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2022.12.05

大注目のブレインテック市場に挑む|株式会社マクニカ

2013年、米国のオバマ政権下で脳の全容解明のためのプロジェクト「BRAIN Initiative」がスタートし、「BrainTech 2013」 というカンファレンス主催がきっかけとなり「ブレインテック」の呼び名が世界に知られることとなりました。

今回は、そんなブレインテックに取り組んでいる株式会社マクニカにおいて、BRAIN-AI Innovation Labコンサルタントの下山氏、同 Labデータエンジニアの片野氏、データサイエンティストのドメル氏に、ブレインテックに関わる取り組みや、今後の課題についてインタビューを行いました。

下山剛史氏

株式会社マクニカ 

AIリサーチ&イノベーションハブ

BRAIN-AI Innovation Lab. コンサルタント

片野泰徳氏

株式会社マクニカ

AIリサーチ&イノベーションハブ

BRAIN-AI Innovation Lab. データエンジニア

ドメルプリンスアルドリン氏

株式会社マクニカ

AIリサーチ&イノベーションハブ

注目のブレインテック市場に挑む

ブレインテックとは、脳(Brain)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた言葉で、脳科学を活用したテクノロジーやサービスのことを指します。また、主に米国では、脳のニューロンを語源とした「ニューロテック」とも呼ばれています。

近年では、テスラの創業者イーロン・マスク氏が設立したニューラリンクの事業が話題になりました。脳にBMI(Brain Machine Interface)を埋め込んだ動物を使ってブレインテックの実験を進めており、サルが画面を見ながらゲームで遊ぶ映像も公開され、驚いた方も少なくないでしょう。

マクニカが取り組むブレインテックの研究

 

ーーマクニカはBRAIN-AI Innovation Labを通してブレインテックの分野を研究されていますよね。現在の状況、研究内容をお聞きしたいです。

 

下山氏:結論から言うと、実装の段階に近づいており、イスラエルのInnerEye社をメインに、世界中の専門家をアドバイザーとして入れつつ研究を進めている最中です。

この1年間は、InnerEye社の製品を各お客様向けにカスタマイズして導入(PoC)するという流れで進めてきました。

商用も見据えたプロジェクトも増えていて、エンジニアたちも現場の生データを分析することで、ノウハウを蓄積できている状況です。

 

ーーマクニカのブレインテック研究はどういった活用先を考えていますか。

下山氏:我々のメインターゲットは、製造業です。

現場では、熟練者の方にしかできない作業や判断できない事象が多く存在します。そこで、脳波を計測し熟練者が言語化できない暗黙知を数値化することで課題を解決していきます。例えば、工場で作った製品の出荷前の外観検査や、その原料の質を見極めるところを熟練の方がやっているのですが、その人の判断の部分をAIモデルにするということです。

ーー画像認識や自然言語処理などを組み合わせて、マルチモーダル¹なAIモデルを作るのが一般的かと思いますが、脳波を組み込むことでどのような形になるのでしょうか。

片野氏:仰るように、画像認識によるAIモデル作成やマルチモーダルなAIモデルの作成など様々な手法がございますが、我々は従来の方法+脳波の形で課題の解決を行っています。

従来の外観検査であれば、データを読み込みOK、NGとアノテーションしていき、1、0の判定をさせて大量の教師データ、学習データを作りAIを学習させていきますよね。

これに脳波をプラスすると、例えば製品出荷前の外観検査のときに正常なものが流れているときの脳波の反応に対して、少しヒビが入っていたり、傷がついているなど熟練者が異常と感じるものが流れているときの脳波の反応は大きいという特徴を利用して、その画像と脳波でアノテーションすることができます。その時の脳の反応確信度という定量的な値にします。それをソフトラベルとしてAIモデルに学習させることで精度を高めたり学習データを減らしたりすることができます。

具体的な測定の様子はこちらをご覧ください。

 

下山さん:こちらの動画では、実際に脳波を取っている様子と、画像と脳波を組み合わせる作業の様子が見られます。2:16〜のデモでは空港の手荷物検査場の危険な手荷物の画像と安全な手荷物の画像を頭の中で分類しており、このスピードで流れてくる画像に対して、危険なものを頭の中でカウントしています。この方法のメリットとしては確信度というものがあり、どのくらいの確信度で危険と判断したのかを数値が生成できるので、確信度の大きさを重み付けの1つの参考にしながら学習をしていくことで、熟練者の判断基準に近いモデルを作成しています。

また、この場合では目になりますが、なにか刺激を与えたとき、例えば音などをその人間が認知する前に無意識に反応する事象関連電位というものがあるので、その振幅の大きさに応じてソフトラベルを付けていくこともあります。

片野さん:脳波計を装着しながら画像判断することによって、違和感第六感などを感じた時の脳の反応も、その都度アクティブに教師データとして画像に付加することができるのでアクティブに精度の高いAIモデルを更新することができるというのもこの技術の特徴です。

手荷物検査では荷物を隠す側も巧妙になっていくので、ブレインテックの必要性は上がってくると思います。

¹マルチモーダル:まずはじめに、モーダルとは入力される情報を指します。入力されたテキスト・音声・画像・動画などがモーダルの例として挙げられます。従来までのAIは、一つのモーダルから得た情報をもとに学習を行ってきました。これをシングルモーダルAIと呼びます。こちらに対して、複数のモーダルからの情報を組み合わせて学習し処理を行うAIをマルチモーダルAIと呼びます。
²アノテーション:機械学習において、データにメタデータをつけて意味づけをすることを指します。より詳しく知りたい方はこちらの記事がオススメです。

 

ブレインテックが秘める可能性

 

ーー従来の技術にはないブレインテックならではのインパクトや可能性を教えてください。

 

下山氏:人間が持っているポテンシャルを最大限引き出したいと思っている中で、今まではなかなかデータとして定量化することができませんでした。しかし、ブレインテックの台頭により、インターフェースを通じて今までは取得できなかった新しいデータが取れるようになったことが1番大きいと思います。

片野氏:以前から、漠然と脳はすごい可能性を秘めている、といった共通認識がありました。今では脳の状態を定量化して、それを実際に見せることができるようになりました。これにより、お客様の反応も変わり会話もどんどん広がるようになりました。そのような部分が魅力であると考えています。

 

ーー医療やマーケティング領域にもブレインテック活用の需要がありそうですが、いかがでしょうか。

 

下山氏:現在、医療用途での活用についてはあまり注力していません。当然そういったお客様の声もありますが、まずは製造業に向けて開発しています。

しかし、製造業の他にもニューロマーケティング領域は注力しており、最近では文具メーカーと共同で、高校生が”エモい”と感じるものを脳波で分析したときに、どのように数値化できるのかという研究を行っていました。これによりエモい商品を作る際のヒントを得ることができます。

 

実際に脳波を測っていただきました!

これは頭に脳波計を装着し、安定した脳波を測るための微調整を行っている場面です。毛量などによっては設置に時間がかかってしまうという課題もあるそうです。

脳波テストをしている場面です。今回は脳波による画像分類を体験させて頂きました。

テストでは次々にレモンが画面に表示され、状態の悪いレモンが表示される度に頭の中でカウントするといったテストを行いました。最後に何個状態の悪いレモンが表示されたかを答え合わせするのですが、実際の数と自分のカウントした数が合わず、やはり人の脳みそは見落としが多いなと実感しました。

 

ーー最近のデバイス事情についてお聞きしてもよろしいですか。

 

片野氏:研究用途や医療用途で使用されるデバイスは高額なものが多いですが、コンシューマー用途で使用できる安価なデバイスも登場しています。また、今回脳波を計測する際に使用したデバイスはアメリカ製のものですが、最近では各国で様々な形状のデバイスが登場しています。

下山氏:海外では小型のデバイスなどの開発が進んでいます。しかし、安いだけで終わるものもあるので、私たちとしては正しく脳波をとれるデバイスを選別して使用するようにしています。

 

ーー精度という部分では、フルフェイスのような覆うタイプのほうが信頼性が高いのでしょうか?

 

片野氏:デバイスの形も大事ですが、デバイスの数や電極を減らしても再現性を保ってるか相関関係を確認し使用しています。被験者にいかに負担をかけずに脳波測定できるのかも重要な観点です。

もともと、医療系では電極を刺して開発を行っていたのですが、デバイスの進化により電極を刺さずに気軽にデータをとれるようになったことが、医療系よりも様々なビジネスや一般のお客様に対してもっと気軽に導入できるようになった原因だと考えているので、その部分は重要視しています。

 

ーーここ1年、脳波を扱ってみてどのようなところに苦労しましたか?

 

ドメル氏:時系列の脳波のデータはノイズが入りやすく、取得したデータをクリーニングする部分で一番苦労しました。特に体の動きなどのデータには気を付けないといけないです。

片野氏:データの作成側では、データサイエンティストにデータを渡す前に、デバイスを使った脳波測定の際に、その場でいかにノイズやアーティファクトを減らして測定し、データをお渡しできるかが重要だと考えています。

今後の展望

 

ーー今は製造業での応用を考えているとのことでしたが、今後の展望もお聞きしたいです。

 

片野氏:マクニカのブレインテックでは、大きく分けて「Sense I(センスアイ)」と、「Sense Plus(センスプラス)」という2つのソリューションがあります。

①Sense I: 人間の意識、判断を脳波から読み取り、AIに学習させていくプラットフォーム

②Sense Plus: 作業中の人の脳波を読み取り、集中力、興味、疲労を時系列で可視化するプラットフォーム

今後はこちらの2本柱の研究をメインに、製造業のみならず、幅広いジャンルの業界で応用を進めていきたいと考えています。

 

さいごに

マクニカは、Sense IとSense Plusの開発を通して、今後も暗黙知の数値化といった未知の課題に挑戦していきます。

そして、マクニカは情報発信にも力を入れています。技術に詳しくない方であっても、最先端のテック事情を理解できるようなホームページを作っています。非常に興味深い内容が記載されているため必見です。

ブレインテック事業は、これからも多くの企業が参入する可能性があり、最も注目される技術の1つになるかと思います。この記事をきっかけにブレインテック市場について考えてみてはいかがでしょうか。

 

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