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近年、BtoBマーケティングの世界で「ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)」に注目が集まっています。しかし、多くの人はABMの詳しい内容を知らないのではないでしょうか?
サービスが多様化し、ユーザにとっての選択肢が増えた今、企業はマーケティングのあり方を進化させ、ユーザへのアプローチの仕方を変革しています。
そんな時に代表的なマーケティング手法となるのがABM(アカウント・ベースド・マーケティング)です。
今回は、ABMの定義やメリット・デメリット、具体的な手順までを初心者の方でも理解できるよう詳しく解説します。
目次
1.ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)とは
ABMの定義
ABMはアカウント・ベースド・マーケティングの略称で、簡単にいうと、顧客(アカウント)に合わせてマーケティングのアプローチを切り分けることを指します。
インターネットが登場する以前は、一人ひとりへのマーケティングの手法を棲み分けることはできず、テレビや雑誌、新聞などのマスメディアを通したマーケティングがメインでした。
そのため、営業やマーケティングは、戦略的に業種や市場などの「ターゲット」を決めて活動を行っていました。
一方で、Web関連の技術発展により、個人の趣味趣向などのデータに合わせ、特定の顧客(アカウント)を明確なターゲットに選び、そこへマーケティングや営業リソースを戦略的に集中させる手法が台頭してきました。
なぜABMが注目されてきたのか
リードの量よりも質が求められている
近年は、リードの量よりも質が求められるようになってきました。
多くのBtoBサービスは、対象企業によって購買力の格差が大きかったり、BtoBサービスを売るための販売チャネルや営業リソースが限定的だったりするからです。
具体的な数値を見てみましょう。
ABMを提唱する米Demandbaseによると、
・Web来訪者の82%は見込み客ではない
・Web来訪者の直帰率は60%以上 ・マーケティングが提供するリードの50%は営業に無視される (出典:“The Rise of Account-Based Marketing) |
というように、リードの量を重視しても成約に繋がらないケースが多いことが分かります。
BtoBサービスを提供する企業はベンチャーや中小企業が多いため、不特定多数の顧客にリソースを使うよりも、成約に繋がる可能性の高い顧客に絞って貴重なリソースを使う方が効率的といえます。
ABMの考え方では、成約につながる見込みの高い顧客を割り出し、適切なアプローチをとっていくことが重要です。
顧客のニーズが多様化
現在さまざまなBtoBサービスが生まれ、顧客は多くのサービスの中から自社に適したサービスを選びやすくなりました。
一方で企業は、市場が発達して類似サービスが多く生まれたことで、顧客にサービスを切り替えられる恐れが以前よりも高まりました。
そのため、それぞれの企業に合わせたマーケティングを実施して長い関係を築く必要があり、LTV(Life Time Value)としてKPIに取り入れている企業も多いでしょう。
企業と顧客の関係性構築が重視される時代の流れでABMツールが注目されています。
なぜ日本企業にABMが必要なのか
1社1社のクライアントと長い関係を築くため
現在、多くのサービスはWebを通して利用でき、SaaSとして注目を集めています。
SaaSの特徴は、Webを介してサービスを提供することで、常に新しい機能をアップデートできることです。
また、SaaSを提供する会社は、顧客の利用データをもとにサービスを改善させることも可能です。
一方、従来は、SaaSのようにWebを介してサービスが提供されるのではなく、多くのサービスはパッケージとしてそれぞれのPCにダウンロードして使われていました。
1回購入してもらえれば収益を確保できるモデルだったため、いかに顧客を獲得するかが重要だったといえます。
一方、Webサービスが台頭した今、顧客を獲得するだけでなく長期間に渡って満足してもらい、収益を積み上げていく必要性が高まりました。
そこですぐ解約されるのを防ぐために、ABMツールを導入し、それぞれの企業に合わせたマーケティングを実施して長い関係を築く必要が出てきました。
ABMツールとは
ABMツールとは、情報の統合と選定を行うツールのことです。
ABMツールによって、今まで商品やサービスごとに顧客管理されていたデータが企業単位で管理できるようになります。
それによって、自社の商品やサービスをターゲット企業に対して適切な時期に提供できます。
2. ABMのメリット
リソースの無駄が減る
営業は機会損失が多いといわれます。これはデータに基づかず、闇雲に顧客にアプローチしていることが原因です。
近年では、ABMの考え方の元、SFA(Sales Force Automation)というツールの導入が進んでいます。
SFAとは、企業の営業部の情報や業務の自動化、分析をして、ボトルネックの発見や効率化を図るシステムです。
SFAを活用することで、売れるクライアントに売れるタイミングで最適な営業のアプローチができるため、営業の機会損失が減り、売上を上げることができます。
結果、人材や資金のリソースを無駄なく集中的に投下できます。
追跡や効果測定がしやすい
タイミングを逃すと営業は拒絶されてしまいます。みなさんも、自分が必要としていない時に営業のメールや電話が来たら嫌ですよね。
これを防ぐには、ニーズがあるタイミングでアプローチをすれば良いのですが、適切なタイミングを見計らうことは至難の技です。
しかし、ABMツールを導入すると効果を数字で計測できるので、自らフィードバックをして改善することができます。
営業部門とマーケティング部門の連携がスムーズになる
情報共有や施策での協力など両部門の連携が不可欠です。
ABMツールは個人単位ではなく会社単位で運用することが一般的なため、社内で情報を共有し、迅速にリードナーチャリング(見込み顧客の育成)が可能です。
具体的にはABMツールを導入することで、マーケティング部門が獲得したリード(お問い合わせ)を迅速に営業活動にシフトできます。
3.ABMのデメリット
取り組みをスタートしてから、運用が軌道に乗るまで大変
膨大な顧客がいる企業はガバナンスを整えたり、営業部隊を再編するのが大変です。
ときには従来の営業手法を根本から変える必要もあり、現場の抵抗もあるかもしれません。
「営業部門とマーケティング部門がそれぞれ独立して、別々の業務を行う」企業には不向き
メリットでも述べたように、ABMツールは個人単位ではなく会社単位で運用するものです。そのため情報共有や施策での協力など、両部門の連携が不可欠になります。
しかし営業部門とマーケティング部門がそれぞれ独立している企業の場合は、組織同士の連携をスムーズにし、ABMツールを活用できる体制を整える必要があります。
「新規顧客or商談期間が短い顧客にアプローチする」企業には不向き
ABMは自社に大きな利益をもたらす大口顧客を特定し、その顧客に対して最適なアプローチを継続的に行う手法です。
そのため、これまで実績のない新規顧客や、商談期間が短い顧客の場合はあまり効果が期待できません。
4.ABM活用の具体的なステップ
ステップ1.対象の企業(アカウント)の選定
ABMを実施するには、まず「自社にとって注力してアプローチするべき企業(アカ ウント)はどこか」をリストアップします。
ステップ2.キーパーソンの特定
次に、対象となったアカウント内の意思決定者との接点があるかどうか確認します。
接点があれば直接的なアプローチが可能ですが、ない場合は営業チームに調査を依頼して、接点を発掘しましょう。
ステップ3.顧客への配信コンテンツと顧客ごとのメッセージ作成
ステップ1で選定した顧客が直面する明確かつ重要な課題を解決するような、深くて価値のあるコンテンツやメッセージを提供すると効果的です。
例えば、SNSの広告からリードを獲得した場合はSNS流入向けのコンテンツを、テレアポの場合は企業ごとのトークスクリプトを作成します。
ステップ4.アプローチ開始!
ターゲット企業に対してどのようなマーケティング施策を行うか、どのチャネルでアプローチするかを決定します。
チャネルを1つに絞る必要はなく、自社サイトや広告、メールなど複数のチャネルを組み合わせるのも良いでしょう。
ステップ5.効果測定・最適化
アプローチ後は効果測定、学習してPDCAサイクルを回し、最適化します。
時間をかけて改善し続けることが大切です。
具体的には個別のデータだけでなく傾向データも確認し、価値の高い顧客へのアプローチができているか、これらの顧客とのエンゲージメントは強化されているかを評価しましょう。
5.ABM導入の成功例
株式会社LIGの事例
株式会社LIGは、MAツール「BowNow」を導入しました。
導入前は、アポ率が3~12%と営業担当者によりバラつきがあったり、10件の質の高いリストを作成するのに1時間かかったりしていたそうです。
しかし導入後は大きな変化がありました。
自社WEBサイトの特定ページを複数回訪れたリードを管理画面で検索し、リスト化してテレアポする流れで、平均10%のアポ率に安定しました。
また、既存のABM設定をそのまま使える「ABMテンプレート」を活用することで、リスト作成にかかる時間が半分に短縮され、営業効率が向上しました。
株式会社ユーザベースの事例
株式会社ユーザベースは、マーケティングオートメーション・ツール「Marketo」を導入しました。
導入前は、失注案件のフォローができなかったり、イベントやセミナーを実施する際、メール配信ツールがなかったため、集客にかなりの時間を要していたそうです。
しかし導入後は、脈がない新規案件をマーケティングチームに預けられるようになりました。
そのため、より確度の高い案件に集中でき、営業の作業効率が大幅にアップしました。
また、業務効率化により新たなチャレンジ、やるべき施策に着手できるようにもなりました。
6. ABMツールを選ぶ際のポイント
企業データの件数
ABMがどのような経路で企業データを収集・蓄積しているかがポイントです。
ABMツールはそれぞれ独自の企業データを保有していますが、データベース件数が多いツールを選ぶとベストです。
データベース件数が多いと、そこからターゲットを絞り込む精度が高くなり、ABMの効果も高くなるからです。
自社と同じ業種の実績
各ツールの導入実績として、自社と同じ業種の実績が多くあるかをチェックしましょう。
同業者が効果的な結果を出していれば、自社も同程度の結果が見込めるので、ツールを導入する際の重要な判断ポイントになります。
操作性
どんなツールでも、簡単に操作できるかどうかは非常に重要です。
操作に手こずると、そこに時間がとられてしまい、本来やるべき業務に支障をきたす可能性があります。
また、操作が複雑だとABMの長期的な運用が難しくなるため、無料トライアルで実際に試しておくとベストです。
7.ABMツール5選
SPEEDA
ビジネスにおける情報収集・分析を効率化し、企業の進化を加速する経済情報プラットフォームです。
経営企画や法人営業に必要なリサーチを、スピーディーに行うことが可能になります。
【機能】
【料金】 |
HIRAMEKI XD
驚きのシンプルさと低コストで、ビジネス成果が出るまで使い倒すことができるマーケティングプラットフォームです。
【機能】
【料金】 |
FORCAS
独自の企業データと分析アルゴリズムの力で、成約確度が高い企業を特定し、ABMの実現を強力にサポートするツールです。
企業が抱える顧客データだけでなく、FORCASが所有する140万社以上の豊富な企業情報·顧客データを簡単に統合できるので、より成約確度の高い顧客データを見出すことが可能です。
【機能】
【料金】 |
uSonar
顧客のあらゆる情報を名寄せして、デマンドセンターを構築できるツールです。
標準搭載している企業データベースをもとにデータクレンジング・名寄せを高精度かつ自動で行うので、ターゲット企業の選定にかかる工数を削減できます。
【機能】
【料金】 |
Marketo
全世界で5000社以上の企業に導入されているツールです。
顧客の行動データを集めて、長期的な関係を構築するのに役立ちます。
【機能】
【料金】 |
8.ABMを導入する際にすべきこと
営業部門に、ABMの導入の目的・メリットを共有する
すぐ数字に繋がる顧客を重視する営業部門は、長期的な取引を前提に顧客を選ぶABMに同意しないケースが多いです。
そのため、ABMを導入する前に営業部門とマーケティング部門が目的やメリット、ゴールを共有し、納得しておく必要があります。
9.ABM関連スキルの学び方
ABMについて学べるセミナー
シンフォニーマーケティング株式会社
【特徴】
毎月13~14回のペースで、ABMを中心に無料セミナーを開催
【セミナー詳細URL】
https://www.symphony-marketing.co.jp/seminar/
Mtame株式会社
【特徴】
- 月2~3回、MAツールといったデジタルマーケティング分野の無料セミナーを開催
- MA関連のセミナーを数多く開催
【セミナー詳細URL】
https://mtame.jp/marketing_seminar/
株式会社FORCAS
【特徴】
毎月5~6回のペースで、ABMを中心に無料セミナーを開催
【セミナー詳細URL】
https://www.forcas.com/event/
ABM関連の書籍
究極のBtoBマーケティング ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)
著:庭山 一郎 出版:日経BP(2016年12月発刊)
10.まとめ
今回はABMとは何か、活用までの具体的なステップやメリット・デメリットについて紹介しました。
ABMは一見難しそうに見えますが、簡単にいうと「収益性の高い顧客を選び、自社のリソースを集中して戦略を行う」ことです。
売上の80%を顧客の20%が占めることも多いBtoB企業にとって、優良顧客との関係を深めることは非常に重要です。
この記事が皆さまの参考になれば幸いです。