ゼロから解説! 2019年のAI技術の前進に不可欠な“エッジAI”とは?

AIの活用が進むにつれて、さらなる小型化が求められています。あらゆるところでAIの活用が進むには、低コストで早い処理が可能な技術開発を行わなければなりません。2019年、AI業界において大きな広がりが見込まれています。

グローバルな通信事業者の意思決定者の27%が、2019年にエッジコンピューティングの実装あるいは拡大を計画していると答えています。※

「エッジAI」と「AI」の違いは何なのか、なぜ注目されているのかを紐解くために、今回はエッジAIの研究開発を行う「AISing」を取材しました。取材に応じてくれたのは株式会社エイシング 代表取締役CEOの出澤純一さんです。全3回の記事でエッジAIの魅力についてみなさんにお伝えします。

※出典:「Forrester Analytics Global Business Technographics Mobility Survey,2018」

エッジAIってなんですか?!普通のAIとの違い

まずはじめにエッジAIとは何なのか。一般的に言われているAIとの違いを解説していただきました。

エッジとは、スマートフォン、工場内の機器、コンピューターが内蔵された自動車などの、いわゆる“端末”のことを指します。つまり「エッジAI」とは、これまで業界ではクラウド上で実行されることが一般的であったAIの情報処理を導入機器(エッジ)側で実行するという、近年、その注目と実装化に向けた具体的なニーズが高まっている考え方のことです。

4Gなど、通信技術が発展したことで、より早く大量のデータの送受信が可能になり、AI技術発展のきっかけとなりました。コンピュータのリソースを多く使う一般的なAIは、通信技術なしには成り立たちません。

しかし、さらなるAIの実装に向け、デバイス上でAIを実行するニーズが高まっており、それに応える形でエッジAIの研究開発に取り組む企業が増えているのです。

これまで一般的であった「クラウドAI」は、離れた場所にある膨大なデータを処理するための設備へ機器からデータを転送し、処理した結果を再び機器へ送り返すことで、AIによる学習と予測を行います。

そのため、遠隔の大規模な設備で情報を処理することで複雑なコンピューティングが可能となる一方、データの転送に時間がかかり、機器側でのリアルタイムな学習と予測が難しくなります。また、情報処理のための設備と機器をつなぐインターネット環境が必要なため、非常に高度なセキュリティが求められる環境や、海の中といったインターネットがつながらない環境では、その導入に課題を抱えていました

それに対する解決案として現在注目されているのが、機器で発生するデータをすべてクラウドで処理するのではなく、生成元であるエッジ(機器)上で学習と予測を行う「エッジAI」になります。

まさに一長一短です。

クラウドAIでは、大量のデータの複雑な処理が可能です。一方で、データの送受信のラグがあり、その結果を得るまでに多少の時間を要してしまいます。

エッジAIでは、クラウドAIほど大量のデータを一度にさばくことはできません。しかし、デバイス上でほぼリアルタイムでデータの処理を行うことができるメリットがあります。

エッジAIに関しては、取り組む企業によって定義にややばらつきがあり、デバイス上でデータの学習・AIの処理を行う場合とデバイス上でAIの処理のみを行う場合に分かれることがあるので、注意が必要です。

エッジAIとクラウドAIの違いについて簡単に図で表してみました。

エッジAIが注目されている理由はなんですか?

エッジAIとクラウドAIの違いをここまで説明していただきました。それではなぜエッジAIが注目されているのかを詳しく聞いてみましょう。

エッジAIが注目を集めている理由は2つあります。

1つは近年、自動運転車や、第4次産業革命に伴う工場の自動化の推進が世界で注目を集めており、その実現にエッジAIが不可欠であるからです。ブレーキ判断が必要な自動運転車や、常に変動する環境で稼働する産業機械では、機器側において判断の即時性が求められますが、前述の通りこれまでのクラウドAIでは、計算環境を遠隔に置く分、機器の判断スピードに課題を抱えていました。

エッジAIにおいては、機器側で学習と予測をすることが可能なため、よりリアルタイムな判断が求められるモビリティ業界や製造業界において急速に実装のニーズが高まっており、その開発が進められているのです。

2つ目は、技術の進化によってこれまでエッジAIの導入には不十分であった計算環境が整ってきたことで、具体的な実装化が進んでいるためです。これまでは、従来の機器の計算環境では動作が遅く、AIの動作には不十分なことからインターネットを経由したクラウドAIが主に活用されてきました。

しかし近年、機器が従来に比べ高性能な計算能力を搭載できるようになり、さらに機器に組み込むことを想定した比較的軽量なAIモデルの開発が進んできていることから、これまで技術の問題でクラウドAIを用いていた環境において、エッジAIが導入が本格的に進んでいるのです。

AIの進化にはハードウェアの進化がそのまま影響します。より低価格で消費電力の少ない機器が生まれればAIの導入のハードルは低くなり、さらにAIの活用が進むことが考えられます。

エッジAIが向いている業界や業種はありますか?

では、エッジAIが向いている業界や業種はあるのでしょうか。最前線でエッジAI開発に携わる出澤さんにエッジAIが向いている業界を伺いました。

エッジAIの大きな特徴として、「データ処理のリアルタイム性」が挙げられます。機器からクラウドへデータを送り、処理した結果を再び機器へ送り返す場合、データの転送に往復の時間がかかり機器側での判断が遅くなりますが、機器側でデータ処理を行うことで、クラウドを介した応答の時間を削減できるため、よりリアルタイムに学習と予測を行うことができます。

この特徴が生かされる業界として、まずモビリティ業界が挙げられます。自動運転車においては、道に人が飛び出してきた際のブレーキなど判断の即時性が求められるため、自動車(機器)側で処理が可能なエッジAIが向いていると言えます。近年運送業界でも注目を集めるドローンの風や天候への対応も同様です。

自動運転車の走行中に、なにかトラブルが発生した場合、クラウドでその処理を行うと、データを送受信する時間が必要となり、時間のラグが発生してしまいます。車の走行時には0.1秒の対応時間の差があるだけでも、被害の規模が変わってくる可能性があります。AIの処理をエッジ側でとどめ、システムが迅速な判断を行うために、エッジAIの導入は不可欠です。

また、低コストのエッジデバイスでAIの処理が可能になることで、自動運転以外のさまざまな場所でAIの活用が進みます。例えばスマートスピーカーの返答速度アップ、スマートフォン単体で顔認識を行い、リアルタイムで顔を加工する技術などがあげられます。

例えばiPhoneには2017年にリリースされたiOS 11から「Core ML」が搭載されています。iPhoneのCPUを用いて、データを学習し、モデルに基づいてアプリケーションを動かすことができるフレームワークです。iPhoneの内部にある個人情報を外部に送信することなく、AIの力を享受することができるのです。

日本でのエッジAIの活用ってどれくらい進んでいますか?

モビリティ業界など、データ処理にリアルタイム性が求められる部分にエッジAIが向いていることがわかりました。まだ発展途中ともいえるエッジAIですが、日本国内では活用はどれくらい進んでいるのでしょうか?

AISingの事例も含めて紹介してくださいました。

現在、エッジAIの開発、そして様々な業界でその実装化も進んでいます。AISingでも、オムロン社やJR東日本においてすでに実証実験や導入を進めており、2019年、日本におけるエッジAIの開発・導入はより一層進んでいくと思います。

AISingではエッジAI業界において、導入機器単体がクラウドを介することなくリアルタイムに自律学習することが可能な独自のAIアルゴリズム「DBT(ディープ・バイナリー・ツリー)」を提供しており、現在、十数社の企業とエッジAIの実装化に向けた取り組みを進めています。

経年劣化によってロボットのアームの動きが衰えてきたり、同じ動きをするための出力量が変わることで、産業機械(製造業界)においては、異常停止や歩留まり低下が発生してしまいます。オムロン社との制御機器用AIエンジンの共同開発では、不具合の発生ゼロを目的としていて、材料のつなぎ目やばらつきによって不良品が発生していた巻線機への試験的な導入において、すでに不良品廃棄を3分の1にまで抑えることに成功しています。

製造ラインでは、4M(人、機械、材料、加工方法)の変動要素があると言われており、製造ラインが自らこの4M変動を学習し続け、自律的に制御するという仕組みをオムロン社と生み出すため、「DBT」の活用が進んでいます。こうした産業機械へのエッジAI導入によって、個体差の補正や機械の調整にかかる人件費の削減といった、生産性の向上に繋がります。

最後に

現状のAIではある程度のコストがかかるため、ビジネス的な費用対効果をはっきりさせてプロジェクトを進めることが重要です。

しかし、エッジAIのような技術が発展していくことで、より気軽にAIを活用することができるようになれば、費用対効果の指標がクリアできるケースが多くなると予想できます。

またリアルタイム性の高いAIの設計は、社会インパクトの大きい自動運転の発展に寄与するだけでなく、深海や宇宙など電波が届かずクラウドに接続できない環境下で、AIの活用が進むことも期待です。

この記事は、シリーズでお送りします。第2回の公開をお楽しみに。

2019年5月27日 2019年5月27日更新

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