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DX(デジタルトラスフォーメーション)が進んでいる中で、社内インフラやソフトウェアの更新やビジネスモデル変革したいのにDXを担う人材が慢性的に不足していて頓挫しているといった課題はありませんか?
多くの企業でDXを推進するための人材育成の必要性は認識されているものの、実際にどのような役割とスキルを持った人材が必要かを定義し、具体的な育成プランを立てている企業は、まだ少ないのが現状です。
この記事ではそもそもなぜDX人材が重要なのかを説明し、DX人材を目指すには何を工夫すればいいのかを紹介していきたいと思います。
目次
顕著になるDX人材不足
現在DXの人材が不足していることが問題視されています。この原因として挙げられるのがAIやIoTサービスやビジネスの爆発的な拡大です。社会に普及するサービス量に対するエンジニアの数が足りなくなってしまっているのです。
IDCJapanが2022年5月に発表したAIシステム市場の支出額予想によると、2021年の2,771億9,000万円から2026年には8,120億9,900万円に拡大すると予想されています。(参考: IT専門調査会社 IDC Japan 株式会社2022年5月24日)
出典:IDCJapan
このようなAIやIoTの市場の急激な拡大がDX人材の不足を生み出しているのです。
経済産業省のデータをもとに2018年に作成されたデータによると2030年にはDX人材数が約58万人不足してしまうことが予想されています。
DX人材とは
次はDX人材とは一体どのような素質を持っている人を解説したいと思います。
DX人材の定義
まず、日本経済産業省は2018年の「DX推進ガイドライン」にてDXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と定義しました。
簡単に言うと、データの重要性を理解し、適切にデジタル技術と組み合わせ、企業を変革していくことがDXといえます。こうした取り組みを主体的にできる人が、DX人材と呼ばるでしょう。
▼DXについて詳しくはこちら
DXを担う6つの業種
独立行政法人情報処理推進機(IPA)が、DX推進人材の種類として6つの職種を定義しています。
プロデューサー
プロデューサーは、「DXやデジタルビジネスの実現を主導するリーダー格の人材(CDO含む)」と定義されています。
プロデューサーの役割とは「顧客・パートナー・事業部門との良好な関係を構築・維持し、イノベーションの創出から事業化までの全プロセスを一貫して統括する」ことであり、必要とされるスキルは以下の3つです。
ビジネス・マネジメント力
事業全体を俯瞰的に把握し、投資や経営資源の配分などに対して的確な意思決定ができるスキルです。
外部環境把握力
自社の業界を理解し、ビジネスを取り巻く社会・経済の環境変化と将来動向を読み解くスキルです。
組織牽引力
内部・外部の人材・組織を巻き込みながら、人脈を拡大し、必要となる体制構築や予算確保を牽引するスキルです。
ビジネスデザイナー
ビジネスデザイナーとは「DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進等を担う人材」です。
ビジネスデザイナーの役割は「マーケットや顧客の課題やニーズをくみ取って、ビジネスやサービスを発想し、能動的に提案を行ったり、事業部門やパートナーと共に企画を構築する」ことであり、必要とされるスキルは以下の3つです。
着想力
市場や顧客の課題やニーズをくみ取って、ビジネスやサービスを発想し、それを有効なコンセプトに発展させるスキルです。
企画構築力
アイデアやコンセプトを、分析・組み合わせ・図解・説明などを駆使して、魅力ある企画に仕立て上げるスキルです。
ファシリテーション力
ビジネスの現場やチーム内の合意形成や相互理解をサポートし、議論の活性化および協調的活動を促進させるスキルです。
アーキテクト
アーキテクトは「DXやデジタルビジネスに関するシステムを設計できる人材」と定義されています。
アーキテクトの役割はより具体的に「ビジネス及びIT上の課題を分析し、ソリューションを構成する情報システム化要件として再構成する」ことです。
アーキテクトに必要とされるスキルとして「アーキテクチャ設計」、「設計技法」、「標準化と再利用」、「コンサルティング技法の活用」など挙げられます。
データサイエンティスト・AIエンジニア
データサイエンティストは、「DXに関するデジタル技術(AI・IoTなど)やデータ解析にに精通した人材)」と定義されています。
データサイエンティストの役割は「センサー・通信機器の発達、ネットサービスの普及などにより、収集・蓄積が可能となった膨大なデータ(ビッグデータ)から、ビジネスに活用する知見を引き出す」ことであり、それに必要とされるスキルとして「ビジネス力」、「データサイエンス力」、「データエンジニアリング力」の3つあります。
UX・UIデザイナー
UXデザイナーは「DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを担当する人材」と定義されています。
UXデザイナーに必要されるスキルを考える場合、UIデザイナー/Webデザイナーに求められるスキルをそのまま当てはめられます。
特定非営利活動法人インターネットスキル認定普及協会が実施しているウェブデザイン技能検定の試験科目が参考になります。ウェブデザイン技術、ウェブビジュアルデザイン、ウェブサイト設計・構築技術などが挙げられます。
エンジニア・プログラマ
エンジニアは「デジタルシステムの実装やインフラ構築等を担う人材」と定義されています。
エンジニアに必要されるスキルを考える場合、ITSSで定義されているITスペシャリスト及びアプリケーションスペシャリストのスキルをそのまま当てはめられます。
DX人材に求められるスキル
データやデジタル技術を活用して企業の優位性を保つために、DX人材には幅広いスキルが必要です。ここでは、特定の業種に限定せず、DXを推進していく上で、基本的なスキルを紹介します。
DXを推進していく上では、基礎的なIT知識からデータの重要性の理解、UI・UX志向などさまざまなスキルが必要です。
IT関連の基礎知識
DXの1つの大きなテーマとしてデジタルを前提としたビジネスを創造することが挙げられます。
まずIT関連の基礎知識として挙げられるのは、Webやアプリケーションなど、基本的なITの仕組みを理解することです。ITの仕組みを理解することで、新たな事業を創造する際に、何が可能で、何が不可能なのかを判断することができます。
また、AIやIoT、ブロックチェーンなど新しい技術に対するキャッチアップも必要です。デジタル技術を活用して競争優位性を得ていくためには、最先端の技術を適材適所で活用することが不可欠だからです。
基礎的なITリテラシーから最先端技術の知識まで、DXを担う上でITの知識は最も重要な知識と言えます。
データの扱い方、活用法
DXを担う上でIT知識と同様に重要なのは、データの重要性を理解し、扱い方や活用方法を学ぶことです。
2000年代に入り、データの重要性が増しています。データを分析することで、新たな知見を得たり、AI(機械学習)を活用することで未来を予測したり、簡単な認識を行い人的コストを下げることができます。特にAIの応用が爆発的に進んだことで「テクノロジー ×データ×DX」の需要度が高まってきています。
デジタル技術によって、膨大なデータが生み出される現在、データの重要性を自分自身で理解し、扱うことができれば、DXを推進する強力なスキルになります。
データサイエンティストが担う高度なデータ分析スキルも必要ですが、簡易的にでもデータの抽出・分析を行えることで、ビジネスのさまざまな場面でデータの力を発揮できます。
また、企業内でデータを有効活用していくためにデータを蓄積する環境を整えるなど、データマネジメントを強化していく必要性もあります。
▼データマネジメントについて詳しくはこちら
UI・UX志向
DXは「顧客中心」が大前提となっています。DXを推進する上で、最も重要なのはユーザに提供する価値を軸にデジタル技術で事業を変革していくことです。
UXは「ユーザーが、ひとつのモノ・サービスを通じて得られる体験」を意味しています。このユーザーの体験を改善することで、利用者にとって製品・サービスの価値を向上させることを目的としています。
UIは「一般的にユーザーと製品やサービスとのインターフェース(接点)すべてのこと」を意味します。WebサイトでいうところのUIは、サイトの見た目や、使いやすさのことを指します。
UI・UXを向上させることで、ユーザは長い期間、サービスを利用してくれ、大きな収益基盤になります。また、ユーザへの提供価値を主体的に考えてUI・UXを設計することで、効率的にデータを取得できるようになり、そのデータを活用したサービスの改善などが可能です。
プロジェクトマネジメント
DXを推進する上で、一人ひとりがプロジェクトを確実にマネジメントし、成功に導く必要があります。
組織や事業の課題に着目し、仮説を立てた上で、プロジェクトをマネジメントしていくスキルが求められています。
プロジェクトマネジメントにはグローバルでフレームワークが確立されています。
代表的なものでは、PMBOKやアジャイル開発などが挙げられます。基本的には、このフレームワークと現場のバランスを取りながらプロジェクト全体を調整推進していくことが重要です。
特に、DXプロジェクトでプロジェクトマネジメントに求められるのは「ユーザーと一緒に要求や要件を決めていく」姿勢です。ユーザーのメリット、ビジネスとしての収益性を考えた上で、技術を活用していく必要があります。
DX人材に求められるマインドセット
では、DX人材にはどのようなマインドセットが求められるのでしょうか。
マインドセット(mindset)とは自身の習性として根付いた物の見方や考え方を意味する表現。
(引用:weblio辞書)
生まれ持った先天性の性質や経験や環境によって形成される後天的なものの両方がその人のマインドセットとなります。近年では企業の人材育成にマインドセットを活用しているところも多いです。
例えばソフトバンク株式会社では2017年にDX本部を設立し、DXに求められる人物像を明確にし、研修を行なっています。またダイキン工業株式会社も、2017年に社内講座「ダイキン情報技術大学」を創設し、DX人材に必要なマインドセットやスキルを学べる講座を提供しています。
DX人材に求められるマインドセットは次の3つです。
挑戦
DXを推進する上で最も重要なマインドは挑戦でしょう。DX人材には「現状を変えたい欲求」を持つ人材が求められます。 現状に満足することなく、疑問を抱き、挑戦し続けなければDXは実現できません。ディスラプティブな発想・思考をいつも持ち、新しいことへのチャレンジが出来る挑戦力がとても大切です。
課題発見
DX推進するには、まず解決すべき課題を洗い出し、仮説を立て、それをデジタル技術で解決していくことが重要です。「顧客中心」の考え方を身に着け、ユーザーの課題に着目し、それを解決していくことで、新しいビジネスモデルの構築も可能かもしれません。これから起こる行動変化に目を向け、変化を先読みし、他社より先にいく課題発見力が重要です。
巻き込み
DX人材は、相手の意見を聞き、周囲を巻き込むことが大切です。個人の意見・考えをもつことも重要ですが、他人の意見を聞き、周りを巻き込んでいかなければ、DXを推進することはできません。
他領域とのコラボレーションを実施することで、DXの価値はさらに高まるため、お互いに尊重し合い、調整する能力が必要です。また、特に新規事業を作るためには、新たに人材を集める必要もあり、周囲を巻き込んでいかなければなりません。
ベンダーとユーザー別のDX人材
DX人材には、ユーザ企業(クライアント企業)とベンダー企業で高い需要があります。それぞれの企業で求められる人材像は、以下のとおりです。
ベンダー企業のDX人材
SIerやソフトハウス(ソフトウェアパッケージの開発やソフトウェアの受託開発を主要業務としている企業)などのITを事業とする企業です。ユーザー企業の既存事業の効率化、コスト削減、価値創出を目的とした開発を行います。
【人物像】
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ユーザー企業(クライアント企業)のDX人材
メーカーや飲食、商社、建設、不動産などの、ITを事業としない企業です。ベンダー企業との共同作業を行い、プロジェクトを成功に導きます。
【人物像】
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DX人材の育て方
不足しているDX人材を育てるにはどうすれば良いのでしょうか。
IPAの調査によると、
DX人材に求められるのはITやデジタル化に知見があることももちろん大切だが、それよりも自ら課題を発見し、主体的に解決できる人材である。
(引用:IPA)
とまとめています。
DX人材を育成する方法として有効なものを3つ紹介します。
座学で知識を得る
DX人材を育成するにあたり、社外講師を呼ぶなどして企業内講習を設け座学で知識をつける機会を作ったり、ハンズオンセミナーという体験学習を行うのが有効です。
座学ではDXに必要なスキルセットやマインドセットを育成できます。社外講師からDX推進に対する成功体験を具体的に教えてもらえるためリアリティーのある学びが可能です。
OJTで実行力をつける
座学を行なったら、次にOJTで実行力をつけるのが有効です。OJTとはオン・ザ・ジョブ・トレーニングの略で、職場で実務を行うことで従業員の職業教育を行うことを指します。
OJTを行うことで「実行力」を身につけられます。
初めは社内に向けた小さなプロジェクトの立ち上げなどでOJTをするのが良いです。小規模のプロジェクトから初め、少しづつ成功体験を作ることも大切です。座学でインプットした知識をOJTでアウトプットすることで活用の仕方や実行のコツなど実際に肌で感じられ、「知識」を「経験」にできます。
社内外のネットワークを構築する
座学とOJTとは別で社内外のネットワークを構築することも有効です。
常に情報が更新されている現代において、社内だけのネットワークに頼るのはDX促進には不十分であると言えます。
社内外でネットワークを作り、常に新しい情報に目を向けることで考え方や価値観を柔軟にしましょう。
例えば、最新の技術やサービスの紹介をしている社外コミュニティーに参加し情報収集したり、さまざまな分野の第一人者が発信しているSNSをフォローするだけでも簡単に情報を取り入れられます。
DX人材関連の書籍 / 講座
JDLAによる「AI For Everyone」
2021年5月6日(木)10時より提供開始されるDX人材教育に根ざした講座で無料で受講可能。データとAIのリテラシーを全てのビジネスパーソンに習得してもらうことを目指し、「AIとは何か」「ディープラーニングによって何ができるか」を知れるエントリー向けの講座として提供。
DX推進におけるAI活用の重要性と日本における活用事例などを盛り込んでいます。オンライン動画による授業形式で、計6時間程度の内容になっています。
<AI For Everyone概要> 名称 : AI For Everyone(すべての人のためのAIリテラシー講座) 概要 : AIについての基本的な概念や知識、活用を学び、理解を深める講座 受講開始日(申込開始日):2021年5月6日10:00 受講資格 :制限なし 実施概要 : オンラインでのビデオ講座形式(全6回) 想定学習時間:合計約6時間 受講費用 :無料 |
いちばんやさしいDXの教本 人気講師が教えるビジネスを変革する攻めのIT戦略
DXのために必要な知識と実行ステップを、現場目線で丁寧に解説。DXを小さく推進し、徐々にビジネスプロセスやビジネスモデルの変革を目指せるように、豊富な図を用いて解説されている書籍。DXの推進担当者から最先端の技術に興味がある人までを対象としたDX人材の入門書です。
デジタル技術で、新たな価値を生み出す DX人材の教科書
日本の大手企業3000社以上にヒアリングを重ね、500社近くにDX人材育成サービスを提供する株式会社Standardの2人が、DX人材をテーマに解説した書籍。45個の業界別のDX事例も掲載されており、より具体的にDX人材について学べます。
DX人材関連の資格
DXの知識や技術を持っている人材であることを証明できるようにDX人材に関する資格が存在しています。以下でDX人材関連の資格を3つご紹介します。
AWS(Amazon Web Services)認定各種
AWSとはAmazonが提供しているクラウドコンピューティングサービスです。
このAWSが行う認定とはAWSの提供しているクラウドサービスの幅広い知識を問われるものです。
初級のものから上級の認定まで2022年9月現在では12種類の資格認定を行なっています。資格勉強を通して体系的に学習ができるので実務で活かせるスキルが身につきます。
AWS認定では試験用のウェブセミナーや問題集などの書籍も販売されているので資格の勉強が始めやすいです。
Python3エンジニア認定試験
Pythonは人気のあるプログラミング言語の1つです。現在AI技術の開発にはほとんどPythonが使われています。
Python3エンジニア認定試験とは「一般社団法人Pythonエンジニア育成推進協会」が運営している資格認定です。Pythonの知識や実用的なスキルを問うものです。この資格ではPythinの知識を体系的に学習できます。エンジニアとしてのスキルを磨きたい人におすすめです。
Pythonの注目度に伴い、Python3エンジニア認定試験を受験する人も増えています。注目度の高い資格なので持っていて損はない資格です。
DX検定
DX検定とは、日本イノベーション融合学会DX検定委員会によると、
これからの社会の発展・ビジネス全般に必要な、デジタル技術によるビジネスへの利活を進める人財のために、毎日爆発的に増加するバズワードを確かな知識にする、先端IT技術トレンドとビジネストレンドを幅広く問う知識検定で、2018年7月に創設されました。(引用:日本イノベーション融合学会DX検定委員会)
というものです。ビジネスにおけるデジタル化に関する知識やIT技術の知識を主に範囲としています。
DX検定では試験の点数によってレベル認定書が付与されます。DXに関する幅広い知識を要するためDXに関する知識が幅広く身につきます。
DXの資格について詳しく知りたい方はこちら
▶︎≪初心者必読≫DXの資格の種類とは?-資格のメリットやデメリットも紹介 | AI専門ニュースメディア AINOW>>
まとめ
DXを実現するために、DX人材の育成が経営戦略の一環として不可欠です。
また、これからDXが進んでいく中で、DX人材として活躍できる場所がきっと増えると予想されます。しかし、人材には求められる要素が多く、専門スキル以外も、高度なマインドセットが要求されることから、決して簡単ではないことが分かります。まず自ら行動に移し、DX人材に目指していきいましょう。