「ゲームの外のAI」が開発コスト削減の鍵 / デバッグやバランス調整、品質管理の自動化が進むゲームのこれから [CEDEC 2018レポート]

おざけんです。2018年8月22日から24日にかけてパシフィコ横浜にて「CEDEC 2018」が開催されました。

今回取り上げるテーマはDAY3に行われた「ゲームAI技術20年の進化とこれから」というテーマです。

登壇者は

  • 三宅 陽一郎さん(株式会社スクウェア・エニックス リードAIリサーチャー)
  • 長谷 洋平さん(株式会社バンダイナムコスタジオ)
  • 森川幸人さん(株式会社モリカトロン)
  • 斎藤由多加さん(株式会社シーマン人工知能研究所 所長)

の4名です。

このセッションでは、まず前半でゲームAI技術のこれまでの進化について各者の自己紹介を交えながら取り上げ、後半部分でゲームAIのこれからについて述べる形式です。

冒頭には三宅陽一郎さんからゲームAIの歴史についての解説がありました。

ゲームAIは2000年前後の黎明期から発展し、近年では学習や進化のプロセスを取り入れています。また開発環境としての発展も見せ、このセッションの最大のキーワードである「ゲームの外のAI」が徐々に発達してきています。

特にゲーム開発者会議の中での傾向として2018年はディープラーニングなどの世間の動きと同期して学習アルゴリズムが本格化したといいます。

前半_ゲームAIのこれまでの進化について

モリカトロン 森川さん

モリカトロンの森川さんはゲームAIの第一人者。2017年にはAINOWのインタビューにも応じてくださっています。

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森川さんは1997年に「がんばれ森川くん2号」というゲームを作成しています。これはニューラルネットワークを使って、キャラクターの行動判断をコントロールするもの。プレイヤーが行動を評価することで、失敗や成功を学ぶことができるアルゴリズムを取り入れていました。

また、2003年には「くまうた」というソフトウェアをプレイステーション2用のソフトウェアとしてリリースしました。

森川さん「この頃はAIにどっぷりハマっていて隙あれば、ゲームの企画ではなくAIの企画でプレゼンしまくっていました(笑)初音ミクの数年前に取り組んだんですが、初音ミクがブレークするのを見ると、熊をキャラクターにして反省した覚えがあります。しかし、当時にしてはしっかりと歌えていたかなと思っています。」

2014年くらいからむかしAIやっていたよね、と話しかけられることが増えたという森川さん。AIブームがきたらしいぞ!ということで、2017年の8月にゲームAIに特化したモリカトロンという会社を設立したそうです。

シーマン人工知能研究所 斎藤由多加さん

シーマン人工知能研究所の斎藤さん。ホリエモンのYouTubeチャンネルに出演したり、サッカーの本田圭佑選手と対談したりと幅広く活動されているゲームAIのトップランナーです。特に「言葉」に注目していおり、シーマン人工知能研究所では日本語口語の会話エンジンの開発にあたっているそうです。

斎藤さんがキャリアをスタートしたのは「TOWER」というゲームです。ビルを建てるゲームですが、海外ではシムシティの会社から発売され、「SIM TOWER」とも呼ばれているゲームです。

斎藤さん「この当時は人工知能はSF映画の中の言葉でした。存在しないものみたいなろころがあって、UFOや雪男のようなものでした。今でいうところのAIのような動きを実現したく、TOWERではプログラマーと頭を悩ませて条件文を作っていました。」

次の作品はシーマンです。しゃべる人面魚の作品です。

斎藤さん「ある日、都知事だった石原慎太郎さんが、国内の主なゲームの視察をするイベントを計画していました。僕は全く関与していなかったんですが、当日にシーマンを出してくれと友達から言われ、社員がそのイベントに行ってシーマンのデモをしたんです。

石原慎太郎さんは、シーマンに決まってしまって、ずっとシーマンについてコメントしてくださっていたんです。それで終わりでいいのかと思いきや…

石原慎太郎さんが年に1回、浩宮殿下(皇太子)に会って都政のご報告をする機会があったのですが、そのときにシーマンの話をしてくださって、そうすると殿下がご覧になりたいとおっしゃって…

シーマンをデモをする準備をしていました。しかし突然連絡が途絶えてしまったんです。

理由はおそらく宮内庁の方が事前にシーマンをプレイしたんでしょうね。シーマンはユーザのことを”おまえ”っていうんですよ。これに愕然としてしまったんじゃないかと思っています。

ここからがポイントです。シーマンはなんでユーザのことを”おまえ”っていうのかというと、”You”のように”あなた”の二人称がないんですよね。特に目上の方への二人称がないんです。

なんで”おまえ”という言葉を使ったのかというとそれ以外に使える二人称がなかったからなんですよね。

ちなみに時間と予算の関係で、シーマンの声は私なんです(笑)しかも会社の会議室で録音していたのでパトカーの音などが入っていますw」

言葉のメロディー

ゲームの制作などを通して斎藤さんは「言葉はメロディー」だと感じたといいます。

斎藤さん「口語は文法なんてないんです。それでも人間が理解しているということはなんらかのルール性があるんですよね。そのルール性がなんなんだろうと思ったときに、言葉の文字面ではなく”メロディー”にあるんだということに気づいてきました。

メロディー言語と勝手に名付けたんですが、日本語はSVOCみたいに欧米型の文法ではありません。主語が2つあったりするのですが、それを補っているのがメロディーだと思います。

漢字は日本語の中で支柱みなっていますが、漢字、特に二字熟語は外来語として扱ったほうがわかりやすいと思います。”熟成する”と”デートする”が似ているように、外来語に”する”をつける活用形に一致しますよね。

“コウカ”と聞いていくつの言葉が思いつきますか?”コウカ”だけでも相当浮かびますよね。ではこの音そのものにどんな意味があるのかというと文字面を見ないとわかりません。口語でそれがわかるのは「コウカ歌ったよね」のようにニュアンスでわかるからですよね。

今後、シーマンみたいなゲームを作る上で、日本語処理が特殊なので、深層学習などをやっても、日本語の骨の部分を日本人が理解しないと、らしい日本語はしゃべれるようにならないんじゃないかと考えています。

日本語の向き合うためにシーマン人工知能研究所をやっています。」

バンダイナムコスタジオ 長谷 洋平さん

2009年にゲーム業界に入ったという長谷さん。長谷さんが一番最初に配属されたのは、Ace Combatというゲームでした。その中でAIを担当したのがAIに出会ったきっかけだといいます。

長谷さん「戦闘機のゲームです。空を飛ぶために3次元パス検索を実装しました。また、戦略が強いゲームなので、またリアルワールドの戦況を分析してどこが危険なのかを分析するようなAIも開発していました。」

Ace Combatの次に長谷さんが関わったのは鉄拳、そしてTIME CRISIS5の開発に携わりました。

長谷「BDIアーキテクチャという人工知能によって、哲学の理論を応用したモデルがあります。BDIアーキテクチャはコストがかかり、ゲームには向かないのですが、Behavior TreeとHTNプランニングを使用してゲーム機に実装しました。」

長谷さんは現在、開発中のゲームタイトルにてリードAIプログラマとして最新技術のリサーチから製品への応用までを担っているそうです。

長谷さん「話したいことがたくさんありますが、まだ話せないのが辛いです(笑)それに並行してゲームAIの最先端技術研究もしています。」

後半_ゲームAIのこれからの進化について

後半の最初は三宅さんからゲームAIの未来について語られました。

三宅さん「キャラクターAIなどはゲームの中のAIですが、ここ3年くらいでゲームの外のAIが脚光をあびています。テスターの代わりにAIを入れるという発想もあります。ゲームの中も外もAI技術で自動化する流れがあります。」

三宅さん「ゲームの外のAIは先行研究が少なく、やる価値があります。また、アカデミックと親和性があり、共同研究もしやすいです。品質保証のため、直接は競合しないこともポイントです。」

森川さん

森川さんは今取り組んでいる開発をもとにゲームAIのこれからを語ってくださいました。

森川「今のソーシャルゲームではキャラクターが2週間に1回など速いスピードで生まれています。むかしのキャラクターとのバランスがぶれないかチェックできないかという試みをしています。」

森川さん「キャラクターがしゃべることが多くなってきました。シナリオライターがシナリオを書くスピードが追いつかなくなってきました。汎用的な言葉しか発さないのであればつまらないので、ライフログなどを参照した会話ができないか試みています。」

森川さん「他にはメタAI、ゲーム全体を見て敵の強さなどを調節するようなAIも開発しています。」

森川さん「三宅さんの言うところの外のAIでは、デバッグやQAなどもやっています。AIに置き換えるのはなかなか難しく、これから頑張らないといけません。一社でやるよりもみんなで開発しないと間に合わないのではないかと思っています。」

森川さん「開発中のゲームはプレイログが使えないので、開発者が作ったステージデータからAIが評価できるようなAIもやっています。

難しいところは、文化が違うので、一緒に一から作っていくことが大変です。また、キャラクターに対して人間レベルの知能を求められることがあり、期待値を合わえていくのが難しいです。また『面白い』の定義もとてもむずかしいと思っています。」

森川さん「未だにゲームAIは風前の灯火だと思っています。圧倒的じゃないとなかなかなびいてもらえないですし、数値で達成度を表せるジャンルではないので、なかなか評価されにくいので、解決していきたいです。また、何よりも人材が足りません。特にプランナーが少ないと思っています。AIは工学的な技術ですが、文化系が多いプランナーが少なく、なんとかしなくては行けないなと思っています。」

長谷さん

長谷さん「ゲームAI全体の問題点としてドメイン依存性があります。似たようなことをやる場合でも、技術が異なってしまいます。機械学習だけでもさまざまなモデルがあるので、使い分けが必要になります。

また、ゲームを対象にAIを使う場合はAIが操作するものはアニメーションなどの外部システムですが、それを内包しているゲームエンジンに依存しがちです。」

以上の2点により、ゲームタイトルごとにAIが開発されることが多く、開発コストが高くなります。しかし、そもそもAIを開発できる塵埃は少なく、AIを使って開発を効率化しようとしてもAI自体の開発コストのほうが大きいという結果になりかねません。

長谷さん「今開発しているものは、一つのAIエンジンをそれぞれのゲームに適用できるようにして開発コストを下げようとしています。削減したコストを新しい技術の開発に充てて、それをAIエンジンにフィードバックするというサイクルが理想だと考えています。」

 

長谷さん「他にも効果があります。人材の有効活用や、育成の効率化、データ形式の統一化が可能になります。」

長谷さん「少し前までゲームAIはUXの最大化、面白いゲームにするためのものでした。しかしそれが変化して、ゲームクリエイターの創造性の最大化が目的になっています。」

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あとがき

人材不足、特にプランナー不足は、ゲームAIだけでなく、AI業界全体で起きていることです。工学系のAIはエンジニアの育成が進んでいますが、利活用までをカバーするプランナー、ジェネラリストの少なさが問題になっています。

これから開発環境の整備によるゲームAIの開発コストの減少による人材の効率化だけでなく、新たにプランナーとして文化系の人も積極的にゲームAIを活用していくようにしないといけませんね。

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