アカデミアとビジネスの垣根を超える企業研究の重要性 / 「CCSE2019」開催記念インタビュー

東京大学 大学院 教授の松尾豊氏や筑波大学 准教授の落合陽一氏など、ビジネスドメインでも活躍する研究者に注目が集まっています。

同時に、最先端のAI関連技術を自社サービス活用するために、多くの企業が自社内に研究機関を設置し、「R&D(研究開発)」も盛んになってきました。

そんな企業内の研究開発に特化したカンファレンス 「CCSE2019が2019年7月13日(土)に開催されます。

AINOWは「CCSE2019」のメディアパートナーとして、「CCSE2019」の運営に関わるサイバーエージェント AI Lab研究員の山口光太氏とZOZOテクノロジーズZOZO研究所 研究員/ 九州大学 IMI研究所 訪問研究員の渡邊陽介氏を取材しました。

2名とも、大学にて助教を務めたあと、企業において研究を始めた経歴を持ちます。その経験から考える企業研究の魅力や課題、さらにCCSE2019のポイントが語られました。

渡邊陽介氏プロフィール

1985年生まれ。高校卒業後渡米後University of California, Los Angeles(学士号)とUniversity of Utah(博士号)で数学を学び、University of Hawaiiで助教をし転職をきっかけに2018年日本帰国。現在は株式会社ZOZOテクノロジーズ、理論機械学習チーム、チームリーダーと九州大学マス・フォア・インダストリ研究所、訪問研究員などとして機械学習やデータサイエンスの研究に従事。

山口光太氏プロフィール

株式会社サイバーエージェントAI LabのResearch Scientist。コンピュータビジョン、機械学習を用いたWebメディアの分析研究に従事。2014年から2017年まで東北大学大学院情報科学研究科助教。2014年米国ニューヨーク州Stony Brook大学にてコンピュータ科学のPh.D.取得。2008年東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了、2006年東京大学工学部計数工学科卒業。

サイバーエージェント AI LabとZOZO研究所の研究開発、何をしている!?

今のAI技術が成り立っているのは、多くの大学、国立研究機関の研究者が研究に従事し、さまざまな論文の功績を残してきたからと言えるでしょう。

「人工知能の父」とも呼ばれるマサチューセッツ工科大学 人工知能研究所の創立者 マービン・ミンスキー氏や「ディープラーニングのゴッドファーザー」とも呼ばれ、現在のニューラルネットワークを形作ったトロント大学のジェフリー・ヒントン氏など、60年以上に及ぶ人工知能の歴史において、研究者の存在は欠かせないものでした。

しかし今、同時に企業内の研究所における研究開発も盛んになっています。例えば、Googleは2018年10月、かつてない精度を誇る自然言語モデル「BERT」を発表し、一躍話題になりました。Googleだけでなく、Webプラットフォームを展開し、大量のデータを保有する多くの企業が、研究開発への先行投資を行い、さらなるサービスの機能拡充を目指しています。

サイバーエージェントやZOZOテクノロジーズも多くのデータを保有し、そのデータを生かしたAI開発に乗り出しています。まずは、企業内で実際に研究開発に従事する2人に研究開発の内容を伺いました。

広告領域でのAI活用の可能性を広げる|サイバーエージェント 山口氏

山口氏:サイバーエージェントでは、デジタル広告部門の研究開発プロジェクトを行っています。私のメインの研究開発は、広告の表現を作る過程にAIを活用するプロジェクトです。

例えば、コピーライティングも1つのトピックですが、テキストだけに限らず、絵の生成や、絵を組み合わせの最適化、あるいは動画制作の支援なども含まれます。また、それぞれの広告表現がどれくらいクリックされて注目されたのかの分析も担っています。

広告バナーのクリック率の予測などは、シンプルなタスクですが実際にプロダクトの運用で活用されています。コンテンツの生成のタスクは、今の機械学習技術ではうまく再現できないことも多く、研究開発機関という特色を生かしてアカデミック寄りからアプローチして方法論を確立させようと考えています。研究として今最も熱いドメインです(笑)


サイバーエージェントグループの売上は、インターネット広告事業が半分以上を占めており、研究開発にもデジタルマーケティングやアドテクを中心に進められているようです。

サイバーエージェントのAI Labの研究内容はAINOWにて以下の記事で紹介しています。

大学との連携も|ZOZO研究所 渡邊氏

渡邊氏:ZOZO研究所は2018年1月に発足しました。2018年12月から2つの領域で研究を進めています。

1つ目はファッションコーディネートアプリ「WEAR」のユーザー同士の関連性をネットワーク化して、グラフ構造を理解する研究です。数学のグラフ理論を使ったり、統計的なネットワーク分析を使ったりして、グラフの中での影響を持つ人を見つけます。

SNSでは、単にフォロワーが多いなどの指標だけではなく、未知の新しい影響力があると考えられます。その見えない影響力をユーザーをネットワーク化したグラフ構造から探しています。

2つ目はファッション通販サイト「ZOZOTOWN」で「どの商品を」「どのユーザーに」「どのようにレコメンドするか」を九州大学IMI研究所と協力して研究しています。ユーザーの購買情報をもとに機械学習をして、レコメンドしたいと考えています。

ファッションコーディネートアプリ「WEAR」:WEAR(ウェア)は、株式会社ZOZOテクノロジーズが運営しているダウンロード数1,300万人を突破した日本最大級のファッションコーディネートアプリ。コーディネートの投稿や、オフィシャルユーザー「WEARISTA(ウェアリスタ)」、ショップスタッフ、一般ユーザーが投稿する900万件以上のコーディネートの検索・閲覧・保存が可能。

提供:ZOZOテクノロジーズ

企業に求められる企業研究、失敗も大切

サイバーエージェント AI LabもZOZO研究所も、自社の事業に親和性のある領域で、サービスのさらなる機能の開発に向けて、研究の取り組みを進めていることがわかりました。

まだ実績が出づらい部分は“アカデミック寄りからアプローチ”すると山口氏がおっしゃっていたことが印象的で、企業研究からのアプローチだからこそ、困難な技術をサービスに活用することができます。

では、企業に求められる研究開発とはどのようなものなのでしょうか。大学にて助教を務めた経験を持つ2人は何を語るのでしょうか?

できることとできないことをR&Dで担保|山口氏

山口氏:経営視点になりますが、新しい技術を使って、新しいビジネスを作り出していく際に、技術サイドの責任を負うのがR&D部門だと考えられます。

できることとできないことを、R&D部門がきちんと担保してあげないと、技術活用の正しい判断ができません。その上で、他社にない技術を0からつくっていくことができれば、企業戦略上の大きな強みにはなります。

失敗を財産と考え、中長期的に見る|渡邊氏

渡邊氏:山口さんのおっしゃることに同意です。

さらに、私は失敗することも重要だと考えています。一言で言うと。評価の高い機械学習のアルゴリズムを自社のデータで試して、もちろん、いい精度が出ればいいのですが、出なかったとしても、自社のデータと相性が合わなかった事はわかります。

5年後、10年後に振り返ったときに「あ、これやってました」「やっていたけど失敗しました」といった知見は財産でしょう。

山口氏:研究開発は、短期間で成果が出るようなものではありません。年単位で物事を見ていくというのはよくある話です。

たくさん失敗をしながら、できることと・できないことを判断していく必要があります。

長い目線で見ないと、組織運営も失敗する可能性が考えられます。

アカデミアとビジネス「R&Dに潜む課題」

企業の成長に密接に関わる研究開発。企業内の研究所は圧倒的なデータの量など、AIの開発に有利な環境が揃っているように思えますが、その実態はどうなのでしょうか?

2人のエピソードを基に、研究開発に潜む課題について考えていきましょう。

データは潤沢にあってもすぐに使えるとは限らない|山口氏

山口氏:大学は大学なりのチャレンジが、会社は会社なりのチャレンジがあります。

例えば会社の場合は、学生の方から「データがたくさんあっていいですね」と言われてることも多いです。ただ、実際にデータはあっても使える状態ではないということが多々あります。

そうすると、ひたすら社内調整をしないとデータ分析に必要なデータを手に入れることはできません。クリーンなデータであるとは限りませんし。

また、権利関係が複雑だったりして、お客様のデータを好き勝手にデータ分析をできるわけではないケースもあります。このあたりの扱いは、非常に今シビアになってきています。

途中終了してしまったプロジェクトもありますし、取り組んでみたけど、全然芽が出ないプロジェクトがあるのも現実です。

途中終了したプロジェクトもあったというサイバーエージェントのAI Labの取り組み。社内ではどのように研究開発のプロジェクトが発足するのでしょうか。

山口氏:AI Labの研究者からビジネスメンバーや担当役員に提案をするケースも多いですし、もちろん「経営的にこういう方向で研究をやりたい」というビジネストップ層からの相談も多いです。経営の意思を理解しながら、「こんなことだったら取り組めそうだな」と、うまく調整して、プロジェクトを組んでいます。

RとDの境目のあいまいさ|渡邊氏

渡邊氏:アカデミアは、人類のための研究だと思います。だからこそ、論文を書くことが重視されています。国からの補助金もあるので、研究の幅はある程度自由に設定することができます。

企業の場合は、その論文を書く重要性は、見出しづらいのが課題です。企業ブランディングで論文を積極的に出している会社もあるとは思いますが、論文の重要性の理解は、企業にとって難しい部分であると思います。

さらに渡邊氏はR&DのRとDの境目の定義の難しさも課題だと語りました。

渡邊氏 : リサーチ(R)とディベロップメント(D)の境目が、すごく難しいと思います。

私個人としては、RとDの境目は、すでにある技術を使って開発していくことがDで、使いたい技術を0から作るのがRだと考えています。

開発と研究の境目は、企業によっても違っています。RとDの境目を各企業がしっかり明確化していくことで、事業のビジョンが確立し、採用での候補者の希望と事業内容の認識の違いが回避でき、そういった積み重ねにより、結果、日本のR&Dの発展に繋がると思っています。

「研究者はビジネスに興味がない?」研究者とビジネスを隔てるもの

経営者が技術を理解していない。

研究者がビジネスに興味がない。

論文を書かない研究者は評価しない。

AIを取り巻く環境において、研究者とビジネスを隔てる垣根の存在を指摘する声が多く聞かれます。

一般的なアカデミアよりもビジネスに近い企業内研究所で研究開発にあたる2人はどのように感じているのでしょうか。

渡邊氏:研究者とビジネスの壁はありますね。

どうしても垣根的なものがあります。

大学における研究のレベルは本当に高いということもあり、特に日本では、企業に来られることに抵抗のある方は多い気がします。

米国のテック企業では創業者が研究者の企業も多く、アカデミアから積極的雇用をしています。

また、ブレークスルー賞のような科学賞は米国のテック企業が作り出したものです、基礎研究にリスペクトがあるんだと思います。結果両方が歩み寄っている印象があります。

山口氏:ビジネスサイドの人と研究者は持ってる目線がだいぶ違うと感じます。

だからこそ、企業の研究所の中の人って、なるべく両方の視点を持つことが重要なんだと考えています。

視点の違いを有効活用して、いい方向に持っていくことが必要で、そこにマネージャー的な仕事が必要とされていると思います。

参加企業数は20社以上!CCSE2019を議論の場に

企業研究への熱い想いを語ってくれた山口氏と渡邊氏は、企業研究に特化したカンファレンス「CCSE2019」の運営に携わっています。

2018年に続いて2回目の開催となる「CCSE2019」は前回参加した9社から21社へと2倍以上に大幅増加しました。企業研究に関する議論の場にしていくことを目的に、オープンイノベーションのようにさまざまな人が企業研究に関して議論する貴重な機会になるでしょう。

学生は無料!「CCSE2019 (Conference on Computer Science for Enterprise)」

「企業研究に特化したカンファレンス:CCSE2019」

CCSEは所属企業の枠を超え、企業が行った研究を学会のように発表議論する場を目指したカンファレンスです。

そして企業の研究者が「自社の研究を他社や学生と議論し、研究を発展させること」、聴講者が「共同研究や自分のキャリアについて考えるきっかけになること」を目的に、2019年度はサイバーエージェント、楽天技術研究所、メルカリ、グリー、ZOZOテクノロジーズ、電通ISIDから有志メンバーが集まりCCSE運営委員を構成し、所属企業の枠を超えて企画が進められてきました。

提供:CCSE運営委員会

CCSE2019に参加することで、機械学習やコンピュータビジョンなどのAI技術や,ロボット,IoT技術など,幅広い領域での研究について1日で触れることができます。

日時:2019年7月13日(土)
セッション:10:00~18:45 (予定)
懇親会  :18:45~20:00 (予定)

開催場所:東京大学伊藤謝恩ホール
〒113-0033
東京都文京区本郷7丁目3−1

参加費:社会人1,000円 / 学生(無料)

「CCSE2019」に向けて2人の意気込みを伺いました。

山口氏:「CCSE2019」は規模がかなり大きくなり、少しビックリしています。

論文にできない研究を各社が発表して、深いところまで議論できる場がこれまではなかなかありませんでした。

研究の中身にまで踏み込んで議論できる場を作ったという意味で、非常に楽しみにもしていますし、自分自身もサイバーエージェント AI Labで取り組んでいる研究を紹介して、いろんなご意見いただきたいなと思います。

渡邊氏はCCSE2019の運営委員として参画し、合同セッションにも登壇する予定です。

渡邊氏:私は学生のみなさんに企業研究がどういうものかを見て欲しいと考えています。自分の目で見て、話して、確かめてほしいんです。

「CCSE2019」での合同セッションでは産業界のための数学について議論しようと考えています。

数学は、数学のために数学をする純粋な数学だけでなく、金融や保険など幅広い分野で応用されていますが、今回はテックのための数学についての議論をしたいです。

数学界と企業を結びつける、「CCSE2019」をそんな場として使わせていただきたいと思っています。

さいごに

第2回目となる「CCSE2019」は、ビジネスで研究開発に携わる人でだけなく、大学で研究に関わる人たちや経営者など、さまざまな人たちが参加し、議論していくカンファレンスです。

「CCSE2019」は、今回のインタビューで2人から述べられたように、研究開発で取り組んでいく課題と解決方法や、それぞれ企業の取り組みの面白さなど、企業の研究開発に関して考え、知るきっかけとなるかもしれません。

多種多様な人たちで議論を重ね、日本の研究開発をもっと盛り上げていくきっかけとなる1日になるかもしれません。

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