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建設業は、大量の書類業務を抱える業界の一つです。
大規模言語モデル(LLM)は、これらの書類業務の効率化や自動化を可能にするといわれています。そのLLMの代表例としてChatGPTなどが挙げられますが、建設業の業務でそのまま使用するには高いハードルがあります。
2023年3月31日に燈株式会社は、建設業に特化した大規模言語モデル(LLM)をプライベートで個別に学習・運用するサービスの提供開始を発表しました。
大規模言語モデルは建設業をどのように変えていくのでしょうか。この記事では、その可能性について燈株式会社のCEO、野呂侑希氏にインタビューを行いました。
建設業界における大規模言語モデルの需要
少子高齢化による重度の人手不足や働き方改革関連法による残業の規制などで、建設業における業務効率化のニーズは高まり続けているといいます。燈のCEOである野呂氏はこう話します。
野呂氏:建設業は工数が多い業種の一つで、数百ページを超える仕様書が建物の種類ごとに存在していて書類の量も膨大です。
現在、建設業では重度の人手不足に加え、今年の10月から導入されるインボイス制度や24年4月から新たに適用される時間外労働規制により業務効率化の重要度がさらに高まっています。
このような背景から、LLMには書類業務の自動化・効率化を実現することが期待されています。
しかし、ChatGPTのような従来の汎用型LLMは幅広い分野の膨大な文章を学習している一方で、 日本語の建設用語に詳しかったり、過去の事例や各種の基準等を覚えているわけではありません。そのため、建設業界固有の知識や前提をもとに答えを導き出すタスクに対しては汎用型LLMの利用が難しい場合があります。
それに加えて、作業に必要な情報を参照しながら進んでいくプロセスに対応できないという課題があります。
そこで、弊社はLLMを活用した建設業特化のサービス開発に着手し、建設業特化のLLMである「AKARI Construction LLM」を開発しました。
ChatGPTの課題を改善した「AKARI Construction LLM」
ChatGPTなどの汎用大規模言語モデルでは、APIを取得してインターフェースを作成すれば誰でも高性能なLLMサービスが作成可能です。
しかし、そういったLLMサービスは建設業でそのまま使用するのが難しいといいます。
燈は、AKARI Construction LLMの開発でどのような工夫をしたのでしょうか?
野呂氏:AKARI Construction LLMは、汎用大規模言語モデルをベースに建設用語を学習させただけでなく、当社が独自に開発したCoLLM ConnectorsとChain of Thoughtの二つの機能を備えることで、建設業に特化したLLMとして活用可能になりました。
AKARI Construction LLMは、CoLLM ConnectorsとChain of Thoughtにより、会社独自のデータをLLMに学習させて答えを返す形ではなく、データベースのデータを検索対象とすることで、解答を出力する手法を取りました。
そのため、仕様書を検索対象としてデータベースに入れておく手法をとるAKARI Construction LLMでは、膨大な仕様書からファクトチェック済みの情報の出力を可能にします。
例えば、「A案件の2Fのカーペットの値段はいくら?」のような情報を得るまでに建設業データを必要とする質問の場合、従来の汎用型大規模モデルだけで正確な出力をすることは不可能です。
しかし、CoLLM Connectorsという機能によって、大規模言語モデルと建設業データを繋ぐことが可能となり、正確なカーペットの値段を出すことができるようになりました。
プロセスの分断をスーパーアプリで解決したい
今後、燈株式会社はさまざまなアプリの提供を一つのプラットフォームで利用可能にする「スーパーアプリ」の開発に力を入れていくといいます。
野呂氏:燈は「AKARI Construction LLM」や建設業特化の請求書処理業務DXサービス「Digital Billder」のようなサービス群を一つのプラットフォームで利用可能にするスーパーアプリの開発を考えています。
建設業務の効率化を妨げる一つの要因として、土木工事、電気工事など役割が分業化されるというような「プロセスが分断される傾向」が挙げられます。現状ではその分断されたプロセスごとに業務効率化ツールが提供されています。
スーパーアプリによって業務効率化ツールの連携をアルゴリズムで効率化すれば、プロセスの分断が解消されていくと考えています。
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産業の課題をテクノロジーで解決する東大発スタートアップ|燈株式会社と最新建設DXに迫る
まとめ
大規模言語モデルをいち早く取り入れ、プロダクト化するその動きの早さやビジネスの機会を逃さない同社の姿勢にも注目が集まります。
今後スーパーアプリ構想を始めとして、建設業のさまざまな業務を変革していく燈株式会社から目が離せません。