記述のAIによる採点を研究。「機械学習で良い解答に至るまでの思考のプロセスを明らかにできれば、経営教育の質を向上させていくことも可能。また、優秀なビジネスパーソンの思考回路の解明にもつながるだろう」と話す。
クロービス経営大学院は実践的な経営能力が身につく国内最大規模のビジネススクールだ。その授業はディスカッションベース。対話を通じて、ビジネスフレームワークの使い方・考え方を学んでいく。学んだことの「言語化」がキーワードだ。成績評価は、日々の授業での発言と記述式のレポートによって行われる。当然、選択式の問題に比べると記述式のレポートは採点に時間がかかる。この部分を、機械学習と自然言語処理で何とかできないか、というのが研究所の試みだ。
研究の転換、教育の質向上を目指して
「(採点の)精度は必ずしも優先していない」と鈴木氏。AIが優秀な記述式の解答を学習してパターン化できれば、優秀な解答に至るまでの思考パターンを特定できるかもしれない。これが実現すれば、教材の質を上げていくことが可能になる。機械学習によって問題と解答の関係性が明らかになれば、良い問いと悪い問いが明らかになり、問題を改善していくことができる。教育の質向上につながる様々な可能性を秘めている。
AI採点が実現すれば、採点者の負担を減るだけではなく、教育の質を向上させていくこともできる。まず、学習者の解答に合わせて適切なフィードバックを行う「アダプティブラーニング」が可能になるだろう。そして、「問題」と「解答」との関係性が明らかになれば、「良い問い」「好ましくない問い」が明らかになり、「教材の質」や「問いの質」を高めることができる。さらに、優秀な学生の回答プロセスをパターン化できれば、優秀なビジネスパーソンの思考プロセスを解明することにつながっていく。
もちろん、AIによる採点はエラーも生じうるため、導入の是非も慎重に検討していくという。
優秀な人は何が違う?Ed-Techで明らかになるもの
グロービスは、思考回路だけではなく、優秀なビジネスパーソンの学習行動・姿勢の解明にも取り組んでいる。「学習データの蓄積と分析により、成績優秀者は、“いつ・どのくらいの頻度で・どのような方法で勉強しているのか”という行動や姿勢も特定していく」とデジタル・プラットフォーム部門の井上陽介氏。
そのためにこの一年間で30名を超えるエンジニアやデータサイエンティストを採用してきたという。これまでグロービスは、ビジネス知識、論理的思考力などの能力開発に実績を誇ってきた。しかし、グロービスは将来、能力開発にとどまらず、行動を支えるマインドセットを育て、ハイパフォーマーを量産していくのかもしれない。
教育にイノベーションを与えるチャレンジングな組織
現在、国内トップクラスの研究員数名に加え、ヤフー株式会社 CSO安宅和人氏、東北大学教授の乾健太郎氏、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長の北野宏明氏、東京大学大学院工学系研究科特任准教授の松尾豊氏など豪華アドバイザリーが揃った環境で研究が進められている。最先端の技術・知見を用いて教育サービスを開発できるのが魅力だ。
「現在、研究のため、新しいプログラムを在校生や卒業生に対して、試験的に使ってもらっています。試してもらった後にアンケートをとると、サービスに対する評価は結構良いんですね。しかし、『他の人に薦めたいですか?』という評価についてはかんばしくなかったりします。データ取得を優先しすぎると、受講生に負荷がかかりすぎてしまう。…実際のサービスに組み込むには、技術面以外にも検討しなくてはならないことが多いと感じています」と鈴木氏は語る。
取材・執筆=井澤剛(AINOW編集部/人事科学研究所) 編集=大久保慧悟(AINOW編集部/人事科学研究所)