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2020.11.03

DX先進国の中国から考えるアフターデジタル

最終更新日:

「超デジタル大国」とも言われる中国は、AI(人工知能)やビッグデータを活用したイノベーションを重ね、急速にデジタル化を進めています。

その中でも、「BATH」と呼ばれる、中国発の大手テクノロジー企業4社(バイドゥ・アリババ・テンセント・ファーウェイ)を台頭に、戦略を転換し、社会そのものをデジタル化に変革させ、生活の質や環境が様変わりしています。

中国出身で、現地に長年に住んでいた私が、この十年間の中国のデジタル化の激変に驚いています。中国ではリモート診療、リモート教育、ライブコマースと、何でもデジタル化の対象となり、新型コロナウイルスが感染拡大する前からすで多くの領域でデジタル化が進行しています。

この記事では、日本で注目される「デジタルトランスフォーメーション」をテーマに海外に視点を向け、中国で起きているデジタル革命の実態、ビジネスモデル、事例や政府の動きなどについて紹介していきます。

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中国デジタル化事情

日本では、中国のデジタル化に対するイメージは人によって大きな違いがあります。例えば、「キャッシュレスがとても進んでいる国」「ファーウェイ危機」「5Gの取り組みが早い」などの印象を持たれているでしょうか。実際中国に在住していた私が、肌で感じたリアルの中国デジタル化事情を説明します。

中国のデジタル経済は急速に拡大しており、2019年の総額は35兆8000億元(約556兆円)とGDPの36.2%を占めています。さらに、同年のGDP成長率への寄与度は67.7%に達しました。国家の経済発展に欠かせないのはデジタル企業の成長です。

デジタルが進んでいる企業と言えば、長い間GAFAやアメリカ西海岸のシリコンバレーに本拠地を置く企業が世界をリードする役割を果たしていました。ところが、ここ2〜3年では急速に中国の企業の存在感が増しています。

2020年9月に発表された世界企業の時価総額ランキングでは、Alibaba (アリババ・グループ・ホールディング)が6位とTencent(テンセント)が8位とトップ10に入り、Baidu(バイドゥ)、XIAOMI(シャオミ)などの中国企業も急追しています。

現在の中国では若年層から年配層まで幅広い年代の日常生活の中にITが浸透しています。既にさまざまな報道で紹介されているとおり、スマートフォンによるQRコード決済が一般的になっており、ネットショッピングやデリバリーが発展しています。

実際私は7年前からずっとQRコード決済を使ったり、10年前から餓了麼(ウーラマ)というアプリでデリバリーを注文したりしていました。

PwCが2019年に発表した「世界の消費者意識調査」によると、中国のモバイル決済比率は86%で世界1位となっています。人々はもう携帯から離れる生活があり得ないと思っています。

日本では、急激にDX(デジタルトランスフォーメーション)への注目が高まっています。DXの本来の意味は、デジタル技術によって「人々の生活がよい方向に変化する」ことです。しかし、日本国内でのDXは「業務効率化」や「自動化」など企業のコストを下げることばかりに注目が集まりがちで、生活そのもののデジタル技術での変革度は、国際的に見てもまだ低いといえるでしょう。

今、中国の街中で消費者の心に訴え掛けるようなハイテクサービスが5G通信の活用に向けて、企業や病院、倉庫などに対応する製品・サービスがどんどん誕生し、気がついたらもはや生活がデジタルから切り離れなくなっています。

中国のDX事例

キャッシュレス

中国では、あらゆる分野でデジタル化が進んでいます。デジタル化の代表的な分野はキャッシュレスです。大きな店舗だけでなく小さな露店など、あらゆる場所でQRコード決済ができます。

まず、中国のキャッシュレス化の歴史を見てみましょう!

1985 キャッシュカード、クレジットカード運用開始
1999 オンラインモール運用開始
2002 銀聯(クレジット会社)
2003 淘宝(TAOBAO)、同年アリペイ運用開始
2010 QRコード決済運用開始
2013  スマホ決済運用開始
キャッシュレス化に貢献したのは、IT企業アリババが開発した決済アプリ「アリペイ」と、テンセントが開発したチャットアプリ「WeChat」です。

レストラン、スーパー、公共料金から家電、車までキャッシュレス決済で対応し、さらには「現金NG、キャッシュレス決済のみ」という店舗もあるほどキャッシュレス決済がスタンダードになってきています。また最近「アリペイ」は金融商品の多角化や信用機能をベースにしたサービスなどで、日常生活でよく使われる「WeChat」と差別化を進めています。

自動車

中国は自動車のデジタル化にも積極的です。

2020年9月22日、中国の大手ライドシェア企業と知られている滴滴(DiDi)は、自動運転分野の研究開発を4年間もかけて、自動運転の感知、予測、企画、制御、高精度の地図などの一連の完全な解決案と技術のモジュール、および自動運転の着地サービス能力を形成しました。2020年6月、滴滴自動運転はすでに上海で有人運転の応用を実施しました。

北京、上海、重慶、浙江省の杭州などの主要都市が「自動運転実験区」に指定され、その指定地区内を走る車はすべて自動運転車となっており、政府主導で車と街の一体化を目指しています。

また、「自動運転実験区」には、中国初のインターネットとクラウドを連携させた自動運転対応の高速道路も建設されます。さらに、ネットに接続された自動運転車両との双方向のデータ連係を公共サービスに活用する、世界初のプラットフォームの整備も予定されています。

リテール

EC事業とアリペイなどのキャッシュレス決済機能を発展させてきたアリババは、リテールのデジタル化にも貢献しています。今、アリババは中国全土に「ニューリテール」の世界を構築しようとしています。

アリババが手がけるスーパーマーケット『盒馬鮮生(フーマー)』先駆けモデル。
盒馬鮮生では、商品につけられたバーコードを上述のアプリで読み取ることで、産地や含有する栄養素などの情報を照会できます。このアプリには買い物かごの機能が設置されているため、そのままオンラインでショッピングを完結することも可能です。注文した商品は最短30分で自宅まで配送されます。「実物を見て商品を購入したいが、荷物を持ち帰るのは難しい」そんなユーザーにぴったりのサービスとなっています。

こうしたオンラインショップとリアル店舗を融合させた小売ビジネスは、「OMO(Online Merges with Offline)」と呼ばれています。ユーザーがオフラインで買い物をして電子決済を使用すると、その消費データがオンラインシステムに収集されます。もちろんユーザーはWebサイト、アプリ、ミニプログラムなどでも買い物ができます。これをアリババ元会長のジャック・マー氏は「ニューリテール」と呼びます。

また、買い物客が欲しい商品を見つけたら、購入したい商品に添付されているQRコードをモバイル端末で読み取ります。すると、買い物客は商品の口コミなどの評価を確認することができます。このとき、オンライン企業側では、顧客が商品を手に取ったことやQRコードで読み取った行動だけでなく、顧客のあらゆる情報が蓄積されることができます。

医療

中国はオンライン医療システムがとても早い段階で整備されました。

2010年に杭州で創業したWeDoctorは、遠隔医療プラットフォームの提供しています。

遠隔医療は主にスマートフォン上のアプリで行われ、WeChat(日本ではLINEと同質のアプリ)とも連携しています。自分の症状をスマホ上で入力し、医師にその状況を診断してもらい、適切な処置の指示をもらいます。症状の酷さが懸念される場合、その診断結果を紹介状として適切な病院へ紹介される仕組みもあります。診断料は無料の場合もありますが、1回10元(約150円)から受け付けることができます。

WeDoctorの強みは、1000人を超える医療従事者が所属していることです。プロの医師による対話形式で診断を行い、デジタル上のプロファイルを蓄積し、かかりつけの医師や転院先に共有可能な状態を作れます。

中国ではもともと、既存医療制度の改革に向けて、”Healthy China 2030”と呼ばれる国家戦略があります。100%の国民が医療サービスにアクセスできるようにすることが目標です。これからはAI主導で、とにかく症例、診断、結果をAIに「学習させる」ことで医療診断そのものを自動化する方向性もあります。

エンタメ

みなさんはTikTok(ティックトック)を聞いたことがあるでしょう。TikTokは中国のByteDance社が開発したアプリです。2019年だけで、7億3800万回以上インストールされています。

TikTokとは、簡単に言うと短い動画を投稿して共有するアプリです。
作成できる動画は、15秒から1分と本当に短いものですが、加工や編集機能が豊富に用意され、魅力の1つとして多くの若者に愛用されています。

1件の投稿動画は短いので、YouTubeに比べて撮影の手軽さが投稿者の負担を軽減します。また、撮影に手間がかからず、大がかりな機材が不要なところもユーザーが参入しやすいポイントです。

それに加えて、動画編集が面白くなります。倍速での撮影だけでなく、逆再生ができたり、顔や肌に変化を加えたりすることが動画のクオリティを高めます。

今まで、「動画を見るなら?」と聞かれた時には、「YouTube」と答える人が圧倒的に多かったはずです。しかし、今は「TikTok」を使って動画の編集や投稿が簡単にできることから、ユーザー数を順調に伸ばしています。

友達と踊ったり、イベントの内容など「いまの自分を表現したい」を、短い動画を簡単に撮影して、すぐに投稿ができる手軽さが「ちょうど良い」かもしれません。これからもどんな新しいコンテンツが追加されるかを楽しみしています。

教育

中国では教育分野もデジタル技術活用によって大きな変革が促進されています。これらの教育関連技術は総称してEdTech(Education × Technology)と呼ばれます。

ここで紹介したいのは、アリババから出資し、AI教師活用によるオンライン教育を提供する「Knowbox(小盒科技)」です。
小盒科技は小学2~4年生向けの算数の授業で、公立学校の学習指導要領と進度を参考として開発されたAIを活用したオンライン教育システムです。1回の授業は、実際の教師とAI教師によるそれぞれ45分間のレクチャーと学習サポートから構成されています。各授業に90回以上のインタラクションが設けられ、利用者は3カ月に1度料金を支払います。客単価は約1200元(約2万円)で、オンライングループ指導塾の受講料とほぼ同額です。現在は2万件の学習領域の取り込みが完了しており、1~2年後にはこの学年向け授業の開発が完了するほか、AI教師が授業全体を担当することを目指しているところです。

小盒科技は次の段階として、既存のAIカリキュラムをもとに教師の授業準備や生徒への予習・復習・宿題指示を支援する「小盒助教」や、保護者が子供の学習状況を理解し、家庭での指導を行える「小盒家長」といったシステムを開発し、教師、生徒、保護者の連携を後押ししていく計画です。また、各生徒のエンゲージメント(表情や反応など)をもとに、学習領域との適合性を改良していくようです。

ホテル

新型コロナウイルスの影響で「非接触」が新たなトレンドが流行りました。無人ホテルが初めて注目されましたが、実はアリババ集団は2018年から杭州で無人ホテル「FlyZoo Hotel」の運営を始めました。
レストランの配膳ロボットや消毒・清掃の無人車などの普及に加え、オンライン予約から、顔認証によるチェックイン、照明、カーテン、空調の音声操作に至るまですべて無人化され、装置に手を触れる必要もない無人の「スマートホテル」です。いずれもAIを活用したロボットや、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT技術によって成り立つ新しいサービス業態です。

「カーテンを開けて」と言えば、カーテンが開きます。「クーラーをつけて」と言えば、空調が作動します。また、ホテル内の支払いはすべてアリペイで決済が行われます。ホテルの自動販売機もアリペイを使ってドリンクを取り出せば、同時に決済も完了します。小銭をジャラジャラとさせて、投入する必要などないわけです。

このような無人スマートホテルの営業コストは従来型のホテルの約60%に抑えることができます。人件費だけでなく、自動制御による水や電気の節約も見逃せません。

「FlyZoo Hotel」の客室稼働率は年平均90%を超え、リピート率も85%に上ります。現在の利用者数は67万人を超え、会員数は50万人以上となります。

今、ホテルの利用客からさまざまなデータを収集し、それをサービス改善に活用する方針です。IoT設備に対する客の反応を元に、技術的な改善を行ったり、それをベッドやテレビの販売に結びつけたりすることもできます。

一泊するだけできっとこのテクノロジーの力に圧倒されるでしょう!

政府の動き|なぜ、中国は急速に「デジタル大国」になったのか?

なぜ、「BATH」は急激に台頭したのか?

このようにデジタル化が発展したのは政府の施策と密接な関係があります。

中国政府の3つの政策

中国のデジタル化が加速したのは、習近平国家主席のもと李克強首相が2015年3月に言及し、7月に指導意見として発表した「インターネットプラス政策」がきっかけでした。

「インターネットプラス政策」は、同年5月に発表された「中国製造2025」、2017年に発表された「次世代AI発展計画」と合わせて、世界のトップを目指す中国の戦略の柱となっています。この3つの政策によって、既存産業の高度化を目指します。

インターネットプラス政策

「インターネットプラス政策」とは、モバイルインターネット、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、IoTなどと現代製造業との結合(電子商取引、工業インターネット、インターネット金融等)の発展を促進し、インターネット企業を国際市場の開拓・拡大へと導くことです。

以下の11分野における新しい産業モデルに進出します。

  1. 起業・イノベーション
  2. 共同製造
  3. 現代型農業
  4. スマートエネルギー、
  5. 金融包摂
  6. 公共サービス
  7. 高効率物流
  8. 通信販売
  9. 至便な交通
  10. グリーン・エコロジー
  11. 人工知能

このように、インターネットを経済社会の各分野に深く融合させ、実体経済の革新力と生産力を引き上げ、さらにインターネットをインフラおよび手段とする広範囲な経済発展の新形態を形成します。

中国製造2025

「中国製造2025」とは、「製造大国」から「製造強国」を目指し、高度な中間素材、部品、製造装置について2025年までに7割を国内で生産することを目指す。

それを実現するために、3段階の戦略目標が立ち上げられました。

出典:経済産業省

次世代AI発展計画

「次世代AI発展計画」とは、中国がAIに関する全分野で世界トップ水準を目指し、AI産業の規模を1兆元(約16兆円)以上、波及産業を含めると10兆元(約160兆円)規模へと発展することを目指し、2030年までに世界のAI業界のリーダー的存在となることを目指すことです。

第一段階:2020年までに世界水準に達し、AIが新時代経済成長のエンジンとなる。

第二段階:2025年までに中国の一部のAI技術が世界をリードする。進歩の度合いを「中国製造2025」に合わせる。

第三段階:2030年までに中国のAI総合力を世界トップに持って行き、中国を世界の「AIイノベーションセンター」にする。

 

この3つの段階を踏んで、「国家AI戦略実現のためのプラットフォーム」を指定しました。自動運転(スマートカー)、都市ブレーン(スマートシティ)、医療画像認識(ヘルスケア)、音声認識、顔認識の分野における先端企業が主な戦力になります。

政府主導と聞くと半ば強制的なイメージがつきまといがちですが、あくまで政府は方針を決めるのみで、サービスを提供するのは民間企業です。民間企業がサービスを提供しやすいように政府がサポートしてあげているという構図のため、むしろユーザーファーストが実現でき、非常に使いやすく便利なサービスがどんどんと増えて行きます。

マイナスを0にするだけではないDX

日本国内では経済産業省が2018年にまとめた「DXレポート」をきっかけにDXへの注目が高まっています。特にDXレポートの中でも中でも日本国内の企業の劣化したIT基盤への維持コスト削減などの問題が「2025年の崖」と呼ばれ、国内企業のシステムを刷新し、システムトラブルやデータの滅失リスク、システム維持コストを減らす必要性が強調されています。

▼DXレポートについて詳しくはこちら

しかし、これらのDXはマイナスを0に戻すための施策であるとしか言えません。中国では、デジタル技術を活用した新たな経済圏が拡大し、新たなビジネスが生まれています。これは0から1を生み出すだけでなく、1を100に拡大させていく、本来のDXが浸透しているという見方もできるでしょう。

デジタル化が進む中国では、データの蓄積も進み、合わせてAIの活用も進んでいます。膨大なデータを学習して高度な認識や予測を行うAI技術を活用することで、デジタル経済の拡大にさらなる拍車をかけ、急成長を遂げています。

日本国内では、従来から社会インフラが整えられ、日常生活の不満が少なく、デジタル化が進行していません。既存の社会インフラが整備されていない新興国において、新しいサービスなどが先進国以上に一気に広まるリープフロッグ現象が中国で発生していますが、日本国内でも生活内での課題を注視し、0から1を生み出すデジタル技術の活用を進めていくことが重要です。

まとめ

実は、中国の発展の鍵はテクノロジーの進化だけではありません。テクノロジーが社会実装されることによってインフラの整備が進み、貧困や経済格差、高齢化などの社会的課題が次々に解決されていることに真の成長の原動力があるのです。このように社会問題を改善しつつ、全く新しい価値が次々と生み出されているのです。

日本国内でも社会的な課題に注目し、デジタル技術を活用し、価値を生み出す真の意味のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進むことが求められます。

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