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2021.03.22

【不動産×DX】不動産業界の課題から今後の展望を事例付きで解説!

最終更新日:

これまで不動産業界は、超低金利政策などの影響を受けて売り上げを伸ばし市場が拡大し続けてきました。

しかし、2020年の新型コロナウイルス感染症の流行によって対面営業ができなくなり、今までずっと好調だった不動産業界にも大きな打撃となりました。

本記事では、不動産業界の現状を解説し、直面している課題や今後の不動産業界全体の動向についてご紹介します。

不動産業界の定義

不動産業界とは、土地や建物にかかわる業界のことで、「開発・建設」「販売」「賃貸」「管理」の4つの分野に分類されています。

分野 業務内容 事業者
開発・建築 建物の開発・建築 建設会社・デベロッパーなど
販売 開発した建物の販売 ハウスメーカーなど
管理 開発した建物の賃貸 不動産仲介業者など
賃貸 建物のメンテナンスや清掃 管理会社など

不動産業界の現状

不動産業界はマンション開発や不動産流通、アパートやオフィスビルなどの賃貸業まで含まれています。

この不動産市場を取り巻く現状は、一体どうなっているでしょうか。

市場規模の拡大

不動産業界の市場規模は2015年より拡大傾向を続けています。

財務省の「年次別法人企業統計調査(平成30年度)」によると、国内不動産業の市場規模は2015年に39兆3,835億円だった売上高が2018年には46兆5,363億円にまで成長しています。

財務省の法人企業統計調査の結果によると、不動産業界は、今1位の自動車業界や2位の建築業界、3位の医療業界についで4番目に大きな市場規模となっています。

市場拡大している中でも、特に売上高が伸びている不動産企業があります。

2020年の不動産業界売上高ランキング上位5社を見てみましょう。

企業名 売上高(単位:円)
三井不動産 1兆9,056億
飯田グループホールディングス 1兆4,020億
三菱地所 1兆3021億
住友不動産 1兆135億
東急不動産ホールディングス 9631億9800億

strainer「2020年 不動産業 売上高 ランキング」をもとに作成

不動産会社の事業所数や従業者の増加

不動産流通推進センターが公表している「2020 不動産業統計集(9月期改訂)」によれば、2018年度の不動産業の法人数は33万7,934社、対前年増加率2.9%と、全産業のうち1割以上(12.0%)を占めており、長らく増加傾向が続いています。

事業所数に関しても2014年時点で35万3,558所と、日本全国にあるコンビニエンスストア数(2020年2月時点で55,460店)の6倍以上もあります。

そのうち全体の86%以上(304,566所)が従業員数4名以下の小規模な事業所で構成されていることが、他業界と比べて特徴的なポイントです。

そして、小規模のものが多いとはいえ事業所の数が多いということは、それだけ業界に関わる人数も多いということです。

同資料によれば、不動産業の従業者数は2014年時点で118万4,373人いました。

全産業の従業者数が6,178万8,853人に対して、全産業のうち1.9%もの人々が不動産業を生業としていることになります。

さらに主な産業別就職者数の推移(4年制大学卒業者)を見ると、不動産業の就職者数は8年間にわたり増加し続けています。

そして2018年3月の不動産業の就職者数は1万4,143人でした。就職者の総数は43万6,156人なので、全体の約3.2%が不動産関連の仕事に就いており、やはり堅調な成長ぶりがうかがえます。

ニーズの変化

この数年間、人々の価値観の変化を表す「モノ消費からコト消費へ」というトレンドが注目されてきました。この変化は不動産業界にも大きな影響を与えています。

▼モノ消費
消費者がお金を使う際に、商品の所有に価値を見出す消費傾向のこと

▼コト消費
アクティビティやイベント、所有では得られない体験や経験に価値を見出す消費傾向のこと

しかし、経済成長などで多くの人にこれまで必要とされてきたモノが行き渡ったことで、モノ自体への意識が薄れるようになりました。モノが少なかった時代には、人々の生活を豊かにするようなモノやサービスが求められ、「商品自体の機能が価値」とされていました。

こうした背景から、商品の機能による価値よりも、商品購入だけでは得ることができない、体験や経験などの「コト」に対する消費意欲が高まったのです。

不動産業界でも、このような傾向が見受けられるようになってきています。

例えば買い切り型ではなく、サービスや製品を使用する期間に対し利用料を支払う「サブスクリプション型」のビジネスモデルがその変革の例です。

また、テレワークが進み、オフィスの需要が多様化した結果「コワーキングオフィス」など明確なコンセプトを基に空間設計や付随するさまざまなサービスを売りにした会社も増えてきています。

▼コワーキング
個人事業者や起業家、在宅勤務が許可されている会社員、ノマドワーカーといったように、場所の縛りがない環境で働いている人たちによるワークスタイルのこと

▼コワーキングスペース
フリーランスやスタートアップの起業家などが共同で利用できる、オープンなワークスペースのこと

人口減少:住宅の需要が減少・空き家不動産業界の課題

住宅の需要が減少

少子高齢化問題は不動産業界にも広く影響しています。

また、高齢化と並行して総人口も減少しており、2004年1億2,768万人をピークとして現在まで減り続けています。総務省のデータによると、2020年12月日の総人口の概算値は1億2,571万人でした。

人口が減少するということは経済が縮小するだけでなく、不動産の需要も減少することを意味します。

特に地方の人口は大幅に減り、それと伴い不動産業界では空き家問題・価格減少といった課題があります。

一方で都市部では限られた土地に多くの人が住まいを求めるため、価格が上昇し、地域によって価格が大きく異なっている二極化の状態が持続しています。

また住宅を購入する人口のほとんどは若年層なので、若年層のサイズが縮小すると、市場需要も減ってしまいます。

国土交通省住宅局の「平成30年度住宅市場動向調査~調査結果の概要~」で世帯主の年齢を見てみると、新築注文住宅・分譲住宅・中古住宅の部門でいずれも30代の層が最も多く、60歳以上は10%前後という結果になりました。

高齢化社会が進み、若年層の人口が減少すると住宅を購入する人口も減ってしまうことになります。また、新規購入需要だけでなく、住み替え需要の減少も懸念されています。

空き家

人口の減少が続く中で、「空き家」の問題が深刻化しています。

放置された空き家は、周辺地域の住環境や土地の資産価値にも悪影響を与えるだけではなく、ビジネスチャンスの損失を生んでいる可能性もあります。

不動産としての本来の価値を活かせないまま、放置されている物件が各地で急増しているのです。

総務省統計局が2019年4月26日に発表した「平成30年住宅・土地統計調査」によると、2013年の6,063万戸から、2018年10月1日時点で日本の総住宅数は6,242万戸になっており、5年で179万戸(3%)増加しています。

そして、空き家の数は2013年の820万戸から26万戸(3.2%)増加し、2018年時点で846万戸になっています。さらに2018年に「空き家率(総住宅数の中で空き家の数が占める割合)」は13.6%で、過去最高を記録しています。

対策:シェアリングサービス

人口減少や空き家問題が注目される中、地域の課題を解決し、私たちの街や暮らしを豊かにする新しいアイデア、また持続可能なビジネスとして「シェアリングサービス」がその一つの対策方法です。

「シェアリングサービス」は“空き家を賃貸物件として提供する”、“地域の共有スペースとして提供する”という印象があるかもしれません。

しかし今は「全国好きな場所を移動しながら仕事、生活したい」「週末は都心を離れて田舎暮らしや読書を楽しみたい」といったニーズに答えられるように、「空き家」を活用した新しい市場の参入も考えられます。

このように「住まい」の概念から取り外し、「コミュニティー作り」という新しいコンセプトで成功した事例を紹介したいと思います。

全国住み放題サービス「ADDress」は、月額料金を支払えば全国の古民家や空き家に住める、住まいのサブスクリプションサービスです。

ADDressが提供する各拠点は、地方の空き家や遊休別荘を募って購入またはサブリースで確保し、リノベーションしています。

住まいには、共有のリビング・キッチン、家具、Wi-Fi、光熱費、アメニティーなどが完備されており、料金内で清掃まで提供しています。

ユーザーは手頃な価格で拠点を利用でき、拠点のサプライヤーは空き家から収入が得られる点がADDressの魅力です。

ADDressには多くの企業がパートナーとして協力し、2019年よりサービスを開始しました。

ADDressは、現在でもなお根強い新築信仰社会へのチャレンジという意思が込められており、ひいては現在問題視されている「空き家問題」の解決法としても期待されています。

他にも遠隔地の空き家に対し、VR・3Dカメラ・オンライン技術等を活用した物件情報の提供・内覧サービスの効果実証などの対策案があります。

対面営業の減少・手続きが複雑

従来不動産購入における契約は、そのほとんどが紙と署名捺印で交わされるため、全ての契約書へ住所や氏名の手書きと捺印が必要です。

手書きによる記入回数は数十回におよび、捺印にいたっては47回も必要になります。また、金融機関や不動産会社、保険会社、司法書など多数のプレイヤーが契約手続きに関わるため、非常に複雑です。

AINOW編集部作成

しかし、新型コロナ感染拡大を受け、日本各地で外出自粛要請が出ていることから、特に来店数や内見数など入居者募集の面において影響を感じている声が多く、対面ではない顧客対応の必要性が発生しています。

不動産業界では対面ありきだった業務が非対面に変わり、長く続いた業界の慣習も変化が求められるでしょう。

オンライン接客

極力接触を伴わない営業や接客が一般的となった現在、不動産業界もそういった改革を積極的におこなうべきです。

最近ではAIを使った不動産査定や、IoTやVRを利用したオンライン接客などが話題になっています。

その中では、成功事例として紹介したいのは「リモート・マンション販売」を始めた住友不動産です。

リモートマンション販売とは、コロナによる影響から「新しい生活様式」を意識し、対面の機会を減らすことで、顧客の利便性を高めようという取り組みです。

ポイントは、顧客が自分の希望に応じてサービスを選べるところにあります。

住友不動産は、実際にモデルルームへ足を運ぶことなく、Web上にて希望するマンションの各種ご案内や販売スタッフとの住宅ローン相談などができる「オンライン見学会」をはじめ、WEB申込、IT重説、引渡しなどを非対面で対応しています。

外出を控えたい、遠方に住んでいる、時間に限りがあるなど、来場が困難な顧客に対する選択肢を拡充することで、住まい選びの利便性と満足度を向上させることが狙いです。

開始から1か月で約200組が利用した背景から、そのオンライン接客の取り組み今後の活躍が期待できます。

このように、新技術を導入して消費者に対するサービスの質を向上させていくことで、不動産業の信頼産業としての側面を際立たせることが求められているのです。

そのためには、いち早い環境整備や技術の導入が必要でしょう。

不動産業界今後の展望

不動産業界で今後も生き残っていくためにどうすればいいのか、一緒に考えていきましょう。

不動産テック

定義

そもそも「不動産テック(Prop Tech、ReTech:Real Estate Tech)とも呼ぶ」とは何でしょうか。

不動産テックとは、「不動産」と「Technology(技術)」を掛け合わせた造語です。簡単にいうと、不動産に関連する事業や業務にテクノロジーを取り入れて、新たな価値を生み出すことや、それを実現するための製品やサービスに使われる言葉です。

不動産におけるITの活用を表しており、ITの発達や規制緩和の動きとともに、不動産テック領域へ新規参入する企業がここ数年で増えています。

サービス領域

不動産テックのサービス領域は、インターネットを利用した顧客マッチング、AI・人工知能を利用した物件価格の可視化・査定、IoTを利用したスマートロック、VRを利用した内覧システムなど多岐にわたっています。

VRAR VR・ARの機器を活用したサービス、VR・AR化するためのデータ加工に関連したサービス
IoT ネットワークに接続される何らかのデバイスで、不動産に設置、内蔵されるもの。また、その機器から得られたデータ等を分析するサービス
スペースシェアリング 短期〜中長期で不動産や空きスペースをシェアするサービス、もしくはそのマッチングを行うサービス
リフォーム・リノベーション・リフォーム リノベーションの企画設計施工、Webプラットホーム上でリフォーム業者のマッチングを提供するサービス
不動産情報 物件情報を除く、不動産に関連するデータを提供・分析するサービス
仲介業務支援 不動産売買・賃貸の仲介業務の支援サービス、ツール
管理業務支援 不動産管理会社等の主にPM業務の効率化のための支援サービス、ツール
クラウドファンディング 個人を中心とした複数投資者から、webプラットホームで資金を集め、不動産へ投融資を行う、もしくは不動産事業を目的とした資金需要者と提供者をマッチングさせるサービス
価格可視化・査定 様々なデータ等を用いて、不動産価格、賃料の査定、その将来見通しなどを行うサービス、ツール
マッチング 物件所有者と利用者、労働力と業務などをマッチングさせるサービス(シェアリング、リフォームリノベーション関連は除くマッチング)
物件情報・メディア 物件情報を集約して掲載するサービスやプラットフォーム、もしくは不動産に関連するメディア全般
ローン・保証 不動産取得に関するローン、保証サービスを提供、仲介、比較しているサービス

不動産テックには、既存の業務を自動化したり効率化したりすることだけでなく、これまでになかった新しいビジネスモデルを生み出すことや、市場の在り方を変えてしまうような取り組みも含まれます。

不動産テックを用いて、例えば同社は建築士やデザイナーを自社に抱えることで、より生産性の高いオフィス空間をデザインしたり、利用者向けのコミュニケーションプラットフォームを用意したりすることで、単なる「空間」ではなく「快適にビジネスを行なう」「新たなビジネスを創出する」ための場所、という新たな価値を提供することもできます。

これからさまざまな分野で「不動産テック」の活躍が期待できますね。

まとめ

現在不動産業界の市場が拡大している一方、人口縮小と共に需要が減っています。

その背景の中で、不動産テックによって、様々な方向から不動産にまつわる業務やビジネスにテクノロジーを取り入れ、活用しようという試みが行なわれています。

これから、建物を「所有」するのではなく「利用」するという意識は今後も消費者間に広がっていくことが予想され、人々の中で不動産の在り方や価値そのものが大きく変化していくのでしょうか。

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