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2021.03.31

クラウドAIとは?基礎知識・最新事例・エッジAIとの違いなど徹底解説

最終更新日:

データベースの技術やネットワーク技術の向上により、クラウドでAIを処理するクラウドAIの活用が進んでいます。

5Gの発達など今後もさらに技術革新が進む中、クラウドAIが果たす役割もさらに大きくなっていくでしょう。

昨今、データの重要性を認識しデータ活用を促進する企業が増えていますが、こうしたデータの処理やその処理速度にクラウドが大きな役割を果たしています。

今回は、クラウドAIのメリット、デメリットや実際に導入して活かせる場面を事例とともに説明していきます。そして、最近話題のエッジAIとの違いについても解説します。

クラウドAIとは

Gmailをはじめ、身近でお世話になっている人も多いであろうクラウド。クラウドの名称は、2006年に当時グーグルのCEOだったエリック・シュミット氏がこのサービスを「クラウドコンピューティング」と呼んだことが始まりです。

1990年代後半、インターネット時代に入りコンピューターの価格が下がりはじめたことで、インターネット利用は急速に広まりました。当時、多くの会社ではインターネットの速度やアプリケーション、データが膨大になり、サーバーが乱立していました。また、こうしたサーバーはレンタルや自前で用意する必要があり、事前に容量設計をしなければならなかったため、対応が難しかったのです。

2000年代に入り、こうした事態を解決したのがクラウドでした。この技術により、インターネットを介して簡単にソフトウェアやデータで必要なサービスを使えるようになりました。

さらに昨今話題のIoT技術もこのクラウドが欠かせません。例えば、家の外にいながらスマートフォンで家電の操作や管理ができるサービスが展開されています。こうしたサービスで送られるデータ量は非常に膨大で(ビッグデータ)、1つの企業の保有するサーバーでは賄えません。そこで使われているのがクラウドサービスです。クラウドは自由に拡張できることに加え、サーバー管理が必要でなくなりコストも低く抑えられるため、企業にとって大きな負担軽減を実現できます。

こうしてクラウド誕生の背景や今の活用を見ると、クラウドにAIが活用されてきている理由もお分かりいただけると思います。

クラウドAIの3つのメリット

クラウドAIを使うメリットは以下の3つです。

これから詳しく解説していきます。

自社のサーバーへの負荷がかからない

クラウドAIはAIの学習やデータ処理をクラウド上で行う仕組みのため、自社のサーバや端末で複雑な情報処理を行う必要がなく、負荷を軽減できます。

クラウド上で情報を処理するコンピュータもデータサーバ側が提供してくれるため、自社で高性能のコンピュータを用意する必要がないこともメリットと言えます。

複雑で高度な処理が可能

クラウドAIは大規模なサーバ上でデータを蓄積し、データの処理や分析を行えるため複雑で高度な処理が可能です。

パソコンなどの小規模な端末に搭載されているAIでは処理しきれない膨大な情報も処理できることがクラウドAIの大きな強みです。

学習済みデータの適用などの管理が楽

AIを導入する上で課題となるのが学習するためのデータの用意です。

クラウドAIを利用する場合はあらかじめクラウド上に学習データが用意されており、そのデータを学習した高精度のAIを使用できます。

信頼性の高いデータの用意や学習モデルの構築などの導入作業を行う必要がないため、AIに関する高度な知識がなくともAIを利用できます。

クラウドAIの3つのデメリット

クラウドAIを利用するデメリットは以下の3つです。

これから詳しく解説していきます。

膨大なデータの送受信はリアルタイム性に欠ける

クラウドAIは手元にある端末からクラウドに情報を送受信してクラウド上で情報を処理します。

膨大なデータを送受信する必要がある場合、データ回線容量を超えてしまい遅延が発生する可能性があります。

しかし、近年はより多くのデータの送受信が可能な5G回線の利用が進んでいるため、将来的にはクラウドAIでもリアルタイム性の高い利用が可能になる見込みです。

情報漏洩の危険

クラウドAIを利用する際には全ての情報をインターネット経由でクラウドに送る必要があるため、情報漏洩の危険が高まります。

また情報がクラウド上に保存されている間にも情報漏洩の危険があります。

社内機密などの機密情報はクラウドAIでの処理には向かないと言えます。

データ量が増えると通信量がかさむ

データを端末からクラウドに送るにはインターネット回線を利用します。

そのデータの量が増えると通信量がかさみ、遅延の危険性だけでなく通信コストも膨大になります。

自社でAIを管理しなくても良いなどクラウドAIを利用することでカットできるコストもあるため、他の費用との兼ね合いでどのようなサービスを利用するかを検討する必要があります。

クラウドAIとエッジAIとの違い

画像引用:https://ainow.ai/2020/02/21/183186/

近年の流行として「エッジAI」という技術があります。

IoTの活用の促進やAI技術が進展していくうちに、先ほどクラウドAIのデメリットとして挙げたリアルタイム性に欠ける点やプライバシーの問題が浮き彫りになってきました。

そこで登場したのがエッジAIでした。クラウドAIではデータの蓄積や学習、推論を全てクラウド上で行なっていましたが、エッジAIでは学習モデルを端末(エッジデバイス)に組み込むことで、クラウドを使わずに推論ができます。

▼エッジAIに関して詳しくはこちら

エッジAIには、以下の特長があります。

  • 末端の機器(エッジデバイス)で予測を行うため、リアルタイム性を確保できる
  • インターネットを介さずに予測をおこなうためセキュリティに強い
  • 通信コストの節約

エッジAIは、このようにクラウドAIのデメリットをうまく補える技術として、特に産業用機械や自動運転車の研究で大いに注目されています。

エッジAIのデメリットと近年の技術発展

しかし、エッジAIにもデメリットはあります。

  • エッジデバイスの非力さ(小型であること、推論における消費電力 など)
  • 学習する環境(クラウド側)と推論をする環境(エッジデバイス側)が別であ(場合がある)ため高度な予測ができない
  • 学習モデルを生成するためにクラウドにデータを送る(場合がある)ためセキュリティが完全ではない

以上のような問題で、エッジAIだけでは不十分であると考えられてきました。

そこで近年では高効率・高速処理・小型を兼ね揃えたエッジAIが開発されており、IoT社会が進んでいる今、大きな期待が寄せられています。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主体となり、高速化と超低消費電力の両者を実現できるコンピュータ技術やAIチップの開発が民間企業や大学で進められています。

さらに、エッジAIスタートアップの株式会社エイシングは昨年の12月、指先に乗せられるほど超小型のエッジAIアルゴリズム「メモリー・セービング・ツリー(Memory Saving Tree、MST)」を開発したと発表しました。

参考:PR TIMES

省メモリを実現したこの「MST」は、家電製品やスマートウォッチ、自動車などの多種多様な領域に導入されていくことが期待されます。

このようにエッジAIの開発は現在盛んに行われており、第4次産業を支える重要な技術として注目が集まっています。

AIクラウドサービス3選

AIクラウドサービスを3つ紹介します。

  1. Google Cloud Platform
  2. Amazon Web Services
  3. Microsoft Azure

①Google Cloud Platform

Google Cloud PlatformはGoogleが提供しているAIクラウドサービスで、20個以上の無料の機能と有料機能、ビジネス向けの機能など多様な機能が実装されているクラウドサービスです。

新規利用者は300$分の利用権利がもらえるなど新しくAIクラウドサービスを利用しようと考えている人にとって使いやすいサービスです。

大容量のデータを管理する機能や画像をクラスタリングする機能などが提供されています。

②Amazon Web Services

Amazon Web ServicesはAmazonが提供しているAIクラウドサービスで、多様な機能と充実した無料体験が魅力です。

無料機能は短期間のみ無料、1年間無料、期間制限なしの3種類があり、無料でトライできるサービスは100を超えます。

機械学習やログ分析、リレーショナルデータベースのサービスなど多様なサービスが無料利用できることが魅力です。

スタートアップ企業向けのサポートも充実しています。

③Microsoft Azure

Microsoft AzureはMicrosoftが提供しているAIクラウドサービスで、人気のサービスを無料で12ヶ月間体験できます。

無料体験期間が終わった後は使った量に応じた額を支払う従量課金制に移行しますが、40以上のサービスは引き続き無料で利用できます。

AIが顧客の傾向を分析してモバイルエクスペリエンスを構築する機能や新規アプリの開発を支援する機能、Webサイトを効率よく管理する機能などが実装されています。

クラウドAIの導入事例3選

①「XaaS(X as a service)」の活用

クラウドAIを利用した事業は現在さまざまなところでみられており、中でも「SaaS」や「MaaS」、「PaaS」などのクラウドコンピューティングサービスのニーズが近年高まりをみせています。

こうしたさまざまなサービスの総称を「XaaS」と呼び、グーグルやマイクロソフトなどの大企業からベンチャー企業まで幅広い企業でサービスが開発、運用されています。

▼XaaSについて詳しくはこちら

今回は、XaaSの中でも特に注目度が高いSaaS(Software as a Service)の最新事例をご紹介します。

②マテリアルインフォマティクス 『TABRASA』

プラットフォーム「TABRASA」は、NAGASE(長瀬産業)がIBMと共同で開発したマテリアルズインフォマティクス(MI)サービス(SaaS)です。

※MI(マテリアルズインフォマティクス)・・AI を用いて化学者の研究開発を効率化を図る技術。過去の材料実験・シミュレーションデータなどを利用した探索アルゴリズムによって、よりスピーディーに新素材を開発・商品化することが可能になる。

https://ps.nikkei.co.jp/nagase2020/vol3.html

こちらのサービスの特徴は「コグニティブ」「アナリティクス」の2つのエンジンで素材の探索ができることです。

「アナリティクス」は、化学構造式と物性値を学習させて、ユーザーが求める物質の化学構造式を導き出すアプローチです。一方、「コグニティブ」は、素材に関する論文や特許、百科事典、実験データなどをAIに読み込ませて体系化し、新たな推測、提案をするアプローチです。

「コグニティブ」はカスタマイズ性が高く、これまでにはないアプローチと言えます。分りやすく操作しやすいUIによって、その研究の専門でなくてもサービスを活用できるため幅広い分野へ応用可能です。

③文字起こしサービス 『もじこ』

https://mojiko.ai/news/669

「もじこ」とは、TBSテレビが開発したAI音声認識技術を使った「文字起こしエディタ」サービスです。

テレビ・ラジオ業界では日々、多くの「文字起こし」が行われていますが、非常に手間のかかる作業であるため、番組制作の現場では大きな負担となっています。そうした作業の負担を少しでも減らすために、TBSテレビでは「もじこ」の開発を始めました。

その結果、取材した音声・動画ファイルなどの素材を、IT各社の最新のAI音声認識エンジンで自動でテキスト化された後、正しく認識されていない文章を人間が即座に「修正・編集」できるようになりました。

現在ではTBSが「もじこ」を吉積情報株式会社にライセンス提供し、一般企業への販売を行なっています。もじこは、労働時間が長いと言われるメディア業界の働き方改革の一端を担うサービスとして期待されています。

メディア業界のようなIT化やDXがなかなか進まない業界でも、導入が容易なサービスから取り入れていくことでXaaSが定着しやすくなり、少しずつ仕事のやり方に良い変化を与えるかもしれません。

おわりに

今回の記事では、クラウドが生まれた背景からクラウドAIの技術開発、導入まで幅広く説明してきました。AIの活用、発展にはこのクラウドという存在が不可欠ということがお分りいただけたでしょうか。

XaaSの流行っているサービスを追いかけるとIT社会の今の動きが見えてきます。AI時代の到来やIoT社会の進展で、これからさらにクラウド/クラウドサービスは技術発展やサービスの多様化が進む可能性は大いにあります。新たな社会を創造する「縁の下の力持ち」となるクラウド技術に今後も注目です。

 

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