AIなどのデジタル技術やデータ活用に注目が集まった現在、ビルの形も変革しています。
2016年の着工から4年の歳月を経て2020年9月14日に開業した超高層ビル「東京ポートシティ竹芝」は、ロボットやIoTセンサー、AI技術などを活用した最新のスマートビルです。
東京ポートシティ竹芝は、特に管理システムが刷新され、ビル内の人の動きや混雑状況が分析され、データが迅速に共有される仕組みが導入されています。
今回は、東京ポートシティ竹芝のプロジェクトを推進した東急不動産の井戸氏に、スマートビルについて伺いました。
データを活用して建物を管理するスマートビル
従来のビル内では、さまざまな課題があると井戸氏は指摘します。
ーー従来のオフィスビルはどのような課題があったのですか?
井戸氏:東急不動産のオフィスに入居するテナント向けにアンケートを実施したところ、ワーカーの方々から「出勤やランチ時のエレベーターの混雑や、お手洗いの利用状況が分からず、実際に自分で見に行かなければわからない」という声が多く寄せられました。
大きなビルになるほど、“混雑”という問題は大きな問題であると認識しています。
超高層ビルでは、低層用、中層用、高層用などのバンク分けをしたエレベーターを設けるなどの工夫がされていますが、それでもランチタイムや朝の出勤ラッシュ時には多くの人がエレベーターホールに集まり、混雑状況が生まれてしまうことが頻繁に発生します。
従来の混雑の課題を背景に、東京ポートシティ竹芝では、館内の混雑状況や、気象データ、人流データなどの情報をリアルタイムに検知し、いつでも館内のデジタルサイネージやワーカー専用アプリで確認ができる仕組みが取り入れられ、ワーカーや来館者は混雑を避けることができます。
井戸氏:東京ポートシティ竹芝では、ワーカーの方々はエレベーターに乗車する前にセキュリティカードをかざすと、その階の周辺に行くエレベーターが案内され、オフィスがある階数に自動で止まる機能が導入されています。
近い階層のワーカーの方々をまとめて運ぶため、従来のビルに比べて、運用効率が高くなっています。
また、入館ゲートに顔認証センサーが設置されていて、自分が働いている階数を認識し、フラップが開かれ、行きたい階数までタッチレスで行ける仕組みも導入しています。
エレベーターだけでなく、お手洗いのドアにもセンサーが設置されており、自分のフロアのお手洗いが空いているかという情報も分かるようになっています。
これらの仕組みを実現するために、東京ポートシティ竹芝では、約1,000個のデバイスセンサーが設置されていて、オフィスワーカーだけではなく、来館者やビル内の各店舗にもさまざまな情報を提供しています。
ーー混雑状況はスマートフォンで確認できるのですか。
井戸氏:各利用者を想定して、いくつかの確認方法があります。
エレベーターの混雑状況などが事前にわかるように、ワーカーの方々向けのアプリケーションを開発しています。
自分の出勤時間を登録することで、AIを用いて混雑状況を予測して、出勤のレコメンドをし、時差出勤を促すようになっています。
また、ビル内のお気に入りのレストランの混雑状況も分かるため、混雑を避けたランチタイムを取るなどの選択が可能です。
情報を開示してこそ、快適なビルが実現
ーーデータ活用において、他社のビルとどのようなところに違いがありますか。
井戸氏:大きな違いは、ビル内の情報が集まるプラットフォームを開発したことです。
先ほど約1,000個のデバイスと言いましたが、今後スマートシティが発展した時に、デバイスの数が増え、集める情報量も多くなります。
その情報を活用することで、さらに快適な暮らしが実現するように、プラットフォームを開発し、適宜さまざまなパートナー企業に提供する予定です。
ーー竹芝のプロジェクトを進める上で、どのような点で苦労しましたか。
井戸氏:東京ポートシティ竹芝のプロジェクトは2016年に着工しました。当時は、AIやデジタル、データが注目され、多くの分野で変革が起きていた時期でした。
4年後の開業時に何が求められるのかという正解がないため、熟考し、カタチにしていくことが非常に苦労しました。
そのため、丸1年という時間をかけて、さまざまなベンダーさんとお話させていただきました。ソフトバンクと共創し、今回の「東京ポートシティ竹芝」として具現化されました。
ーービルに導入するアイデアの選定基準は何ですか。
井戸氏:1つ目は、私たちのビルマネジメントに活かせることです。2つ目は、ワーカーや来館者の方々にメリットを提供できることです。そして3つ目は、他のビルとは圧倒的に違う機能(新規性)があり、メディアに注目いただくことはもちろん、ワーカーの方々にも魅力として感じていただけるということです。
大きくこの3つの軸でどのようなアイデアや機能が費用対効果が良いのかを話し合い、決定しました。
ポートシティ竹芝で活躍するロボット
国内では、ビルの警備や清掃などコストがかかるビル管理業務をロボットを用いて効率化する取り組みが行われています。特に警備の分野では、人手不足が深刻化しており、有効求人倍率は8.62倍に上昇しています。ただ単にコストを削減するだけでなく、人手不足を補うためにも、ビル内でロボットを活用していく必要性が増しています。
東京ポートシティ竹芝でもロボットが積極的に導入されています。
ーービル内では、どのようなロボットを導入しているのですか。
井戸氏:ポートシティ竹芝では、清掃ロボット「Whiz(ウィズ)」と、警備ロボット「SQ-2」を導入しています。
また、ビル内には、陳列作業を自動化するロボットを東京ポートシティ竹芝内のLAWSONに導入しています。
清掃用ロボット「Whiz」は、ソフトバンクロボティクス社が開発した自立走行が可能な床清掃ロボットです。高性能なセンサーが装備されているため、障害物や人を検知した時は状況に応じて回避・一時停止し、安全性を担保しながら館内を清掃できます。
自立移動警備ロボット「SQ-2」は、SEQSENSE社が開発した画像認識技術やセンサー技術を搭載した警備ロボットです。特に深夜の警備業務などで人手に頼る必要がなくなります。
ーーなぜポートシティ竹芝では、ロボットを積極的に活用しているのですか。
井戸氏:ロボットを活用することで、省人化してコスト削減につなげたいと考えているからです。
現在は、そのための準備段階として、ロボットが本当に有益なものかどうか、人とロボットが同じ環境で働くことでどうなるのかをチェックすべく、試験的に運用しています。
今は人件費が上昇していて、今後も人だけに頼り続けてしまうとコストもどんどん上昇してしまいます。あらゆるところでロボットを導入しながら、ロボットと人間の共存を目指していきます。
スマートビルとAIのこれから
ーー開業後、ビルのワーカーや来館者からの反応はいかがですか。
井戸氏:ワーカーの方々からは、ビル内で使用できるアプリケーションが高評です。遠隔でもわかりやすいという点で、評価していただいているのだと思います。
新型コロナウイルスの感染拡大により、混雑状況を回避できるという点で、非常に満足度が高いツールなのではないかと捉えています。
ーー今後の展望を教えてください。
井戸氏:今回のポートシティ竹芝は、スマートシティの実現に向けた1つの具体的な事例になったと思います。
スマートシティ化は、今後実現に向けて取り組んでいきたいのですが、初めての取り組みとなると、生活者の方々が納得しづらかったり、法の規制があるため、なかなか実現できません。
開発する側は実証実験を重ねて改善しつつ、政府には法律を適度に緩和していただくことで、AIやロボットの活用が進み、スマートシティの実現に一歩近づくと思います。
さいごに
スマートシティの構想に注目が集まる中、まずはビル単位で、デジタル技術やデータがどのように生かされていくのかを考え、その上でその取り組みを街全体に広げていくことが重要です。
特に東京ポートシティ竹芝では、混雑という課題などに着目し、デジタル技術やデータを活用することで、高い満足度を実現しました。
また、同ビルではロボットが積極的に導入されているため、人と役割を分担し、持続的なビル運営が目指されています。
今後も人材不足は深刻化していきます。東京ポートシティ竹芝のようにロボットが活用され、人と協働する新たなスマートビルの形は今後も国内で広がっていくことでしょう。
駒澤大学仏教学部に所属。YouTubeとK-POPにハマっています。
AIがこれから宗教とどのように関わり、仏教徒の生活に影響するのかについて興味があります。