「人と共存するAI戦略」この道しかない | 経産省インタビュー

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国内における産学官の連携はますます重要になっています。あらゆる産業構造にインパクトを与える可能性のあるAI技術だからこそ、自分ごとのように捉え、活用のトライをしながら連携をしていくことが必要です。

今回、AIやITを活用した政策に取り組む経済産業省の商務情報政策局 総務課長の伊藤 禎則さん、総務課 課長補佐の小田切 未来さん、総括係長の井上 千花さんを取材しました。

(左から)総務課 課長補佐の小田切 未来さん、総務課長の伊藤 禎則さん、総括係長の井上 千花さん

普段、経済産業省になじみのない方もいるかも知れませんが、日本独自のAI戦略を推し進めるために、日々政策を推し進めています。インタビューで終始伝わってきたのは「ド◯◯もん」のような人間と寄り添うAIの重要性でした。

AIを行政から推し進める3人からどのような意見が聞けるのでしょうか。

なぜ日本でAIが求められているか

AIと言えば、アメリカや中国が技術的に先行していると言われることも多くネガティブな意見がよく見られます。しかし、伊藤さんによると日本ならではのAIの姿があり、日本独自の課題や強みがあるといいます。

ーー経済産業省としては、AIが必要とされる理由として、どのような問題意識がありますか??

ーー伊藤さん

まず、日本が直面している構造的な課題が2つあります。1つ目は、人口が減少して労働力が減っていること。2つ目は、生産性が停滞していることです。

しかし、このピンチはチャンスでもあります。

世界史の中で大きく人口が減少した局面が何度かあります。一つは14世紀ヨーロッパにおける、ペスト(黒死病)の流行によるものです。人口が減少すると経済が落ち込みます。しかし14世紀のヨーロッパでは、実はこの時期に劇的に生産性が上がっています。

理由の一つは、農業革命が起きたことです。人の数が減ることで、農奴の相対的な地位が向上することになりました。これまでは、領主が全ての利益を没収していました。しかし一定の土地の地代を収めれば、それ以外の利益を自分のものにできるようになりました。これにより労働意欲が増し、技術的イノベーションで農業革命が起こりました。それから、貨幣経済の発展につながります。

つまり、人口が減ると個人の力が相対的に上昇します。そこにテクノロジーが加わると、生産性が上がります。

これからの日本は確実に人口が減ります。どうやってテクノロジーで成果を挙げていくのか。鍵となるのは、AIやデータであり第4次産業革命の波です。

「AIでどうやって生産性を高めて、日本の人口減少をチャンスに変えるか」が今の問題意識です。

ーーAIにおける日本の強みはありますか??

あると思います。

現在、国際的なAIをめぐる構図は大きく2つのモデルがあります。1つ目は、GAFAというようなプラットフォーマーが個人の消費データをプロファイリングしていくモデル。2つ目は、中央政府が深く関わる形でAIとデータによって国民を管理するようなモデル。

日本はどちらでもない、第3の道を選択しようとしています。

ヒントは「ド◯◯もん」の伝統にあります。のび太は、常に寄りそってくれるドラえもんと一緒に成長していきます。AIが人間にとって代わるのではなくAIが人間を管理するのでもない。AIやテクノロジーは人間のためにある。人間とともにある。それが一つの日本の価値観であり、モデルだと思います。

多くの海外の方は、AIが人間を脅かすという恐怖感を持っています。日本人のAIに対する親近感は、実はすごいアドバンテージです。

経産省としては「人とAIの共進化」という言葉を使っています。AI for SDGsやAI for インクルージョンというような、AIが人間に寄り添うような形が日本のAI戦略です。

日本が人口減少という点で危機感を抱く人も多いですが、AIを活用することで逆にそれをチャンスに変え、課題をポジティブに捉えることができます。

日本ではAIの活用を進め、共存していく文化は整っていると感じました。

では、いかにこのビジョンを具体的な形に落とし込んでいくのかを深掘りしていきましょう。

AI産業を成長させるポイント

AIはあらゆる産業構造に変化をもたらすと言われています。孫正義氏も2018年に開催されたSoftBank World 2018において、「これからすべての産業が再定義される。」と述べています。

一方で、現在のAI業界の盛り上がりは、過剰な期待によるバブルだと言われることもあります。ではAI産業をさらに盛り上げるにはどうしていけばいいのでしょうか?

ーーこのようなAI産業をより健全に成長させるうえでのポイントはありますか?

ーー伊藤さん

単に大学機関や研究機関で開発するだけではなく、AIを社会課題に適応させることが大切です。

そのためには事例が必要です。「どの課題にどんなAIやデータを適応すると、何が解決できるか」をわかりやすく示さなければなりません。

そこで、2020年の東京オリンピックや2025年の大阪万博がポイントになると思います。どちらのイベントでも、AIはかなりクローズアップされると思います。

AIは一つの道具に過ぎません。どんな課題があり、AIをどのように使えば解決できるのかを一人ひとりが考えることが重要です。そして、そのモデルケースになるような事例を作っていくことが必要です。

AIをアピールする場として、2025年に開催される大阪万博ではテーマが“いのち輝く未来社会のデザイン”とになっています。「人生100年時代」のヒトとマシンのインターフェースとして、AIやVRが注目されるでしょう。

AIに対する印象をよりポジティブにしていくためには、千載一遇のチャンスとなりそうですね。

経済産業省の具体的なプロジェクト

「ド◯◯もん」のように猫の姿のAIだけではなく、さまざまなところで活用されるあらゆるAIの姿を一緒に考え、活用を進めなければなりません。

そのためには、法律面からのバックアップや公的資金の活用など、政府だからこそできることがあります。

では、経済産業省は具体的にどのような活動を行っているのでしょうか?

ーー具体的に経産省としてはどのような取り組みをされていますか?

ーー小田切さん

全く新しいテックスクールを始めます。

テックアカデミーの「42」はご存知ですか?

無料で18歳から30歳の若者が、PythonやC++等を学ぶフランスのテックスクールです。2018年11月に実際に視察してきました。

「42」は先生がいなくて授業もしない、実践ベースの学校であることの特徴です。ポイントは高卒生が40%くらいいて学歴という点では、さほど高くないことです。しかし、倍率は80倍以上。驚くべきは、開設してまだ5年ほどですが、70人以上が起業していることです。

42のイメージ
『引用:42ホームページ INNOVATION OVERVIEW

これだけでなく世界には、さまざまなAI・データサイエンスに関するテックスクールがあります。これらを参考に日本でも実証実験のような形でスタートします。

42が成功している理由は、2点です。まずは無料であること。そして、実践ベースの学習であることです。これも参考に日本でも応用します。

AIスクールをどのような形にしていくと成果が出るか。教材やカリキュラム、授業の形態、学習形態という点で実証的に実験したいと思っています。

ーー他にも経産省の取り組みはありますか?

ーー小田切さん

AI系スタートアップと大企業の提携の支援をしています。

このプログラムは支援条件として、ベンチャーと大企業が組んでもらうことを掲げています。AI企業の支援は、大企業が金銭的に潤うだけになりがちです。そうならないために、応募の主体がAIベンチャー企業になるように工夫をしました。

技術力を持ったAIベンチャーと、人・モノ・金などのリソースを持った大企業の両社に組んでもらいます。先端的なAI導入を、実証から本格導入まで一気通貫でやろうという意図があります。

重点的に支援している企業のポイントは2点です。1つ目は、ブロックチェーンなどの先端技術を有している企業。2つ目は、グローバル市場に展開できる企業です。

予算額は20億円程度で、合計25社にそれぞれ1億円弱の支援させていただきました。この支援を引き続き行っていきます。

政府のAIに関する予算は、米中に比べて大きく劣ります。限られた予算のなかで、一層効率的な政策が求められています。他国の事例に学んだり、実証的な実験をしつつも、出すべきところは惜しまない。慎重かつ代替な取り組みが見えてきました。

日本最大のAIカンファレンス 「AI/SUM」

経済産業省は、日本経済新聞社が主催するAI/SUMを後援し、日本独自のAIについてさらに発信を強めようとしています。

今回は、担当の井上千花さんにAI/SUMの魅力について語っていただきました。

日本のAI戦略 〜安倍首相が提唱する国際的なデータの流通の重要性〜 「AI/SUM」 開催記念スペシャルセッションレポート

ーーAI/SUMは、どのようなイベントになりますか?

ーー井上さん

AIをテーマにした大規模なシンポジウムになります。1万人以上が来場予定です。

ポイントは、本当の意味で産官学が一体になってやることです。AI/SUMではセッションを経産省が一緒に企画させていただきました。経済産業省からは世耕大臣が参加する他、東京大学からは五神総長も参加し、過去最大のイベントになります。

それ以外でも、3日間に渡ってさまざまなテーマのセッションが行われます。

イベントだけではありません。過去最大規模のスタートアップのピッチコンテストを開催します。なんと、90社それぞれ90秒でプレゼンを行います。

ーーこのようなピッチコンテストの意図はどこにありますか??

ーー小田切さん

AIにお金が回る姿を見せることです。こうして、憧れを抱いてもらうことが大切だと考えています。それが、AIのエコシステムの好循環につながります。

ーー伊藤さん

このピッチコンテストをAI/SUMで開催する理由の一つは、今日本のベンチャーに一番足りないものはお金だと思っているからです。もちろん日本で3000万円程度の資金調達は簡単に出来るようになりました。でも、世界では、10億円、30億円の調達で勝負が行われています。

今回は、多くのベンチャーキャピタルや投資家にもお越しいただくため、日本のAIに対する大規模の資金調達の契機になればと思います。

全体を要約すると、“どのようにテクノロジーで課題解決するか”ということです。その断面で事例のショーケースを作りたい。それを通じて、日本のAI・デジタル人材と金を集めることには、大きな意味があると思います。

2019年の断面で切った時に、日本のAIの実力がどこにあるのか。それは、大企業でありベンチャーであり、大学であり、政府であり、「それぞれ何をしていて、どんな潜在能力があるのか」をリアルに示したいです。

200名を超える登壇、100を超えるセッションが用意されているAI/SUMは、まさに日本ならではのAI戦略を考える上で重要な分岐点になりそうです。また、どのようにしたらAIの活用が進み、「ド◯◯もん」モデルのAIが実現するのか。さまざまな角度から一緒に考えることが必要です。

終わりに

日本には、少子高齢化という大きな構造的な問題を抱えています。これは一面的に見ればピンチです。しかし、AIの活用を進めるチャンスと捉えることもできます、

日本の強みになるのは、AIをド◯◯もんのように普段の生活に取り入れ、共に成長していく文化です。この文化を活かし、「人とAIの共進化モデル」を産業の面でも強みにしていく必要性と可能性を感じました。

日本のAI産業が「どこを目指し、今どこにいるか」というロードマップを描くためにも、AI/SUMが楽しみです。

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