最終更新日:
この記事は、6月5日に開催されたイベント「DX2020 ~ 松尾豊教授とABEJA岡田が語る、これからのDXとAIの未来 ~」のレポートです。
※記事化のために一部を編集しています。
2020年に入り、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の動きが広がる現在、AI分野を牽引してきた東京大学大学院 松尾豊教授と、株式会社ABEJA 代表取締役CEOの岡田陽介氏はどのように捉えているのでしょうか?
株式会社ABEJA の佐久間 隆介氏がモデレーターを務めた、このイベントの全容をお伝えします。
目次
AfterコロナでAIはどのように活用されるのか
ABEJA 佐久間氏
ABEJA 佐久間氏
今までの経験やビジネス上の成功が通用するのかどうかがよくわからない状態です。おそらくみなさんは、何らかの道標みたいなものを、探していると思うんです。
その時に、さまざまあるテクノロジーの中でも、キーとなってくる「AI」ですが、After コロナの世界観の中で、どのようにビジネス面で実装され、使われたりしていくのか話を伺っていければと思います。
AI の権威である松尾先生から、ご見解を賜れればと思います。
松尾教授
企業の中でのAI活用のあり方については、Afterコロナの文脈の中で、いい意味でも悪い意味でも非常に大きな変化が起きたと思ってます。特にリスクをとってAI活用をやらざるを得ない状況になってきたと思います。
例えば、大学の中でも、講義が全部オンラインになってますし、政府の委員会もオンラインに移行し、大臣も会議にオンラインで出席しています。こんな急激な変化が起こるなんて、従来は到底考えられなかったことですが、それが起こってるということは、非常にポジティブに考えていいことだと思っています。
やっぱり、変化しようと思えばできるんだと思います。今まで、変化しない理由を言ってきて、やらない言い訳をしてきたわけです。「差し迫ったら、みんなやればできるじゃん」と思いました。
そんな中で、次なる問いは、テレワークが増えてきたときに今まで考えてた仕事の価値がちょっと違うんじゃないかということです。本質的な仕事の付加価値が、どこにあるかをもう一回考える必要があると思っています。
例えばハンコの問題も、長年当たり前のように使われてくる中で、本質的な価値や意義を見失ってきたのではないかと思っています。本質的な価値や意義を改めて問い直すことが様々な事象について求められているタイミングであると言えるのではないでしょうか。
ABEJA 佐久間氏
ABEJAも、さまざまなお客様や実際の社会課題や業務課題と向き合っていて、変化が難しかった現状が、Afterコロナの世界観で変わってきた部分もあると思います。岡田さんはいかがですか。
ABEJA 岡田氏
その後、データが集まったものをいかに使っていくのかで必要になってくるのが、AI活用だなと思っております。
まさに、DX(デジタルトランスフォーメーション)と、そして、AI化が必要な局面になってきたと思っています。
オフィスで雑談の中でイノベーションが生まれることもあったと思うのですが、オフィスでの雑談はデータにならないんです。雑談をわざわざ録音してる人はあまりいないと思うんですが、ZOOMなどオンライン会議ツールの使用が当たり前になることで、これまでデータにならなかったものがデータ化されていく影響が大きいと思っています。
今後は、これまでフィジカルで、対面、現場でやっていたことが、どんどんデジタル化されることにより、AIを使うことが、どんどん増えてくるかなと思っています。
データがどれだけ増えてくるのか、そのデータで何ができるのかに、改めてフォーカスするタイミングにきたと思います。データが増えることが嬉しいと強く感じている今日この頃です。
AI、データ活用の課題
ABEJA 佐久間氏
この点、データやAIがもっと活用されるためには、松尾先生がお持ちの観点から課題などはありますか?
松尾教授
特に、経営者の方のITスキルが低く、業務の中でIT活用やデータ活用の大きな阻害要因になってきていると思います。
企業の方とお話してても、エンジニアの方とか、新規事業の方 、R&D関連は、上司への説明コストが、非常に高いんです。そこでみなさんが、すごく苦労しておられます。相当噛み砕いて上司に持っていかないといけないし、よくわからないと言われて、引き戻されることもあります。
部下が「えっ?」と思うぐらい、先を読んだ手を「これやったらどう?」と言うのが本当の理想的な上司の役割だと思います。
そういう意味では、プログラミングのコードを書いてみるなど、AIの勉強をしてみることも大切です。AIのコードを書くことはそんなに難しくないです。ちょっとでもコードを書いてみると「あ、こんな感じか」と、何ができて、何ができないかがわかります。
さらに、AIのスタートアップでABEJAさんのような会社が、何がすごいのかも、より実感できるんです。
自社でできるところはどこで、どこから先は(AIのスタートアップと)連携してやるのかもわかってくると思います。ディープランニング協会でも。「今こそ学ぼう」というコンセプトで、さまざまなコンテンツを無料で出しています。
ぜひ、活用いただければと思います。
ABEJA 佐久間氏
日本企業が同じ轍を踏まないように、AIでも遅れを取らないように、どのようなところに気をつけたらいいか、視聴者のみなさんも気にされていると思います。
そのうちの1つが、おっしゃっていただいた経営者の皆様方のリテラシーだと思いますし、そのためにG検定をはじめ、様々な取り組みをなさっているというふうに思っております。松尾先生、ありがとうございました。
岡田さん、何かここに関して、AI プロバイダーとしての観点はありますか?
ABEJA 岡田氏
「IT化が遅れる」「DX化が遅れる」 「AI化が遅れる」というステップだと思うんですけれども、今は遅れていても追い付くことが、すごい重要だと思ってます。
まず、リテラシーをあげていく。そして、まずはIT化しましょうということが、しっかりとできてくると良いと思ってます。
まずIT化しないと、そもそもデータが絶対に取れないんですよね。コンピューターがない中で、データとりましょうって言っても、 電話するんですか?という話になってしまうので、その部分からスタートできれば一番いいなと思っています。
AIの技術発展の未来
ABEJA 佐久間氏
ちょっと言葉が幼稚なんですが、ワクワクするAIのその未来に関して、松尾先生が見ていらっしゃる世界観を少しでも、お伝えいただければと思います。
松尾教授
ところが今は、深層生成モデル、深層強化学習のシミュレーション、世界モデル、マルチタスク学習、メタ学習などめちゃくちゃ面白いことが起こっています。まだシミュレーション上で、学習して、それを実機に持っていったりするんですが、ディファレンシャルフィジクスといってシュミュレーション自体も、微分可能なんです。
従来の概念をかなり超えて、モデルをどう作り、それを現実とどう照らし合わせ、それを修正し、また現実に反映していうかというところで、いろんな動きが起こっています。これは、まだ非常にモヤモヤしてて、ImageNetの2012年みたいな、すごい瞬間というのは、まだ訪れてないんですが、また訪れそうだなという気がしてます。
その時に、また「おお、ディープラーニングすごいわ」となると思ってて。今のところ、静かに待っていてくれれば良いなと思っています。
そういうことができてくる、AIが世界モデルをちゃんと学習し、それに基づいて、いろんなアクションをしたり、推論したりできるようなってくると思います。今度、次に、言語との紐付け、「本質的な知能とは、何か」というところにつながってくるはずです。そこの取っかかりが見えているように思っています。
どこまで伝わるかわかりませんが、人間の知能は、センサーやアクチュエーター系の予測・ 制御する機構と、人の話を聞いて理解して発話を返すという二系統からなってて、それは、要するに、報酬関数が、2個できたということなんです。
実は、東大でも岡ノ谷先生が、歌の研究をしてるんですが、「人間の言語の起源が歌なのではないか」という研究をしています。実は、霊長類の中で人間だけが歌うんです。この「歌う」ということはメロディーも、旋律も離散化してるんです。
離散化して、当たるとうれしいっていう報酬系ができると、それをハックした装置として、歌ができるはずです。この辺はアーキテクチャーとして示せそうだなという感じがしてるんです。その辺ができると、本当の言葉の意味理解につながってきたり、さらにいうと「意識とは何か」「人間の知能とは何か」に迫れるじゃないかなと思っています。
ABEJA 佐久間氏
松尾教授
東大の岡ノ谷先生が、歌の研究をいっぱいしていて、本も出されているので、もし興味ある方は、見ていただければと思います。
人間のような霊長類で、サルは、他にもいっぱいいるわけです。人間だけ特殊なポジションを占めてるわけですね。進化の仕組みでは、本当にちょっとしたことしか変わりません。例えば、恐竜が鳥になったのは、実は恐竜が鳥にそもそも近かったと、最近わかってきています。本当にちょっとしたきっかけで何か大きな変化が起こるのが、進化の特性です。猿と人間も、ほとんど違わないはずなんです。ちょっとだけ違うだけなんですね。そのちょっとが、どこなのか。
僕の仮説は、報酬系のつくり方です。ディープラーニングの文脈でいうと、L=◯+◯+◯みたいに書くわけですが、この「L」の1個の項目が付け加わっているだけなんじゃないかなと実は思っています。
それは、相手の言っていることを予測しようとする仕組みです。相手の言っていることを予測しようとする仕組みさえあれば、ディスティレーションが働いて、蒸留が働いて、相手の脳内にできたモデルを、自分の脳にコピーすることが生まれるんです。相手の言っていることを予測しようっていうことが、どんなきっかけで生まれるかというと、おそらく最初は赤ちゃんと母親のコミュニケーションからだというのが、ある進化生物学者の説です。
人間は、毛のない猿なので、赤ちゃんがお母さんにぶら下がれないんです。そのため、置いて、近くの餌を取りにいかないといけません。赤ちゃんをモニタリングすることがとても大事で、赤ちゃんが、今良い状態なのか、悪い状態なのかを気にしていないといけません。その赤ちゃんとお母さんの間での情報交換、そこから言語的なものが、生まれ、そこでコミュニケーションを取るようになったという説があるんです。その基盤の上に、その相手が言ってることを予測しようという報酬系の関数が組込まれるわけです。
相手の言っていることを予測するときに、予測が当たったかどうかは、連続的なものだと当たったかどうかは判定しづらく、離散的なほうがわかりやすいです。つまり、リグレッションよりもクラシフィケーションの方が正解データの作り方によってはロバストであるという感じなんです。
そうすると、人が話すことは、そもそも音素を離散化し、それを系列にして言葉にしているんですよね。「あいうえお」とか、日本人は「L」と「R」が区別つかないとかを、初期にやっといて、その上で、音素、言葉、文を予測する問題になっています。
逆にそれをハックすることもできる。人間の社会の中で、そういった報酬関数をハックしてる系のビジネスがたくさんあります。例えば、ギャンブルは、探索と活用のトレードオフのハックをしていると、僕は思っています。
音楽もそういうふうに、離散化したものを当てると嬉しいという報酬関数をハックしたものかもしれません。これが感情を動かし、結束力を高めることになって、生存確率が上がったのかもしれません。
いい音楽は、予測がある程度当たる。だけど、たまに裏切ります。離散化されたものを予測しにいくという報酬関数が加わっただけで、実は相手の発話を予測しにいって、ディスティレーション(蒸留)によって相手のモデルを自分の脳内にコピーし、さらに空いた容量のところで、さらに経験を貯めて、それをまた次の世代に伝達するみたいなことが、仕組みとして全部起こるはずです。
これは、だいたい正しいんじゃないかと思ってるのですが、どのように証明したらいいのか、よくわかんない状態です。
ABEJA 佐久間氏
よりオートメーション化し、サイエンスできる世界がやってきている。言い換えると、世界や社会をより本質的な意味で理解できる世界が近づいてるということだと理解しました。
岡田さんはどう感じていますか?
ABEJA 岡田氏
ちょうど2019年に開催したSIX(ABEJAの開催するAIカンファレンス)では、松尾先生から、ELMoなどワールドモデルが生まれてきていて、これがかなり面白い成果になってるとお話いただきました。
言語的なものに関しては、速度が速く進化してると思います。ワールドモデルのようなものを、物流倉庫みたいなところで活用したりしてるんですが、進化するプロセスの速度、ビジネスに直結する速度が、すごく速くなってるんですよね。
私はABEJAを2012の9月に創業しているので、ジェフリー・ヒントン先生がDNNresearchを創業する10月より創業が1ヵ月早かったのですが、当時はアナログを持って営業に行って、すべて無視されたという苦い経験があります。
今のタイミングは、絶対に同じ轍を踏んではまずいと思うんです。AIがここまで進化して、松尾先生みたいな方が出て、解説していただける素晴らしい機会だと思ってますので、AI技術をどんどん活用するのが、極めて重要だ思ってます。
AIもどんどん進化して、 AIの周辺領域もどんどん進化して、その速度が速くなっていっていると思います。AIのエコシステムと技術的進化は指数関数的に増えていくはずです。こうして、技術の進化が進むほど、「それをどう使うのか」考えるためのリベラルアーツがより重要になっていくとも思います。
ABEJA 佐久間氏
単に、テクノロジーの1つというよりAIと共に歩む未来が、それぞれの領域にも、非常に重要になってくると思いました。
なぜAIの実装が進まないのか
ABEJA 佐久間氏
松尾教授
それが故に、インターオペラビリティが低く、また、ユーザーインターフェースが良くないケースもあります。そして、オープンソースの活用やクラウドの活用が軒並み遅れてきたんです。この問題が、長年、日本にはありました。それが、各産業の競争力を長期的に阻害してきたなと考えています。
しかし、ITベンダーさんだけが悪いのではなく、根本的な問題があります。それは、日本が雇用の慣行なんです。基本的にクビにできないですよ。なので、基本的には新卒一括採用で採用し、社内でいろんな部署を経験させるんです。
そして非常に柔軟性の高い人材にしていくが、日本なりのやり方です。例えば、ある部署が、事業部が閉じても、他に社内転職ができるので、これで終身雇用してあげられるわけですね。
ところが、IT系の人材って(社内で)使い回せないですよね。IT系人材はITが取り柄というか、ギークな人が多く、なかなか使い回せません。そうすると、 IT部門の人を社内で雇用することが、長年リスクだったんです。そうすると、そこ(IT系の部門)を外に出すしかないので、ITベンダーさんに丸投げするしかありません。そうすると、社内でそこ(IT系のプロジェクト)を仕切れる人がいません。
元をたどると、日本の人材の流動性の低さ、それも日本の社会が選択して、作り上げてきたものが、いろんな形で影響して、今の状況になっていると思います。だから、逆にいうと人材の流動性が上がってくれば、大企業でもいい人を短期雇用できるようになってきます。もっと力のある人が活躍できるような仕組みが、できてくるんじゃないかと思います。
ABEJA 佐久間氏
では、それが 、AIで挽回可能なのか、AIを生かすために、また別の要素も必要なのかについて、松尾先生のご見解を教えてください。
松尾教授
今僕が、いろんなスタートアップに関わったり、企業から相談を受けて感じるのは、ちゃんと売上が上がって伸びているのはSaaS系のビジネスが多いということです。特にイケてるなと思ってるのは、バーティカルSaaS系です。領域を決めて、その中で必要なサービスを提供するという仕組みです。
そもそも、SaaSが何かというのは今更解説する必要もないですが、ユーザーからすると、非常に単価を安く導入することができます。フリーミアム的に、最初無料で入れて、よかったら課金するみたいな使い方もできます。提供する側からすると、ユーザーの使用の状況をよくモニターできるので、機能改善がしやすいんです。ABテストしながら、あっという間に改善していくことができる。
例えば、SaaSで機能を提供している中で、使われない機能があるとユーザー満足度の低下につながるので、ユーザーに多くの機能をちゃんと使ってもらえるように、KPIをおいて、UIを改良していくことをやっています。
結局、カスタマーサティスファクションを高めていくことが、継続率向上につながっています。Win-Winなんです。
また、SaaSのいいところは、担当者レベルで、導入の意思決定ができるということです。
今、東大も全部、ほぼ講義はオンラインで、Zoomでやってるんです。なぜ、Zoomでやってるのかというと、Zoomの社長が、東大の総長にトップ営業に行って決裁されたのかっていうと、そうではありません。
各教員が、「俺はZoomでやる」と。Zoomが使いやすいから、他の先生も私もZoomでやるみたいな感じで導入するんです。要するに、担当者レベルの決裁を持つ人が入れていくことができて、BtoBだけど、BtoC並みの瞬発力があるということです。
今までは、こうしたSaaSのサービスも、会計や法務、名刺管理、人材など、ホリゾンタルなものが多かったですが、もっと縦方向に、例えば製造や小売流通や農業などで、(この流れは)起こってくると思ってます。
一方で、AIがどんな役割を果たすかというと、SaaSで起こっていることは、一番抽象化していうと、世の中のクロックスピードが、上がっているということだと思っています。
世の中のクロックスピードが上がっている現象は、多分いろんなところで観察されていて、コロナショックで株価が一瞬にして下がって、一瞬にして戻ったのもそうだと思います。
例えば、教育においても、22歳ぐらいまでに学んだことが、ずっと一生使えていた時代ではなくなっています。賞味期限がくるような時代になっているということです。
それから、電話や携帯やインターネット普及のスピードがどんどん早くなっていることをみても、やはりクロックスピードが上がってると言えると思います。生物の進化の過程に例えると、遺伝子の最適化、遺伝的アルゴリズムによる進化をしていたものが、途中から学習ベースに変わったんです。これによって、環境の変化に対する対応速度が早くなるんです。基本的には、スピードが速いということは、変化に対応する力が強く、生存する力が強いということです。
生き残る力が強いとはそういうことだと思うんです。社会全体が、スピードが上がる方向にいっているという中で、
SaaSの話では、決裁者レベル、担当者レベルで、すぐに決裁して、導入できるスピードが上がってるんです。逆に、SaaSを提供する会社からすると、その製品の改善のスピードが上がっています。
このスピードが上がるという現象が、いろんな業界で起こっていくはずです。単純に言うと、3日かかるものっていうのが、3分になります。3日かかるということは、その途中のプロセスに人間が入ってるんです。人が見て、判断すると3日かかってしまいますが、基本的に全部デジタルになって、プログラムで処理できるようになると、3分でできるようになるんです。
特に、ディープラーニングによって、そんな変化が起こります。人が見た上で判断しないといけない要因が取り除かれることにより、その業務が早くなるんです。DX全体で、業務が早くなり、強くなることということに向かっています。ディープラーニングをはじめとするAIは、その中でも、特に人間系のところを自動化することによる高速化を担っています。僕としては、そういう整理なのかなと最近思っています。
ということは「ディープラーニングを導入しました。すごいでしょ。」では、意味がなく、業務全体がどのように速くなっていて、どのように強くなっているのか、付加価値が上がってるのかを全体で考えなければいけません。だから、全体で100時間かかっているのに、ディープラーニングで5時間分を5分にしましたということに意味はないです。全体で100.時間かかってるわけだから。そういう業務全体を考えた時のDXを考えていくべきで。その中での、AI、ディープラーニングの位置づけがあると良いと思います。
クロックスピード(ビジネスのサイクル)を上げるには
ABEJA 佐久間氏
松尾先生にお答えいただいたお話の中で、シミュレーション自体も微分可能というお話が挙がっていました。今、お話いただいたことと照らし合わせると、シミュレーションって、一部コンピューターを使っていますが、人間がそれを判断したり、その分析の結果を行動に移したりして、時間をかけていた。
それが、さらに改革を起こして微分コンピューティングができる、あるいはオートメーションできるということですね。それによって、よりクロックスピードを上げていけるんじゃないかという話ともつながってくるのではないでしょうか。
ABEJA 岡田氏
このPoCをやってしまうと、後から「なんでやってたんだ」という話になってしまいます。全体感を見た上で、どこをオートメーション化するのか考えることが、極めて重要だと思っています。
日本のDXが遅れてる理由については、松尾先生と全く同じ意見です。その中で、どうやって挽回していくかは結局、超高速でPoCを回していくことしかないと思っています。
日本の製造業の方々が工場でやっていたことを、今度はデジタル空間でグルグル回しましょうねっていうことだと思うんですよね。これをやることがすごい重要で、これをやらないとPoC から抜け出せないんですよね。
まず、クロックスピード上げましょう。もっと上がるはずです
ABEJA 佐久間氏
AIの導入に必要な組織改革
ABEJA 佐久間氏
ABEJA 岡田氏
その上で、松尾先生もよくおっしゃってるように、思い切って若手に任せることが、極めて重要だと思っています。ちょっと攻撃的な発言で非常に恐縮なのですが、この分野は若手の方が絶対詳しいんですよね。新卒入社して、グルグル部署異動をするのではなく、コンピューターオタクみたいな人の方が、圧倒的にこの分野に詳しいです。彼らに任せることが、一番早くできるやり方なんですよね。
若手が自律的に「こういうのやってしまったんですけど、いいですかね?」みたいな自由度の高い組織をつくることが、一番重要かなと思っています。技術系専門人材のサラリーをあげることの必要性について言及されることが多いですが、いくらサラリーが高くても、面白くて自由度の高い仕事ができない会社に若手の優秀な人材は集まりません。
自由度が高い中で、新しいテクノロジーに対してコミットすることができる。これを許容できる組織をつくることが極めて重要だと思っています。自分がわからなければ、もう若手に任せたほうが絶対いいんです。
分からない人が分かるために、分かっている人が3カ月間説明をするみたいなことは、不毛だと思うんです。AIが何なのかを3ヶ月説明して、「結局わかりませんでした」となったら、全然意味がないです。基本的にはわからなければ任せましょう、そしてもっと勉強しましょう。
若手に自由にやらせて、適切なサイクルで振り返りもできる仕組みをつくるのが、1番重要なポイントだと思っています。
松尾教授
日本人は頑張ってしまうんです。頑張ってしまうのはよくないんです。頑張って、ちょっと改善し、「10%良くなりました」「20%良くなりました」みたいな積み上げをしていて、みんな苦しいんです。
満員の通勤電車を我慢して、頑張って出社して、しかし、テレワークになってみると「アレ?通勤電車で何分前に(オフィスに)着こうと思っていた努力は、一体なんだったのか」みたいな感じですよね。
僕は、やっぱり10倍とか、100倍とか、桁が違うようなクロックアップを創造する。2倍とかだと、変に頑張れちゃうので、小さい改善の積み重ねより、10倍とか100倍の世界を考えたら「そもそも違うよね」「やり方を変えないとね」となると思うんですよね。
今の組織をベースにして考えるよりは、その10倍とか100倍のスピードアップなり、生産性なりを考えた時に、一体何ができるのかは、すごく大事だと思います。
ABEJA 佐久間氏
「AIでいくら儲かる?」にどう答えるか
ABEJA 佐久間氏
ABEJA 岡田氏
「10倍・100倍の成果にチャレンジしましょう」と稟議書を持っていくのが一番良いと思います。もちろん、必ずしも10倍・100倍の成果を出すことができるわけではありませんし、難しいことですが、こうしたことを認められる組織づくりが大事だと思います。
ABEJA 佐久間氏
松尾教授
短期的に成果を出そうとすると、今すぐ入れられるものに限定されてくるのでROIとしても低いのですが、AIやディープラーニングでやる経営のことは、もうちょっと時間軸長いことが多いんです。その代わり、インパクトもでかいんです。
これが実現する確率自体は、何割とか、何%かもしれないけれどもとても大きい話なので、掛け算をすると、投資対効果あるという感じだと思います。多くの企業で、その本質的な変化に対して、ちゃんとベッドをすることができていない場合が多く、そこはなんて言うんですかね、中期、長期を見た時のROIは、絶対合うんだけど、もったいないなと感じることが多いです。
ただ、担当者のお立場としては「そうは言っても、中期計画に組み込まないといけないんですよ」とか「部署の今年度予算の中で、やらないといけないですよ」とかあると思うので、なかなかしんどいところだと思いますが、そこはうまく書いてくださいという感じですかね。
ABEJA 佐久間氏
例えば、半年、1年の短期間のROIと言われると。「いやいや、まだAIの精度出ないんで。」みたいな話になっちゃう気がするんですけど。
松尾教授
松尾氏のABEJAへの期待
ABEJA 佐久間氏
松尾教授
バブルの崩壊は、コロナショックと対応してるなと思っています。おそらく、このコロナのショックで、AI企業を標榜していても実際に相手方の企業の売上利益、付加価値に、寄与していないような会社は、淘汰されていくと思います。
これは、インターネットの時もそうでした。90年代後半は、インターネットというだけで、もてはやされていました。バリュエーションも高かったんですが、結局は、本当にユーザーのためになるような企業しか長期的に伸びていくことはありませんでした。AIもディープラーニングも一緒だと思っています。このコロナ禍で、クライアント企業の付加価値になるのかが、問われています。
そういう意味では、ABEJAさんは、昔から現場に入って、いろんな業界のディープラーニングの活用を、かなり先進的にやられています。その中で、例えばAI活用において重要なアノテーションの仕組みを作ったりもしています。現場に入り込んだ、まさにバーティカルな取り組みを先行的にやっていて、だからこそ、本当に役に立つものを、生み出すことができているのだと思っています。
そういう意味では、With/Afterコロナの、本当にクライアントの役に立っているか、付加価値に寄与しているかが問われるような時代において、ABEJAさんの成長が楽しみだと思っていますし、僕自身もいろんな知見を教えていただければと思ってます。
■AI専門メディア AINOW編集長 ■カメラマン ■Twitterでも発信しています。@ozaken_AI ■AINOWのTwitterもぜひ! @ainow_AI ┃
AIが人間と共存していく社会を作りたい。活用の視点でAIの情報を発信します。
岡田と一緒に、ABEJA Platformを始めとする、AIの社会実装の事業を取りまとめています。
今回は、さまざまなバックグラウンドの方が参加されていると理解しております。それぞれAIなどの技術を実際に実装されていビジネスサイドの方々もたくさんいらっしゃると思います。中には、ABEJAと縁のない方々もいらっしゃると思います。
この対談のコーナーでは、松尾先生から、どんな話が聞けるか楽しみに待っている参加者の方が多いと思います。最大限引き出していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
それでは、まずいくつか皮切りになる質問をさせていただきたいと思います。ものによって、松尾先生に直接お伺いしたり。岡田に、まずバトンタッチしてからというものがあると思いますので、よろしくお願いします。