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2017.12.05

ドラえもんを作る!!!!!(全脳アーキテクチャ若手の会 設立者/フェロー 大澤正彦氏)

最終更新日:

「火影を越す!!ンでもって 里の奴ら全員に俺の存在を認めさせてやるんだ!!」

「海賊王に!!!俺はなるっ!!!!」

「ドラえもんを作る!!!!!」

“未来予測”って、もはやそういうことなのかな、と私は思っています。

この記事は2017年 アドベントカレンダー企画「AIの未来予測」の記事です。寄稿してくださったのは慶應義塾大学大学院理工学研究科,全脳アーキテクチャ若手の会 設立者/フェローの大澤正彦さんです。

AIの未来予測は難しい

2015年。私が修士1年生の時に参加した人工知能学会で、印象的だったことがありました。囲碁AIと女流棋士との対局です。結果は、囲碁AIに有利なハンデマッチだったにも関わらず、女流棋士の圧勝だったと記憶しています。

「やはりあと10年くらいは、AIが囲碁で人間に勝つのは難しいだろう」

そんなことを偉い先生が言っていたのも、ぼんやりと覚えています。

(函館で行われた人工知能学会全国大会)

さて、その数ヶ月後。多くの人がよく知っているニュースが流れてきたわけです。AlphaGO と呼ばれる囲碁AIが人間の世界チャンピオンに勝利しました。

技術の進展を予測することは、専門家でもなかなか難しいものです。ましてや人のようなAIをつくる研究開発についてともなれば、自分たち自身の知性の解明と並行して取り組まれる課題である上に、人間のアイデンティティともいえる高い知性を脅かされる気さえしてしまう場合もあるため、他の技術以上にいろいろなバイアスがかかりがちです。

そこで私は思い切って、海賊王になると言うルフィーや火影になる、火影を超えると言うナルトに学び、根拠よりも自分の志を大切にして、自分の成し遂げたい未来像を”未来予測”と呼んでみようと思います。

ドラえもんを作る。

それが小学生の頃に私が持った夢です。いつどこで誰に初めて宣言したのかもわかりません。今となっては本当に宣言したのかもわかりませんが、確かに小学生のころの私は、ドラえもんを作るとういう夢に向けて歩み始めていました。そしてその思いは今まで1度も変わることはありませんでした。

今のAIとドラえもんは何が違うのか

今のAIができなくて、ドラえもんができること。それは人と関わりあうことだと思います。

AIは今、人の顔や人の言葉を認識できます。表情や声から感情推定ができる技術もあります。チャットボットは自然言語を利用していくぶんか上手に人と会話できるようになってきました。リコメンドシステムは、人の好みや欲しいものを上手に推定できるし、AIは本当に多岐にわたるシチュエーションで人をサポートできるようになりつつあります。

では何をもって今のAIが人と関わりあうことができないといえるのでしょうか。私は、”人と心を共有していないこと”に問題を感じています。

心 = 情報処理システム

心とはなにか。その唯一無二の答えを持っている人はおそらくいないと思いますが、例えば認知科学では、「心を情報処理システムと仮定する」という考え方をします。実際にドラえもんを “つくる” という観点でも、情報処理システムとして心を捉えるのは都合がいいので、今回はその定義を採用します。

人同士では、心を共有していると考えられます。人間同士であれば似た脳や体から作られる心なので、仕組みが似ているというのもありますし、私たちは当然のように自分と少なからず近しい心が他人にあることを想定します。

例えば、目の前の見知らぬ人が、別の誰かにぶたれたら、きっと怒ると思うはずです。なぜ怒るとわかるのでしょうか?きっと自分がぶたれたら怒るからです。相手の心を、自分の心を使ってシミュレーションしているとも思えます。これを私は心を共有している状態と考えています。

人工物と心を共有できるか?

心を共有していれば、”自分だったら”という視点で考えることができるので、初めて出会う相手でも、最初からある程度うまく関わりあうことができます。初めてExcelを触った時、初めて難解な機械に触れた時はそうは行きません。

人は人以外にも、人と同じような心があることを想定します。典型的な例は動物です。人間とは違った脳や体を持つ彼らは人間とは違ったかたちの心を持っているはずです。それでも私たちは彼らを「嬉しい」「悲しい」「怒っている」と、自分の心をなす因子を使って説明しようとするのです。

そして人はだれかと関わりあうときに、自分と似た心を想定するか否かによって、関わる相手の社会的価値や位置付けが大きく変わります。私はそこに、ドラえもんか否かを大きく分ける何かがあると感じています。

もし人がAIに自分と同じ心を想定するようになったら、”使うもの”ではなく”関わる相手”に、”便利なもの”から”気がきくやつ”に、”使い慣れたもの”が”古くからの友人”になるかもしれない。そしてその中で、”ロボット”だったものが”ドラえもん”になるのかもしれないと思うのです。

本当の意味で心を共有できる人工物が現れた時、今のAIに対する議論とは何かが大きく変わり始めると思いませんか?

全脳アーキテクチャは心のモデルを共有できる可能性が高い?

筆者は、全脳アーキテクチャ若手の会という団体を2014年に立ち上げました。全脳アーキテクチャは、脳全体のアーキテクチャを参考にしながら、ドラえもんのような人工知能を実現しようとするアプローチです。

人間の心の情報処理アーキテクチャは、脳と対応づけて考えられることがしばしばあります。だとすれば、全脳アーキテクチャによるアプローチで作ったAIの心の情報処理アーキテクチャは、人間のそれと似せやすい可能性が高いと思っています。

ドラえもんに向けた、今。

ドラえもんを生み出すために、今、ミニドラを作っています。

制約があるからこそ、実現できる人間と「ミニドラ」の会話をHumanAgent Interaction (HAI)から学ぶ

ミニドラは、ドラえもんに出てくるキャラクターで、言葉を話せないし、体が小さくて、取り出す道具も小さすぎて役に立たないことがしばしば。それでも人や他のロボット達と上手に関わりあえるかわいいロボットです。

1人じゃ何もできないし、ドラえもんと比べたらちっぽけなロボットかもしれません。しかし彼らが持っている心は人間やドラえもんのそれと極めて共通性が高い、人と調和するロボットとしてのエッセンスが詰まっていると思うのです。

現在、日本中のいろいろな大学や企業の方に協力していただきながら、ミニドラのようなロボットを作るプロジェクトに取り組んでいます。

(ミニドラプロジェクト問い合わせ先:minidora@ailab.ics.keio.ac.jp )

1億3000万人で作るドラえもんへ

ドラえもんを作りたいという夢を初めて持ってからおよそ15年がたちました。そこで感じたことは2つです。1つは、当たり前のことで、みんなドラえもんが大好きということ。そして、もう一つも当たり前で、自分は1人じゃ何もできないということ。

だからこそ今改めて思うのは、1人でドラえもんを作るわけではなく、みんなで、みんなが思うドラえもんを世の中に送り出していきたいということ。誰にとって他人事じゃない、自分の手でドラえもんを世の中に送り出していったと感じられるような、そんな存在にしたいのです。

ドラえもんを作るために今現在協力してもらっている仲間は本当に多種多様。コンピュータの専門家、ロボットの専門家、心理学の専門家、神経科学の専門家、デザイナー、ビジネスマン、投資家、声優、幼稚園の先生や園児たち、本当にたくさんの人の手によってドラえもんに一歩一歩向かってみんなで歩いているのです。

この仲間たちと、そしてこの先加わってくれる新たな仲間たちと一緒に、ドラえもんを世の中に送り出す。

これが私の、AIの未来予想です。

大澤正彦
web(研究室): http://www.ailab.ics.keio.ac.jp/
web(個人): https://www.masahiko-osawa.com/
Twitter: @iwawomaru

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