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本稿は、サンフランシスコ・東京を拠点のAIスタートアップ特化型シードファンド、Hike Venturesが9/18に配信したメールレターのバックナンバーです。Hike Venturesはアメリカ・カナダを中心に投資をしています。「人とアルゴリズムの協業によって豊かさを生み出すエコシステムpの創出」をモットーにアメリカ、カナダ、日本のシード段階のスタートアップの支援を行っています。バックナンバーはこちら。メール配信を希望の方は、Hike Venturesウェブサイト内フォームより登録お願いします。
これまで、数千のAIスタートアップを見てきたZetta Venture PartnersのIvy Nguyen氏が、イギリスの有名な童話「3びきのくま」の教訓を使い、AIスタートアップがある問題を解決する上で、必要な原則について、TechCrunchに投稿していましたので、エッセンスをご紹介します。
「3びきのくま」のお話:ゴルディロックスという小さな女の子が森でクマの家を見つける。誰もいないので入ってみると、テーブルの上にお粥が置いてあった。1つ目のお粥は「熱すぎる」。2つ目のは「冷たすぎる」。3つ目のは「ちょうどいい」ので、全部飲んでしまう。(ウィキペデイァ引用)その後も、大きすぎる、もっと大きすぎる、ちょうどいい椅子や、固すぎる、柔らかすぎる、ちょうどいいベッドが出てきて、女の子はいつもちょうどいい物を選ぶ、という感じの物語。
この物語で言うところの「ちょうどいい」をAIスタートアップは、いくつかの軸で当てはめることができます:
- ?ちょうどいい時間軸
スタートアップは、顧客に対して自社のアルゴリズムの価値をできるだけ早く証明する必要があります。そのため、予測の期間が長く(ある人が10年後にがんにかかる確率等)、複雑なアルゴリズムから始めるのではなく、インプットが少なく、小さくて、シンプルな予測を短い時間軸で出せるようなアルゴリズムを開発すべき。それにより、アルゴリズムの正しさを検証するサイクルを頻繁に回すことができ、結果的により正確なアルゴリズムを構築することができます。また、過去の膨大なデータを利用する場合は、過去と現在の環境の変化について考慮するようにとも注意を促しています。 - ?ちょうどいい結果⇒行動サイクル
AIスタートアップのユーザは、アルゴリズムが出した結果に基づいて行動を起こします。現在では、コンピュータの処理速度の向上により、結果が出る前に前提となる環境が大きく変わることは減ってきていますが、それでも人が結果を理解し、行動を起こすためのワークフローがきちんと作られている必要があります。また、ユーザにとって、ちょうど良い結果→行動のサイクルを作る上で、ある程度の行動の自動化も行い、ユーザの負荷を軽減するのも1つのアイデアです。 - ?ちょうどいい精度
ソフトウェアスタートアップでは、仮説の検証に必要な最小限の機能を備えたプロダクトを MVP (Minimum Viable Product)と呼びます。それと同じ考え方のAI版が、MAP (Minimum Algorithmic Performance:最小アルゴリズム性能)です 。アルゴリズムの精度が、100%でなくても顧客への価値を提供し始めることができる場合は、ちょうど良い精度になった段階で、プロダクトをリリースし、ユーザからの実社会のデータをできるだけ多く収集してアルゴリズムの精度を上げていくべきです。一方で、アルゴリズムの精度が最初から高くないと使い物にならないような場合は、プロダクトをリリースする前に、より多くの時間とお金をかけて高いMAPを構築する必要があります。
実際の記事には、例なども取り上げられていますので、興味のある方は是非原文をお読みください。
目次
【トピックス】
カメラファースト
- 新しいiPhoneで広がるARの世界
9月12日Appleが発表した3つの新しいiPhoneに搭載されたAIチップ(A12)関連で注目すべきニュースが2つありました:- チップ内のニューラルエンジン(AIモデルを実行する環境)の処理速度が従来の10倍向上
- ディベロッパーもCore MLを介してニューラルエンジンを利用可能に
発表では、新しいiPhoneを事前にテストすることができたNex TeamのバスケットボールアプリHomeCourtの事例が紹介されました。一世代前のiPhone Xでは、ユーザのシュートの解析に数秒かかっていたところ、新しいiPhoneではリアルタイムでできるようになったということです。これは、ユーザの体験としてはすごい進歩です。
今後、Core MLを活用した面白いARアプリが出てくることが期待できます!!
業界ニュース
- UberがトロントのAI開発拠点への投資を拡大
同社は、2017年5月にToronto Advance Technologies Group Officeを開設していますが、今回は今後5年間で自動運転を含む研究に$150Mを投資し、トロントの従業員を200名から500名へ拡大することを発表しました。 - Graphcoreが機械学習をグラフで表現するAIを開発
同社は、様々な機械学習システムの中でどのような処理が行われているか、データの流れやシナプス間の接続をビジュアル化するGraphcore-AIを開発。Alexnet, Microsoft ResearchNet, TensorFlowの画像認識に対応。アルゴリズムの見える化や説明可能なAIの研究は注目していきます。
- HarvardとGoogleが余震を予測するアルゴリズムを開発中
両社は、世界中のこれまでの余震データを使って、余震の発生を予測するアルゴリズムを開発。異なる断層タイプでの予測を目指す。Harvardでは、地震が発生した場合のマグニチュードの予測を行うアルゴリズムの研究も行なっている。 - Googleがデータの検索に特化したサービス Dataset Searchをリリース
同サービスは科学者やジャーナリストが必要なデータを探しやすくする検索エンジン。現在、データプロバイダーに対してSchemaの定義したメタデータ使用し、Googleがデータをインデックスしやすいように呼びかけている。 - FacebookがAIを使ったコードのデバッグやテストを行うツールをリリース
Facebookが社内で使っていたデバッグツールを外部のディベロッパーにも後悔。自動でプログラムソースコードのバグを発見し、改善方法を提案してくれる。開発スピードが上がりそうです。
【調達ニュース】
ヘルスケア×AI
- Notable Health (San Mateo, CA) Series A $13.5M
お医者さんと患者の診療中の会話から電子カルテを自動生成する。
F-Prime Capital Partners, Oak HC/FT, Greylock, Maverick Venturesから調達。 - Clarify Health (San Francisco, CA) Series B $57M
患者全体の健康状態の管理(ポピュレーションヘルス)、個別の患者の健康状態の予測に基づいた治療ガイダンス、お医者さんごとのパフォーマンスの改善など、患者と病院のマネージメントプラットホームを提供。
KKRから調達。 - Scipher Medicine (Waltham, MA) Series A $10M
薬の効能は平均的に作用するように作られているが、個別の患者に対して必ずしも期待する効果があるとは限らない。同社では、血液と細胞のテストを行い、特定の薬に対する患者の反応を予測し、患者にとって最も効果がある薬を特定する。
Khosla Venturesから調達。 - Genomics (Oxford, UK) Series B $32.5M
遺伝子型と表現型(genotype-phenotype)に関する膨大なデータから相互の関係性を分析し、創薬に役立てる。
Vertex Pharmaceuticals, IP Group, Invesco Perpetual, Woodford Investment Managementから調達。 - Saykara (Seattle, WA) Series A $5M
患者とお医者さんの会話から自動的に電子カルテを入力してくれる。SpringRock Ventures, Madrona Venture Group, Elevate Innovation Partners, New York Presbyterian Hospitalから調達。
フィンテック×AI
- RapidRatings (New York, NY) PE Round $30M
公開企業と非公開企業の財務状態をモニタリング。取引先(サプライヤー、顧客等)の今後の財務状況を予想してくれる。
FTV Capitalから調達。
メデイア×AI
- Hoodline (San Francisco, CA) Series A $10M
ネット上のデータからシグナルを検知し、マシン+人でローカルニュースの自動生成を行う。現在22の都市をカバー。都市内のエリアといった、超ローカルなニュースも配信が可能。
Neoteny, Dentsu Ventures, Sound Ventures, Innovation Endeavorsから調達。
農業×AI
- Bear Flag Robotics (Sunnyvale, CA) Seed $3.5M
農作業用トラクターの自動作業技術を開発。一人のスーパーバイザーが複数台のトラクターの管理が可能。稼働を最適化するために、無駄の排除も行うことができる。
Y Combinator, True Venturesから調達。
サプライチェーン×AI
- GreyOrange (Singapore) Series C $140M
倉庫、フルフィルメントセンター、ディストリビューションセンターを自動化する運搬ロボットや仕分けシステムを開発。世界中で60箇所で稼働している。
Mithril Capital Management, Blume Ventures, Flipkartから調達。
モビリティ×AI
- Applied Intuition (Sunnyvale, CA)
自動運転技術を開発するためのシュミレーションシステムを開発。先行しているWaymoは、自社でシュミレーションシステムを構築し、50億マイルの試験をバーチャルに行なっている。Applied Intuitionは、同等のシュミレーション環境を他の企業にも提供する。
Andreessen Horowitz, LUX Capital, Floodgateから調達。
エンタープライズ×AI
- Inbenta (Foster City, CA) Series B $6.5M
独自の自然言語処理技術でユーザの意図を正確に理解するチャットボットを提供。30以上の言語に対応し、グローバルで250以上の企業に導入されている。
NTT DoCoMoから調達。 - Integrate.ai (Toronto, Canada) Series A $30M
企業間で匿名化したユーザを共有するTrusted Signals Exchangeと、個別の企業が集客やコンバージョンを向上させるために利用するプロダクトを提供。
Portag3 Ventures, Georgian Partners, Real Venturesから調達。
リーガルテック
- Kira Systems (Toronto, Canada) Series A $50M
契約書のレビューの自動化。重要な項目やリスクのある部分の指摘や、サマリーを自動生成してくれる。
Insight Venture Partnersから調達。 - Atrium (San Francisco, CA) Series B $65M
スタートアップ向けのテクノロジーを駆使した法律事務所。契約書の内容を理解するコアテクノロジーの上に個別のサービスを追加していく。現在は、資金調達や企業間契約などを提供。テクノロジーにより透明性、スピード、固定料金といったこれまでの法律事務所では実現が難しかったサービスを提供。
Andreessen Horowitz, General Catalyst, YC’s Continuity Fund, Sound Venturesから調達。
コアAI
- ThinCI (El Dorado Hills, CA) Series C $65M
低消費電力、ハイパフォーマンスのAIコンピューティングプラットホームを提供。
Temasek, Denso, GGV Capital, Wavemaker Partners, SG Innovate, Mirai Creation Fund, Daimlerから調達。 - Groq (Palo Alto, CA) Venture Round $52.3
ステルスモードスタートアップ。元GoogleでTPUを開発していたメンバー中心。AIチップを開発。
Social Capital等から調達。
セキュリティ×AI
- Lacework (Mountain View, CA) Series B $24M
インスタンスの設定や新規導入が多発するAWS環境のセキュリティ監査、設定の自動チェックを行う。
Sutter Hill Ventures, Spike Ventures, AME Cloud Ventures, Liberty Global Venturesから調達。 - Ravelin (London, UK) Series B £8M
Eコマースサイトをカードの不正利用、アカウントの乗っ取り、プロモの乱用から守るソリューションを提供。
BlackFin Capital Partners, Amadeus Capital Partners, Passion Capital, Playfair Capitalから調達。