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今回お話を伺ったのは、海城中学高等学校物理部卒業生の勝山さん。勝山さんは物理部で「AI班」を立ち上げ、夏休みに後輩たちに向けてG検定合格を目的としたAI勉強会を開催。その後、後輩の森本さん、岩田さんがG検定を受験し、見事合格に至ります。
その後、同校を卒業した勝山さんは、アメリカの大学へ進学。中学生の頃からAIに興味を持ち、物理部においてもAIの研究を進め、高校生の研究発表大会で発表し表彰されるなど、数々の実績をお持ちです。今回はそんな勝山さんに、AIに興味を持ったきっかけや、物理部での活動、大学進学後のキャリアについて伺いました。
勝山さん
G検定2019#3合格 合格時中学3年生
E資格2021#2合格 合格時高校2年生
目次
AI分野で研究していく意志を固めたきっかけとなったAlphaFold、Transformer、画像生成AIの発展
ーーG検定、E資格を取得したのはいつ頃でしょうか。
勝山:G検定は中学3年生の冬(2019年)、E資格は高校2年生の夏(2021年)に取っています。
ーー元々AIには興味があったのでしょうか?
勝山:SwiftでのiOSアプリ開発から始め、その後Pythonを触り始め、何ができるのだろうと調べていった結果、AIにたどり着いたのが興味を持ち始めたきっかけです。
中学3年生の時、将来なりたい職業の人へインタビューするレポート課題が出されたのですが、小学生の頃から研究者になりたいと思っていたので、興味があったAI分野の研究者の方を紹介してもらうためにJDLAに問い合わせました。そこで、代表理事の松尾豊先生が運営されている松尾・岩澤研究室の研究者の方々につないでいただいたことで、ますますAIへの関心を深めていきました。
ーー小学生の頃から研究者の道を志していたのですね。その中で、AI分野で研究していきたいと思ったきっかけはありますか?
勝山:ひとつはDeepMind社が発表したタンパク質の構造を予測する「AlphaFold」です。それまでAIはAIという単一の分野で閉じていると思っていたのですが、他のサイエンスに適用することでAIはこれほど革新的な成果を生むことができるのだ、と関心を深めました。
次にTransformerですね。それまでは本をメインに勉強していたのですが、本は論文など最先端の情報と比較すると1〜2年ほど遅れた情報が掲載されるため、1〜2年前の知識ベースで勉強していたんです。なので、Transformerは2018年発表ですが、2年遅れて2020年に知りました。それまでは本の中にあるRNN(Recurrent Neural Network)やLSTM(Long Short Term Memory)を勉強していたので、Transformerを知ったときは、勉強していたRNN、誰も使ってないじゃん!(笑)と衝撃を受けました。勉強方針も変わり、論文メインでキャッチアップしていくようになりました。
最後に、画像生成AIでしょうか。Stable DiffusionやMidjournyが2022年から話題になり始めましたが、正直、実用化されるとしてもあと2〜3年先だろうと思っていたんです。AI分野で3回目の衝撃を受け、自分はやはりAIを研究していきたい、と思い始めました。
高校生活は研究・ビジコンに費やした。物理部で「AI班」をつくるまで
ーー物理部ではどんな活動をされていましたか?
勝山:主に研究です。地学部と連携し「機械学習を用いた高精度地下水位予測モデルの開発」という共同研究を行いました。地学部で地下水の理論的な研究を行っていた同級生がいて、データがあるならAIで何かできないか、ということで始めた研究です。
タンクモデルという、地質構造をタンクと見立てて河川の流量を予測するモデルがあり、その弱点をAIでカバーできないかという趣旨でした。今振り返ると穴だらけの研究で、もっとできることがあったと思うのですが、それでも日本学生科学賞で3万件のうち上位30位に入ることができました。日本ストックホルム青少年水大賞という、高校生向けの水をテーマにした研究発表会でも2位を獲得することができました。
ーー研究活動に没頭されていたんですね。
勝山:研究だけでなく、ビジネスもやってみたいと思い、高校1年生のときに未踏ジュニアという小中高生向けのクリエイター支援プログラムにも応募しました。しかし、自信満々で応募したのですが、蓋を開けてみると書類選考にも通らなくて。その後、ビジコンに興味を持っていろいろと応募してみましたが、あまり通らず、そこでAI分野の研究を突っ走る!という覚悟を決めました。ただ、諦めたわけではなく、今後は軸足を研究に置きつつ、起業も近いうちにしてみたいと思っています。起業のリスクが一番低いのが学生時代だと思うので。
ーー研究、ビジネスと精力的に活動されていたと思いますが、それらに加えて物理部でAI班を立ち上げられたモチベーションはどこにあったのでしょうか?
勝山:物理部に何か残したいと思ったからですね。自分がAIの勉強を始めたとき、どういう方針で勉強すればいいのか指針がなかったので悩んだ経験もあります。取っ掛かりさえクリアできれば、あとは自分で進めていける人が海城には多いので、そこをサポートしてあげたいと思いました。
長期的には、10年後くらいに「海城AIコミュニティ」のようなものができればいいなと。同じ学校出身であれば面識がなくても仲良くなりやすいので、OB間で共同研究などの機会も増えたらいいなと思います。
AIで動物を再現することで、人間を理解したい
ーーアメリカの大学(UC San Diego)に入学されると伺いましたが、ご自身の進路を意識し始めたきっかけはあったのでしょうか?
勝山:中学生くらいまでは、当たり前に日本の大学に行くんだろうなと思っていました。転機はやはりAIです。AI研究ではどうしても海外が主戦場になるので、興味を持った段階で、学部は日本で、大学院から海外大学に行きたい気持ちが芽生えました。
そのタイミングで、仲が良かった先輩が海外大学に行くという話を聞いて。学部から留学という選択肢があると気付き、そこから海外への進学を考え始めました。
ーーUC San Diegoでは何を専攻されるのでしょうか?
勝山:コンピューターサイエンスとニューロサイエンスです。大学で取り組んでみたいテーマとして、大きく「サイエンスにAIを適用する」ことと「人間を理解する」ことがあり、そのためにAIを用いたいと考えています。
LLMなど言語モデルが話題ですが、最近読んだ論文から言葉を借りると、今の生成AIはあくまで人間のアシスタントであって、要は鳥ではなく飛行機を作っているのと同義です。飛行機は、スピードを出せますし、飛ぶ際の音も少なくできますが、あくまで人間が使うツールでしかありません。一方で、鳥は獲物を見つけて最短ルートを探して追いかける機能、強風でも墜落せずに対応して飛び続けるといった機能を、環境との相互作用の中で獲得しています。
人間を理解するという目的を考えると、現在の言語モデルから人間へのステップアップは、まだ距離があります。そのため、人間を理解するには、今の生成AIの延長線上に向かうより、環境との相互作用の中で機能を獲得している”動物”を再現するほうが人間理解に近づくのではないかと考えています。
動物を再現することができれば、動物がどのように環境と相互作用して、どのように概念を手に入れるかがわかります。人間がスマートフォンの使い方を覚える際、写真や言語だけの情報ではなく、実際に触れて使ってみてその反応を得ることで学んでいきますよね。環境との相互作用というプロセスが、AIが概念を獲得することに繋がると思っています。
これを実現するには、ニューロサイエンスなど、動物の根本的な性質をAIに学習させ、それを再現することが必要です。だからこそ、ニューロサイエンスとコンピューターサイエンスを同時に学びたいというのが、私の大きなテーマです。
ーー生成AI周りで気になったニュースはありますか?
勝山:MetaがリリースしたLlama2は、オープンソースであることに衝撃を受けました。オープンであるということは、自ら独自のチューニングを施せることが非常に強いと思います。たとえば和歌や俳句などのデータをアドオンして自分だけのモデルを作れるので、OpenAIのAPIなどを使ってアプリケーションを開発するより、ビジネス的にも大きな広がりがあります。
その意味で、生成AIのモデルを大規模化していくだけでは面白くないので、大学では仕組みを変える方向に携わっていきたいですね。Transformerは一文字ずつ予測していく手法においては完成されていて、後は計算資源の多寡の問題です。大規模化ではなく、大きなプランをまず立て、そこからテキストを生成し、評価してまたプランする、といったことができれば、長編小説の執筆などのユースケースが生まれる可能性もあります。
「Generative AI Test」も監修。JDLA資格は“機会”として使うべき
ーー生成AI時代において、個人が身につけるべきリテラシーとは何でしょうか?
勝山:ChatGPTなど生成AIはあくまでツールなので、自分を置き換える存在になってはいけないと思っています。生成AIに限らず、ものを使う上で重要なのは、何ができて何ができないのかを理解することです。
生成AIの登場以前は、画像認識などで言えば精度がパーセンテージで客観的に示せるので、ここまでは使えるな、という判断がやりやすかった。しかし、対話型AIは人間のように振る舞うので、AI能力を信頼しすぎてしまう。ChatGPTの登場で、その傾向が強くなってきたと感じます。
AIにどれだけ仕事を任せられるのかは、対話しただけではわかりません。背後にある技術を理解して、「これくらいできそうだ」と自分で判断していくことが重要です。私がプロジェクトメンバーとして監修させていただいたJDLAの「Generative AI Test」にも、ニュースを追っているだけではわからないAIの技術分野を盛り込んでいます。
生成AIを使う上でプライバシーが重要だ、とはニュースで教えてくれますが、「言語モデルはパラメータの中に学習データを記憶することができるから」こそ個人情報が漏洩するリスクがあり、だからこそプライバシーについて配慮しなければいけない、といった根拠までは教えてくれません。ツールの背後にあるにある技術を理解することが、生成AIに限らず、新しいツールを活用していくうえでは必要だと思います。
ーー最後に、これからG検定/E資格に挑戦する人へメッセージをお願いします。
勝山:資格を目標にするというよりも、やりたいことを突き詰めるうえで自然に理解するというのが理想だと思うので、理解するための機会として活用するのがおすすめです。
現時点での知識を整理できますし、一定の期間追うべき目標になり、キャリアにおいて実力の客観的な目安になります。それが合わない人は使わなくていいと思いますし、合う人は使い倒せばいい。合格を目標にしてしまうと合格したらそこで終わってしまうので、あくまで機会にする。達成して満足しないことが重要だと思います。
特に企業でAIを導入していく立場にあるビジネスパーソンは、受験することでAI導入に必要な足りていない知識を確認できるので、意義は大きいです。ただし、受けることそのものよりも、受けた後に後にどう活かすか。ぜひ、ゴールとしてではなく、ゴールに至るまでの過程として活かしていただけたらと思います。
執筆:高島圭介