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2019年11月29日、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が国会にて可決されました。
日本政府が推進するデジタル技術や多様なデータを活用して経済発展 / 社会課題の解決を両立するSociety5.0の実現にあたり、企業のデジタル面での経営改革や社会全体でのデータ連携・共有の基盤づくり、安全性の確保を政府と民間が双方で行い、横断的な基盤整備を目指すものです。
この記事では、「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律案」の可決について詳しく紹介します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)・・・企業がデジタル環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
DXをめぐる現状
2000年代に入り、スマートフォンの普及によって、世の中のデータ量が急激に増えています。同時に、膨大なデータを処理して活用する機械学習技術(AI技術)が台頭し、多くの産業におけるビジネスモデルが変革されています。
しかし、AIやRPAといった領域においては、技術先行の活用事例も多く、PoCと呼ばれる実証実験の段階でプロジェクトが挫折してしまうケースも多くあります。
これは、多くの企業では増えるデータに対応するデータ基盤や、リアルタイムにデータを処理してビジネスに活用する体制の構築が進んでいないからに他なりません。
多くの企業においては、AIやRPAの取り組みをはじめる以前に、社内全体でデジタル化を推進し、リアルタイムでのデータ活用や部門を超えたデータ共有などに取り組み、顧客に対して提供できる価値を最大化していく改革が必要になっています。
以上の点を踏まえ、経済産業省では、2018年5月に「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を設置。日本企業がDXを実現していく上での現状の課題の整理とその対応策の検討を行い、同年9月に「DXレポート」として報告書をまとめました。
「DXレポート」では、DXが進まない現状を「2025年の崖」として危惧しています。もし、DXが推進されなければ、2025年以降に最大で年間12兆円者経済損失が生じる可能性があるとういう内容です。
この「DXレポート」の内容を受け、「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」が策定され、企業のあるべき姿に向けたアクションをとっていくための機会を提供するものとして、「DX 推進指標」が策定されました。これをベースに、法律に基づく「指針」を策定することが今国会で決まりました。
DX推進指標によって戦略的なシステム利用を促進
「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律案」の可決によって、経営における戦略的なシステム利用のあり方を提示する指針を国が策定することが決定しました。
また、この指針を踏まえてDX推進を行う企業を認定する「DX推進指標」を導入し、DXに積極的に取り組む企業を、投資家などのステークホルダーに見える化し、企業のDX改革を後押しします。
DX推進指標とは
DXが進まない現状を乗り越えるためには、経営幹部や事業部門、管理部門、開発部門などが一体となって、DXで何を実現したいのかの認識を合わせることが不可欠です。その上で、目的に応じた必要なアクションにつなげ、会社全体のデジタル化が推進されます。
DX推進指標は、多くの日本企業が直面しているDXをめぐる課題を指標項目として設定、関係者が議論をしながら、自社の現状の課題、取るべきアクションについての認識を共有し、気づきの機会を提供するツールとして策定されています。
「DX指標」は自己診断を基本とし、経営層以下関係者(経営幹部や事業部門、DX部門、IT分など)が対象とされています。
具体的には3つの使い方が想定されています。
- 認識の共有・啓発
-関係者が集まって議論しながら、関係者の間での共有の認識を図り、今後の方向性の議論が活性化する。
-もしくは、関係者個々人が自己診断し、関係者間でのギャップを明らかにする。 - アクションにつなげる
-次に何かをするべきか、アクションについて議論し、実際のアクションに繋げる - 進捗管理
-翌年度に再度診断を行って、アクションの達成度合いを継続的に評価する。
DX推進指標は目的ではない
AIやRPAだけに限らず、IT技術は全般的に手段が目的となり、ユーザに対する提供価値が軽視されがちな側面があります。
DX推進指標は各指標で高得点を取ることが目的ではありません。各社がDX推進指標を活用して自己診断する過程を通じて、会社で一体となった議論を行い、必要なアクションにつなげていくことが重要です。
また、DX指標はビジネスモデルそのものを評価するものではなく、企業の変化への対応力を可視化するものです。技術の発展が著しい昨今、目的に合った技術を選択できる力が必要です。
DX推進指標の構成
DX推進指標の構成について詳しく解説します。
まず、指標は大きく以下の2つに分かれます。
- DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標
- DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築に関する指標
そしてさらにこの指標が定性指標と定量指標に分かれ、以下の①〜④のようになります。
定性指標はキークエスチョンとサブクエスチョンに分かれています。(下図参照)
定性指標は、成熟度を6段階で評価。指標項目ごとにレベル分けの記載があるので、それに従い評価をします。
キークエスチョンは、経営者が自ら回答することが望ましいもの。サブクエスチョンは、経営者が営業幹部、事業部門、DX部門、IT部門と議論しながら回答するものとしています。
定量指標は、自社で数値目標や、数値の定義づけを行い、それを基に進捗管理や、現状理解を促進することが目的です。
全体を通して、経営者自らが回答すべきキークエスチョンは9つに絞られています。
回答方法
なお、DX指標の回答フォーマットは、以下のDX関連政策サイト上にフォーマットが掲載されており、これを活用することができます。
また、各社の自己診断結果については、中立組織である独立行政法人情報処理推進機構(IPA)に提出することで、各社の診断結果を総合的に分析し、診断結果と全体データとの比較が可能になるベンチマークが作成されます。
DX推進指標の例
DX推進指標の指標の例をいくつか紹介します。
- 「データとデジタル技術を使って、変化に迅速に対応しつつ、顧客視点でどのような価値を提供するのか、社内外でビジョンを共有できているか」
- 「挑戦を促し、失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続できる仕組みが構築できているか」
- 「挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続するのに適したKPIを設定できているか(視点:進捗をタイムリーに図る、小さく動かす、Exitプランを持つなど)」
- 「ビジョンの実現に向けて、IT投資において、技術的負担を低減しつつ、価値の創出につながる領域へ賃金・人材を重点配分できているか」
- 「『どんなデータがどこにあるか分かっている人』と『データを利用できる人』が連携できているか」
おわりに ーAIとDXの関係性
デジタルトランスフォーメーションにおいて、自社の各部署がアップデートされることで、ユーザに提供できる価値が増える、そんな目的を各社で再認識しながら、しっかりとアクションステップを確認し、DXを推進してほしいと思います。
そして、その目的を達成するために必要な技術が機械学習などのAI技術であるのであれば、ぜひ、AIの活用も推進してほしいです。
しかし、データの収集、整備やモデルの開発にコストがかかり、あらゆる問題がAIで解決するわけではありません。
まずはDXを目的に据え、現場の課題と組み合わせた最適なテクノロジーを選択することに価値があると言えます。AIもその一つの手段に過ぎません。
その意味では、各社の現状認識が第一であり、そのインセンティブを与えるこの仕組みに期待したいです。