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AI(人工知能)の進歩によって、医療が進化しています。ディープラーニングの発展により、画像認識や音声認識の精度が向上し、医療へAIを活用しようとする取り組みが活発になっています。国内では2018年にメディカルAI学会が発足。日本独自の優位性を活かしたメディカルAIの研究開発が盛んになってきました。
日本の医療現場で抱える課題は根深く、莫大な社会保障費は大きな社会問題となっています。医療へのAI活用は政府の戦略の大きな柱となっており、医療の課題がAIによって解決されるか注目です。
この記事では、日本の医療が抱える課題や医療AIに取り組むスタートアップをご紹介します。
目次
医療AIとは
医療AIとは、その名の通り医療分野に活用されたAIのことです。一口に医療AIと言っても、AIという言葉自体が多様な使われ方をすることもあり、その内実はさまざまです。
例えば、画像認識を医療の現場に活用するものから、事務作業をAIで効率化するものまであります。
医療分野における主なAIの用途は以下のようなものがあります。

この中でも特に画像認識技術の活用は医療において大きな成果をあげています。
例えば、理科学研究所国立 国立がんセンターは、画像認識を早期胃がんの検出に活用しています。早期胃がんは形状が多様であり、専門家でも認識が難しい現状がありました。そこで、ディープラーニングを活用した画像認識技術を用いて、陽性的中率93.4%、陰性的中率83.6%の高精度の掲出法を確立しました。
参照:https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/0721/index.html
その他の分野においても、さらなるAIの活用の可能性を秘めています。
AIに可能性!? 医療現場が抱える課題
なぜ医療の現場においてAIの活用が注目されているのでしょうか?まずは、医療の分野でAIが注目されている理由を考察してみましょう。今回は3つの観点から考察してみます。
少子高齢化に伴う医療費の増大
日本は、非常にハイペースに少子高齢化が進行しています。
2019年8月現在、4人に1人が65歳以上の高齢者という現状で、今後も恐ろしいペースで高齢化が進行していくと予想されています。

内閣府:高齢化の現状
内閣府の調査によると2040年には日本国民の3人に1人が高齢者になると予想されており、AIによる病気の予測など、予防治療を強化していくことが大切です。
また、高齢者が増えると同時に、医療現場の負担も増加します。そのなかで、効率化した医療をいかに実現させるかも問題で、まさにAIの活用が急務といえます。
アナログデータが多く共有が困難
国内では医療データの共有基盤の整備が進んでいません。
医療分野においては問診票や薬の処方箋、診察での画像データなど、さまざまなデータが蓄積されています。ディープラーニングなどのAI技術で、これらのビッグデータを用いることによって、画像診断や業務効率化など、活用の範囲が広がっていくと期待されます。
しかし、この分野において現在の日本で課題となっているのは、各医療機関が保有しているデータの標準化が遅れていることです。電子カルテなどの普及によって以前よりも効率的にデータを集められるようになったのにも関わらず、そのデータの標準規格が無く、限定的にしか使えないという状況が続いていました。
データの標準化や共有基盤の整備が進めば、問診表や薬の処方箋、診察での画像データなど、さまざまなデータは蓄積され、全国の医療機関で過去の診断履歴をもとに効率的な診察をしたり、緊急搬送時に急患の基礎データを確認できるなどさまざまなメリットが生まれます。
医療における労働問題
日本では、医療現場での労働環境が長年問題とされてきました。
1週間の労働時間の分布を見ると、合計の勤務時間が65~74時間以上の医師の人数構成比が全職業総数に比べてかなり多いことが分かります。75時間以上の勤務を行っている割合では全職業総数が約3%なのに対し、医師が約17%とかなり大きい数値になっています。
医療分野における労働をいかに効率化できるかが求められています。その点において、AI技術を活用していくことが重要です。
AI医療のメリット
医療現場でのAIを活用には以下のようなメリットがあります。
診断精度の向上
AIを医療に導入することで、人の目では認識がしづらい部分に対して反応できるようになり、診断精度が向上します。病状の特定という点では、人よりもAIの技術に分があるため、今後の医療においてAIが重要になってくるとが予想できます。
冒頭でも述べた通り、実際に画像認識技術の導入によって胃がんの診断的中率は陽性が93.4%、陰性も83.6%とかなり高い数値を出しています。
AIによって診断の精度が上昇するのは確かですが、医師とのダブルチェックを行うなどして行かなければならないでしょう。AIだけに診断を任せきりにしないことが重要です。
医療従事者の負担軽減
膨大なデータの管理をAIに担わせることが可能になれば、その分人間が行う作業の負担は軽減していきます。人を治療するという仕事の特性上、全ての作業をAIに任せるのは不可能ですが、少しでも医者の作業を減らしたり意思決定の手間が省けたりするのは、人とAIが仕事を分担するうえで大きなメリットとなります。
データ管理や患者の診断といった業務をAIにも任せることで、医療従事者が今まで感じていた負担を軽減することが出来ます。
先に述べた電子カルテの普及による情報記載の手間の省略、自動翻訳ツールによる外国人スタッフの更なる戦力化なども医療従事者の負担軽減の一部としてあげられます。
コロナ禍と呼ばれる現在の状況においても、院内清掃を自動で行うAIロボットや、オール非接触で結果のプリントアウトまで行える検温システムなどの導入により、医療従事者の負担を軽減する策が取られています。
患者の負担軽減
医療従事者だけでなく、患者にとってもAIが与える恩恵は小さくありません。
スマホやPC一台で行えるAI診療や画像診断システムの導入が進んでいることで、患者が今まで背負っていた負担を軽減することが出来ます。
AIが医療に関わることで、診療を行う際に患者にのしかかる金銭的負担、医療機関まで赴くための身体的、時間的負担といったさまざまな面で今までよりも良い医療のかたちを患者に提供できることになります。
AI医療のデメリット
一方で、AIを活用するうえで注意するべきこともあります。
データ管理の危険性
まず、膨大なデータの取り扱いです。医療データを活用するうえで、その流出などには最大限の注意を払う必要があります。
医療分野において、患者個人から得られた情報に関しては、治療・診療目的以外の利用では患者個人からの事前の同意が必要となっていました(これをオプト・インと呼びます)。
しかしAIを活用したデータ収集においてはオプト・インは効率の悪い方式とされ、今後は治療・診療目的以外での情報利用を拒否したい人のみが意思表示をする方式を適用することが認められています(これをオプト・アウトと呼びます)。
オプト・アウトに関しては医療機関からの丁寧な説明があることが前提とされていますが、今までの方式から変わりつつあるため、個人情報の保護という観点から注視する必要があります。
診断の思考プロセスが分からない
他の分野でのAI活用にも言えるデメリットですが、AIという技術の特性上「AI内部でどのような思考があってその結果にたどり着いたのか」が分かりません。「ブラックボックス問題」と銘打たれています。
AIが診療で結論を出した際の道筋を人間が分析して次の問題に活かすという活用法が出来ないため、人間による医療の発展を期待することはできません。
前例が少ない病状への対応
今まで蓄積されてきたデータの中から病状の特徴を見分けることで高精度の診断を行う治療ですが、症例が少ないデータの場合は、AIが学習不十分となり、十分な精度を出せません。
そのデータが無ければ安定した結果を出すことは困難です。
AI医療に対しての抵抗感
命を扱う医療分野において、AIを導入した治療にはまだある抵抗の抵抗感を持った人が一定数存在します。
アメリカの医療従事者に向けたアンケートの結果では、医療へのAIの導入の重要性を理解している割合が65%であるのに対し、導入に順応している割合はかなり低いものとなっています。
これはAIを活用した技術の責任の所在が不明なことに起因しています。「万が一」診断ミスなど、AIの過失があったとき、その責任を取るのが誰なのか、という疑問が抵抗感に変わっていると言えます。
現在AIの責任の所在は法律で定められていないため、自動運転などでも議論の争点になっています。
6つの事例から捉える医療AIのトレンド
患者の診断をサポートするAI活用
【14種のがんを早期発見するシステム】
日本人の死因の一位となっているがん。国民病といって差し支えないこの病に対抗するシステムを、Preffered NetworksとPFDeNAが共同開発しています。
AIを活用したこのシステムでは少量の血液からがんの特定か可能になりました。2021年の事業化を目標としています。
【病気の予測、患者と医師を自動で繋ぐアイメッド】
アイメッドは「ドクターをもっと身近に」をコンセプトに作られたサービスです。全国約16万件の医療機関を掲載しています。
その中でも特徴的な機能が、AIによる病気の予測。当てはまる病状にチェックをつけると、AIが予測される結果を診断し、結果によって最適な医療機関をリストアップします。
【AI先進国・中国のワンミニッツ・クリニック】
中国の大手保険会社「平安保険」が提供しているのが、無人での診療を行う「一分鐘診所」。ブース内に入り手順の通りに質問をクリアしていくと、自動で現在の病状の予測などが行えます。
診断が終了した後は併設されている処方薬の自動販売機で薬を購入する事も可能です。医師を介さず、診断から処方までを全て無人で行うサービスとなっています。
医療従事者の業務を支えるAI活用
【医療システムを変えていくデータシステム】
医療AIスタートアップのTXP Medical株式会社が開発した「Next Stage ER」は、緊急診療外来に特化したデータ管理システムです。
今までは、医師ひとりひとりのカルテの記載方式の違いなどから上手くデータ収集できませんでしたが、Next Stage ERによって医師が日常的に行うカルテの記載、そして今後の医療に役立てるためのデータの収集・管理をAIによって同時に行う事が出来ます。
これにより、医師の負担軽減や、患者に対して確実なデータで治療を行うことが期待されます。
【医療のための自動翻訳】
医療業界の課題のひとつである人材不足をカバーしてくれるのが外国人労働者の存在ですが、次に壁となるのが言語です。特に専門的な用語も多いこの業界では、意思疎通に関して敏感にならざるをえません。
そこで医療系スタートアップのMETRICAが開発したのが、医療系の外国人労働者に特化した自動翻訳を備えた電子介護記録です。データの蓄積によって翻訳の内容を自動的に学習・最適化していくことで、よりクオリティの高いコンテンツを提供できるようになります。
AIが関わる医療の今後とは?
現在の課題の克服
先に挙げたように、まだAI医療には以下のような多くの課題が残されています。
- データ管理の危険性
- ブラックボックス問題
- 前例の少ない病状への対応
- AI治療の責任問題
厚生労働省は2018年7月23日の会議を初回として「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」を開催しており、今後のAI医療の方向性や、今回述べたような課題にどのように向き合っていくかに関して議論を重ねています。
AIと医師の共存
AIが医療に進出してくる中で、人間側の仕事にも大きく影響が生まれます。患者に対しての治療行動の最終決定はAIには任せられませんし、身体でなく精神的な問題に関して患者に寄り添えるのは人間である医療従事者でしょう。
また、今まで人間が担ってきた仕事をAIに分担する分、AIが介入できないような分野に関しても治療のクオリティアップが期待できます。
まとめ
医療の分野においてもAIの活用が進んできました。特に、画像認識や事務的な記録などはAIとの相性が良さそうです。
一方で、抽象的な患者の主張を読み取ることや、患者の意思決定に寄り添う医師の社会的役割は、引き続き残ってくでしょう。
※野村総合研究所の発表では、人工知能やロボット等による代替可能性が低い職業として「医療ソーシャルワーカー」「小児科医」「精神科医」「理学療法士」が挙げられている。(引用:野村総研)
人とAIがお互いの強みを生かしながら助け合うモデルとしても医療AIには期待大です。

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