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2018.06.06

【対談 Panasonic×DataRobot】新たな組織の必要性-大量生産で成功した企業は100%の精度を追求してしまう-

最終更新日:

おざけんです。

5月31日に行われたPanasonicとDataRobotのトークセッションのレポートをお届けします。

機械学習の自動化を目指すDataRobotは2012年に設立され、どの企業よりも早く「AIの民主化」を提唱しながら日本をはじめとしてアメリカやイギリス、インドなど世界でビジネスを展開しています。

パナソニックを知らない人はいないでしょう。1935年に松下電器の名で誕生し、テレビやオーディオ機器、パソコンからカメラまで多くの製品で日本の高度経済成長を支え、国内電機業界では日立製作所、ソニーに次いで3位を誇る企業です。

Panasonicはかつてインターネットが到来したときに(アメリカに)敗北した経験を振り返り、独自の育成や、DataRobotの導入などを通して次なる時代で再度進化を遂げようと取り組んでいます。

今回の対談は、国内でも著名なデータサイエンティストで、DataRobotのチーフデータサイエンティストを務めるシバタアキラさんと、パナソニックにて全社AI強化戦略担当を務める井上さんの2人で行われました。

井上昭彦さん(左)とシバタアキラさん(右)

シバタさん

よろしくおねがいします!井上さん、自己紹介をお願いします。

井上さん

パナソニックの井上です。九州の大学を出てパナソニックに入社しました。私はもとは半導体の専門で、半導体の設計開発をやってきました。テレビとかレコーダーに携わっていました。そのあとLUMIX(カメラ)に関わって以来、顔検出などAIに仕事の軸がずれてきて、その後全社のAi推進の担当になりました。今は戦略企画で戦略を担当しています。

AIのプロダクトを開発するところから実装するところまで経験しているんですね。

機械学習を使うところまでいったケースは少ないと思うので、パナソニックの経験からいろいろ教えていただこうと思います。

私の抱くパナソニックのイメージは、自由で新しく進んだことをやっている印象ですが、何が可能にしているのでしょうか?

Panasonicは20世紀の工業化時代にテレビやレコーダーをやってきて成功しました。完全大量生産で高品質なものを安定化して供給するにはいい組織でした、

しかし、その後インターネットが発展した時に勝てませんでした。

それは企業の形としてものづくりに最適化されていて、そこから脱却できなかったからだと思います。

次のIoTの時代にはリベンジしていきたいというイメージもあり、そのタイミングでAIのブームが来たので、それに合わせて自由な風土も広がっていきました。

DataRobotはAIの民主化を進めています。そのためにはAIの普及を進めていかなければいけませんが、AIに対する戦略をどこかのタイミングで決めたりしたんですか?

2015年にパナソニックは「技術10年ビジョン」を策定しました。「AI」「 IoT」「 ロボティクス」と「エネルギー領域」に注力していくと決めました。

実は、最初はデータもなくて、まずはデータがたくさん集まることに備えて育成に取り組みました。過去にデジタル化の波がきたときには外から人材を入れて功を奏したので、まずは人材から始めました。今は育成が一巡して、データがたまりはじめたので、これからビジネスに応用していきます。また洗練したツールも入れていっています。

パナソニックの「技術10年ビジョン」サイト。https://www.panasonic.com/jp/corporate/technology-design/10years-vision.html

過去の新しい技術がでたときに経験したことを改善して、人材やツールで導入しているんですね。パナソニックではAIのどんな活用法がありますか?

1つ目は従来の大量生産の形態を変えるためにイノベーションを起こすために活用しています。新しい事業をやってそこにAIを活用するということです。

2つ目は業務プロセスがアナログなところで効率的に運用していく、この2つの考え方ですね。

新しい部分は研究開発的な要素もありますよね。パナソニックではAIを推進する体制はどうなっているんですか?

2015年に技術10年ビジョンとともにAI強化推進室を2〜3名で立ち上げて、育成を1年半くらいやりました。そのあと各事業でデータがたまってきたので、いよいよソリューションに活用していこうと、「AIソリューションセンター」を100人くらいの規模で立ち上げました。人材育成と並行してAIに取り組んでいます。

2017年度では300人くらいの育成が終わりました。毎年100〜200の受講者でやっています。育成が終わった人材は各職場に帰るとその人が周りに伝えることもあるので、含めて1000人くらいの人材が揃えばいいかなと思っています。

育成と同時にシリコンバレーのスタートアップを買収しましたよね?これは大きな動きだったと思うのですが、どんな取り組みなのでしょうか?

2017年10月にパナソニックは、米国のデータ解析会社である「ARIMO」を資産買収することを発表しました。ARIMOはIoT分野における時系列データを中心とした分析ソリューションを展開しており、この買収を機にARIMOの人的リソースやノウハウを最大限に活用し、工場、B2B、住空間領域におけるIoTデータ活用の事業化加速を目指すとしています。

2017年にシリコンバレーのARIMOを買収した話ですね。

PanasonicはAI(ディープラーニング)進めていくにあたって前から画像の機械学習はしていました、オーディオビジュアル機器(以下AV)ではすんなりディープラーニングの導入は進みました。

今育成しているAI人材の半分はAV系です。

しかし、センサーデータや時系列のデータを扱っている部署が残りの半数くらいあったので、そこの機能を強化しないといけないと思いました。この分野のプロフェッショナル人材が社内にいなかったので、短期間でデータアナリティクスのプロフェッショナル集団を招き入れて事業を加速させています。


いくらくらい積んだんですか?笑

それはなかなか言えないですが….数十人で◯◯億円です。

買収してから半年近く経ちましたが、その後は順調ですか?

ようやく成果が見えてきました。BtoB機器でAIを使った省エネは実用の目処が出てきています。

新しい人材も計画通り進んでるんですね。 DataRobotのような機械学習の自動化ツールと育成しているAI人材はどのような関係性なのでしょうか?

ARIMOはプロフェッショナル集団なので、クライアントの問題を一緒に解いていきます。DataRobotはツールです。

データ分析とか機械学習とかもプロフェッショナルに頼ったサービスですが、いつまでも続かないはずだと考えています。経済原理からいうと一気にAIを広めるためには自動化のフェーズが起きると思います。そのため、世界を席巻するツールになるだろうと思ってDataRobotにお声掛けしました。ツールにこだわって考えています。プロフェッショナルと自動化ツールのバランスは将来どうなるかわからないので、どっちにも取り組んでいる感じですね。

DataRobotはどれくらいの人が活用しているんですか?

最初はデータロボットをいれて100人以上が使い始めました。100人はデータでやりたいことがぼんやり頭の中にあってDataRobotを使っていたのですが、使うにつれて、どう使っていいかわからなくなっちゃうんですよね。

今は使いこなせるコアユーザが増えてきましたが、どんな風にツールを使っていいかわかっている人じゃないと使えないんですよね。現場の業務内容を熟知した人じゃないと適用の場所はわかりません。現場の知識と機械学習スキルを掛け算で持ち合わせた人でないとダメだと思っています。

育成をしてツールをつかって掛け算になってきた感じがしますね。

DataRobotの新しいユーザが増えるためになにかしていますか?

育成ですね。現場の方が自力でAI回さないといけないと思っているからです。そのためのツールだと思っています。現場の方が使えるように育成して現場で回すことが大切です。

うまくいっているDataRobotの使い方はありますか?

工場の故障予測ですね。あとは店舗の需要予測や店舗の行動分析です。

ちょっと変わり種だとマテリアルズインフォマティクスもやっています。新しい材料をAIの力を使って生み出しています。まだR&Dレベルですが。

材料の分野ではAIの地位が低いんですよね。しかし、AIを使わないといつまでたっても属人的になるので、AIの身分を上げていきたいと思います。

DataRobotの特徴は年に4回くらいアップデートしたりしているのですが、プロダクトとしてどのようになっていくべきだとおもいますか?

別の会社のツールは製造系に特化したツールを販売している会社が多いのですが、製造系での課題にフォーカスしていることが特徴です。

DataRobotは汎用的に機能があるので、何にフォーカスしたらいいのかはわからないので、サービスの提供者とユーザ側のギャップが多いのかなと思っています。自分で考えて使い方を考えていかなければいけないので、分野へのフォーカスなどがあればいいかなと思います。


DataRobotに関しては製造業のユーザが半分くらいですが、井上さんはどのようなお客さんにお勧めしますか?

パナソニックでもまだ商用化まで持っていけていませんが、やっぱり日本の製造業全体で元気を出していきたいので、ものづくりのメーカーが使っていただいて業務プロセスや新規事業にいかしていけることを期待しています。

まだ商用化に至っていないということでしたが、ボトルネックは何なのでしょうか?

いざ商品になった時のコストの問題があります。

ROIとしてコストがバランス取れるところを見つけられていないんです。バランスが合わないケースが多いです。

また、品質です。パナソニックは、かつて大量に不特定多数の人に供給していたので100%にこだわる文化があります。

ーー会場の方からの質問

参加者

育成プログラムの期間とレベル感を教えてください。

半年間で、全10回行います。1回あたり3時間のうち半分が座学でもう半分が演習の時間です。コンテストも行っていて、他にも論文の執筆や査読まで行っています。


おざけん

パナソニックのようなトラディショナルな会社は、大量生産で高度経済成長期に日本を支えた経験から、安定した精度を求める傾向があることがわかった取材でした。

 

機械学習はデータに基づく統計的な手法を用いているため、100%の精度はほぼありません。しかし、そんな体系を継続した結果、インターネットが普及する際に国際的において置かれてしまった。その経験を活かして、次なるIoTやAIの時代の会社の発展を見据えて、あらたな体系づくりに取り組んでいることは、これからのパナソニックの進化が楽しみです。

 

また育成は長期的な計画ですが、M&Aによる人材の調達もキーワードでした。アメリカのGoogleやAppkeなどの企業はAI技術を有するスタートアップの買収を増やしています。国内でもスタートアップの買収の動きが進んでいくのか注目していきたいと思います。

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