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2017.12.10

量子アニーリングの研究開発現場から(早稲田大学高等研究所 田中宗氏)

最終更新日:

2017年 アドベントカレンダー企画「AIの未来予測」の記事です。寄稿してくださったのは早稲田大学高等研究所の田中宗さんです。

早稲田大学高等研究所の田中宗です。最近は、量子アニーリングの研究をしています。量子アニーリングは組合せ最適化処理、すなわち「膨大な選択肢からベストな選択肢を探索すること」を高速化、高精度化すると期待されている計算技術です。いま、大学や公的な研究所、企業の垣根を超えて活発に研究されているチャレンジングな研究分野です。以前AINOWで取材をして頂いたときの記事はこちらにあります。あわせてご覧ください。

いま話題の量子アニーリングって何?量子アニーリングや周辺技術の研究開発の現状とか、今後の展開について聞いてきた! 

今回は、東北大学の大関真之先生が仕掛ける新しい挑戦について紹介します。大関先生は、統計力学と呼ばれる物理学の一分野で培われたテクニックを駆使して、量子アニーリングや機械学習の研究を進めている研究者です。『機械学習入門 ボルツマン機械学習から深層学習まで』(オーム社)、『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP)、『先生、それって「量子」の仕業ですか? 』(小学館)のどれかを目にしたことのある方もいると思います。大関先生はこれらの書籍を通じ、そして、数多くの講演を通じ、多くの人たちに興味を引きつける活動にも全力で取り組んでいます。

様々な活動であちこち飛び回っている大関先生にお願いし、取材をさせて頂きました。大関先生の仕掛けた挑戦をぜひご覧ください。

CEATEC JAPAN 2017で講演する大関真之先生(大関真之先生からご提供頂きました。)

東北大学に新しい研究センターを設立

つい最近、大関真之先生が率いる研究センターが設立されました。東北大学大学院情報科学研究科量子アニーリング研究開発センター(T-QARD)です。
日本発のアイディアではじまった量子アニーリング技術はいま、世の中で大きな注目を集めています。しかし実際、量子アニーリングを使って何かしようというとき、実際に取り組んだことのある人や、しっかりと理解をしている人は少ないのが現状です。これに歯がゆい思いを常に感じていた大関氏は、T-QARDを設立することを決意しました。

量子アニーリング技術のネイティヴを育てる

量子アニーリングに関する研究センターはこれまで日本ではありませんでした。大学は教育機関と研究機関という2つの側面を持っています。若い人の柔軟な対応力に期待し、量子アニーリング技術ネイティヴ世代を育て上げ、育った若い世代が様々な場所に移り、次々に新しい研究開発を行っていき活躍する。大関先生はそのような循環を期待して設立したと言います。世界では猛烈なスピード感を持って研究開発が進んでいる量子アニーリング技術。これに対して待ったなしの勝負を仕掛けるため、広がりを持たせることが必要です。多くの大学や企業と連携し、様々なプロジェクトを抱えている大関先生は「もう私一人では、もしくは一つの研究室では勝負を仕掛けることは難しい。広がりを持つ必要を感じていました。」と語っています。

大学の強みを活かして

T-QARDは、東北大学の多くの研究室と連携して設立しました。
東北大学にはスピントロニクスを始めとした、量子力学的現象が発現するデバイスの作製技術やハードウェア制御技術に対する世界的な研究を行っている研究室が多くあります。一方、大関先生の研究室では、量子アニーリングの理論、機械学習技術を組合せたソフトウェア開発、社会的ニーズを発掘する窓口として活発な活動を行っています。「両者が協力し合うことで、社会的ニーズと合致し、産業利用に直結した応用を持つハードウェアを意識することで、社会貢献へのロードマップを描くことが可能です」と大関先生は述べています。
また、量子アニーリング技術を新しい計算インフラとして捉える研究開発についても力を入れるとしています。これまでスーパーコンピュータによる大規模シミュレーションを活用してきた研究分野に対して、代替計算手法として量子アニーリングや関連する新しい計算技術の活用を模索するとのことです。

外部との連携、大歓迎

これまでは東北大学の活動という側面からT-QARDを紹介してきました。しかし、研究分野として広がりを持たせるためには外部との連携が大切です。「課題を持ち込めば解決方策を提案してくれるという場所」としてT-QARDを発展させていきたいとのことです。大関先生は学生と対話して気づいたことがあるそうです。学生たちの方がこの取り組みについて期待と情熱を抱いて積極的に動こうと考えているとのこと。T-QARDを設立して良かったと笑顔で述べていました。
学生の積極性について、大関先生は早い段階から実感していました。地元の高校で高校生に向けて出張授業をおこなったときや、大関先生の担当講義で量子アニーリングについての話をしたとき、学生から感じられる新しい技術に対するワクワク感を受けていたとのことです。そうしたワクワク感を聞きつけた別の大学の学生までもが訪問してくるようになったと言います。
大関先生はJST START事業「量子アニーリングで加速する最適化技術の実用化」や、共同研究を実施しているデンソーや各種企業からの支援を受け、日本全体を巻き込んだこのような活動ができるようになったと感謝しているとのことです。

「まず、やってみる人」を育てたい

大関先生の意気込みは、量子アニーリングマシンをどう使うのか、ただ考えているだけで終わらせず、実際にマシンを使うことが基本である人を育て、世の中に輩出することを目指すとのことです。量子アニーリング技術以外にも、量子コンピュータの可能性を感じ、様々な発想が実現できるのではないか、そういう期待に満ち溢れています。実際にまず、やってみる。その試行錯誤を繰り返すことで何ができるのか、実際のところをしっかり理解している人を増やすことで、最終的には社会全体のインフラとして浸透していくことを大きな目標として掲げているとのことです。そのための第一手を、ここ東北大学で開始することができたことはとても感慨深いと語ります。

CEATEC JAPAN 2017の講演でT-QARDについて紹介しています(大関真之先生からご提供頂きました。)

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