松尾研発「NABLAS」人材教育と事業を一体化するAI総合研究所の戦略

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おざけんです。

2018年10月、東京大学松尾研究室発のベンチャー企業であり、AI人材育成を行うアイレクト株式会社がNABLAS株式会社に社名変更をしたことで話題になりました。

名前の変更とともに、今まで行っていたディープラーニングを中心とした教育事業だけでなく、コンサルティングや研究開発など、ディープラーニングの活用を視野に入れて「総合研究所」として事業の幅を拡大しています。

今回は、そんなNABLASに注目し、代表取締役の中山浩太郎さんにインタビューを行いました。

iLect事業とはなんなのか、総合研究所としてNABLASが目指す姿、国内のAI関連の人材教育について詳しくお話を伺いました。

中山浩太郎「研究者として新たな技術を社会に出していきたい」

ーーよろしくお願いします。NABLASは松尾研究室発ということですが、中山さんも松尾研究室所属なのでしょうか?中山さんの自己紹介をお願いします。

中山さん:よろしくお願いします。

私の所属は2つあります。その1つがNABLAS株式会社の代表取締役、もう1つが松尾研究室のリサーチディレクターです。

私は、元々はずっと研究職を務めてきました。しかし、自分のことをあまりピュアな研究者だと思ったことは実は1回もありません。なぜアカデミアのポジションにずっと身を置いているかというと、社会に最新の技術をどんどん出していくことに魅力を感じているからです。だからこそ、アカデミアにポジションを置きつつ、さまざまな新しい技術を社会に出すという活動をやってきました。

社会に技術を広げていくために研究者を続けているという中山さんは「手を動かすことが好き」という好奇心が原動力になっているといいます。

ーー今まではどんな研究を行っていたのですか?

中山さん:私は、大阪大学で博士号を取得したのですが、その時はWebマイニングの手法を主に研究していました。例えば、Wikipedia上の大規模データを解析して、そこから言葉と言葉の関係を取り出し、Webサービスで提供したりしていました。アイデアソンをネット上で行う支援をするAPISNOTEというツールも作ったりしていましたね。

他には、「MIGSOM」というアルゴリズムを作りました。私は、人間の脳や知能に興味があるので、人間がどうやって知的な活動をしているかにかなり興味があり、その脳の構造からヒントを得たんです。

新たに始動したNABLAS ー松尾研流人材育成を広げる「iLect」とはー

東京大学松尾研究室では、人工知能やWeb、ビジネスモデルなどを中心として産学連携や社会実装まで一貫的に活動を行っています。そんな松尾研究室では、人材育成も大きなミッションです。

NABLASはAI人材育成のiLect事業、AIコンサルティング・研究開発事業の2つの事業を手がけています。

まずはNABLASの前身となるアイレクト株式会社時代から手がけているiLect事業について伺いました。

iLectでは、松尾研究室が開発したAI教育コンテンツを東京大学から正式にライセンスを受けて提供しています。

ーーiLect事業がスタートしたきっかけを教えてください。

中山さん:松尾研究室において、私が主体となってAI人材の育成活動をやってきました。

このAI人材育成を社会に大きく広げていこうと始めたのがこのiLectです。

東京大学の講義には、東大生や東京に住んでいる人は参加できますが、多くの人にプログラムを提供することできませんし、遠方に住んでいる人に教育を提供することが難しく、課題だと感じていました。

そこで、iLectを、アイレクト株式会社という形で法人化することで、遠方の方や法人の方々にもAIに関連する人材育成プログラムを提供する基盤ができましたし、大学の枠組みを超えて、日本中に展開していくことができるようになりました

大学としての枠を超えてAIに関連する教育を提供しているiLect事業。すでに大規模な法人向けの研修や研究の現場で利用されているといいます。

具体的な教育コンテンツは以下です。

講義名 受講に必要な前提知識 受講者像 修了時の目標
プログラミング 数学
Deep Learning 基礎講座 ☆☆☆ ☆☆☆☆ 工学系大学レベルの線形代数・微積分・確率・統計に関する知識を有し、Pythonでの数値解析の経験を有する者。 理論的な構造を理解し、利用するだけでなく、新しいモデルを作ることができる。Deep Learning系の論文を元に自分でモデルを構築・開発することができる。
Deep Learning 応用講座 ☆☆  ☆☆☆☆ Pythonでのプログラミング経験および線形代数・微積分・確率・統計の知識を有する者。Deep Learning基礎講座修了か同等以上の知識を持つ者。 生成モデル、強化学習、NLPのいずれかのトピックについて、最先端のアルゴリズムも理解し、実装することができる。
Deep Learning 実践開発講座
(DL4US)
☆☆ Pythonでのプログラミング経験があり、大学における初歩的な統計・線形代数の知識を有するもの。 画像認識、NLP、生成モデル、強化学習など、Deep Learningの重要技術をアプリケーションに適用できる。
データサイエンティスト
育成講座
 ☆☆ 大学における初歩的な統計・線形代数の知識を持ち、プログラミングの経験があるもの。 統計的解析・機械学習・ビッグデータ解析など、データ分析に関する一通りの技術を身につけ、データサイエンティストとして各種の実問題を解決できる。

また、上記のようなエンジニア向けの講座に加えて、経営者をターゲットとした講座の提供も開始しています

DL4Biz: AI革命とビジネス講座(NABLAS独自の講座)

「AI」を理解して、経営判断につなげることを目標に新たに作られた講座です。AI技術を体験して理解できるようなコンテンツ設計や、1日でゼロから学ぶことができるように短期集中で要点にフォーカスるるように設計されています。

人と技術と社会をつなげるための総合研究所として進化した「NABLAS」

中山さん:人材育成だけではダメなんだと気づきました。

多くの教育現場で利用されるようになったiLectを中心で支えた中山さんですが、人材育成だけではAIを社会に実装していけないと感じたといいます。

中山さん:AIの人材育成プログラムをたくさんの方に提供してきましたが、そこでわかったのは、技術を身に着けた後にそれを活かす場が圧倒的に不足しているということです。

教育プログラムを提供するだけでなく、次のステップに移れるような仕組みが社会から求められていると思いました。その役割をしっかり担っていきたいという思いでNABLAS株式会社に社名変更をして、事業領域を拡大させました。

ーー次のステップに移れるような仕組みとはどんな仕組みですか!?

中山さん:人と技術と社会問題をつなげていく仕組みだと思います。いろいろな企業や社会が抱えている問題を解決していくために、技術と人をブリッジする役割を果たしていきたいと考えています。

例えば、iLectでは法人向けのAI人材育成プログラムを提供していますが、カリキュラムにプロジェクトの発表を入れることで、実務に直結する問題にする道筋を作っています。また、教育プログラムによってはコンペティションを開催しますが、これは、技術力の高い人材の発見に大きく貢献すると評価をいただいております。

NABLASが提供するAI総合研究所としての事業では、最先端のAI技術、特にディープラーニングを活用したソリューションを提供するというものです。事業へのAIの導入だけでなく、新規事業の立ち上げの支援や共同研究まで幅広く行っていくほか、iLectでの法人向け人材育成と統合させ、社内への技術導入・事業展開を一貫して支援していく取り組みも始めています。

NABLASの総合研究所としての取り組み 引用:NABLAS株式会社 ホームページ

ーー約3年間に渡ってiLectなどAI関連の人材育成に取り組んできて、教育だけではダメという実感はあったのでしょうか?

中山さん:受講された方々といろいろコミュニケーションする機会があるのですが、そのときに一番感じましたね。学んだものをすぐアウトプットする場がないと技術力は落ちていくと感じている受講生もいたと気づきました。

それから技術を社会に出していく場が欲しいとずっと感じていました。

中山浩太郎が見るAI教育の「今」と「未来」

2018年を振り返ると多くのAI関連の教育サービスが誕生しました。人材育成が盛り上がったきっかけとして、日本ディープラーニング協会のE資格やG検定の存在も大きいでしょう。

またAIに対する社会的な注目度の高まりと共に、AI関連の仕事に転職しようとする人が増えたとも考えられます。実際データサイエンティストなどAI関連の求人のみを扱うサービスも増え、市場規模も拡大を続けています。

そんな中で、中山さんは国内のAIの人材育成についてどう感じているのでしょうか?

ーー2018年は多くの人材育成系サービスが生まれてきましたね。日本でのAIの人材育成に関してどのように感じていますか?

中山さん:日本全体としてディープラーニングなどAI関連領域の人材育成のスピードがどんどん上がってきていると感じていますし、とてもいいことだと思います。

私たちは2015年からAI関連人材教育を先駆けてやってきましたが、当時はGPUの計算環境を作るのも大変でした。それに比べると日本全体としてどんどんと人材育成の輪が広がっていていると思います。

それがやはり日本の、AIの技術の競争力、国際的な競争力を高める要因になってくるので、それは本当にすごくいい傾向だと思いますね。

ーー2015年の当時に比べると、受講生の方の違いはありますか!?

中山さん:その当時でも、ディープラーニングの技術がこれから重要になると思っている方々はいらっしゃいました。

ただ、学習する場がないという状況だったので、人が多いか少ないかだけの問題で、やる気を持たれている方は前も非常に多かったです。今は学習する場が格段に増え、AIを学びやすくなっていると思います。

ーー中山さんは海外の視察も多くされています。日本のAI(ディープラーンングなど)の教育は今度どうなっていくべきだと思いますか?!

中山さん:海外の拠点をいろいろ見て回って気付いたことは、人材の育成だけでなく、社会に技術や人を出していくための仕組みを一体運営しているということです。

それが今まさに必要とされていると思っていて、そこに対してコミットをしっかりしていきたいなと思っています。

イギリスでは、アラン・チューリング・インスティテュートというのがあり、いろんな大学に拠点をつくっています。そこは社会に技術をどんどん出すことにフォーカスをしているんです。

このような社会と技術をブリッジをするところが日本では不足していますし。NABLASもそういう枠組みの1つとして機能していくことが重要だと思っています。

アラン・チューリング・インスティテュート(Alan Turing Institute)・・・
データサイエンスの発展を目的に2015年にイギリスに設立された研究所。今後5年で約80億円の予算を元に、世界をリードする研究機関とするべく、イギリスの助成期間が運営にあたっている。

ーー技術が正しく理解されて、社会に実装されていく「仕組み」が必要と言うことですね。2018年を振り返ってみてディープラーニングを取り巻く環境はどのように変わりましたか?

中山さん:新しい技術がどんどん出てきて、2016年、17年の段階では、ディープラーニングは第3次AIブームの引き金になっていることは、すでに周知のことでした。

そして、ブームが去って、そのまましぼんでいくのではないかと思っていた方も一定数いたと思います。

そんな中で2018年は、第3次AIブームというのは勢いを保ったままAI技術が社会をどんどん変えていくだろうという社会のコンセンサスができたということだと思います。

そして、これからAI人材の育成に対するニーズがますます高まりますし、社会をどんどん変えていくための機能を担う機関に対するニーズもこれからまさにどんどんと増えていくと思っています。

ーー2018年は確かに業界のすみずみまで「現場知識」を使って、AI導入を広げていこうという機運が高まりましたね。では、2019年はどのようになっていくと思われますか?

中山さん:2018年は「AI」というキーワードが先行して、無駄な投資が行われてきた面もあるかなと思っています。

これから、経営者層の方などがディープラーニングなどAIに関する知識をしっかりみにつけて、それに基づいて正しい経営判断や投資をするようになると思います。

そんな中で、日本全体としてさまざまな企業が妥当な意思決定をしつつ、競争力の高い技術を創出し、サービスを提供していくということが起きてくると思います。

まさに我々も最近、「AI革命とビジネスモデル」(前述)という新しい講座をつくって、経営層の人たちが、AIの本質を理解して、それに基づいて意思決定できるようにすることに注力しています。

ーー中山さん、ありがとうございました。

さいごに

NABLAS株式会社は「人材教育」の枠を超えて、社会と技術、人をつなげるべく事業を展開していることがわかりました。

ただ教育を行うだけでなく実践まで見据えた教育体系作りが求められており、それを2015年からディープラーニング教育に携わる中山さんがトップランナーとして実現しようとしています。

今後、NABLASを取り巻くエコシステムにより、「現場で活躍できる人材」が生まれてきて、国際社会の中において、日本が存在感をより示せるようになるといいですね。

2019年1月31日 2019年7月10日更新

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