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2017.12.15

英語4技能教育を支えるAIの可能性 (デジタル・ナレッジ 岡田健志氏)

最終更新日:

みなさま、はじめまして。株式会社デジタル・ナレッジ、トレパサービス推進室長の岡田です。弊社はeラーニングの専門会社です。ミッションは「教育機関と学習者の“学びの架け橋”となる」ことです。その中で私は現在AI(やVRなど)の技術を教育に適用するための研究・開発を行っています。「技術ありき」ではなく、私たちは「教育」「研修」に関わる方々が納得できるところまで、インストラクショナルデザインも含めて提案していきます。

教育×AIを考える際の注意点

教員不在の教育はありえるのか?

今回のお題が「AIの未来予想」ということですので、技術論よりも「教育」にAIがどのように入り込んで、どのように社会変革を行うのか、ということを主眼に考えていきます。

弊社デジタル・ナレッジでは、10月25日に、『トレパ』というサービスをリリースしました。


トレパには、「先生のための「英語4技能対策授業」実現AIツール」というサブタイトルがあります。あくまでも、教育の主役は先生(教員)です。

昨今、シンギュラリティなどの言葉が躍り、AIが人間にとって代わる…という議論が何故か教育分野でもなされることがあります。私も一度ならず、現場の教員から質問されました。「AIが教師の役割を担うのでしょうか?」と。

もしかしたら、私の孫くらいの世代ではそうかもしれないな、と思いつつも、しばらくは教員の先生の役割は非常に大きいと思います。教育効果が高いであるとか、個性に合わせた教育とか、いろいろ仕組み・技術は提案されていますが、その技術を「是」とするのはまだまだ教員だと思うのです。これは科学理論の何が正しいかを緩やかに決めているのが科学者集団であるのと同様、教育的に決定するのは教育者集団であり教育に関わる方々だと思うからです。

こうした考えから、トレパを設計する際に、学習者が学習しやすいという視点はブレないつもりですが、その学習の背後で教育設計をしている現場の教員の方々が納得して使ってくれることこそが重要だと考えました。なぜなら教員は、日々生徒の顔を見て、それぞれに対応する教育プログラムやノウハウを活かそうとされているからです。教員こそが教育を推進するエンジンだと思います。

私たちのAIツールはそれ自体で完結する(つまり先生方がいじれない)ものではなく、作成・編集ができます。特殊なスキルがないとコンテンツ作成ができないのでは、AIを使ったトレーニングは広く普及はしていかないように思います。

教員が、思い立ったら、すぐコンテンツを作れる―そんな「AIを誰もが簡単に使える社会」が、デジタル・ナレッジが考える(実現したい)「AIの未来像・その1」です。今までも様々なツールが生まれるたびに教育者に求められる力も変遷してきました。AI活用力も必要になってくるでしょう。

三宅陽一郎氏の提言より

2017年11月に弊社が実施したイベント概要に三宅陽一郎氏が寄稿してくださった文章があります。少し長いですが引用します。

人工知能の最大の特徴は、人がコンピューターに寄り添うのではなく、コンピューターが人工知能を通して人に寄り添うところにあります。
これは教育においては、それぞれの人間に合った教育を、人工知能を通して実現する可能性を持つことに他なりません。しかし、人工知能が人間をきちんと理解するようになるまでには、更なる研究が必要です。また人間自身にも、人工知能とは何かを知る教育が必要です。これからお互いが歩み寄ることで、人工知能と人間が教育を変えて行く時代が、ゆっくりと、しかし確実に到来することになるでしょう。
https://www.digital-knowledge.co.jp/archives/13954/ より抜粋)

この文章は平易ながら、非常に奥深い言葉です。ここでは詳しい論点は述べませんが、2つのポイントを強調したいと思います。

1.人工知能が人間をきちんと理解する研究が必要
2.人工知能とは何かを知る教育(機会)が必要

AIを研究する中で常に登場する問いは「知性とはどういうものか」、もっと大きな表現をするならば「人間とは何か」ということでしょう。特にAIを教育に適用する場合には、人との関わりの中での役割を担う以上、性能の話だけではなく、ゲームでいう「ユーザーエクスペリエンス」ということを考えなければなりません。〈人間の〉パートナーとしてAIを考えるとき、対象となる人間について考えていくことでそれを実現していきます。

教育が一つの領域であるのは、他の学問領域とは独立のメソッドやノウハウが確立されているからこそです。私たちが教員に寄り添いサービスを作り上げる理由の一つです。

一方、まだまだ「AIとは何か」ということは一般的には知られていません。汎用AIはまだまだ難しいと言わざるを得ません。デジタル・ナレッジでも、機能特化したAIを複数組み合わせてチューニングしています。

それらの機能や役割、教育的影響を教員の方々と実践しながら研究を続けることを私たちは重視します。すでに、大阪の四天王寺中学校・高校ではトレパを使ったトライアルが進んでいます。また、私塾の秀英予備校でも活用を進めています。教育現場でAIを利用するには、インフラ準備や教員の協力が必要です。教員が柔軟に、AIを一つのツールとして使いこなすことが求められていくでしょう。

教育現場に求められている英語4技能対応の実情

ところで、英語4技能という言葉を知っていますか?

英語教育において、文部科学省が主導で「読む・聞く・話す・書く」の4つの技能をバランスよく学習させることを教育現場に提言したものです。課題になっているのは、「読む・聞く」のインプット型ではなく、「話す・書く」のアウトプット型トレーニングです。

ある英語教員にヒアリングすると、実施はかなり難しいようです。それは人員配置的な問題と時間的制約など様々な理由によるものです。

・ライティングの課題を出しても添削する余裕がない。
・スピーキングのトレーニングに個々に対応できない。

実際に、『お母さんの前で10回読んでくること』という暗唱の宿題を課したり、シャドーイング(お手本に続けて発音する)を教室で行ったりしているようですが、前者は「やったかの確認がとれない」、後者は「全員で(ドラクエの)呪文を唱えているようだ」とおっしゃっていました。

AIを英語アウトプット型トレーニングに活用する

AIはどんな役割を担うのか?

結論はズバリ!『先生の「アシスタント」、生徒にとっての「トレーニングパートナー」』でした。先生たちが本来行いたい指導を支援してくれる(トレーニング相手になってくれる、学習ログをとってくれる)、そして生徒たちにとっては気軽なトレーニングパートナーになってくれる。先生と生徒の間に仲介する存在をAIにさせてみよう、ということです。それで、トレーニングパートナーを略して「トレパ」という名称にしました。この名前にコンセプトの一端が込められています。

AIによる「指導」や「採点・評価」はセンシティブな問題だと思います。指導や試験というのは人の人生を左右するほどの影響力を持つことがあります。ここでも「ユーザーエクスペリエンス」に関連します。これがエンターテインメントであればユーザーが楽しければいいでしょう。

もちろん、学習も楽しいほうがいいですが、それだけで本当に良いのか、AIに何ができていくようになるのか、しっかりと人間側が思考停止せずに考え続けることが必要です。AIとの関わりが、学習者の人生・人格にどのように影響を与えるのか、まだはっきりしないこともあります。何事も、実行しながら考えていくことが重要だと思います。人間の歴史でも、本当に他者を理解しつくしたとは言えない状態です。

絶えず、理解をしていこうという姿勢が大切です。人間とAIなら、なおさらでしょう。まだ始まったばかりのこの関係性を、「これからもお互いに理解していこうと研究しつづけていくし姿勢を持つ」こと。デジタル・ナレッジが考える(実現したい)「AIの未来像・その2」です。

AI×教育で変わっていくもの

教員がAIというツールを使いこなす未来も必要ですが、生徒が学習時にAIを使うことで良い変革が起こっていくことも、予想ではなく「実現」したいと考えています。
AIを教育現場で利用することで、大きく変わると予想されるのは、以下の2つです。

(1) アウトプット型トレーニングの学習ログが取得できる
(2) 学習者の学習姿勢が変わる

学習ログは、従来のeラーニングでも「視聴履歴」などで取得できていました。本来、これは指導者にとって重要な資料になります。AIを使うことで、個々人のアウトプット型トレーニングの学習ログも取得することができます。AIがパートナーとして動作したことがそのまま生徒の「活動履歴」となり「努力の証」となり、教員にとっての観点別評価の助けになります。もちろん、それらを分析するにはまだ人の手が入ることになるでしょうが、エビデンスに基づいた教育設計の基礎資料となっていくでしょう。

何より重視したいのは、学習者の学習姿勢が変わることです。

私も嫌だったのですが、クラスのみんなの前で朗読などの役が回ってくることを不安がっている人もいると思います。自信をつけるためには、練習しかないけれども、対人で話す練習もつらいですよね。

そんな時、「AIトレーニングパートナー!」 一人カラオケのように恥ずかしがらずに訓練できます。トレパを開発しているときに、「受講生が3か月後に教室のヒーローになってくれたらいいね」と仲間内で話していました。これは、実は人間がパートナーだと難しいのです。

また、AIを一つの(疑似)人格として認めたならば、「トレパに理解できる内容・発音をしよう」というトレーニングのための基準が成立します。例えば、カタカナ英語発音で「マイネームイズマイク」としゃべっても、周囲の友達も教員もスルーするのでは、大暴投をしても「ボール!」と言われない投球練習と同じようにむなしいものです。投球練習のためのストライクゾーンの枠は目標として必要です。もちろん、最終的には審判(教員・試験官)の出番となるのでしょうが。

再度、デジタル・ナレッジのミッションを掲げます。「学びの架け橋」となる。私たちのAI『トレパ』がその架け橋となれるのか、皆さんの判断を仰ぎたいと思います。

■お知らせ
デジタル・ナレッジでは、教育と最新技術について定期的にセミナーを実施しています。
「デジタル・ナレッジ公式サイト」 https://www.digital-knowledge.co.jp/

「デジタル・ナレッジ セミナーサイト」 https://www.digital-knowledge.co.jp/archives/14703/

「新春セミナー」 https://www.digital-knowledge.co.jp/archives/14703/

編集後記

今回の企画のお話をいただいてから、改めて「AI×教育」ということを再考することになりました。ゲームデザイナーがユーザーエクスペリエンスを豊かにするために工夫するのと同様、教育現場では教員がそのデザインをしています。そのデザインの中の有益なツールになりえるか、まだまだ教員の皆さん、教材設計をしている皆さんとの「対話」を続けていく必要性を改めて実感しました。現在、トライアルをしていただける学校・教員のみなさまを募集しています。また、一緒に英語アウトプット型トレーニングの教材を企画・制作してくださる出版社も募集しています。お気軽にお問合せください。

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