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2019.12.17

AIはどのようにして小売業を再発明するのか【US版NVIDIA公式ブログ翻訳記事】

US版NVIDIA公式ブログ記事のひとつ「AIはどのようにして小売業を再発明しているか」では、アメリカの小売業と卸売業におけるAIの応用事例がユースケースごとに紹介されています。

2035年までに2.2兆ドル(約240兆円)の価値が創出されると予想されているアメリカの小売業と卸売業におけるAIの応用事例は、以下のような4つのカテゴリーに分類することができます。

アメリカの小売業・卸売業におけるAI応用事例

応用カテゴリー 応用事例
スマートストアの実現 在庫管理の自動化、訪問客の行動分析、グラブ&ゴー店舗の実現
店舗運営の合理化 需要予測、在庫補充のタイミング予測、商品配達の自動化
物流とサプライチェーンの最適化 商品の供給計画立案、倉庫物流作業の自動化、配達経路の最適化
顧客の購買活動分析 レコメンデーション、購入予測

以上のようなAIの活用事例では、NVIDIAが開発するGPUやAIライブラリが使われています。

NVIDIAのブログ記事の最後では、AIに投資し活用している企業はAmazonに敗れた大手玩具量販店のトイザらス、あるいはNetflixの台頭でフェードアウトしたDVDレンタルチェーン事業者ブロックバスターのようにはならないだろう、と言葉で筆を擱いています。

日本は「AIを使っていれば有利」な状況から「AIを使っていなければ不利」な状況に移行する過渡期にあるように考えられます。極めて近い将来、日本もAIを活用しなければ競争に敗れる市場環境になることでしょう。

なお、以下の記事本文はNVIDIAジャパン広報部に直接コンタクトをとり、翻訳許可を頂いたうえで翻訳したものです。

WalmartやMeijerからDominoやStitch Fixにいたるまで革新的な小売業者と破壊的なスタートアップはAIを活用して物流と店舗運営を合理化し、欠減を防ぎ、店舗とオンラインの両方でより良いショッピング体験をもたらしています。

ディープラーニングと機械学習アルゴリズムは運用コストの削減、収益の増加、意思決定の改善に役立ちます。次の数字を見てください。アクセンチュアのレポート(※訳註1)は、AIは2035年までに成長と収益性を高めることで小売業と卸売業で2.2兆ドル(約240兆円)の価値を生み出す可能性があると推定しています。

わたしたちNVIDIAは、破壊的なAI技術を開発するためにNVIDIAのGPUとソフトウェアライブラリを活用している170以上の小売業におけるスタートアップと働いています。そうしたスタートアップは店舗における損失防止、在庫切れ通知、そして製品配置の最適化をリアルタイムで演算するAIアプリケーションを構築しています。

以下に示す4種類のAIユースケースは、AIは小売業者に対してこそ大きなビジネス的価値があることを実証しています。

(※訳註1)コンサルティング会社アクセンチュアのレポート「AIはどのようにして産業の利益とイノベーションをブーストするのか」によると、2035年までにAIによってアメリカの小売業と卸売業において創出される価値は2兆2250億ドル(約240円)であり、その内訳は「AIによる自動化」が1兆770億ドル(約190兆円)「AIによる増強」が9430億ドル(約100兆円)「TFP(Total Factor Productivity:全要素生産性)の向上」が2050億ドル(約22兆円)となっている(以下のグラフ参照)。 画像出典:accenture”How AI Boosts Industry Profits And Innovation“[/caption]

同レポートでは国別に見たAIによる粗付加価値成長率も報告しており、AIが順調に社会実装された場合、日本における粗付加価値は2035年までに年間2.7%上昇すると予想されている(下のグラフ参照)。

画像出典:accenture”How AI Boosts Industry Profits And Innovation“[/caption]

1.スマートストア

資産保護

小売業の欠減は、数千億ドル規模(数十兆円規模)の影響を世界中の小売業者に与える課題です。典型的な小売業者は、平均して売上高の1.4〜2%を欠減により失っています。量販店の場合、それは数十億ドル(数千億円)に達することがあります。

盗難は瞬く間に起こる可能性があるため、迅速な検出が必要です。Everseen 、Graymatics 、Malong 、Signatrix 、Third Eye Labs などのスタートアップのPOS資産保護アプリケーションはGPU搭載のインテリジェントビデオ分析を使用して、チケットの変更やミススキャンをリアルタイムで正確に検出します。最大99%の精度で欠減を検出し、検出されたらすぐに販売員が介入するように通知できます。

店舗分析

データ分析は訪問客がよく通る店舗の通路、顧客の滞在時間、ユニークビジターの数、顧客に関する人口統計情報を小売業者が賢く収集するのに役立ちます。

小売データコンサルティング会社のSkyREC はNVIDIA Jetsonシステムを使用して、AIベースの買い物客分析サービスを強化しています。このサービスを使って人口統計、ホットスポット、コールドゾーン、および滞留ポイントを知ることによって、小売業者は買い物客の行動を理解できるのです。

SkyRECの顧客であるTimberlandは精確なマーケティングとより優れたマーチャンダイジングにより、売上が30%増加したと報告しました。

自律的ショッピング

顧客が携帯電話をレジなしの勘定に使用できるグラブ&ゴー店舗(※訳註2)は、その利便性によって人気が急上昇しています。

Tracxpoint は、グラブ&ゴーショッピング用のカートを作っています。MalongAiFi は、小規模なグラブ&ゴー店舗を提供しており、Standard CognitionとVAAKは完全に自律的なストアを強化します。これらの自律型ショッピングストアはより良質かつ高速なショッピング体験を提供しながら、運営コストを削減するのです。

(※訳註2)「グラブ&ゴー店舗(grab-and-go store)」とは、「ほしい品物をつかんで(grab)、そのまま外に出る(go)」ことができるレジなし店舗のこと。Amazon-Goがその代表である。

2.運営の合理化

店舗運営管理は、ペースの速い複雑なプロセスです。従業員は最高の顧客体験を提供しながら、正確な需要予測と在庫補充、さらにはより迅速な会計処理対応といった複数の業務に関する優先順位のバランスを取る必要があります。しかし、ある研究によると、アメリカ人は未だに会計に並ぶ列で年間累積3億時間待っています(※訳註3)。

Bosa Nova、Fellow Robots、Standard Cognition などのソフトウェアとロボットのベンダーは、従業員に在庫切れを通知します。Anyvisionのような会社は、レジまでの行列が長くなったときに従業員に通知します。

小売大手のKrogerは、自律的な小包配達のためにNuroと提携しています。この提携によってKrogerは商品を安全かつお手頃価格でオンデマンド配達を実現しながら、配達員の時間を節約できました。自律車両操作のためにNVIDIA DRIVEを搭載したNuro R1無人配達車両は、アリゾナ州にあるKrogerのフライ食料品店のパイロットプログラムとしてフォーカスされました。

(※訳註3)この情報は投資運用会社のARK INVESTが2019年1月14日に発表したレポート「BIG IDEA 2019」が出典となっている。同レポートではレジ待ちの時間は、Amazon-Goのようなレジなし店舗の登場によって解消されると予想している。また、Amazon-Goが2021年までに3,000店舗開店する予定であることも伝えている。

3.物流とサプライチェーンの最適化

物流とサプライチェーンの最適化も、もう1つの複雑なプロセスです。このプロセスには正確で高速な予測、コンピュータービジョンとロボットを使用した倉庫物流、ラストワンマイルを配達するのためのトラック走路の最適化のようなことが含まれます。

サプライチェーン最適化に関する賭け金は高いです。アクセンチュアのレポートによると、平均的なフォーチュン100社の場合、サプライチェーンが1日短縮されただけで、5,000万ドル(約54億円)から1億ドル(約109億円)のキャッシュフローが自由になるのです。

Walmart Labsのデータサイエンスチームは、毎週5億通りもの商品と店舗の組み合わせに関する需要を予想しています。オープンソースのRAPIDSのデータ処理を活用した予測演算とNVIDIAのGPU上で稼働するCUDA-X AIに実装された機械学習ライブラリによって、Walmartは特徴量エンジニアリング(※訳注4)を100倍、機械学習アルゴリズムの訓練を20倍高速化しています。

(※訳註4)特徴量エンジニアリングとは、機械学習モデルの精度を向上させるために新たな特徴量とそれに関連したデータセットを追加することを意味している。精度を向上させる特徴量の発見は、機械学習と取り組んでいる問題に関するドメイン知識が要求されるため困難な作業だと言われている。

以下の動画では、WalmartがRAPIDSを使用して小売予測を改善する方法を見ることができます。

4.顧客の360度ビュー

顧客の行動を理解することは、成長を促進しようとしている小売業者にとってこれまでになく重要です。コンサルティング会社McKinsey&Companyは、AIが6,000億ドル(約65兆円)以上の価値を生み出し、小売などの労働集約型セクターで前例のないほど収益をあげる機会を提供する可能性があると評価しました(※訳註5)。

店舗内分析とオンラインの顧客行動を組み合わせることで小売業者は顧客とその購入嗜好をよりよく理解できるようになり、収益を促進し、より良いショッピング体験を提供できるプロモーションも提供できるようになります。

Criteoは顧客の購買習慣をより良く理解するためのデータ分析、および小売業者が顧客に最適な商品を最適な時に提案することを可能とする予測検索のためにGPUで強化されたAIを試験導入しています。

(※訳註5)コンサルティング会社McKinsey&Companyが2018年4月に公開したブログ記事「AIの最前線からのノート:ディープラーニングの応用とその価値」によると、AIが創出する潜在的価値を業界別に見ると「小売業」が6兆ドルともっとも多く、「運輸とサプライチェーン」が続く(下のグラフの縦軸参照)。 画像出典:McKinsey&Company “Notes from the AI frontier: Applications and value of deep learning“[/caption]

小売業においてAIが創出する価値は、顧客ごとにおすすめ商品をパーソラナイズするようなデータ分析に起因するものが50%弱を占める(下のグラフの横軸参照)。サプライチェーンにおいてはAIによって需要予測が10~20%向上することが予想されている。

ガートナーの調査結果によると、オンラインショッピング最適化におけるAIの応用には以下のグラフのように上位10分野があります(※訳註6)。

画像出典:Gartner, “Survey Analysis: Retail Use of Artificial Intelligence Expected to Surge,” July 2019.

(※訳註6)以上のガートナーが2019年7月に発表したしたレポート「統計分析:押し寄せる人工知能に期待される小売業への活用」では、小売業におけるAIの応用として、以下ような10の分野を挙げている。
  1. 倉庫における梱包のためのロボット
  2. 顧客への推奨
  3. ビジュアルウェブ検索
  4. 詐欺あるいは異常の検知
  5. パーソラナイゼーション
  6. ビジュアルアシスタント
  7. 顧客のためのVRあるいはAR
  8. ビジュアル検索
  9. 同僚との共同作業
  10. 配達用ロボット

AIに投資し活用している小売業者は、競争力と利益率を高めることができています。こうした小売業者は、トイザらス、ブロックバスター、そして顧客の購買活動における市場の破壊と変化の兆候を見逃したそのほかの企業の仲間入りはしないのです。

AIを活用したスマートな小売業者になるための旅をNVIDIAが助けている方法については、小売業に関するウェブページをご覧ください。


原文
『How AI Is Reinventing the Retail Industry』

著者
AZITA MARTIN(NVIDIA小売&CPGのための人工知能部門ゼネラル・マネージャー)

翻訳
吉本幸記(フリーライター、JDLA Deep Learning for GENERAL 2019 #1取得)

編集
おざけん

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