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2019.10.24

LINEのAIを大解剖! この記事で全部わかる「LINEのAIの取り組み」

GAFAと呼ばれる米国企業が世界的に展開し、多くのデータを集めて、AI開発にも膨大な資金を投資しています。中国ではBATと呼ばれる企業が、中国国内で展開し、その企業価値は世界最大規模になっています。

数々のサービスが、膨大なデータを集め、AIの開発を進めている中、日本でITプラットフォームを有する企業もAI研究に取り組んでいます。

今回は、日本最大のコミュニケーションアプリ「LINE」を手掛けるLINE株式会社(以下LINE社)の取り組みにフォーカスし、紹介していきます。

改めて振り返る、LINEの事業

チャットアプリでは国内で絶対的な立ち位置に

2011年にリリースされたLINEは、国内で最大のメッセージアプリに成長しました。そのアクティブユーザ数は約8100万人(2019年6月末時点)となっており、60%以上の日本人が活用しています。

蓄積されたデータ量

LINE社は蓄積しているデータ量を公開していません。

しかし、プライバシーポリシーを閲覧するとどのようなデータが蓄積されているかがわかります。

  • アカウント登録情報
  • プロフィール情報
  • キャンペーン等で取得する情報
  • お問い合わせ
  • お支払い情報
  • クッキー(Cookie)
  • アクセスログ
  • サービス利用状況に関する情報
  • 位置情報(許可している場合)
  • 機器情報
  • プラグイン機能を設置するサイトやアプリからの情報

これらの情報の内、ユーザ間でやり取りされる非公開のコンテンツに関する内容などはユーザの同意などがない限り、LINE社は使用しないとしています。

位置情報によって、マーケティングへのデータ活用が見込めたり、LINE Payを利用した購入履歴データから、需要の予測ができるなどの可能性があるかもしれません。

また、LINEが展開する各種サービスでのデータを活用することでユーザ体験をさらに高めるべく、AIの開発にもつながると予想できます。記事の後半では、LINEのAI開発組織についてもまとめてありますので、そちらもご覧ください。

チャットだけではないLINEの事業

ペイメントやモバイル事業も

LINE Payは2014年12月にサービス提供が開始されたモバイル送金や決済が可能なサービスです。モバイル決済のプレイヤーが増加の一途を辿るなか、LINEもペイメント領域への進出を進めています。

LINE Payでは、LINEや関連サービス上の決済で使えるだけでなく、提携している店舗やサービスの決済をLINEアプリで行うことができます。

また、LINE Payカード(JCB)も発行され、LINE Payの残高での決済をJCBの加盟店で行うことができます。

LINEモバイルは、LINEが展開するMVNO(無線通信回線の設備を運用せずに、自社ブランドで携帯電話やPHSなどの通信サービスを行う事業者のこと)です。

引用:https://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2019/2612

LINEやTwitter、Facebook、InstagramなどのSNSサービスの通信容量がカウントされないことが特徴で、NTTドコモ回線だけでなく、ソフトバンク回線、au回線の利用も可能です。

その他の事業

LINEは、代表的な上記の2つのサービスだけでなく、ライブ配信が可能な「LINE LIVE」や、音楽のストリーミング配信サービス「LINE MUSIC」、アルバイト情報サービス「LINE バイト」などのサービスを運営しています。

さまざまなプラットフォームを通して、幅広いデータが蓄積されれば、AIの活用可能性が広がります。今後は、私たちの生活をより便利にしてくれるAIがLINE社から提供されるかもしれません。

LINEのAIはClovaから

初めてのAIアシスタントの取り組み、LINE Clova

LINEは2017年10月5日、同社初となるAIアシスタント「Clova」の提供を開始しました。一般的なスピーカーとしての利用だけでなく、LINEが展開するさまざまサービスと連携させることができます。

また、代表的な機種である「Clova WAVE」には赤外線に対応したリモコン機能も搭載されていて、エアコンやテレビ、照明などの家電の操作も可能です。

「Clova WAVE」https://clova.line.me/wave/ より引用

また、LNIE社はLINEのキャラクターをモチーフにしたスマートスピーカー「Clova Friends」もリリースし、他の製品との差別化が図られています。

「Clova Friends」https://clova.line.me/より引用

リッチモンドホテルへの導入

LINE社のAIアシスタントの活用は、ホテル業界でも広がろうとしています。

AIアシスタント「Clova」はリッチモンドホテルで採用予定です。ホテル客室内に設置されたClova搭載デバイスで、フロントに電話することなく、周辺地域の情報を教えてもらえたり、テレビや照明などの家電操作を音声で行えたりするなど、ユーザにとって、より便利な客室づくりに向けて取り組みが進んでいます。

それ以外の今までのAIを活用した取り組み

LINE ショッピングレンズ

ECサイト上で好みの商品を探すのが難しいという課題を解決するべく、LINE社が開発したのが「LINE ショッピングレンズ」です。

LINEが提供するECサービス「LINEショッピング」で、写真や画像を活用して商品を検索することができるAIが活用されたサービスです。

その場で商品を撮影したりスマートフォンに保存していた画像をアップロードすると、内蔵されている画像解析技術で、LINEショッピングで展開している膨大なアイテムの中から類似した商品を検索することが可能です。

引用:https://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2018/2241

LINE CONOMI

LINE CONOMIは2019年5月にリリースされたサービスです。AI技術を活用した文字認識によって、グルメ記録を投稿できる機能が搭載されています。

引用:https://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2019/2710

LINE独自のAIを使った文字認識技術により、テキスト入力をしなくてもレシートを撮影するだけで、店名やメニューを自動入力できるほか、位置情報の活用により料理写真をアップするだけで店舗情報が候補一覧として自動表示されるなど、ユーザーが簡単にグルメ記録を投稿することができる機能を充実させています。

今後は、投稿されたグルメ記録をベースにAI機能を活用してユーザーに食の好みをオススメしてくれるレコメンド機能なども追加予定です。

チャットボットの導入も進むLINE

LINEは開発者向けにさまざまなAPIを提供しています。その中でも活用されているのがMessaging APIです。Messaging APIを活用することで、LINE上にチャットボットを作ることが可能です。

チャットボットを活用すれば、例えばお問い合わせの対応だけでなく、荷物の再配達などユーザがより快適になる機能を搭載することができます。

国内では、チャットボットを構築するサービスが急増しており、さまざまなベンダーがチャットボットの構築支援をしたり、簡単にチャットボットを構築できるツールを提供するスタートアップも増えてきました。

「チャットボットサービスマップ 2019」 作成:AINOW編集部

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台風15号でもLINEのチャットボットが活躍

2019年6月、LINE社は、ウェザーニューズ、損害保険ジャパン日本興亜、SOMPOリスクマネジメント、東京海上ホールディングス、ヤフー、ワークスモバイルジャパンと共同で、AI防災協議会を設立しました。

AI防災協議会はAIや防災/減災等を専門とした研究機関および有識者、自治体とともに、産学官が連携して、AIなどを活用して、災害対応能力の高い社会構築を目指しています。

AI防災協議会は、千葉県にて2019年に発生した台風第15号により被災された方を対象に、災害復旧・生活再建等に必要な情報を提供するため、「千葉県災害 2019」LINE 公式アカウントを開設しました。

被災者が入力した問合せに対し、AIが会話形式で応答することで、物資確保や被害認定、罹災証明など、被災された方の災害復旧・生活再建等に必要な情報を提供しています。

「千葉県災害 2019」LINE 公式アカウント

2019年から始動した「LINE BRAIN」

今まで、AIアシスタント「Clova」だけでなく、多くの既存サービスにAIを活用してきたLINE社。しかし、その技術は今まで外部に開放されていませんでした。

2019年6月、LINE社は「LINE CONFERENCE 2019」を開催し、新たな事業として「LINE BRAIN」を発表しました。これまで培ってきたLINEのAI技術を、外部企業等に向けて展開していく新たな取り組みです。

LINEの次の進化の鍵「LINE BRAIN」

LINE社が2019年、本格的にAI技術の提供を開始しました。その名も「LINE BRAIN」。LINEが蓄積してきた音声認識や画像認識、チャットボットなどの技術を外部に提供するBtoBのモデルの事業です。

なぜ始めた?

LINE社はなぜこのタイミングで、AI技術の外部提供に踏み切ったのでしょうか。

2019年7月に開催された「LINE BRAIN」の事業戦略発表会で、LINE 株式会社 取締役 CSMO 舛田氏は、AI技術の可能性について以下のように強調しました。

「これからの時代、企業の成長を決めるのは「AIと向き合っているか、向き合っていないか」です。

インターネットによって、たくさんの市場が生まれました、この先、それ以上のインパクトをもたらすのがこのAIです。インターネットの比ではないと思っていますしスマートフォンの比ではないと思っています、社会すべてがAIの対象となります。」

撮影:AINOW編集部

ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役社長の孫正義氏をはじめ、多くのキーパーソンがAIの重要性を強調しています。これからさらに市場が拡大されると見込まれるAIの領域で

LINEが培ってきた技術を生かしたプラットフォームを構築していく目的があると言えます。

また、LINE BRAINの開発を牽引するLINE BRAIN室長の砂金氏は、LINE BRAINの戦略のキーワードは「BtoBtoC」と強調しています。

工場における異常検知など、AIの代表的なBtoBモデルではなく、企業や地方自治体の先にいるエンドユーザに価値を届けるBtoBtoCのモデルで価値を提供していきます。

サービスの種類

LINE BRAINは以下の5つの領域で展開されます。

以下、カッコ内は後述のプロダクトロードマップの図に対応しています。

音声認識(SPEECH TO TEXT)

コンタクトセンターにおけるリアルタイムでの音声自動応答や、バッチ処理での長文書き起こしにも対応。製品名など固有な発話の認識精度改善ニーズにも応じます。

画像認識(VISION VIDEO ANALYTICS)

顔写真から人物を、あるいは物体画像から商品を特定したり類似したものを探しだす技術です。

LINE社のサービスでいうと、LINEショッピングレンズなどに利用されています。

日々新たな画像を学習し、翌日にはAIエンジンに反映させているそうです。

音声合成(TEXT TO SPEECH)

LINEがスマートスピーカー開発で培った「テキストを音声に変換する技術」です。感情表現豊かな自然な音声が特長です。標準の音声に加え、オプションで独自の音声モデルをつくることも可能です。

OCR

写真やスキャンした印刷文字、スクリーンショット内の文字を精度高く認識します。ICDARでAI競合他社を抑え4分野で世界No.1を獲得しています(2019.03.29時点)。

チャットボット(CHATBOT)

LINE公式アカウント等と連携して利用でき、対話形式で目的達成をサポートする応答技術です。運用の中でAIが学習し、より適切な応答を実現できるようになります。LINE WORKS、Facebook※やWebチャットなどLINE以外にも対応が可能です。

それぞれのプロダクトのロードマップ

各分野のAIは以下の図のようなロードマップで開発が進んでいます。

実証実験(PoC)はチャットボットやOCR領域で進み、クローズドにSaaSとして提供。2020年にはSaaSとして提供される予定です。

他の音声認識や音声合成の分野で2019年10月〜12月にかけて実証実験や開発が行われます。

2019.3Q:2019年7月〜9月
2019.4Q:2019年10月〜12月

気になるコストは?

LINE BRAINはLINE BRAINを活用したAIサービスの開発や事業アライアンスをしたいパートナー企業と、LINE BRAINの製品導入したいユーザ企業向けにパッケージが提供されています。

ユーザー企業向けパッケージ

パートナー企業向けプログラム

まるで人間のように電話応答を繰り返すLINE BRAINの目玉「DUET」

まるで人間のような対話が可能なLINE DUET

LINE BRAINの目玉で、発表と同時に大きな話題になったのがLINE BRAIN Project ”DUET”です。

LINE BRAIN Project ”DUET”は、LINE社が有する音声認識技術、チャットボット技術、音声合成技術の結晶となったプロダクトで、まるで人間のように電話の応答が可能です。

まずは以下の動画をご覧ください。

まだ実用化には至っていませんが、将来的には飲食店の予約など電話応答業務を効率化してくれるサービスとして期待されています。

LINEのAIの研究開発!

AI開発組織の組織図

LINE社はカンパニー制を導入している企業です

カンパニー制とは・・・企業内にある事業部門を分社化し、独立性を高めた1つの会社として経営資源(ヒト・モノ・カネ)と権限を委譲することで、それぞれの会社が責任を持って経営を行なう組織体制を指す企業経営関連の用語

引用:https://bizhint.jp/keyword/119931

LINE社ではマーケティングやフィンテック、エンターテインメントなどが独立したカンパニーとなる中で、「AI」も主要領域としてカンパニーが設立されています。

提供:LINE社

AIカンパニーでは、AIアシスタントのClova事業・Clova B2B事業や、LINEカーナビ、LINE BRAINなどの事業を推進しています。

部署を超えたデータサイエンスの導入を担うLINE Data Labsの取り組み

また、各サービスのデータを横断的に分析するLINE Data Labsが2016年3月に本社機能として設置されました。

「Machine Learningチーム」「Data Analysisチーム」「Data Applicationチーム」「Data Platformチーム」「Data Planningチーム」などのチームがあり、LINEの各種サービスのデータ分析や機械学習による最適化などを行っています。

例えば、「Machine Learningチーム」では、LINEの各種サービスのレコメンドエンジンの開発を行っています。

どんな研究が進んでいる?

LINE社は、国の研究機関や大学などと連携してAI関連のさまざまな研究を行っています。

国立情報学研究所(NII)との取り組み

また、LINE社は、国立情報学研究所(NII)と共同で、社会課題解決のための強靱(きょうじん)な知識基盤の研究のために、2018年4月1日から共同研究施設を設けています。

共同研究施設「ロバストインテリジェンス・ソーシャルテクノロジー研究センター(Center for Robust Intelligence and Social Technology、略称 CRIS)」を設置しています。

センター長はNII所長の喜連川 優氏、副センター長は黒橋 禎夫 京都大学大学院情報学研究科教授(NII客員教授)が務めています。

CRISでは、黒橋 禎夫教授の主導で「LINE」を活用した社会課題手法の研究を実施しました。

市のホームページなど既存のサービスからの情報をベースに、AI技術を活用して、LINE上で市民からの、子育てや防災などの市政情報に関する問い合わせに対話型で即座に回答するシステムの開発を目指したものです。

夜間や土日などの行政窓口営業時間外に発生していたお問い合わせを処理することができ、「問い合わせ意欲があっても時間的な制約等から窓口を利用しない層へリーチすることができ、潜在的なニーズに応えることができた。」と成果が報告されています。

また、他に以下のような委託研究を行っています。

研究内容は以下です。

2018年度

  • 黒橋 禎夫
    • 京都大学・大学院情報学研究科・教授
    • 説得対話に基づく話者内部状態の分析とモデル化
  • 河原 達也
    • 京都大学・大学院情報学研究科・教授
    • 頑健な音環境理解
  • 小林 哲則
    • 早稲田大学・理工学術院・教授
    • AIスピーカ向け多人数会話技術
  • 宮尾 祐介
    • 東京大学・大学院情報理工学系研究科・教授
    • 音声対話のための自然言語処理基盤技術の研究開発
  • 荒牧 英治
    • 奈良先端科学技術大学院大学・研究推進機構・特任准教授
    • スマートスピーカによる患者の認知機能測定に関する研究
  • 乾 健太郎
    • 東北大学・大学院情報科学研究科・教授
    • マルチモーダル対話知識獲得基盤
  • 峯松 信明
    • 東京大学・大学院工学系研究科・教授
    • 外国語教育支援を目的としたモバイル端末群を用いたロバストな音声収集インフラの構築
  • 大島 裕明
    • 兵庫県立大学・応用情報科学研究科・准教授
    • IoTデバイスによる独居高齢者の見守りとコミュニケーション誘発への応用
  • 灘本 明代
    • 甲南大学・知能情報学部・教授
    • 日常的な笑空間提供コンテンツの自動生成

2019年度

  • 山名 早人
    • 早稲田大学 基幹理工学部・教授
    • スマートフォンを対象とした耐模倣性を実現するパッシブ認証技術
  • 田中 雄一
    • 東京農工大学 大学院工学研究院・准教授
    • エクストリーム信号処理の創生
  • 入野 俊夫
    • 和歌山大学 システム工学部・教授
    • 聴覚特性推定に基づく模擬難聴を用いた明瞭音声特徴の抽出
  • 黄 緒平
    • 産業技術大学院大学 産業技術研究科・助教
    • IoTヘルスケア生体時系列データの秘匿解析における疲労検出及び疾患予測手法に関する研究
  • 赤木 正人
    • 北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科・教授
    • 非並行型学習法にもとづいた多言語間多話者対多話者音声変換システムの検討
  • サクティ・サクリアニ
    • 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科・特任准教授
    • 音声画像情報を用いた高齢者の行動認識のためのMulti-modal Speech Chainの研究
  • 松井 知子
    • 統計数理研究所 モデリング研究系・教授
    • 統計数理に基づくデータ表現学習
  • 吉永 直樹
    • 東京大学 生産技術研究所・准教授
    • 高齢者のヘルスケアモニタリングを目的とした雑談対話システムの社会実装

今後はどんな研究を進めて行く予定か

今後は、音源分離、環境音の理解、データプライバシー、AIセキュリティ、点集合分析、グラフィックデザインのレイアウトUIなどについて、Research Labにて研究を進めていく予定です。

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