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新薬の登場により、今までは致死率が高かった病気も治療が可能になってきました。
みなさんに身近なインフルエンザでは、2018年3月に新薬「ゾフルーザ」が発売されました。どの治療薬よりもよく効くと評判が良いだけでなく、スピーディな治療が可能なため、多くの医療機関で使われるようになっています。
このように新薬によって、病気に罹患したり、症状が悪化したりするリスクが低減されていると言えます。
そんな製薬業界についに、AIが応用され始めています。
そこでこの記事では、新薬開発の課題や、創薬分野にAIが導入されることでどんな影響があるのかを掘り下げていきます。
目次
創薬の現状
現在、創薬の分野はまだまだ成長段階です。そんな創薬の分野にAIを導入することで、さらなる発展が目指されています。
AIの創薬分野への応用について解説する前に、まずは創薬の現状について知っておく必要があります。
薬はどのような流れで開発され、どんな課題があるのでしょうか。
10年かかる新薬開発までの流れ
医薬品の開発は、以下のような流れで行われます。
このように「ターゲット探索」から「新薬承認」までには、10年以上かかることが当たり前の分野です。実際にリード化合物が最終的に医薬品になる確率は、およそ1/25000以下しかありません。
- ターゲット探索:医薬品の多くは、体内のタンパク質に結合し、そのはたらきを調整する化合物です。ターゲット探索では、そんな医薬が結合の標的とするタンパク質を選定します。
- リード化合物:ターゲット探索で標的としたタンパク質への結合力が強く、新薬を開発するための展開が見込めそうな化合物をリード化合物と呼びます。
新薬開発における課題
新薬開発には、高いリスクだけでなく、さまざまな課題があります。
- 平均1000億円以上の費用がかかること
- 医薬品開発過程のできるだけ早い段階での有効性・毒性の予測がしにくいこと
- 実験動物とヒトとの違いがあるため予期せぬ副作用が出る可能性があること
- AIシステムが誤った決定または予測を行った場合、誰が責任を負うか、誰が安全機能を組み込むのか。特定の仕事が役に立たなくなると経済はAIの出現にどのように反応するのか、など解決すべき倫理的配慮と法的問題が伴う。
など
以上がその課題です。新薬開発は非常にリスクの高いビジネスであると言えるでしょう。
現在の課題を解決するための技術の開発が必要になっています。
なぜAIを創薬に応用するのか?
創薬のコストや手間を削減するため
AIを利用することで創薬のコストや手間を削減できます。
例えば初期段階の検証においてAIを利用したシミュレーションを行うことで、創薬の成功率を大幅に高められます。また、何万種類にも及ぶ化合物の中から効果を発揮する組み合わせを絞り込むスクリーニングの作業においてもAIは活躍します。
化合物や薬、病気に関する膨大なデータをAIで整理し活用すれば、新薬開発における課題を解決する大きな助けになることでしょう。
新薬の効果を効率的に検証するため
AIは薬の開発だけでなく、効果検証にも大きく役立ちます。
例えば、実験的に患者に新薬を投与した際にAIを活用して画像診断すれば、効率的に新薬の効果を検証できます。
AIを創薬に応用する方法
創薬分野におけるAIの活用方法は以下が挙げられます。
- ターゲットの識別
- 薬物設計
- 薬物開発
- ビッグデータ分析
- 研究リスクの予測
- 患者マッチング
これらの分野でAIが活用できます。
具体的には、化合物の工場からタンパク質の活性を予測したり、活性発言に効果的な部分と効果的でない部分の可視化をしたり、既存の化合物から創薬に適した化合物を提案したりすることができます。
(引用:https://kotobank.jp/word/%E6%B4%BB%E6%80%A7-464370)
創薬分野でAIに取り組んでいる企業例
創薬分野でAIに取り組んでいる企業にはどんな企業があるのでしょうか。
ライフインテリジェンスコンソーシアム(LINK)-ビッグデータを活用
ライフインテリジェンスコンソーシアム(LINK)は産官学で連携してAI創薬を目指す取り組みです。日本の製薬業界の発展を支えるために、AIによる新薬開発の効率化と成功確率の向上は必要不可欠だとしてLINKの取り組みは始まりました。
LINKの具体的な目標としては、製薬分野のAIやビッグデータ技術を開発して製薬業界を発展させること、IT業界とライフ業界をマッチングさせてそれぞれの領域の産業競争力を高めることが挙げられます。
それぞれの製薬プロセスを支える30にも及ぶAIを各社で開発し、連携・統合させる取り組みが進められています。
株式会社MOLCURE-創薬AIベンチャー
株式会社MOLCUREはAIを活用した新薬開発の技術を提供するベンチャー企業です。MOLCUREが開発したバイオ医薬品分子設計技術は、AIとロボットを活用してスクリーニングと化合物設計を行います。
同技術を活用すれば、既存の手法に比べてスクリーニングの時間を1/10ほどに短縮できる上、10倍の新薬候補を発見できます。
MOLCUREは2021年8月にジャフコ グループ、STRIVE、SBIインベストメント、日本郵政キャピタル、GMOベンチャーパートナーズ、日本ケミファから総額8億円の資金を新たに調達し、世界に向けて事業展開を強化していく方針を表明しています。
AIが創薬に及ぼす影響
AIを使えば、分子設計などさまざまな部分の高低を自動化できるので、医薬品開発をスピードアップすることができます。今まで10年以上かかるとされてきた開発期間は4年短縮できることが予想されています。
医薬品の開発の速度があがれば、開発費を抑えられます。業界全体では、1.2兆円の削減ができるんです。これは1品目あたり、600億円の削減になります。
また、AIの創薬分野の導入が進めば、プレシジョンメディシンの実現も可能になるかもしれません。
プレシジョンメディシンとは、それぞれの人の遺伝子などを詳しく分析して、その結果に最適な薬を処方することです。「精密医療」と訳されます。個々人にあった薬を処方する上で、AIの力は大いに発揮されるでしょう。
まとめ
現在、創薬分野には時間や費用が莫大にかかる、新薬の予測ができないなどの課題が多くあります。
そのソリューションとして、AIが応用され始めているのです。
AIを活用することで、課題を解決できるだけでなく個人にあった薬を提案することもできます。
今後もさらなる展開を遂げるAIに目が離せません。
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[参考URL] “医療用医薬品 : ゾフルーザ”.KEGG MEDICUS.https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00067755, (参照 2019-10-25)