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ディープラーニングなどの機械学習技術はAI・人工知能ブームを牽引しながら多くの産業に変革をもたらしつつあります。Webでのデータ取得が容易になった今、多くのアプリケーションでは蓄積されたデータを学習することで、ユーザエクスペリエンス(UX)の向上を図っています。
これはWeb上でのあらゆる行動履歴やスマートフォンのログを蓄積することが可能だったからです。今後は現実社会のデータを取得することでディープラーニングの活用がリアルでも可能になろうとしています。
LeapMindは2012年に設立されたベンチャー企業です。ソフトウェアとハードウェアの両輪で研究開発を行い、ディープラーニングをあらゆるモノに適用していくDoT(Deep Learning of Things)を加速させています。AIの研究開発が盛んな今、現実社会へのディープラーニングの活用において、立役者になっていくと期待されている企業で、2017年にはインテルなどから約11.5億円の資金調達を実施しています。
そんなLeapMindは2018年9月4日にエッジデバイス(FPGA)において物体検出の認識スピード10.5fpsを達成したと発表しました。
10.5fpsが達成されたとはどういうことでしょうか!?
プロジェクトマネージャーの安村さんに伺ってきました。
目次
エッジへのディープラーニングの導入を一貫してサポートするDeLTA-Family
10.5fps達成について伺う前に、まずはLeapMindが提供するDeLTA-Familyについて伺ってみます。LeapMindはどんなサービスを提供しているのでしょうか?
ーーDeLTA-Familyについて教えてください。
安村さん:DeLTA-Family自体はなにか特別のソリューションではありません。私達の提供しているソリューションをまとめた総称なんです。
ディープラーニングの導入では、目的設計、データの作成、モデルの作成(学習)、ハードウェアの実装などの流れがありますが、それぞれの部分をそれぞれのソリューションで提供したいと考えていて、その総称がDeLTA-Familyです。
具体的には、それそれのソリューションで以下をカバーしています。
・DeLTA-Plan→目的設計
・DeLTA-Mark→学習データの作成
・DeLTA-Lite→組込み向けのディープラーニングモデル構築
・DeLTA-Kit→ハードウェア実装
・DeLTA-Care→保守・運用
安村さん:メインとなるのがDeLTA-Liteです。今まで共同研究などを積み重ねて、なるべく簡単に利用できるように工夫しています。基本的には専門知識が不要で、プログラミングなしで利用できます。Web上でボタンの操作だけで組み込み用のディープラーニングのモデルを構築することができます。
ーー実際にデバイスに組み込む(デプロイする)部分も簡単にできるんですか?
安村さん:デバイスに組み込む工程は通常だとハードウェアを買ってきて、OSに組み込んで・・・と大変な工程があり、外注すると100万〜1000万くらいかかってしまう部分です。DeLTA-KitではPCからSDカードに転送し、そのSDカードをデバイスに組み込むだけで、簡単に実装することができるため、そこが強みになっています。
そして、常に世の中のデータは変化するため、新しいデータに柔軟にに対応できるようにDeLTA-Careで保守運用も行って、ワンストップにDeLTA-Familyでカバーしているんです。
ーー今後の展開予定があれば教えてください!
安村さん:将来的には、システムをいろいろとつなぎこんで、簡単に学習データを作れるようなラベリング機能や、クラウドだけでなくオンプレミス(社内環境)で動く独立したシステムの提供などもしていきたいと思っています。
LeapMindが達成した「10.5fps」なにがすごいのか
ここまでLeapMindが取り組むDeLTA-Familyについて伺いました。では、LeapMindが達成した低消費電力FPGAによる物体検出の推論速度10.5fpsとはどういうことでしょうか?詳しくご紹介していきます。
fpsは「Frames Per Second」の略です。1秒あたりどれくらいのフレーム(枚数)を処理できるのかという処理速度を測る指標です。10.5fpsは昨今、ディープラーニングで広範に使われるGPUでは10fpsの速度は比較的容易に達成することができます。しかし、LeapMindが使用する安価な低消費電力FPGAで達成することはとても困難でした。
FPGAーー製造後に購入者や設計者が構成を設計できる集積回路で、プログラミングが可能。LeapMindでは省消費電力なFPGAであるインテルのCyclone V(サイクロン・ファイブ)という安価なFPGAを使用している。
ーー10.5fpsを達成したとのことですが、どんなメリットがあるんですか?
安村さん:例えば工場で画像認識技術を使って物体認識をするときを考えてみてください。今、工場ではベルトコンベアがすごい速さで動いています。そうなると、このfpsという指標がとても重要になります。速いベルトコンベア上の物体を認識するために、認識速度の発展はとても大切なんです。
また、自動運転などのリアルタイム性が求められる部分では、10fpsではまだ足りないんです。30や40、100fpsの速度が求められます。LeapMindではそこも目指しつつ、安価なFPGAで限界までのチャレンジをしたいと思い、10fpsを目指していたんです。
ーー10fpsを一つの目標として目指していたんですね。
安村さん:10fpsが一つの節目だと思っていたんです!実は発表する直前まで数fpsしか速度が出ていなかったんですよ。8月に開催したDeLTA Techというイベントで発表しようとしていたんですが、なかなか10fpsを達成しないので、発表するのは見送りましょう…となっていたんです。
そうしたらDeLTA Techのイベント前日の夜11時ごろに10fpsを達成することができ、直前まで粘った甲斐があったなと思いました(笑)
▼LeapMindプレスリリース
『低消費電力なSoC FPGAによる組込みDeep Learning物体検出タスクにおいて推論スピード10.5fpsを達成』
苦難の多かった低消費電力FPGAへのディープラーニングの実装
安村さんによると、FPGAへのディープラーニングの実装には膨大な時間とコストがかかっていたといいます。
安村さん:LeapMindはFPGAの研究は長い間行ってきています。インテルから資金調達を行った起因にもなっています。
しかし、ようやくFPGAでディープラーニングが動き始めたのは2017年ごろだと思います。
それまでは本当にディープラーニングをFPGAで使えるのか、疑問が残っていたんです。2017年の末になって、ようやく使えそうなきざしが見えてきました。それに合わせてDeLTA-Lite(組み込みディープラーニングモデル構築ソリューション)をリリースするなどして、やっとプロダクトアウトできるようなレベル感になってきたと思います。
ハードウェアとソフトウェアの両輪での研究開発の末に達成した10.5fpsという指標。最終ゴールではないといいますが、10.5fpsという現実味があるレベル感までもってきた安村さんをはじめとするLeapMindのみなさんの苦悩が伺えました。
取材を終えて
低消費電力のFPGAでディープラーニングが活用できるようになってきており、LeapMindにとって一つの節目である10fpsを超えることで今後、さらにディープラーニングの活用が進んでいきそうです。
安くディープラーニングを組み込んだデバイスを使うことができるようになれば、いろいろな活用方法が思いつきそうです。私は、週に1回は焼肉を食べるほど大好きなので、美味しい焼き加減のタイミングを教えてくれるようなデバイスがあればいいなぁなんて感じながら取材していました。
LeapMindではディープラーニングの活用のさまざまなアイディアを社内でもどんどん集めているだけでなく、ハッカソンイベントも開催しているようです。
ディープラーニングを夢の技術で終わらせない。LeapMindはさらにアクセルを切り、ディープラーニングの活用の促進を進めていくでしょう。
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