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2017.09.26

世界平和のために日本で汎用人工知能を実現する。『9DW』の野望。働き方まで独特です。必見。

最終更新日:

おざけんです。

汎用AI。今はまだ実現していない未来の技術です。いわばドラえもんのようにさまざまな問題に対処することができる知能です。脳科学、神経科学、認知科学などの知見を用いて脳の仕組みを模倣する研究などが盛んに行われています。

今回取材させていただいたのは赤坂にある9DWという会社。人工知能で世界を変えようと必死に取り組むAI集団です。(※修正2018/9/5)

東京ガールズコレクションに導入されたスナップのAI審査員を作ったのが9DWで、大変話題になりました。

今回は東京ガールズコレクションにとどまらず、独特な切り口で汎用AIを実現しようと活動している9DW株式会社について代表の井元さんへのインタビューを交えながらご紹介します。

ボトムアップで汎用AIを実現する。株式会社9DW

2016年に設立した株式会社9DW。代表の井元さんは、ここ数年のコンピュータの処理速度の性能向上や、それに下支えされた機械学習のアルゴリズムやニューラルネットの構築技術に目覚ましい進歩があることをきっかけに、人工知能を用いて難しいシステムの自動化などができると確信。あらゆる業界、分野で業務効率化や自動化、人の手で運営されているものの自動化の可能性が見えてきたそうです。

それらを実現することによって世界全体の解決困難な社会的問題を解決することができるという考えのもと、人工知能開発を専門とする株式会社9DWは設立されました。クライアントの手元にAIシステムが残るフルオーダーで受注。規模や業種にとらわれず、細かな要望や案件に対応できる点が強みです。

代表の井元さんにインタビューしました。

井元 剛

1979年東京生まれ。高校卒業と同時に人工知能の開発に携わりたいという思いからコンピュータ専門学校へ入学。2001年Webシステム会社に入社。以後、フリーランスとして15年以上数々のシステム開発に携わる。人工知能学会会員。法政大学、東京デザイナー学院 臨時講師。

 

 

 

おざけん

なぜ人工知能の会社を起こそうと考えたのですか?

井元さん

フリーランス時代から、海外情勢を実地で情報収集していました。2014年にGoogleのチームが機械学習の大会で優勝し続けていることがアメリカをはじめとした海外で非常に話題になりました。しかし、日本ではそれが話題にならなかった。

私はそのとき、将来的にプログラマーとして生き残っていくのはAI開発ができる人だけになるのではないかという危機感を持ちました。そこから「AI開発をする」と看板を掲げて活動し始めました。

当時は詐欺師扱いもされましたね(笑)。なぜなら著名な教授ですら「ディープラーニングでは画像認識が限界で、他のことができるはずがない」と言っていた時代ですから。しかし、9DWは「自然言語処理をディープラーニングする」と言って実際にやっていました。

アカデミアの研究者は、結果の出やすいデータセットを扱うことが多く、実際の問題解決にまるで役に立たないつまらない研究が多い印象です。それなら国際学会に出たり実地でやってみたりするほうが有用ですよね。

汎用AIで世界平和を実現する?9DWの経営理念

9DWが取り組むのは、一般的にいう特化型人工知能作り。しかし、経営理念として掲げているのはなんと世界平和だといいます。

すべての環境を平等にする事」の実現。どういうことなのか、井元さんに伺いました。

おざけん

人工知能で世界平和とは大きく出ましたね・・・

井元さん

私たちは世界平和を本気で目指しています。世界平和を実現するために、まずは日本から衣食住、医療、教育の水準を引き上げ、世界中に提供できるようになりたい。そうすれば、世界平和の「平」が実現し、人々に余裕が出ると考えます。

きっと最終的には「人それぞれの平和」ってなんだろうという議論になるんじゃないでしょうか。それこそ平和です。そのためには、衣食住・医療・教育に取り組まねばなりませんが、人間の力ではほぼ不可能。だからこそ汎用AIを作る必要があると信じています。

おざけん

汎用AIとおっしゃっていますが、ビジネスとして特化型の人工知能を作っていますよね?

たしかに、私たちはさまざまなデータを扱っていて、汎用的なものではなく各クライアントに特化したAIシステムを作っています。

なぜこれが汎用AIにつながるかというと、さまざまな特化データを集めて、機能を作っているところで「この機能とこの機能は似ているよね?」という共通項が見つかります。

たとえ見た目は似ていなくても問題解決方法が似ているものを共通して処理できるAIを地道にボトムアップに積み重ねていくことで、准汎用的な人工知能が作れると考えています。そのための戦略を今取っています。

おざけん

なぜ日本にこだわるのでしょうか?

井元さん

理由は2つあります。

1つ目は、日本が軍事産業を放棄しているからです。人工知能技術の兵器への転用がないため、人を殺すなど平和と真反対のことは起き得ません。

2つ目は、日本にあるデータの密度が世界トップだということです。日本人は細かな手書きデータまで律儀に保存しています。死蔵されているデータが非常に多い。また紙媒体でもレントゲンがビルのワンフロアを埋めていることがざらにあります。こんなことは世界ではありません。

また、日本語は処理しづらいため他国からの参入障壁があります。そのため、日本で汎用AIを実現すれば、それを世界トップ技術だとみなすことができます。

汎用AIを実現するために積み上げる特化型事例の数々

歯科技工士が15分かかる義歯デザインをわずか20秒で実現

訪問歯科医療支援を手がけるデンタルサポートは9DWと連携し義歯をデザインする歯科用CADにAIを用いたプログラムを開発。1つの歯あたり15分ほどかかることが課題となっていましたが、1万パターンの症例を学習させることで自動出力プログラムを開発。1つの歯あたり20秒と大幅な作業時間の短縮が可能になりました。

義歯

紫の部分が開発された義歯。周りの歯とバランスよく噛み合わさっているのがわかる。

公共自治体とも積極的に連携!熊本城修復プロジェクトにも参画!


崩れている石の3次元データと崩れる前の石垣の2次元データを学習することで、崩れて転がっている石が、どこにはまるのかを推測することができるシステムです。
熊本城の石垣は崩れた部分が明治時代以降に修復した部分で、江戸時代に作られた部分は崩れていません。修復する場合、崩れる前の状態に戻すのか、それとも江戸時代の状態に復元するのか、AIならどちらも選択することができます。

おざけん

たくさんの機能を実装し続けるとどんどん共通項が見つかって、新たな開発に対する開発コストが下がるということですか?

井元さん

そうです。そのため、受託案件の規模は今は小さくして、極力お受けしないようにし始めています。なぜなら、単体の案件では十分なノウハウが溜まってきたからです。

クライアントに作るAIは特化中の特化です。そのため範囲を横に広げています。たとえば、医療系の見識者と医療に特化したAIを作るジョイントベンチャーや、広くアウトバウンド事業を展開している企業と共同開発でテレアポイントやコールセンターの自動化を行うジョイントベンチャーなどを作っています。5つの大学の6つの医療系研究室とも共同研究も行なっています。

おざけん

すべての業界にジョイントベンチャーを作ろうとしているのですか?

井元さん

はい。ジョイントベンチャーをどんどん増やしていきます。医療分野だけでも、さまざまなベンチャーができると予想しています。50社〜100社くらいはいくでしょうし、将来的にはさまざまな業界にジョイントベンチャーができているでしょう。

データサイエンスとコーディングが出来てこそのAI開発者

おざけん

エンジニアは何人くらいいるんですか?

井元さん

40名ほどの会社なのですが、30名のエンジニアがいます。全員がAI開発者です。1人で多くの案件を持っていますが、似ている案件は基礎を作ったら学習期間にほかの案件を回すことができるため、複数の案件を抱えることができます

おざけん

AI開発者のレベルは?

井元さん

レベルは高いです。そもそも弊社のAI開発者の定義は大変厳しいです。データサイエンティストの技術を持ちつつ、AI開発の為のプログラミングができる人を「AI開発者」と定義しています。なのでレベルは非常に高いと言えると思います。

自分でデータをサイエンスしながら、それをコードに落とせる人しかいません。

最初の10人のAI開発者は、日本に100人に満たないと言われているAI開発者の中から引っ張ってきました。残りの20名は自分たちで育ててきました。今も人材も増やしていて、内部で教育もしています。そのため、平均年齢も非常に若いです。

おざけん

働き方について何か特別にしていることはありますか?

井元さん

9DWは場所や働くことが自由なところが最大の特長です。そのため、たとえばCTOも実家に近い京都にいて、育成は京都でも行ったりしています。

しかし、社内ツールで全員がつながっているので、そこでの交流は活発です。熊本でも育成をしていて、もしそのまま採用となれば、現地採用となる見込みです。将来的には日本中にAI開発者を抱えようとしていて、そうなると各自治体などとの共同研究も容易になります。

無理して満員電車で通勤するのは、感染症などのリスクもあり、非効率です。クリエイティブな部分に力を振り分けてほしいと思っています。

おざけん

労働時間や給料の計算がチケット制と聞きましたが、仕組みを教えてください。

井元さん

開発者はすべての作業がチケットによって定義されています。これにより、チケット単位で追うことができるので大変便利です。

「レビューしてください」や「これを実装してください」などの一連の作業がどういう風に推移してきたかをプロジェクト単位、チケット単位で細かく見ることができます。

チケットには見積もり時間がついています。例えば、2日分の見積もり時間がついているチケットを消費すれば、例えそれを1日で消費しても、2日分の給料が支払われます。

早く終わらせて余った時間をプライベートに費やすのもよいですし、他のチケットを発行してそれをこなせば、さらに給料を増やすことが出来ます。そのため、社員の給料は半分が基本給で半分はこのインセンティブ給になっています。

井元さんの考える日本のAIの課題

汎用AIを作り、平和を実現しようと取り組んでいる9DW。AIについてどんな課題を感じているのでしょうか。最後にAIについての想いを伺いました。

井元さん

課題は、求められている実地の問題がAIでまったく解決されていないことです。

たとえば、医療の分野にもいまだにAIが普及していない。周りは「やってます」と言うけど、実際に見てみると、その実地でシステムを導入しているところはありません。

それでも日々患者数は伸び、医者の数は減っています。それに危機感を感じています。だったらそれをどうにかするために実地で動いていきたいです。

チャットボットやVRに組み込むAIもいいですが、社会的な問題解決に次世代の素晴らしい技術「AI」を投下すべきだと考えています。

AIの講演会は増えましたが、本当にAIシステムがどのようなもので、ビジネスにどのように使えるのかというところを話しているものは少ないと思います。参加者に伝わっているのは「AIはすごい技術なんです」ということだけで、「AIにできることとできないこととは」という極端な議論が進んでいると思います。それが話題だけかっさらっていく。

そんなことをしていると日本が他国のAIに管理されたりするのではないか、という危機感があります。AIシステムに日本国産のものがないと、もはや他国とAI技術の競争にすらなりません。AIは自己学習をしていくため、新規参入しても二度とそれより良い人工知能を作ることはできません。

編集後記

今回の記事のポイントは

1.ボトムアップで特化AIを積み重ねていくことで汎用人工知能を作り、世界平和を実現する。
2.働く時間、場所は自由。チケットで仕事が割り振られている。働き方まで次世代。

というところです。

AIがビジネスに多数進出してきている昨今。しかし、チャットボットをはじめとするマーケティング手法などに部分的にしか導入されていません。

9DWが掲げるAIが公共自治体などで研究が進み、一般人の目に触れる機会がより増えれば、人工知能に対する世間の理解もより進みそうです。今後の9DWの発展が非常に楽しみですね。

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